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第4章〜不死〜

46話「永遠に生きる者。永遠に産まれる者。」3

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「・・・誰だ?」

 新たな乱入者の登場に、サエラを貫こうとしたルーデスの動きは止まった。彼もこれ以上、邪魔が増えるのは良しとしないのだろう。
 結晶で拘束したまま、声のした方へ向いた。
 ルーデスだけではない。ガルムもレッド・キャップも、ゴードンも我ですら驚愕によって彫刻のように振り向いたまま固まってしまった。

 あの乱闘の中でも唯一無事であった建物建物の屋上に、彼女がいた。緑色の髪にぴょこんと揺れるアホ毛が特徴的なエルフの少女、シオンである。

「血を吸った人の顔も覚えてないんですか?酷い人ですね」

「なんだお前」

  ヘラヘラとした笑顔を浮かべて喋るシオンに、ルーデスは不気味なものでも見るかのように言った。
 この場所でニコニコと平然として笑っているのを見ると、確かに異常性を感じないわけではない。だがルーデスの感じている不気味さはそれとは全く異なる。

「なぜ、吸血鬼がここに・・・」

「・・・ふ、ふ、ふ。気付いてしまいましたか」

 ルーデスに指摘され、ピクンと肩を揺らした後シオンは硬直した。
 そう、後一日近くで吸血鬼に変貌してしまうシオンはその身のほとんどを吸血鬼の呪いによって侵されてしまっていたのだ。
 今では自意識はしっかりあるものの、同族から見ればほぼ変わりない度合いで吸血鬼に見られてしまう。
 シオンはそのことを知らなかったようで、一瞬混乱の感情を作るが、お得意の虚勢とポーカーフェイスでそれを隠し通す。

「ね、えさん?」

 堂々と大口を開けるシオンにサエラは、自分が結晶に囚われていることすら忘れているように呆然と呟いた。
 ここにいるはずがない。だって縄で拘束したのにと、言葉が詰まっている。
 そんな妹にシオンは青筋を剥き出しにして笑った。

「覚えてろよ?」

「・・・ひっ」

 やばい、敬語じゃない。リミッターが外れておる。
 そしてサエラの顔を青く染めるほどの圧迫感を持つ彼女の背後から、ひょっこりと見覚えのある魔女が顔を出した。

「め、メアリー!?なんでお前もいるんだよ!?」

 今度はガルムが驚愕する番だった。メアリーは無言で両手を持ち上げ、見やすいように交差させる。
 ダメだったと言っているらしい。

「うっそだろ!?ロックタイタンの紐まで用意したってのに・・・」

「ガルムさん?てめぇも覚えてろよ」

「ひえっ」

 まずいな、一気に二人が制圧された。
 しかしこの場にいて最もシオンの威圧感を受けないのは、バンパイアロードのルーデスだった。
 ルーデスからすれば同じ吸血鬼のはずの女が、何故か人間サイドに対し親しくしているように見えるのだろう。
 とすれば敵。ルーデスは無言で結晶足で貫かんとシオンに狂刃を放つ。

「『シールド』」

「『玄武の印』!」

 二人がそれぞれ呪文を繰り出すと、まず半透明の魔力で作った大盾が、そしてそれを包み込むように亀甲状の模様が全体を覆うと、ルーデスの攻撃をいともたやすく弾き返した。
 魔女がシオンのシールドを強化したのか。符呪の実力が相当高くないと不可能な技だ。やるな魔女。
 ルーデスは攻撃を弾かれたことに驚き、シオンはそれを見ると好機と見たのか小さく嗤った。
 今までのニッコリとした笑顔ではなく、どこか冷酷で冷たい笑顔を。

「ルーデスさん、といいましたね?」

「っ!なんで僕の名前を」

「それはどうでもいいんです」

  バッサリとルーデスのセリフをぶった切り、シオンは背中に手を入れて何やらゴソゴソとまさぐり始めた。
 何か隠しているのか?残念ながら我の角度では見ることができない。
 しかし、これはチャンスだ。シオンがなんの目的を持ってここに来たかは知らんが、今のうちに肉体を成長させなければ。

「ユーリさん、という女性をご存知ですよね?」

 原因は不明だが、ルーデスとともに命を落とした女性の名を言うシオン。その際にルーデスは力強くシオンを睨みつけたが、相当な胆力を持つシオンは吸血鬼の威圧に耐えてみせた。

「・・・それが、どうした」

「亡くなった人を蘇らせたい。それが愛しい存在たどいうなら尚更・・・わたしにも気持ちはわかります。けれど」

ピッと人差し指をルーデスに向ける。

「やり方が間違ってると言いたいんです。あなたのやり方では、蘇らせても彼女を幸せになんかできません!」

「・・・お前がっ」

 シオンの言葉に血管がブチギレたルーデスはまた結晶足をシオンに突き刺そうと伸ばす。
 だが当然、魔力の壁に阻まれてしまう。

「お前が彼女の何を知っている!?知ったような口を開くなよ!!」

 無理やりシールドを破壊しようと何度も結晶を打ち付ける。ガンガンと、もはや結晶の方がヒビで割れそうだと思うほど。
 だがシオンは逃げない。怖気付かない。ただまっすぐとルーデスを視線で貫く。

「知ってますよ?わたしも」

「何っ!?」

 そう返ってくるのは予想外だったのだろう。ルーデスの動きが硬直した。
 シオンはそれを見て「ふぅ」と息を吐くと、隠していた何かをバッと目の前に広げてみせた。
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