上 下
124 / 237
第4章〜不死〜

41話

しおりを挟む
 すでに見えなくなったガルムの後をついていくと、そこには上空を滑空しているときにも見えたバリケードがあった。
 木の骨組みの上から土を操る系統の魔法を使ったのか、頑丈な岩石のような壁ある・・・が、今やそれも見る影もない。
 木っ端微塵とまでは言わないが、急遽建てられたバリケードの真ん中には破城槌でもついたかのような大穴が開いていたのだ。
 そこから水筒からこぼれた水みたいに、ゾンビが雪崩れ込もうとしてくる。

「いいかぁ!一匹も中に入れるんじゃねぇぞ!」

「燃やせぇ!燃やしまくれえぇ!」

 大穴を補強するように、重厚な装備を身にまとう戦士たちが大盾かざして横に並び、ゾンビ共を食い止めていた。
 そしてまだ残っているバリケードの上にローブを着た人間たちが立っていて、全員が例外なく杖を持っていた。
 どう見ても魔術師である。そのうち一人は他と比べて異常なほどに魔力が高い。辺境伯から送られた人員か?
 細身の男は波のようにのたうつ死体の軍勢に、大きくはないものの透き通る声で指示を出した。

火球ファイアボールの準備を!周囲をまとめて一掃しますよ!」

男がそう叫び、合図を送る。魔術師の杖の先端から現れた火球を一斉にゾンビの群れへと叩き込んだ。
 流星のように線を描きながら落ちていく攻撃魔法がゾンビに直撃すると、これまた迫力のある大爆発が起こった。
 そして魔法を放ち終えた魔術師が一旦下がると、その後ろにいた別の魔術師が前へ出て、再び詠唱を始めた。
 なるほど、人員を入れ替えながら魔法を放つことで、連続でファイアボールを撃つことが可能なのか。
 よくまぁ思いつくものだ。

「凄まじい」

「がう」

 魔術師部隊による一斉射撃を見てサエラは目を見開きながらも、なんとか言葉をひねり出した。我も頷く。
 魔術師を統率しているのは紫色の肌をした男・・・あれは魔族か。

「魔術師ゼリフ。ホールワード伯の戦力の一人ね」

 何者かを教えるのはゴードン。どうやらあの男の姿を知っているらしい。
 魔族が人間に仕えているとは・・・本当に時代は変わったなと心の底から思った。

「ここは彼らに任せても大丈夫そうね。ガルムちゃんもいないし・・・別の場所を防衛しましょう!」

 ゴードンの提案にサエラはコクリと頷くと、言葉通りに別の防衛戦が行われている場所に移動する。
 我がいない間にどこにバリケードがあるのか調べていたらしい。

 次の防衛網は先ほどの魔術師部隊がいた所からそう離れた位置ではなかった。
 ここのバリケードは無事だが、代わりに外側から大量のゾンビが互いを踏み台にし、よじ登ってきている。
 ぞわぞわと屍が壁を乗り越えてくる様は、別にゾンビに対して恐怖心もない我でもおぞましいものだと感じた。

 当然、苦手意識の強いサエラはその光景を目の当たりにし、顔を青くするがすぐに振り払う。
 パンッ!と両手で顔を叩き、覚悟を決める。

「ここでは援軍が必要らしいわね!行くわよ!」

 ゴードンが鋼鉄を身にまとい、言うが早くアンデットの群れへと突撃していった。

「了解・・・!」

「ガァッ!」

 すこし出遅れて、我らもゾンビの溢れるバリケードまで向かって行く。
 こぼれ落ちてくるゾンビを一匹一匹始末しているのは、リメットの衛兵たちである。
 ゾンビは遅いし、落ちてから立ち上がるまでだいぶ時間がある。中には落下で骨が折れ、立ち上がれないゾンビもいるだろう。
 しかしそのタイムロスを覆すほどの数がバリケードを乗り越え、降り注ぐ。
 衛兵の数は10人。あと数分もてば良い方だろう。だが現状をひっくり返す戦力が投入された。

「いっくわよぉぉぉぉお!!『アイアン・ファウスト』ォッ!!」

 鉄拳がバリケードに叩き込まれる。激しい衝撃音とは裏腹にバリケードは無傷だが、本当にダメージがあるのはゾンビ側である。
 ゾンビたちは一瞬振動で揺れたバリケードから蹴り飛ばされるように吹っ飛ばされた。
 バリケードを振動させ、それのエネルギーをゾンビに叩き込んだのである。
 同時に血も飛び、バリケードはゾンビに付けられた傷跡を除けば新品同様の状態となった。

「て、鉄人!?」

「Aランカーがなぜここに」

「引退したはずじゃ!」

 衛兵たちは歓声を上げるよりも混乱に驚いていた。
 そういえば麻痺していたが、Sランカーは人外クラスで、Aランカーは英雄クラスなのだったな。そりゃ驚くわ。

「ま、まだいるぞぉ!」

「くそっ!」

 さらに聞こえてくるのは毒を吐く衛兵の言葉。その先には殺し損ねたゾンビが数体、立ち上がろうとしている。
 死骸に紛れていたのだろう。見分けにくいからな。
 だがわずかに動くゾンビの脳天を、すぐに矢が射抜いて、ただの死体に戻した。

「・・・三体」

 サエラはゾンビをしっかりと目に収め、確実なヘッド・ショットを決めてみせた。
 人の頭蓋は硬いが、今の弓なら問題ありまい。植物ゾンビの時も上手くやれたし、できると信じていた。
 よくやったぞサエラ。

「い、一撃!?」

「綺麗に頭に刺さってる」

「・・・エルフか?何者だ?」

 衛兵たちが困惑しておる。いやはや愉快愉快、この娘は我の自慢の仲間であるぞ!
 サエラから時々対ゾンビの相談を受けていた我は、鼻高々にフンと鼻息を漏らした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

幻獣使いの英雄譚

小狐丸
ファンタジー
昔世界を救う為に戦った英雄が、魔物に襲われた事が原因で亡くなった娘の忘れ形見の赤ん坊を育てることになる。嘗て英雄だった老人は、娘の二の舞にせぬよう強く育てることを決めた。英雄だった老人と嘗ての仲間に育てられた少年は、老人の予想を超えて成長していく。6人の英雄達に育てられたチートな少年が、相棒の幻獣や仲間達と大きな力に立ち向かう。

新約・精霊眼の少女

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 孤児院で育った14歳の少女ヒルデガルトは、豊穣の神の思惑で『精霊眼』を授けられてしまう。  力を与えられた彼女の人生は、それを転機に運命の歯車が回り始める。  孤児から貴族へ転身し、貴族として強く生きる彼女を『神の試練』が待ち受ける。  可憐で凛々しい少女ヒルデガルトが、自分の運命を乗り越え『可愛いお嫁さん』という夢を叶える為に奮闘する。  頼もしい仲間たちと共に、彼女は国家を救うために動き出す。  これは、運命に導かれながらも自分の道を切り開いていく少女の物語。 ----  本作は「精霊眼の少女」を再構成しリライトした作品です。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。 ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。 瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。 始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘
ファンタジー
※プロローグ以降の各話に題名をつけて、加筆、減筆、修正をしています。(’23.9.11) <内容紹介> ある日目覚めた「私」は、自分が乙女ゲームの意地悪で傲慢な悪役令嬢アリアナになっている事に気付いて愕然とする。 しかもアリアナは第一部のモブ系悪役令嬢!。悪役なのに魔力がゼロの最弱キャラだ。 このままではゲームの第一部で婚約者のディーンに断罪され、学園卒業後にロリコン親父と結婚させられてしまう! 「私」はロリコン回避の為にヒロインや婚約者、乙女ゲームの他の攻略対象と関わらないようにするが、なぜかうまく行かない。 しかもこの乙女ゲームは、未知の第3部まであり、先が読めない事ばかり。 意地悪で傲慢な悪役令嬢から、お人よしで要領の悪い公爵令嬢になったアリアナは、頭脳だけを武器にロリコンから逃げる為に奮闘する。 だけど、アリアナの身体の中にはゲームの知識を持つ「私」以外に本物の「アリアナ」が存在するみたい。 さらに自分と同じ世界の前世を持つ、登場人物も現れる。 しかも超がつく鈍感な「私」は周りからのラブに全く気付かない。 そして「私」とその登場人物がゲーム通りの動きをしないせいか、どんどんストーリーが変化していって・・・。 一年以上かかりましたがようやく完結しました。 また番外編を書きたいと思ってます。 カクヨムさんで加筆修正したものを、少しずつアップしています。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

処理中です...