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第3章〜三大王〜

第165話「オカマバー」

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「どうしたのシャーロット?」

 ゴードンが突撃して来た化物に向かってそう言う。そいつシャーロットって言うのか。意味は小さいとか女性らしいとかだぞ。名前の意味を理解してんのか。

「大変なのよぉ!イザベラちゃんが風邪ひいちゃって、お仕事来れなくなったって」

「「「なんだってぇぇぇええええ!?」」」

 シャーロットとやらが持ってきた情報に、ゴードンたちオカマ一同は濃い顔の彫りをさらに深めて、絶望の断末魔を上げた。
 イザベラとか、女性らしい名前だがたぶんこいつらと同類だろうな。

「どうするのよ!カミラもエレノアもヘーゼルもいないのよ!ただでさえ接客がギリギリなのにっ」

 その名前いい加減にしろ。お前らには似合わん。
 しかしどうやら人手不足な様子だ。状況を見て見る限り、ここはゴードンが経営している飲食店に見える。
 そして、その中で従業員四人が欠席と‥‥‥人手不足なのだろうな。
 この見た目で接客業やってるのはどうかと思うが、まぁ一部のコアなファンがいるのだろう。全員ムキムキだしサエラあたりすきそう。

「誰か応援で呼べる人いない?」

「無理よ!あたし知り合いほとんど絶縁されてるし!」

 そりゃぁな。

「女の子の知り合いならいるけど‥‥‥」

「だめよ、お客さんの期待を裏切るわけにはいかないわ!」

 ここに来る客は何を期待して来店するのだ。正気か?

「何か‥‥‥何か手は」

 深刻そうに顔に影を浮かべるゴードン。なんだか忙しそうだし、我はこの辺でお暇するとしよう。
 我は部外者なわけだし、協力できることもなさそうだ。そう思ってゴードンに帰る意思を伝えようとすると、クワッと目を見開いたゴードンがこっちを見てきた。こわ。

「ウーロちゃん‥‥‥あなた、オスよね?」

「オスメスというか、生殖機能が我にはないのだが」

 人化すれば生えるけど。

「でも、女の子好きでしょ?」

「まぁ‥‥‥精神面ではオスよりではあるが」

 人化した時はあそこが生えてたし、恋愛感情も生まれた。好みは年上の女性である。おそらく存在などしないがな。
 あ、獣王は全くそういう目では見てない。マジで。
 ていうかどうしてゴードンはこのタイミングでそんなことを聞いて‥‥‥ってまさか!

「貴様‥‥‥」

「お願いウーロちゃん!人化して手伝ってちょうだい!」

「いやに決まっとるだろがぁああ!!」

 全力で拒否した。なぜ我がまたあのような貧弱な猿にならなければならんのだ!しかしゴードンは断っただけでは諦めなかった。

「お願いよぉ、今日だけでいいから!お給料も弾むわ!」

「ふざけるでない!定命者の姿になるなど絶対に嫌なのだ!」

 後々聞いたが、あの時の我はかなり情けなかった。
 甘味を好み、うまく衣服を着れずに泣き出し、エルフの女性にデレデレになり、一人で歩くこともままならない。
 今なら自立して行動できるとは思うが、とにかくあの時の脆弱な姿にはもうなりたくないのだ!

「第一、これだけ人がいればまだ店も回るだろう!我がやる必要はない!」

 見ればまだ十人近くの従業員という名のゴリラがいる。我一人がわざわざ加わる必要性など皆無に見えるのだ。だがゴードンの言い分はこうだった。

「違うのよ、今日は開店1周年記念で沢山お客さんが来ちゃうよう!」

 一年もこの店が続いてることが驚きなのだが。
 というか、なるほど。記念日で客の数が増えるのか。ギルドの大衆食堂などを思い出して見ると、たしかに大変そうだ。
 この店もそこそこ大きいし、しかも記念日で客も増えるとなると‥‥‥だからって我がやる理由はない。

「お願いよぅ、ウーロちゃんの力を貸してちょうだい」

 うぐ‥‥‥涙目の上目遣い。そんな目で我を見な!怖いわ。

「今日だけ、本当に今日だけでいいの。みんなと一緒に立ち上げたこの店のお祝いを、絶対に成功させたいのよ‥‥‥」

 う、仲間との思い出はたしかに何物にも変えがたいほど尊いものではある。ゴードンにとっては、この店はとても大事なもので、従業員たちも大切な仲間なのだろう。けど、なぁ。

「「「あたしたちからもお願い!」」」

「うわっ」

 気付けば他の従業員たちも我に向かって頭を下げて来た。こいつらは我の人化形態を見たことがないはずだが、どちらかというと真剣に頼み込むゴードンを信じているのかもしれん。
 うぅ、ゴードンには色々借りがあるし、なるべくなら手伝ってやりたい。けどあの姿にはなりたくないし‥‥‥。

「「「‥‥‥」」」

「ぐ、ぬぬぬ、わかった!わかったわい!手伝ってやる!」

「ほんと!?ありがとうウーロちゃぁぁん!」

「ぎゃぁあ!!」

 歓喜したゴードンが思いっきり我にハグをかましてきたが、圧死するわ!離せ!臭い!
 しかもゴードンに続いて他のゴリラどもも野太い歓声を上げながら我を囲い始めた。
 その光景は、あたかも蛮族が捕らえた獲物に喰らいつく瞬間にも見えるだろう。地獄絵図。だがこの光景を見るなら地獄の方がマシなのかもしれない。
 とにかく我は断末魔に近い悲鳴を上げたのだった。






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