上 下
161 / 176
第3章〜三大王〜

第155話「小娘たちの猛攻2」

しおりを挟む
 場所は変わり、今度はマーシーの魔道具屋。カスミの状態を確認するために来たのだが、シオンとサエラは途中まで一緒に来ていたものの、なぜか別れてしまった。嫌な予感しかしない。

「アンタ一匹で来るなんて、また怒られても知らないわよ」

 マーシーがそう言ってくる。グロンに竜の魔法を教えた時のことを言ってるのだろう。苦い思い出に我はあははと笑ってごまかす。

「あー、二人も途中まで一緒だったからの。そのうち来ると思う」

「なら良いけど」

「ちなみに、カスミの腕はどうだ?どんな風になるのだ?」

 義手と言っても色々あるみたいだ。日常的に使うものや、武器を内蔵した軍事的なものまで。
 共通点は非常に高価という点だが、カスミはかなりお金を持ってたので心配はいらんだろう。なんなら我らより持ってる。
 だからこそ、彼女がどんな腕にするのか気になるのだ。冒険者家業を続けるとなると、やはりかなり高性能なものか求められるだろうし。

「そうね。戦闘するなら反応速度が必要になるから、あの子の元の腕をベースに有機物を取り込んだ人造義手にしようと思う」

「人造義手?」

「カスミの腕は残ってるから、肉を溶かして骨を芯にするの。筋肉繊維の代わりにミスリルと魔水で擬似的な筋肉を作る。その周りを伸縮性のあるスプリガンの革で覆って‥‥‥」

 あ、ダメだ。全然何を言ってるのかわからない。度々聞こえるミスリルやスプリガンはわかるものの、それ以外がさっぱりである。
 ただ彼女も気持ちよく話してるので、適当に聞き流しつつ相槌を打つ作業に意識を置いた。これは真面目に聞いても意味がないからの。

「って感じ。神経を魔法で繋ぐから完成まで結構かかるかも」

「うんうん。まぁすぐにできるなんて思ってないよ」

 さりげなく神経を繋ぐとか言ってるが、やっぱりマーシーの腕の良さあってのものだろう。もしかしたら医学も齧っているのか?どこで学んだのか謎である。

「そういえばカスミはどこだ?」

 肝心の本人がいない。

「あぁ、肌が死体みたいだから日光浴させてるの」

 なるほど。たしかにいくらなんでも今のカスミの肌は白すぎる。実際、今はアンデットで血液が通っていないのだから仕方ないと言えば仕方ないのだろうが。
 普通の人間にカモフラージュするには必要だろう。

「すまんの。何から何まで」

「良いのよこっちも商売だし、チップも弾んでもらったし」

 チップとかではなく、あの子の場合お金の単位が分からず適当に出した気がしないでもない。

「そういえば弟が最近ゴタゴタ忙しそうなのよ。見に行ってもすぐ隠すし。何か知らない?」

「し、知らんのう」

 グロンの《竜言語魔法》の研究がそろそろ勘付かれてしまいそうだな。
 目をそらす我を怪訝そうに見てくるマーシー。だがバラすわけにはいかぬ。全力で知らんぷりしなければ。なはは。
 幸運なことに、マーシーが我を問い詰めようと口を開けたタイミングで、店の玄関がガラリと開いた。マーシーの注意はそちらに向く。

「いらっしゃい。何のよう‥‥‥で、すか」

 店員モードになり、接客しようとしたマーシーだったが、店に入ってきた人物を見て固まってしまう。
 というか我も固まった。なぜなら客はフルアーマーを着込んだ物騒な見た目をした人物だったからだ。

「ふ、ウーロ。待たせたな」

 中から聞こえてくるのは聞き慣れた少女の声、シオンだ。
 てめー何してんの。

「ねえ、さん。これ動きにくい」

「我慢してくださいってば!」

 後ろから同じ鎧を身に包んだサエラも出てきた。二人して何やってるのだ。よく見てみると本物の鉄ではなく、ダミーを使った偽物の装甲だというのが素人目にもわかるが、なぜこんな格好をしてるのかが謎すぎる。
 というか途中で我と別れたのはもしかしてこれに着替えるため?バカなの?

「二人とも‥‥‥何やってんの?」

 我の疑問を代弁するようにマーシーが尋ねると、シオンは鎧をガチャガチャと揺らして胸を張った。

「アーマードシスターズです!」

 どこかに正気でも落としてきたのだろうか。

「これからは鎧を着たキャラでやってこうと思いまして!」

「シオンはともかく‥‥‥サエラが相当キツそうなのだが」

 サエラは筋肉はあるものの、それは猫のように素早く身軽いタイプの肉体をしているのだ。スタミナや持久力、火力は出すが紙防御なのである。
 だから防御を高めるのに鎧を着るのはわかるが、こんなダルマみたいなでかい鎧を着てしまうと移動もままならないはずだ。絶対に実戦向きじゃない。

「サエラー。大丈夫かぁ?」

「ど、どっちが前?あれ?ウーロどこ?」

 ダメそうだ。サエラが目に見えて混乱してるのは結構珍しい。たぶん目も見えてないのだろうな。
 我が半目でシオンを見上げると、彼女は悔しそうに「ぐぬぬ」と言い、捨て台詞を吐きながら外に出た。

「く、この作戦も失敗ですか!撤退ですよ!覚えときなさい!行きますよサエラ!!」

「まって、見えない」

「ちょー、待て!お主ら今日は本当にどうし‥‥‥」

 我が言い切る前に二人は出て行ってしまった。後に残ったらキョトンとしたマーシーと手を伸ばしたままの我。
 何ともいえない空気が流れ、我とマーシーは困った顔をお互いに向けた。

「どうしたのあれ」

「我が聞きたい。朝からずっとあぁなのだ」

「えぇー‥‥‥」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

処理中です...