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第3章〜三大王〜
第155話「小娘たちの猛攻2」
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場所は変わり、今度はマーシーの魔道具屋。カスミの状態を確認するために来たのだが、シオンとサエラは途中まで一緒に来ていたものの、なぜか別れてしまった。嫌な予感しかしない。
「アンタ一匹で来るなんて、また怒られても知らないわよ」
マーシーがそう言ってくる。グロンに竜の魔法を教えた時のことを言ってるのだろう。苦い思い出に我はあははと笑ってごまかす。
「あー、二人も途中まで一緒だったからの。そのうち来ると思う」
「なら良いけど」
「ちなみに、カスミの腕はどうだ?どんな風になるのだ?」
義手と言っても色々あるみたいだ。日常的に使うものや、武器を内蔵した軍事的なものまで。
共通点は非常に高価という点だが、カスミはかなりお金を持ってたので心配はいらんだろう。なんなら我らより持ってる。
だからこそ、彼女がどんな腕にするのか気になるのだ。冒険者家業を続けるとなると、やはりかなり高性能なものか求められるだろうし。
「そうね。戦闘するなら反応速度が必要になるから、あの子の元の腕をベースに有機物を取り込んだ人造義手にしようと思う」
「人造義手?」
「カスミの腕は残ってるから、肉を溶かして骨を芯にするの。筋肉繊維の代わりにミスリルと魔水で擬似的な筋肉を作る。その周りを伸縮性のあるスプリガンの革で覆って‥‥‥」
あ、ダメだ。全然何を言ってるのかわからない。度々聞こえるミスリルやスプリガンはわかるものの、それ以外がさっぱりである。
ただ彼女も気持ちよく話してるので、適当に聞き流しつつ相槌を打つ作業に意識を置いた。これは真面目に聞いても意味がないからの。
「って感じ。神経を魔法で繋ぐから完成まで結構かかるかも」
「うんうん。まぁすぐにできるなんて思ってないよ」
さりげなく神経を繋ぐとか言ってるが、やっぱりマーシーの腕の良さあってのものだろう。もしかしたら医学も齧っているのか?どこで学んだのか謎である。
「そういえばカスミはどこだ?」
肝心の本人がいない。
「あぁ、肌が死体みたいだから日光浴させてるの」
なるほど。たしかにいくらなんでも今のカスミの肌は白すぎる。実際、今はアンデットで血液が通っていないのだから仕方ないと言えば仕方ないのだろうが。
普通の人間にカモフラージュするには必要だろう。
「すまんの。何から何まで」
「良いのよこっちも商売だし、チップも弾んでもらったし」
チップとかではなく、あの子の場合お金の単位が分からず適当に出した気がしないでもない。
「そういえば弟が最近ゴタゴタ忙しそうなのよ。見に行ってもすぐ隠すし。何か知らない?」
「し、知らんのう」
グロンの《竜言語魔法》の研究がそろそろ勘付かれてしまいそうだな。
目をそらす我を怪訝そうに見てくるマーシー。だがバラすわけにはいかぬ。全力で知らんぷりしなければ。なはは。
幸運なことに、マーシーが我を問い詰めようと口を開けたタイミングで、店の玄関がガラリと開いた。マーシーの注意はそちらに向く。
「いらっしゃい。何のよう‥‥‥で、すか」
店員モードになり、接客しようとしたマーシーだったが、店に入ってきた人物を見て固まってしまう。
というか我も固まった。なぜなら客はフルアーマーを着込んだ物騒な見た目をした人物だったからだ。
「ふ、ウーロ。待たせたな」
中から聞こえてくるのは聞き慣れた少女の声、シオンだ。
てめー何してんの。
「ねえ、さん。これ動きにくい」
「我慢してくださいってば!」
後ろから同じ鎧を身に包んだサエラも出てきた。二人して何やってるのだ。よく見てみると本物の鉄ではなく、ダミーを使った偽物の装甲だというのが素人目にもわかるが、なぜこんな格好をしてるのかが謎すぎる。
というか途中で我と別れたのはもしかしてこれに着替えるため?バカなの?
「二人とも‥‥‥何やってんの?」
我の疑問を代弁するようにマーシーが尋ねると、シオンは鎧をガチャガチャと揺らして胸を張った。
「アーマードシスターズです!」
どこかに正気でも落としてきたのだろうか。
「これからは鎧を着たキャラでやってこうと思いまして!」
「シオンはともかく‥‥‥サエラが相当キツそうなのだが」
サエラは筋肉はあるものの、それは猫のように素早く身軽いタイプの肉体をしているのだ。スタミナや持久力、火力は出すが紙防御なのである。
だから防御を高めるのに鎧を着るのはわかるが、こんなダルマみたいなでかい鎧を着てしまうと移動もままならないはずだ。絶対に実戦向きじゃない。
「サエラー。大丈夫かぁ?」
「ど、どっちが前?あれ?ウーロどこ?」
ダメそうだ。サエラが目に見えて混乱してるのは結構珍しい。たぶん目も見えてないのだろうな。
我が半目でシオンを見上げると、彼女は悔しそうに「ぐぬぬ」と言い、捨て台詞を吐きながら外に出た。
「く、この作戦も失敗ですか!撤退ですよ!覚えときなさい!行きますよサエラ!!」
「まって、見えない」
「ちょー、待て!お主ら今日は本当にどうし‥‥‥」
我が言い切る前に二人は出て行ってしまった。後に残ったらキョトンとしたマーシーと手を伸ばしたままの我。
何ともいえない空気が流れ、我とマーシーは困った顔をお互いに向けた。
「どうしたのあれ」
「我が聞きたい。朝からずっとあぁなのだ」
「えぇー‥‥‥」
「アンタ一匹で来るなんて、また怒られても知らないわよ」
マーシーがそう言ってくる。グロンに竜の魔法を教えた時のことを言ってるのだろう。苦い思い出に我はあははと笑ってごまかす。
「あー、二人も途中まで一緒だったからの。そのうち来ると思う」
「なら良いけど」
「ちなみに、カスミの腕はどうだ?どんな風になるのだ?」
義手と言っても色々あるみたいだ。日常的に使うものや、武器を内蔵した軍事的なものまで。
共通点は非常に高価という点だが、カスミはかなりお金を持ってたので心配はいらんだろう。なんなら我らより持ってる。
だからこそ、彼女がどんな腕にするのか気になるのだ。冒険者家業を続けるとなると、やはりかなり高性能なものか求められるだろうし。
「そうね。戦闘するなら反応速度が必要になるから、あの子の元の腕をベースに有機物を取り込んだ人造義手にしようと思う」
「人造義手?」
「カスミの腕は残ってるから、肉を溶かして骨を芯にするの。筋肉繊維の代わりにミスリルと魔水で擬似的な筋肉を作る。その周りを伸縮性のあるスプリガンの革で覆って‥‥‥」
あ、ダメだ。全然何を言ってるのかわからない。度々聞こえるミスリルやスプリガンはわかるものの、それ以外がさっぱりである。
ただ彼女も気持ちよく話してるので、適当に聞き流しつつ相槌を打つ作業に意識を置いた。これは真面目に聞いても意味がないからの。
「って感じ。神経を魔法で繋ぐから完成まで結構かかるかも」
「うんうん。まぁすぐにできるなんて思ってないよ」
さりげなく神経を繋ぐとか言ってるが、やっぱりマーシーの腕の良さあってのものだろう。もしかしたら医学も齧っているのか?どこで学んだのか謎である。
「そういえばカスミはどこだ?」
肝心の本人がいない。
「あぁ、肌が死体みたいだから日光浴させてるの」
なるほど。たしかにいくらなんでも今のカスミの肌は白すぎる。実際、今はアンデットで血液が通っていないのだから仕方ないと言えば仕方ないのだろうが。
普通の人間にカモフラージュするには必要だろう。
「すまんの。何から何まで」
「良いのよこっちも商売だし、チップも弾んでもらったし」
チップとかではなく、あの子の場合お金の単位が分からず適当に出した気がしないでもない。
「そういえば弟が最近ゴタゴタ忙しそうなのよ。見に行ってもすぐ隠すし。何か知らない?」
「し、知らんのう」
グロンの《竜言語魔法》の研究がそろそろ勘付かれてしまいそうだな。
目をそらす我を怪訝そうに見てくるマーシー。だがバラすわけにはいかぬ。全力で知らんぷりしなければ。なはは。
幸運なことに、マーシーが我を問い詰めようと口を開けたタイミングで、店の玄関がガラリと開いた。マーシーの注意はそちらに向く。
「いらっしゃい。何のよう‥‥‥で、すか」
店員モードになり、接客しようとしたマーシーだったが、店に入ってきた人物を見て固まってしまう。
というか我も固まった。なぜなら客はフルアーマーを着込んだ物騒な見た目をした人物だったからだ。
「ふ、ウーロ。待たせたな」
中から聞こえてくるのは聞き慣れた少女の声、シオンだ。
てめー何してんの。
「ねえ、さん。これ動きにくい」
「我慢してくださいってば!」
後ろから同じ鎧を身に包んだサエラも出てきた。二人して何やってるのだ。よく見てみると本物の鉄ではなく、ダミーを使った偽物の装甲だというのが素人目にもわかるが、なぜこんな格好をしてるのかが謎すぎる。
というか途中で我と別れたのはもしかしてこれに着替えるため?バカなの?
「二人とも‥‥‥何やってんの?」
我の疑問を代弁するようにマーシーが尋ねると、シオンは鎧をガチャガチャと揺らして胸を張った。
「アーマードシスターズです!」
どこかに正気でも落としてきたのだろうか。
「これからは鎧を着たキャラでやってこうと思いまして!」
「シオンはともかく‥‥‥サエラが相当キツそうなのだが」
サエラは筋肉はあるものの、それは猫のように素早く身軽いタイプの肉体をしているのだ。スタミナや持久力、火力は出すが紙防御なのである。
だから防御を高めるのに鎧を着るのはわかるが、こんなダルマみたいなでかい鎧を着てしまうと移動もままならないはずだ。絶対に実戦向きじゃない。
「サエラー。大丈夫かぁ?」
「ど、どっちが前?あれ?ウーロどこ?」
ダメそうだ。サエラが目に見えて混乱してるのは結構珍しい。たぶん目も見えてないのだろうな。
我が半目でシオンを見上げると、彼女は悔しそうに「ぐぬぬ」と言い、捨て台詞を吐きながら外に出た。
「く、この作戦も失敗ですか!撤退ですよ!覚えときなさい!行きますよサエラ!!」
「まって、見えない」
「ちょー、待て!お主ら今日は本当にどうし‥‥‥」
我が言い切る前に二人は出て行ってしまった。後に残ったらキョトンとしたマーシーと手を伸ばしたままの我。
何ともいえない空気が流れ、我とマーシーは困った顔をお互いに向けた。
「どうしたのあれ」
「我が聞きたい。朝からずっとあぁなのだ」
「えぇー‥‥‥」
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