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第2章〜不死編〜

第135話「誰?」

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「「竜王さま!?」」

 ウロボロスが倒れたことに、ガルムと交戦していたレッド・キャップは反射的に反応してしまった。
 まさか冒険者ランクとして最底辺にいるサエラたちにウーロが負けるとは思わなかったのだろう。
 無論、他の冒険者ではウーロには勝てなかった。魔法を打ち消すほどの治癒力。岩をもものともしない激しい攻撃。
 打撃で脳震盪を起こすとはいっても、そもそも頭に攻撃を加えるのが困難なのだ。おそらくガルムでも苦戦は強いられる。

「まさか」

「竜王さまが負けた‥‥‥」

 呆然とした口調で、攻撃の手が緩む。サエラたちは雑魚とは思ってはいなかった。世間一般では強者の部類に入るとは認識していた。
 だからと言ってドラゴンを倒すなど、誰が想像できよう。

「隙ありだっ!」

「「!?」」

 目前からムチにも似たしなやかな衝撃が襲ってきた。ガルムの蹴りだ。風の魔法の力を纏った強烈な一撃。
 注意を削がれたことでベタとガマに隙が生まれ、2人同時に攻撃を受けてしまったのだ。ベタとガマは軽い体らしく凄まじい勢いでぶっ飛び、無事だった建物とぶつかって倒壊させた。
 無論今ので仕留められるとはガルムも思っていない。2人を警戒しつつ、数秒のゆとりを使ってシオンたちの状態を確認する。

「ウーロどうしよう‥‥‥」

「とりあえず、起こしましょう。起きたら元どおりかもしれませんし」

「なるほど」

「わんっ!」

 どうやら気絶させたウーロを復帰させるつもりらしい。それはそれで構わないが、果たして起きても自我を取り戻しているかガルムは不安だった。
 しかし、ベタとガマはウーロを利用しようとしていたのではなく、ウーロのことを思って今回の事件を引き起こした。一方的ではあるが。
 だから今のウーロは過度なエネルギー吸収によって興奮してるだけなのかもしれない。なら、目が覚めれば自分の意思をハッキリさせることも可能だろう。
 頭を冷やす時間があれば落ち着くハズ。

「狂犬め」

「許さん」

 とは言っても、こちらの双子は落ち着く様子がない。崩れた建物を爆発させて吹っ飛ばし、鎖をブンブン振り回しながら復活してきた。

「ったーく、めんどくせぇなぁ!!」

 ガルムが愚痴を叫び、風よりも早く駆けると再びベタとガマと激闘を始める。周りの家や舗装された道、椅子などの公共物も木っ端微塵だ。
 お互いの攻撃が激突するたびに突風のような風圧が発生して、地面が地割れを引き起こす。もはや人間の領域を超えた戦闘である。

「ウーロ、ウーロ。起きて」

「わうん」

 近くで壮絶な戦いが行われてる中、サエラはウーロを起こすためにペチペチとぽっぺを叩いていた。
 時々「ふげ」とか「ほがっ」とか聞こえるが起きる様子はない。もう打撃で受けたダメージは回復しているハズだが、ウーロの目蓋は閉じられたままだ。
 フィンもペロペロとウーロの顔を舐めるが効果はなし。どうしたものかと考え込むと、必要なくなったハンマーを捨てたシオンが何故か尻を押さえながらプルプル震えていた。

「どうしたの?」

「いや、えと、あぁ‥‥‥」

 シオンは辺りをキョロキョロ見渡し、誰もいないことを確認すると顔を真っ赤にして羞恥を隠すように小声で答えた。

「さっき、力込めすぎて」

「うん」

「オナラ、出そうなんですよぉ‥‥‥」

「‥‥‥うん」

 すれば?と呆れ顔になったサエラは言外にそう伝えた。シオンはとんでもないとクワッと顔をりきませる。

「なに言ってるんですか!?できるわけないでしょ乙女ですよ!」

「今更」

「へ、あ、やばっ」

 叫んでしまったことにより思わず下半身の力が抜けてしまったのか、シオンの空気が抜けたような顔を浮かべた。と同時に下の方からか細い音が聞こえて来る。

 ぷぅ。






 自分の意思が途絶え、眠っていることはわかる。なんだから真っ黒い水の中に放り込まれ、ゆっくりゆっくりと底に向かって落ちているような感覚である。
 気配を何も感じない。この空間には我一人しかいないらしい。
 不思議と息苦しさはない。夢心地といったところか。動くのも、このまま上へ登るもの面倒くさいのだ。

 でもなんだか、大切なことを忘れてる気がする。今やばいことが起きてる気がする。
 なんだっけ。という我って誰だっけ?自分の存在もわからなくなってきた。
 ‥‥‥もういいや。めんどくさい。

「これ、いつまで寝とんじゃ」

 突如としてかけられた声とともにやってきたのは激痛。頭を鈍器で殴られた衝撃が波紋のように身体に広がっていく。
 つまり無茶苦茶いたい。あまりの容赦のない攻撃に我は飛び起きた。

「いだぁぁぁ!?な、なんだなんだ!敵であるか!?」

「なにと戦ってるのじゃお主は」

 飛び起きると、なんとも奇妙な生物が目の前にいた。額に目玉のようなマークが付いていて、身体は青紫色の鱗に覆われ、尻尾は芋虫みたいに太っている。トカゲを二足歩行させたような姿だ。
 杖を持ってるのからか知的な雰囲気を感じるが、おそらくそれで我を殴ったのだ。
 そしてその奇妙な生き物はなぜか憤慨した表情を作った。

「なーにが奇妙な生き物じゃ!!わしと同じ姿をしてるというのに!」

 同じ姿?何を訳のわからんことを‥‥‥と、我は自分の掌を見て、さらに周囲に鏡のような視界を反射する物体もあって己の姿を認識した。
 青い体に目玉マーク。トカゲが二足歩行したような‥‥‥あ、これ我だ。

「そうだ、我はウーロで、ウロボロスだ!」

「やれやれ、自分を見失うとは‥‥‥なぜよりによって今回は軟弱な精神をしてるのじゃ」

 我が自分の姿を見て記憶を思い出していると、我と瓜二つの姿をした人物は、疲れたようにため息を吐いたのだった。


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