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第2章〜不死編〜

第123.5話「間話」

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「お疲れ様でした」

 ベタとガマがウーロたちの新居から出ると、まだ年若そうな高い音を残した人物が、扉から数メートル離れた場所に立っていた。
 全身をマントとフードで多い、姿を見られないようにしている。茶色の外套は名も無き旅人のようで、交易都市であるリメットならば不自然なく姿を隠せるだろう。
 ベタとガマはスッとインクで塗り潰したような目を向ける。

「どうでしたか。間違いありませんか?」

「うむ」

「ウーロ殿は竜王さまだ」

 確認を取るために聞いてきた質問に、ベタとガマは迷いなく頷いた。その事を聞くとフードに顔を隠した人物は頭の中に言葉を埋め込むように目を閉じた。
 ふぅと息を小さく吐いたのは安堵か、それとも別の意味か。判別はつかない。
 ただ力を抜いただけかもしれない。

「貴様の言ってたことは正しかった」

「嘘だったら殺そうと思ってた」

「然り然り」

 やはり安堵だったのかもしれない。

「‥‥‥その様子ですと、無事に竜王様は力を取り戻せたのですか?」

「まだかつての力ほどではない」

「あのカケラ程度ではまだ足りん」

「そうですか」

 一呼吸だけ間を置いて、話をすり替える。
 少なくともこの子供の皮を被った化け物は、お宝を見つけたようにホクホクと上機嫌だ。機嫌が良い内に用事を済ませて立ち去るのが無難である。
 フード男は心の中でそう決断した。

「では、結果も聞けたのでボクはお暇させていただきます」

「「待て」」

 軽く会釈してフード男が立ち去ろうと歩みを始めたが、ベタとガマが彼を呼び止めた。
 二人の一言が頭の中で反響する。今度はなんなんだとフード男はすこしだけ焦りを感じつつも、それを表情には出さぬよう気を付けた。
 男は子供が苦手だった。何を考えてどういう思考回路をしているのかも理解ができない。
 常にイレギュラーに動き、振り回される。わがままというものが嫌いであった。

「何か?」

「貴様の情報提供には感謝してる。故に我らが礼をしよう」

「名を何という?」

 律儀にも有益な情報提供者に感謝を示そうとしているらしい。きっと育て親の教育のたまものだろう。ならばこのまま関わらないようにしたいというのが男の願いであった。

 内心を丸々正直に言えば、あっという間に機嫌を損ねるに違いない。真っ黒な無機質な瞳が魔力の赤色に染まり、暴力的な思考をもたらしてしまうだろう。
 一瞬思いついた言葉を男は飲み込み、顔をベタとガマに向けずに質問に答えた。

「ルーデスと言います。お礼などお気になさらず」

「ルーデスか」

「覚えておこう」

 聞いちゃいない。満足そうに頷き、自分たちだけで会話を成り立たせるベタとガマにルーデスは早足で立ち去った。
 早くこの双子から距離を取りたかったルーデスであったが、ベタとガマは単に礼がしたかっただけなのだろう。別れの言葉を交わすと二人は未練なくテクテクと人通りの少ない道を抜けていく。

 昔は住居を考えなしに増やしていたのだろうか。昔の兵舎と思われる増設された住宅街はまるで迷路のようだ。
 住人たちからは迷宮区メイズと呼ばれ、子供が迷い込まないように「怪物が出る」と脅かされ、恐怖の代名詞になっているような地区である。
 その噂はたちまち広がり、今ではある種の都市伝説のようにこの地区は扱われているのだ。
 実際はそんなことはなく、純粋に人口が少ないだけなのだが。
 ともあれ、身元を隠すベタとガマにとっては都合の良い場所だった。

 ここは近代化が進むリメットにとっても無法地帯と言っても過言ではない。
 あきないに失敗した者、後ろ暗い事情を持つ者、家をなくした者。さまざまな理由を手に、この地区には混沌のように人が隠れ住んでいるのだ。
 メイズの建物はどれもが所有権放棄されており、何者にも管理されていない。
 各々が好きな建物に好きに住む。が、簡単に居場所を決めてしまうと盗人に狙われる可能性がある。

 ベタとガマは路地裏から狙う無法者たちを逆に威圧しながらメイズの道を進む。
 メイズに入った途端、みすぼらしい格好をした男に襲われた。が、顎に一撃叩き込めば男はすぐに人形になった。
 ズルズルとゴミ袋のように武装した男を引きずっていれば、それが自然と獣避けの鈴になる。

 明らかに異質な光景にあえて飛び出そうと考える者はいない。ベタとガマは物陰からの暗い視線が消えた事を確認して、適当な所に男を放り捨てた。
 建物の間を通り、壁の一部のレンガを外すとそこは子供一人通れるくらいの小さな隙間になる。
 二人は順番に入り込み、入り口をレンガで塞ぐと元通りの壁となった。
 地下へ続く階段を下り、最終的にはそこそこ広いスペースが広がる。ウーロたちの新居の地下室より数倍は広い。
 ベタとガマは武装を解除して近場にあった適当な毛布を引っ張ると、二人してその中に包まった。

 ベタがガマの頭を抱えて、ガマは甘えるようにオデコを埋める。だんだんと呼吸が一定のペースとリズムになり、ゆっくりと瞳をまぶたで閉ざすと穏やかな寝息が響く。

「「竜王さま‥‥‥」」

 二人の幼子の言葉は続かず、ただただ時間が過ぎていった。

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