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第2章〜不死編〜

第102話「鉄人」

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 いやぁ申し訳ない。我は後頭部をぽりぽりかきながらにこやかな笑顔を浮かべていた。我の左右の席にはシオンとサエラが取り繕うように顔に笑みを貼り付けている。サエラはめっちゃ下手くそ。

「二人がウーロの仲間か?」

「そうであるシオンとサエラというのだ」

「は、はじめまみて」

「うっス」

 見た目は幼女だが中身はガルムと同等のSランカー。その実力は勇者に匹敵する。
 しかもシオンたちは彼女たちがどういった人間なのかも知らん。緊張して当然であろう。
 シオンはツンツンと横から我を小突いてきた。

「どういうことですか!なんで、なんでレッド・キャップが‥‥‥」

「う、うむそれには事情があってな‥‥‥」

 小声での会話は慣れたものだが、誤魔化すのは苦手なのである。
 我と彼女らが出会った日は絶対にバレてはいけない。なぜならレッド・キャップのベタとガマに遭遇したのが二人がメアリーと遊びに行っていた日だからだ。
 もしバレでもしたら尻を叩かれてしまう。我のぷりちーな尻が梅干しのごとく豹変してしまう。それはなんとしても阻止しなくてはならない。
 
「私たちは会ってないし、ウーロが一人の時に出会ったんだよね?」

「う、うむ。そうなのだ」

「姉さん。確定」

 え?

「あとでお尻ペンペンですね」

 ‥‥‥キューン。

「えと、お二人はウーロさんにどんなご用が?」

 落ち込む我を置いて、シオンが二人に質問を投げかける。現状二人は事情を知らないので、この質問をするのは当たり前であろう。
 ベタとガマも隠すつもりはないのか、シオンの質問に力強くうなずいて答えてみせた。

「無論。強力な竜の子であるウーロに手を貸して欲しいことがあるからだ」

「然り」

「「強力?」」

 シオンとサエラが同時に言葉を繰り返し、疑問付きの表情で我を見下ろした。
 そんな顔で見ないで。だって我、実際すごい竜であろ?そうであろう?

「子竜の時点で会話をしている。間違いなく誇るべき血統の持ち主だ」

 「あぁ、なるほど」

 そういやおじさんが言ってましたね。と小さく呟くシオン。どうやらベタとガマは我が言葉を操ることから、ただの竜の子供ではないと判断したのだ。
 我はゔっとえずき、斜めに下を見る。例外中の例外だろうが、やはり喋ることで我が危うい立場に立たされてしまうこともあるのか。
 今後は黙って‥‥‥いや、今まで普通に喋ってたのに、急に喋らなくなるというのも違和感しかない。
 今回はベタとガマが我に敵意がなかったから助かったが、今後はそういう都合のいい展開ばかりではないだろう。どうしたものか。

「それで、ウーロにどう協力して欲しいの?」

「この石版を解読して欲しい」

 サエラが聞くと、ベタかガマか。片割れの一人がそこそこ重さがあろう文字通り石版を机の上に置き、それを我の前に差し出してきた。
 それは考古学者などがもってそうな石版で、解読して欲しいと願った通り、文章が刻まれていた。
 しかも《竜言語文字》で記されており、さらに今よりはるかに昔の文章である。
 これ‥‥‥どこかで見た気がするなぁ。我は石版を手に自分の手元に引っ張った。

「これをどこで?」

「詳しくは言えない」

「先祖代々とだけ言っておこう」

 ふむ。珍しい石版とあって、周りの冒険者たちが飯を食うのを装いつつ、チラチラと見てくるがベタとガマが睨むとすぐ引っ込む。見た目は幼女だが、やはりSランカーとして名を馳せているのだろう。ただガルムと違って、彼らの持つ感情は恐怖ではある。

「古い文字じゃなぁ。5千年以上前のものであろう」

「然り」

「どうだ?読めるか?」

 ベタとガマが急かしてくる。まぁ待てい。えぇと、どれどれ。


 愛しい我が娘よ。
 私に悔いのある人生をありがとう。


 ‥‥‥なんじゃこれ。

「どうだ?」

「読めたか?」

「うーむ」

 何者かが書き残した手紙的なものだということはわかったが、うーむ。別に使命とか書かれているわけでもない。
 石版を横に傾けても、裏を見ても、魔力を込めても特に反応も隠された文字もない。
 本当に、ただ頑丈な石の板に文字を書いただけだ。我がなんとも言えない反応を示すと、ベタとガマは急に不安そうな顔を浮かべ、我を上目遣い気味に見てくる。

「どうだ?」

「読めるか?」

「うーむ、読めるは読めるのだが。"愛しい我が娘よ。私に悔いのある人生をありがとう"と書いてあるな。それ以外は何もないぞ」

 内容を伝えると二人は「そうか」とだけ言い、何やら思案するように押し黙った。そして二人同時に立ち上がり、ガタッと椅子を鳴らすとテーブルに乗っかる勢いで我に迫り、手を取った。
 なんじゃなんじゃ。

「ウーロ。時間はあるか」

「え?なんのこと?」

「我らと共に来て欲しい!」

「え、ぇ?」

 訳がわからん。聞いてきてるのにほぼほぼ強引に我を引っ張ってくるし、なんなのだいてててて!

「落ち着いてください二人とも。ちょっと!」

「ウーロが痛がってる」

 乱暴なレッド・キャップの行動に流石のシオンとサエラも黙ってはおらず、我から引き剥がそうと幼女らを引っ張る。が、彼女たちはSランカー冒険者。怪力を持つシオンでも二人を剥がすことは難しい。
 我らの席は騒がしさを増し、Sランカーが暴れたことで近くにいた冒険者たちも慌てて逃れようと距離をとった。
 だ、だれか助けてえー!

「あらダメよ二人とも。乱暴なことをしちゃぁ」

 その時、野太いがなぜか女性のような発音をふる中年男性の声が我らに降り注いだ。
 我の視界にヌッと入ってきたのは大木のように太く鍛え上げられた豪腕で、それは容易にベタとガマの手を引き剥がした。
 軽い動作だが、そこには強い力が混ざっている。

 ベタとガマはそれをした人物を見上げ、キッと睨みつけた。

「ゴードン‥‥‥!」

「邪魔をするな!」

 その男、ゴードンは幼女に向かって困ったように笑った。



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