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第2章〜不死編〜
第101話「逃がさない」
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冒険者ギルド。そこでは夢見る若者が冒険者を志願したり、ダンジョンから持ち帰った資源を売り払ったり、あるいは様々な立場の人間が発行した依頼を選んだりと‥‥‥多目的な場所なのだ。
当然、体を動かす労働を終えた者たちで溢れかえっているので、ギルドには広い食事スペースが設けられている。
受付嬢とは違う女性職員が複数歩き回り、注文を受けたり調理された食べ物を忙しく運んでいたりする。
香ばしい肉の塊や、穀物を香辛料で炒めた食欲を刺激する匂いばかりだ。中でもジャガイモのデンプン粉を肉にまぶしてあげた、唐揚げという食べ物が人気であるようだ。
カリカリした食感に肉と脂の味がたまらん品である。我も好きだが、今日は照り焼きにした鳥の太ももの気分なのである。
我はうむむと唸りながら、焼肉を食いちぎった。ジャイアントターキーと呼ばれるこの肉の持ち主は、リメットで多く輸入されてる食料の一つだ。高い繁殖力と雑食性が買われ、一般的な家畜として世に知られてる大型鳥類だ。
女性からしたら、少々筋肉質で固いと感じるかも知れんが、我にとってはちょうどいい噛みごたえである。
噛みちぎり、飲み込むたびにそれがエネルギーに変わっていくような気がする。労働の後の飯は格別なのである。
今日もサエラの訓練のためにダンジョンに潜った。なので今は三人で一つのテーブルを使い、ギルドの食堂で夕食をとっていたのだ。
サエラはコンソメスープに黒パン。切った生ハムとチーズやレタスなどの野菜。それらをナイフで切った黒パンに詰め、サンドイッチのようにして食べている。黒パンは固いが、口に入れた後スープを飲んで溶かしているようだ。
冒険者にしてはかなり大人しめでフレッシュなメニューといえよう。エルフらしいと言えばエルフらしいが。
シオンはもう豪快に肉の塊をもぐもぐ食べている。唐揚げを食べ、口に残った香辛料と脂を果実水で洗い流す。サッパリしたらそれの繰り返し。ビールを飲むオヤジか。
とまぁそんな感じに各々食事を楽しんでいたのだが、我は時折浮かぶ先日の出来事を思い出し、はぁとため息をついて食事を止める。
やれやれどうしたものか。
「どうしたんですか?そんなため息ばっかりついて」
「いやー、別に大した問題ではないのだが」
「食べないならわたしが食べてあげましょうか」
「お主食いたいだけじゃろ」
胃袋が次元にでも繋がってそうなシオンの軽口を受け流し、やはり情報共有はした方が良いのではないかとも思う。
実はと、いざ口にしようとしたそのタイミングで、背後から奴らが来た。
「いたぞ」
「ウーロ。話がある」
テーブルとより小さい体をしたちびっ子が話しかけてくる。コートを着た服装で顔は瓜二つ。感情のなさそうな真っ黒な目が我を見つめていた。
「‥‥‥誰?」
スープを飲み終わったサエラが我に向かって尋ねる。口を引きつらせ、なるべく小さな声で我は答えを告げた。
「血濡れの赤帽子である」
「Sランカーの?」
「そうである」
「ふーん」
サエラは無表情のまま頷くと、よっこいしょと椅子から腰を上げ、我を数秒見つめて片手を振った。
「トイレ行ってくる」
ふざけんな帰る気だろ。
「待て、我を置いていくな。見捨てないでくれ」
「そんなことしない。大丈夫。夕方にはまた会えるから」
「やっぱ帰るつもりじゃん!夕方ってそれ家に着く頃の時間帯であろうが!!」
というか私物の荷物を背負ってる。間違いなく宿に一人だけ帰るつもりだ。おそらくガルムが警告していたのを覚えていて、面倒ごとを避けようという魂胆だろう。
そうはさせぬ。旅は道連れ世は情け。これからも一緒に仲良くやろうではないかははははは!
「姉さんの方は止めなくていいの?ほら、交渉するなら姉さんの方が適任」
「何を言っておる!シオンが我を見捨てるわけがなかろう!お主とは違うのだお主とは!なぁシオン!」
「んへ?」
シオンは口を木の実いっぱいにしたリスのように膨らませて、荷物を背負って今にも立とうとしていた。
我とシオンが見つめ合い、数秒の沈黙が始まる。シオンの口からはみ出た骨が上下に動いて、まるで飴玉をしゃぶるかのよう。
そしてゴックンと口の中身を飲み込み、骨をペッと吐き出し皿の上に落とすと背を向けて歩き始めた。
「と、トイレ行ってきまぁ~す」
させるかぁぁぁぁぁ!!我はサエラから離れ、思いっきりシオンの背中にタックルして押し倒した。
「むぎゃぁ!?何すんですか!」
「逃すかボケェェェ!何我を置いてこうとしてるのだ!」
「ここはあなたに任せて、わたしたちは先に行きます!」
「何しんがりさせてんのだ!させんぞ!やらせぬわ!死ぬときはみんな一緒じゃぁぁぁあ!」
「あ、サエラが逃げてる」
「小娘待てええええええええ!!」
「トイレ。トイレだから」
「嘘申せ出口に向かってるではないか!」
我が仲間を逃さぬように暴れまわっていると、レッド・キャップの二人が気を使うように首を傾げてこう言った。
「竜よ」
「忙しいなら日を改めよう」
あ、すいません。この馬鹿ども捕まえるんでちょっと待っててください。
当然、体を動かす労働を終えた者たちで溢れかえっているので、ギルドには広い食事スペースが設けられている。
受付嬢とは違う女性職員が複数歩き回り、注文を受けたり調理された食べ物を忙しく運んでいたりする。
香ばしい肉の塊や、穀物を香辛料で炒めた食欲を刺激する匂いばかりだ。中でもジャガイモのデンプン粉を肉にまぶしてあげた、唐揚げという食べ物が人気であるようだ。
カリカリした食感に肉と脂の味がたまらん品である。我も好きだが、今日は照り焼きにした鳥の太ももの気分なのである。
我はうむむと唸りながら、焼肉を食いちぎった。ジャイアントターキーと呼ばれるこの肉の持ち主は、リメットで多く輸入されてる食料の一つだ。高い繁殖力と雑食性が買われ、一般的な家畜として世に知られてる大型鳥類だ。
女性からしたら、少々筋肉質で固いと感じるかも知れんが、我にとってはちょうどいい噛みごたえである。
噛みちぎり、飲み込むたびにそれがエネルギーに変わっていくような気がする。労働の後の飯は格別なのである。
今日もサエラの訓練のためにダンジョンに潜った。なので今は三人で一つのテーブルを使い、ギルドの食堂で夕食をとっていたのだ。
サエラはコンソメスープに黒パン。切った生ハムとチーズやレタスなどの野菜。それらをナイフで切った黒パンに詰め、サンドイッチのようにして食べている。黒パンは固いが、口に入れた後スープを飲んで溶かしているようだ。
冒険者にしてはかなり大人しめでフレッシュなメニューといえよう。エルフらしいと言えばエルフらしいが。
シオンはもう豪快に肉の塊をもぐもぐ食べている。唐揚げを食べ、口に残った香辛料と脂を果実水で洗い流す。サッパリしたらそれの繰り返し。ビールを飲むオヤジか。
とまぁそんな感じに各々食事を楽しんでいたのだが、我は時折浮かぶ先日の出来事を思い出し、はぁとため息をついて食事を止める。
やれやれどうしたものか。
「どうしたんですか?そんなため息ばっかりついて」
「いやー、別に大した問題ではないのだが」
「食べないならわたしが食べてあげましょうか」
「お主食いたいだけじゃろ」
胃袋が次元にでも繋がってそうなシオンの軽口を受け流し、やはり情報共有はした方が良いのではないかとも思う。
実はと、いざ口にしようとしたそのタイミングで、背後から奴らが来た。
「いたぞ」
「ウーロ。話がある」
テーブルとより小さい体をしたちびっ子が話しかけてくる。コートを着た服装で顔は瓜二つ。感情のなさそうな真っ黒な目が我を見つめていた。
「‥‥‥誰?」
スープを飲み終わったサエラが我に向かって尋ねる。口を引きつらせ、なるべく小さな声で我は答えを告げた。
「血濡れの赤帽子である」
「Sランカーの?」
「そうである」
「ふーん」
サエラは無表情のまま頷くと、よっこいしょと椅子から腰を上げ、我を数秒見つめて片手を振った。
「トイレ行ってくる」
ふざけんな帰る気だろ。
「待て、我を置いていくな。見捨てないでくれ」
「そんなことしない。大丈夫。夕方にはまた会えるから」
「やっぱ帰るつもりじゃん!夕方ってそれ家に着く頃の時間帯であろうが!!」
というか私物の荷物を背負ってる。間違いなく宿に一人だけ帰るつもりだ。おそらくガルムが警告していたのを覚えていて、面倒ごとを避けようという魂胆だろう。
そうはさせぬ。旅は道連れ世は情け。これからも一緒に仲良くやろうではないかははははは!
「姉さんの方は止めなくていいの?ほら、交渉するなら姉さんの方が適任」
「何を言っておる!シオンが我を見捨てるわけがなかろう!お主とは違うのだお主とは!なぁシオン!」
「んへ?」
シオンは口を木の実いっぱいにしたリスのように膨らませて、荷物を背負って今にも立とうとしていた。
我とシオンが見つめ合い、数秒の沈黙が始まる。シオンの口からはみ出た骨が上下に動いて、まるで飴玉をしゃぶるかのよう。
そしてゴックンと口の中身を飲み込み、骨をペッと吐き出し皿の上に落とすと背を向けて歩き始めた。
「と、トイレ行ってきまぁ~す」
させるかぁぁぁぁぁ!!我はサエラから離れ、思いっきりシオンの背中にタックルして押し倒した。
「むぎゃぁ!?何すんですか!」
「逃すかボケェェェ!何我を置いてこうとしてるのだ!」
「ここはあなたに任せて、わたしたちは先に行きます!」
「何しんがりさせてんのだ!させんぞ!やらせぬわ!死ぬときはみんな一緒じゃぁぁぁあ!」
「あ、サエラが逃げてる」
「小娘待てええええええええ!!」
「トイレ。トイレだから」
「嘘申せ出口に向かってるではないか!」
我が仲間を逃さぬように暴れまわっていると、レッド・キャップの二人が気を使うように首を傾げてこう言った。
「竜よ」
「忙しいなら日を改めよう」
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