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第2章〜不死編〜
第99話「正直者」
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ウーロとレッド・キャップが遭遇した同時刻。近場の道をガルムが魔道具屋に行くために歩いていた。
用件は、自身の武器のメンテナンスである。実は明日の予定だったが、急遽変更したのだ。その理由は‥‥‥。
「ったくメアリーの奴。すっかりシオンとサエラとと仲良くなりやがって。まぁダチが増えんのは良いことか」
なのだ。今日はメアリーから魔法薬を作ってもらおうとしていたのだが、残念ながらメアリーはシオンたちと遊ぶ約束をしていた。
故郷と種族の問題で、メアリーは友達という友達ができることがなかった。ガルムとは距離感が異なるし、ゴードンは実質保護者のようなものだ。
買い物したり、食事に行ったり、年若いメアリーにとってそれは憧れであった。
(幸い、アイツらはお人好しがカンストしてるような奴らだし、心配いらねーか)
メアリーに対して基本的にドライな態度をとるガルムであるが、気持ちだけなら彼女の身を一番に案じている。メアリーの不器用な求愛やアピールを邪険に扱ったり否定したりしないのは、心の底で同意してるからだ。
しかしガルムはそれを表には出さない。
当然である。20歳の男と15歳の少女がイチャイチャしていてはどう見ても事案である。本人たちが同意していても、衛兵が呼ばれて即拘束、職務質問待ったなしなのだ。
それに万が一、メアリーが大人になってから好きな人が別にできるかもしれない。
思春期は本当の恋と信頼の気持ちを間違うこともある。そうなった場合、ガルムは大変不本意だが身を引くつもりでいた。
彼女が本当に人生で正しい選択をできるように。ガルムはそれを一番に思っている。だから他人と多く知り合って、いろんなことを経験してほしいと考えているのだ。
彼女はまだ子供なのである。
なのでシオンとサエラという友人ができたことは、間違いなくメアリーにとってプラスだろう。
だがもし、本当にメアリーが自分の元から離れたら‥‥‥そう考えるだけでも胸焼けを起こしそうだった。
少なくとも、新たな友人たちにしか見せない、ガルムの知らない表情を彼女は浮かべていることだろう。
「きゅーん」
「なんだぁ?どうしたよ」
ガルムの心情を察してか、隣を歩くフィンが慰めるように頭を擦りつけてきた。
思えばこの相棒とも長い付き合いである。
「ハハッ、あーぁ、いい大人が情けねぇ」
「わぅん」
ガルムはフィンの新しい反応をすぐに察した。大きな頭を持ち上げ、どこか別の方向へ向いたのだ。
何があったのか。僅かな音と匂いを嗅ぎつけ、フィンは興味をそそられるように首を傾げた。
「なんだ?知り合いか?」
聞くと、曖昧そうに頷く。知り合いと、あまり知らない者が近くにいるらしい。
マーシー魔道具屋の周辺は全く人がいない。いるとしたらマーシーの魔道具を購入できるほどの高ランク冒険者か、マンドのような商人くらいだろう。
もしかしたら顔見知りが何かに絡まれてるのかもしれない。心配と好奇心に駆られ、ガルムはフィンの案内を元にその場所へ向かう。
そして着いた時に目を見開いた。
「竜だな?竜だな?」
「我らの目は誤魔化せん」
「なになに!?え、えぇ?」
(何してんだよアイツウウウウウウ!!)
慌てて壁の裏側へ張り付き、声の主たちに見えないように隠れた。そして顔を半分だけだし、その光景を目に焼き付けた。
二人と一匹。ウーロと血濡れの赤帽子が視線の先にいたのだ。
あれほど近づくなと警告したのに、あのバカは何をしてやがる。いや、不意打ちに見つかってしまったのかもしれない。
レッド・キャップはあれでもSランカー冒険者。妙な技でウーロの場所を割り出したのか。しかもよりによってシオンたちがいない時に!ガルムの脳みそは高速回転していた。
まさかウーロが呑気に挨拶して見つかったとは思いもしないだろう。ウーロの間抜けさをガルムは全てを知ってるわけではないのだ。
(どうする?出るか?下手に刺激するわけにも‥‥‥ここは一旦様子を見るか)
SランカーとSランカーが戦闘でもしたら、周囲のほとんどが消し飛ぶだろう。ガルムはなんとかウーロが自力でこの場面を脱出してくれることを祈った。
「お主らは何者であるか!なんなのだ我を囲んで!」
「我はベタ」
「我はガマ」
「人は我らを血濡れの赤帽子と呼ぶ」
げえええええ、こ奴らか!ガルムが近寄るなと言ってた者たちは!と、ウーロはようやく今になって気が付いた。
竜を探していた冒険者。ここをなんとか切り抜けなければ!ウーロは冷や汗を滝のように流す。
「わ、我は竜ではない!トカゲである!」
(おお、よく言った!相当な屈辱だろうが耐えてくれウーロ!)
「嘘だな」
「我らにはわかる。その鱗はただのトカゲの物ではない。強力な力を持つ竜の物だ」
「大いなる力は隠せないぞ。竜よ」
「‥‥‥しょ、そうかのぅ、ふ、ふふふ。わかってしまうか。わかってしまうか。仕方ないのぅ。いかにも我はドラゴンである」
(あんのバカたれええええええええええ!!!)
マーシーの時もそうだったが、普段トカゲ扱いされてるからか、ドラゴンと見破られるとすぐに肯定してしまうようだ。実際嬉しそうに胸を張っていた。
だからって今は否定しろよ!アホ!ガルムは頭を抱えてへたり込んだ。
用件は、自身の武器のメンテナンスである。実は明日の予定だったが、急遽変更したのだ。その理由は‥‥‥。
「ったくメアリーの奴。すっかりシオンとサエラとと仲良くなりやがって。まぁダチが増えんのは良いことか」
なのだ。今日はメアリーから魔法薬を作ってもらおうとしていたのだが、残念ながらメアリーはシオンたちと遊ぶ約束をしていた。
故郷と種族の問題で、メアリーは友達という友達ができることがなかった。ガルムとは距離感が異なるし、ゴードンは実質保護者のようなものだ。
買い物したり、食事に行ったり、年若いメアリーにとってそれは憧れであった。
(幸い、アイツらはお人好しがカンストしてるような奴らだし、心配いらねーか)
メアリーに対して基本的にドライな態度をとるガルムであるが、気持ちだけなら彼女の身を一番に案じている。メアリーの不器用な求愛やアピールを邪険に扱ったり否定したりしないのは、心の底で同意してるからだ。
しかしガルムはそれを表には出さない。
当然である。20歳の男と15歳の少女がイチャイチャしていてはどう見ても事案である。本人たちが同意していても、衛兵が呼ばれて即拘束、職務質問待ったなしなのだ。
それに万が一、メアリーが大人になってから好きな人が別にできるかもしれない。
思春期は本当の恋と信頼の気持ちを間違うこともある。そうなった場合、ガルムは大変不本意だが身を引くつもりでいた。
彼女が本当に人生で正しい選択をできるように。ガルムはそれを一番に思っている。だから他人と多く知り合って、いろんなことを経験してほしいと考えているのだ。
彼女はまだ子供なのである。
なのでシオンとサエラという友人ができたことは、間違いなくメアリーにとってプラスだろう。
だがもし、本当にメアリーが自分の元から離れたら‥‥‥そう考えるだけでも胸焼けを起こしそうだった。
少なくとも、新たな友人たちにしか見せない、ガルムの知らない表情を彼女は浮かべていることだろう。
「きゅーん」
「なんだぁ?どうしたよ」
ガルムの心情を察してか、隣を歩くフィンが慰めるように頭を擦りつけてきた。
思えばこの相棒とも長い付き合いである。
「ハハッ、あーぁ、いい大人が情けねぇ」
「わぅん」
ガルムはフィンの新しい反応をすぐに察した。大きな頭を持ち上げ、どこか別の方向へ向いたのだ。
何があったのか。僅かな音と匂いを嗅ぎつけ、フィンは興味をそそられるように首を傾げた。
「なんだ?知り合いか?」
聞くと、曖昧そうに頷く。知り合いと、あまり知らない者が近くにいるらしい。
マーシー魔道具屋の周辺は全く人がいない。いるとしたらマーシーの魔道具を購入できるほどの高ランク冒険者か、マンドのような商人くらいだろう。
もしかしたら顔見知りが何かに絡まれてるのかもしれない。心配と好奇心に駆られ、ガルムはフィンの案内を元にその場所へ向かう。
そして着いた時に目を見開いた。
「竜だな?竜だな?」
「我らの目は誤魔化せん」
「なになに!?え、えぇ?」
(何してんだよアイツウウウウウウ!!)
慌てて壁の裏側へ張り付き、声の主たちに見えないように隠れた。そして顔を半分だけだし、その光景を目に焼き付けた。
二人と一匹。ウーロと血濡れの赤帽子が視線の先にいたのだ。
あれほど近づくなと警告したのに、あのバカは何をしてやがる。いや、不意打ちに見つかってしまったのかもしれない。
レッド・キャップはあれでもSランカー冒険者。妙な技でウーロの場所を割り出したのか。しかもよりによってシオンたちがいない時に!ガルムの脳みそは高速回転していた。
まさかウーロが呑気に挨拶して見つかったとは思いもしないだろう。ウーロの間抜けさをガルムは全てを知ってるわけではないのだ。
(どうする?出るか?下手に刺激するわけにも‥‥‥ここは一旦様子を見るか)
SランカーとSランカーが戦闘でもしたら、周囲のほとんどが消し飛ぶだろう。ガルムはなんとかウーロが自力でこの場面を脱出してくれることを祈った。
「お主らは何者であるか!なんなのだ我を囲んで!」
「我はベタ」
「我はガマ」
「人は我らを血濡れの赤帽子と呼ぶ」
げえええええ、こ奴らか!ガルムが近寄るなと言ってた者たちは!と、ウーロはようやく今になって気が付いた。
竜を探していた冒険者。ここをなんとか切り抜けなければ!ウーロは冷や汗を滝のように流す。
「わ、我は竜ではない!トカゲである!」
(おお、よく言った!相当な屈辱だろうが耐えてくれウーロ!)
「嘘だな」
「我らにはわかる。その鱗はただのトカゲの物ではない。強力な力を持つ竜の物だ」
「大いなる力は隠せないぞ。竜よ」
「‥‥‥しょ、そうかのぅ、ふ、ふふふ。わかってしまうか。わかってしまうか。仕方ないのぅ。いかにも我はドラゴンである」
(あんのバカたれええええええええええ!!!)
マーシーの時もそうだったが、普段トカゲ扱いされてるからか、ドラゴンと見破られるとすぐに肯定してしまうようだ。実際嬉しそうに胸を張っていた。
だからって今は否定しろよ!アホ!ガルムは頭を抱えてへたり込んだ。
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