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第2章〜不死編〜

第97話「そういえばコイツ竜王だった」

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「手助けって、一体何するんですか」

「ずびび、なぁに、簡単なことじゃ。我の知る《竜言語魔法》の一部を教えてやろうと思っての」

「「ぶっ!!」」

 グロンとシオンが急に吹き出し、ゲホゲホと咳き込み出した。我もそろそろ目から流れる涙が止まってきたので、二人が喉の調子を整えてる間に拭っておこう。ぐすん。

「《竜言語魔法》って、人間じゃ使えないでしょうに」

 シオンよ。それは違うぞ。

「それはガオーとか、ギャオーとかの鳴き声だからじゃろう?人間用に翻訳すれば、人でも使えるぞ」

「でも、国の研究対象にもされてる魔法ですが、一向に解読されてません」

 グロンがそう指摘してくるが、ふむふむ世間的にはそうなっておるのか。では我が答えを教えてやろう。実にシンプルな問題である。

「それは消費魔力がエグいぐらい多いからだ。人間ではエネルギーが足らなくて使えんのだ」

 ちなみにさっきのブレスはアレでも、人間3人分に相当するコストなのだ。燃費が悪いといえばそこまでだが、石が溶解してるのだから威力は文句なしなのだ。
 メアリーなら使えそうだが、口からあんなの吐いたら火傷どころでは済まないだろうな。

「‥‥‥ボク、今人類にとってとんでもないこと聞いちゃった気がします‥‥‥!」

「わたしもですよおおおお!ああ、《竜言語魔法》はドラゴンにしか使えないって感じの特別な魔法のイメージがががが」

 二人とも頭抱えてなに慌ててるのだ。別に普通のことであるぞ。するとグロンが頭の中で何か閃いたのか、こんな質問を飛ばしてきた。

「じゃ、じゃあ人間用にアレンジすれば、人間でも《竜言語魔法》が使えるってことですか!?」

「せやで」

「うわああああああああ!!歴代の偉大な先人方、ごめんなさいいいいいいい!!ボクは世界の秘密をこんな簡単に知っちゃいましたぁぁぁぁぁぁあ!!」

 グロンが軽くキャラ崩壊してて、きゅうん。我、怖い。

「そんなに驚くことがあるかのぅ‥‥‥かつて人間に教えたことがあったのだが、伝わっておらんのか」

「え、そんなに親しい人間がいたんです?」

 今までの我の境遇を知っているシオンが意外そうな顔で言う。しかし、そんな顔をしたのは我自身もだった。
 無意識のうちに言っていた。そんな人間‥‥‥居たっけ?うごご、思い出せぬ。数千年も記憶があるし、混濁してるのも無理はないだろう。

「居たよーな、居なかったよーな」

「完全に耄碌じじいですね」

 黙りやがるのだ。

「とにかく、グロンよ!お主が気に入った!ので、便利な《竜言語魔法》を人間用にアレンジして教えてやろうではないか!」

「で、でもボクは戦闘タイプじゃ‥‥‥」

「何も《竜言語魔法》は戦闘だけに使うものではない。それは魔法も魔道具も同じだろう?例えば氷のブレスを改良してしたらどうだ?夏場に涼しい風の出る魔道具があったら便利ではないか?」

「「‥‥‥」」

 我がそう言ってみると、グロンは目を見開き「目から鱗」とでも言うような顔をし、シオンは「どうしたコイツ」みたいな顔をした。
 なんなのだ。お主ら。

「‥‥‥ウーロさん、まさかニセモノ?」

「たわけ!そんなわけなかろうが!これでも数千‥‥‥げふんげふん、ど、ドラゴンであるぞ!人間などよりはるかに賢いのである!」

 危ない危ない。反論の勢いに任せて数千年分の年の功とか言いそうになった。この場にはグロンがいたのであったな。あっぶね。

「とにかく!魔法も使いようである!」

「たしかに、そんな魔道具聞いたことないですね。‥‥‥でも、もし研究者とかに魔法陣を見られたら」

 情報の元はどこからか聞かれるかと?それなら平気だ。

「それこそ問題なかろうて。《竜言語魔法》は、ほとんど解明されてないのだろう?見られたところで《竜言語魔法》と気付かれることもないだろう」

「うそだ!ウーロさんがこんなに賢いはずありません!」

「きさま、喧嘩なら買うぞ!!」

 いいかげんにしないとその手に持ってる5本の串焼き奪うからな!育ち盛りをなめるなよ!
 我とシオンがギャーギャーと騒いでいる間、グロンは夢でも見てるかのような中身のない表情を浮かべていた。
 人間にとって《竜言語魔法 》はそれほど高度な魔法なのか。まぁ自然界の最上位種の使う魔法だからな、当然か。我なんか全盛期ポイポイ使ってたけど。

「でも‥‥‥やっぱり」

 ふむ、こやつは真面目な男だからな。
 安易にチート級の技術は受け取れないのか。あるいは自分の力で作ったものではないから納得できないのか。

「そんなに悩むか。では改良なしにオリジナルのまま魔法を教えてやろう。陣だけ伝えて、あとは己の力でなんとかせい」

「‥‥‥それでもズルくないですか?人からもらったモノを自分の成果にするのは」

「あのな、遺跡から古代魔法を見つけて解読することもあるだろ。それも努力と実力の上でできることであろう。結局のところ、魔法を別の魔法へ加工するのだからズルもなにもないでろうが。お主が《竜言語魔法》を改良できたら、それはお主の実力だ。」

「‥‥‥」

「まぁ嫌ならいいのだが。そもそも改良できるかもわからんしの。成功すれば、あの連中もお主のことを認めるかと思っただけである」

 魔族を嫌っていても、今はいくさのない平和な時代だ。嫌っていても、あくまであの男たちは親から教わっただけの先入観による嫌悪感であろう。
 グロンが実力を見せれば、同じモノを学んでる徒のわけだし分かり合えるか、認めるとは思うのだ。
 結局のところ、人間は自分で経験したものを身にしていく。彼らがグロンと和解するキッカケさえあれば‥‥‥もしかしたらイジメもやめてくれるのではないかと。

「‥‥‥すこし、考えさせてください」

「うむ。お主の判断に任せよう」

 グロンはそう言った。シオンは怪訝そうな顔で我を見ていた。どんだけ信用ないの我。
 とまぁその後、グロンと共にマーシーの店に帰ることになった。また帰り際に捕まっても面倒だしの。我が近場にいれば、ビビってあの男たちも近寄っては来ないだろう。

 なので何事もなくマーシーの店に到着した。‥‥‥したのだが。

 ドオオォン!またマーシーの店が爆発していた。

「‥‥‥お主の姉の店は大丈夫なのか?」

 グロンに尋ねてみると、彼は諦めの入った冷たい顔で答えてくれた。

「大丈夫です。爆破耐性は帝都の大使館並みにあるらしいので」

 国の中枢レベルの建物と同等の耐久性ってやばくない?と思ったがガルムの知り合いであるのだし、やっぱマーシーはすごい魔道具職人なのだろう。
 そうなのだろう。だから毎日家の内部で爆破が起きてても不思議ではないのだ。うん。

「‥‥‥人通りが少ない場所に店がある理由ってもしかして」

 やめろシオン。魔族だからっていう設定を信じるのだ。断じて爆破で近所迷惑だからなんて理由じゃないだろう。そうだろう。
 ガルムだって言ってたじゃん。魔族だから住みにくいって。それが90パーセントで近所迷惑が10パーセントくらいだ。きっとそうだ。

 しかし、中に入ってみればさらにカオスな会話があったのである。

「だぁぁぁ!!ぜんっぜんダメ!ドラゴンのブレスが全く再現できないわ!」

「ウーロに聞いたら?」

「ダメよ!ここまで来たんだもの!わたし一人で解決しなきゃダメなの!なんか負けた気がするわ!」



「‥‥‥どうしよう?」

「「黙っときましょう」」

 その方がいいよね?






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