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第2章〜不死編〜
第91話「良い人」
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小柄な体格を生かして逃げ回った我が捕獲された頃には、すでに夕方の時間となっていた。
ガルムが腕にはめた腕輪みたいなものを見てそう知らせてくれたのだ。
腕時計という小型化した時計らしい。すごい代物だ。どんな魔法で動いてるのかと聞けば、魔力は使わずに動いてるのだそうだ。
いわゆる魔法ではなく、化学というものらしい。我にはちんぷんかんぷんであるが。
時間も時間なので、我に魔法薬を飲ませることは取りやめとなり、帰還することにした。助かった。
他の冒険者たちもこの時間帯で帰還を目指すようで、ゴンドラ乗り場にはたくさんの冒険者がいる。我らはまた行きの時受けた視線を再び浴びながら、地上に帰ったのである。
地上に戻ると、驚く光景が目の前に現れた。
「あらガルムちゃん、お帰りなさいって‥‥‥みんなもいたのね」
「クゥーン」
ゴンドラから降りると、ガルムの従魔であるフィンと、パーティメンバーのゴードンが一緒にいたのだ。フィンはガルムを見ると甘えた鳴き声を出しながら頭を当てた。
「おい、どうしたんだよ」
「フィンちゃんが朝からキャンキャン吠えてたのよ。フィンちゃんを置いてったってことは、今日ダンジョンに行ってたのよね?」
「あー、まあな」
ガルムは居づらそうにしつつも、フィンの頭をゴシゴシと撫でている。彼がフィンをダンジョンへ連れて行かないのは、理由を聞かずとも察することができた。
フィンは大きいのだ。ダンジョンのそこまではゴンドラで移動できても、そこから洞窟に入るには身体が大きくて収まらない。
入れたとしても、かなり窮屈だろう。いくら実力があっても、身動きの取れない空間でゴーレムに遭遇したら大変なことになる。
故にガルムはフィンをグローリーホールに連れて行かなかったのだ。ただフィンは寂しかったようである。
「ガルムさん。ペットを放置するのは良くないですよ」
「いや、放置はしてないけど‥‥‥ほら、言葉わかんねーし」
「じゃぁウーロさんで動物の言葉を察するの練習しましょう。はい」
そう言ってシオンが我をガルムに差し出す。我はドヤ顔で踏ん反り返った。
「ふん、我をペットにしたければ玉座を用意せい」
「ゴールドの値が付く椅子を用意してやろうか?うん?」
「あ、いいです。大丈夫です」
そんな高い椅子に座ったらたぶん我ビビる。
「まぁ、それは冗談として‥‥‥そうだな、散歩でも行くか」
「わん!わん!」
ガルムの提案にフィンは尾を振り、嬉しそうな感情をありありと浮かせながら飛び跳ねた。
近ごろガルムは我らのサポートを陰ながらしてたみたいであるし、メアリーの調子のことも考えるとなかなか元の仲間と会ってなかったのかもしれんな。
そろそろ我らもダンジョンや生活に慣れてきたし、ここらで自立‥‥‥というのもおかしいが、我らだけでやってみることにしよう。
「ガルムよ。最近は我らにつきっきりだろう?そろそろ我らも落ち着いたし、パーティに戻ったらどうだ?」
「あー、そうだな、あー」
しかし彼は何やら悩ましそうに表情をゆがめ、腕を組んでうんうんと唸る。
なにか問題でもあるのだろうか。はっきりせい。
「いいかウーロ、よく聞け」
「なんじゃ?愛の告白か?」
「!?」
メアリーが派手に反応する。
「ウーロさんのギャグ結構つまんないですよ」
「マジで?」
「‥‥‥よ く 聞 け」
「「はい」」
めんごめんご。
「これから、たぶんお前ら‥‥‥正確にはウーロと接触しようとする幼女コンビが現れると思う」
「なんだその破壊力しかない単語は」
「とにかくだ!いいか?絶対にお前から話しかけようとするなよ?相手から来てもなるべく会わないように気をつけるんだ。わかったな?」
「それマジであるか?ギャグであるか?なんなのだもっと詳しく教えてくれても良いではないか。皇国の刺客か?」
「‥‥‥俺もアイツらの目的がわかんねーんだよ。奴らはSランカー冒険者だ。もしお前に悪意があって接触を求めようとしている場合、どうなるかわかるだろ」
なるほど。つまり不確定要素で、最悪の場合やばいことになるということか。たしかにその子らが我に敵意を持ってる場合、面倒ごとは避けられないだろうし。
「‥‥‥ウーロが竜王だってバレてる?」
サエラの問いにガルムは「たぶん違う」と首を横に振った。その幼女コンビとやらが我に接触を図ろうとするのに、ある程度の理由はわかっているようだ。
「そいつらは血濡れの赤帽子っつーんだが、元々ドラゴンを探して世界中を渡り歩いてる奴らで有名なんだよ」
なるほど。
「とりあえず了解した。なるべくそれっぽい格好をした者たちとは関わらないようにするとしよう」
「そうしてくれ。じゃ、気をつけて帰れよ」
ガルムは別れ際にそう言って、ゴードンとメアリーとフィンを引き連れて去っていった。たぶん最近ガルムが我らの近くにいたのは、そのレッド・キャップとやらのせいもあったのだろうな。
助けられてばかりだし、今度鱗でも譲ろうか。
「‥‥‥やっぱりガルムさんって良い人ですよね」
「良い人だと思う」
「良い人じゃの」
「聞こえてんぞバカども!」
その地獄耳すごいな。というかそこまで良い人認定されるのが嫌なのかお主。
ガルムが腕にはめた腕輪みたいなものを見てそう知らせてくれたのだ。
腕時計という小型化した時計らしい。すごい代物だ。どんな魔法で動いてるのかと聞けば、魔力は使わずに動いてるのだそうだ。
いわゆる魔法ではなく、化学というものらしい。我にはちんぷんかんぷんであるが。
時間も時間なので、我に魔法薬を飲ませることは取りやめとなり、帰還することにした。助かった。
他の冒険者たちもこの時間帯で帰還を目指すようで、ゴンドラ乗り場にはたくさんの冒険者がいる。我らはまた行きの時受けた視線を再び浴びながら、地上に帰ったのである。
地上に戻ると、驚く光景が目の前に現れた。
「あらガルムちゃん、お帰りなさいって‥‥‥みんなもいたのね」
「クゥーン」
ゴンドラから降りると、ガルムの従魔であるフィンと、パーティメンバーのゴードンが一緒にいたのだ。フィンはガルムを見ると甘えた鳴き声を出しながら頭を当てた。
「おい、どうしたんだよ」
「フィンちゃんが朝からキャンキャン吠えてたのよ。フィンちゃんを置いてったってことは、今日ダンジョンに行ってたのよね?」
「あー、まあな」
ガルムは居づらそうにしつつも、フィンの頭をゴシゴシと撫でている。彼がフィンをダンジョンへ連れて行かないのは、理由を聞かずとも察することができた。
フィンは大きいのだ。ダンジョンのそこまではゴンドラで移動できても、そこから洞窟に入るには身体が大きくて収まらない。
入れたとしても、かなり窮屈だろう。いくら実力があっても、身動きの取れない空間でゴーレムに遭遇したら大変なことになる。
故にガルムはフィンをグローリーホールに連れて行かなかったのだ。ただフィンは寂しかったようである。
「ガルムさん。ペットを放置するのは良くないですよ」
「いや、放置はしてないけど‥‥‥ほら、言葉わかんねーし」
「じゃぁウーロさんで動物の言葉を察するの練習しましょう。はい」
そう言ってシオンが我をガルムに差し出す。我はドヤ顔で踏ん反り返った。
「ふん、我をペットにしたければ玉座を用意せい」
「ゴールドの値が付く椅子を用意してやろうか?うん?」
「あ、いいです。大丈夫です」
そんな高い椅子に座ったらたぶん我ビビる。
「まぁ、それは冗談として‥‥‥そうだな、散歩でも行くか」
「わん!わん!」
ガルムの提案にフィンは尾を振り、嬉しそうな感情をありありと浮かせながら飛び跳ねた。
近ごろガルムは我らのサポートを陰ながらしてたみたいであるし、メアリーの調子のことも考えるとなかなか元の仲間と会ってなかったのかもしれんな。
そろそろ我らもダンジョンや生活に慣れてきたし、ここらで自立‥‥‥というのもおかしいが、我らだけでやってみることにしよう。
「ガルムよ。最近は我らにつきっきりだろう?そろそろ我らも落ち着いたし、パーティに戻ったらどうだ?」
「あー、そうだな、あー」
しかし彼は何やら悩ましそうに表情をゆがめ、腕を組んでうんうんと唸る。
なにか問題でもあるのだろうか。はっきりせい。
「いいかウーロ、よく聞け」
「なんじゃ?愛の告白か?」
「!?」
メアリーが派手に反応する。
「ウーロさんのギャグ結構つまんないですよ」
「マジで?」
「‥‥‥よ く 聞 け」
「「はい」」
めんごめんご。
「これから、たぶんお前ら‥‥‥正確にはウーロと接触しようとする幼女コンビが現れると思う」
「なんだその破壊力しかない単語は」
「とにかくだ!いいか?絶対にお前から話しかけようとするなよ?相手から来てもなるべく会わないように気をつけるんだ。わかったな?」
「それマジであるか?ギャグであるか?なんなのだもっと詳しく教えてくれても良いではないか。皇国の刺客か?」
「‥‥‥俺もアイツらの目的がわかんねーんだよ。奴らはSランカー冒険者だ。もしお前に悪意があって接触を求めようとしている場合、どうなるかわかるだろ」
なるほど。つまり不確定要素で、最悪の場合やばいことになるということか。たしかにその子らが我に敵意を持ってる場合、面倒ごとは避けられないだろうし。
「‥‥‥ウーロが竜王だってバレてる?」
サエラの問いにガルムは「たぶん違う」と首を横に振った。その幼女コンビとやらが我に接触を図ろうとするのに、ある程度の理由はわかっているようだ。
「そいつらは血濡れの赤帽子っつーんだが、元々ドラゴンを探して世界中を渡り歩いてる奴らで有名なんだよ」
なるほど。
「とりあえず了解した。なるべくそれっぽい格好をした者たちとは関わらないようにするとしよう」
「そうしてくれ。じゃ、気をつけて帰れよ」
ガルムは別れ際にそう言って、ゴードンとメアリーとフィンを引き連れて去っていった。たぶん最近ガルムが我らの近くにいたのは、そのレッド・キャップとやらのせいもあったのだろうな。
助けられてばかりだし、今度鱗でも譲ろうか。
「‥‥‥やっぱりガルムさんって良い人ですよね」
「良い人だと思う」
「良い人じゃの」
「聞こえてんぞバカども!」
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