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第2章〜不死編〜
第80話「グロン」
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「完全に埋葬する寸前であるな」
椅子を横に並べ、ベットのようにおいてからマーシーを寝かせた。天に祈らせるように両手を組ませると、もはや葬式以外の何物でもない。棺桶さえあれば完璧である。
「失神するくらいビックリするのは予想外」
「あの程度で気絶するとは思わなんだ」
サエラの言葉に同意しながら我もウンウンと唸る。しかし、魔道具の職人ならこれくらいの量で驚くものだろうか?
過去に一度、ドワーフの鍛冶場を見たことがあるが、その時は山のように鉄のインゴットが積まれていたものだ。
‥‥‥いや、そもそも魔道具は大量生産するものでもないし、入荷する魔鉱石の量は少ないのが普通なのか。
それとも最初、手のひらくらいとか言ってたから、ブリッツ商会のせいで入手できる魔鉱石が少ないからか。
どちらにせよ、マーシーにとって我らが持ち込んだ魔鉱石の量は規格外な量であったらしい。
「どうしましょう?」
「起きるのを待つ他あるまい」
シオンの問いかけに我はそう返すしかない。魔鉱石を買い取ってもらわなければ、我らの収入が大幅に減ってしまう。目が覚めるのを待つしかない。
「メアリーさんはいない?」
「いないっぽいですねー」
住み込みをしてると言うメアリーもいないのだから、マジで待つしかない。そう思っていた時だった。突然動くことのなかった店の扉が開き、背の低い人物が入ってきたのだ。
その男は猫背で顔を床に向け、見るからにどんよりとした空気を発していた。メガネをかけていて脇にはパンパンに中身が詰まったバックを抱えている。
そしてなにより特徴的だったのが、額から伸びる角だ。こやつ、鬼人族か。
「はぁ、今日もダメだったなぁ‥‥‥って、うわぁああああ!?」
我がなんとなく目の前まで近寄ると、まるで化け物にでもあったかのような断末魔をあげ、荷物をばら撒きながら尻を床につけてしまった。
我、そんなに怖いか?ちょっと自信なくしてきたんじゃけど。
「だ、だだだだだ誰ですか!?あ、もしかしてお客さん!?すすすいませんいらっしゃいませ!?」
テンパりすぎだろ。男はスッと立ち上がり、ぺこりとお辞儀をした。我は腕を組んでため息を漏らす。
「我らは客ではないぞ」
「え!?じゃ、じゃぁ一体、ま、まさか!ブリッツ商会の!?ぼ、ボクたち何もしてません本当です!」
「ブリッツ商会の者でもないのぅ」
「えええ!?じゃあ一体?あ、ああぁ姉さん!?なんで姉さんが寝てっ‥‥‥」
男は気絶してるマーシーを見ると途端に顔を青く染めた。
「もももしかして、泥棒!?あわわわ!な、何が目的なんだ!?姉さんに何をしたんだ!」
忙しないやつじゃなぁ。
「落ち着けい。そもそも泥棒ならこんな風にマーシーを看病したりせんし、魔道具とか盗んでとっとと出て行くわい」
「‥‥・それもそうですね」
言い聞かせるつもりで優しくそう諭すと、男は落ち着きを取り戻すように座り込んだ床から尻を離し、立ち上がった。
おそらくマーシーの家族だろう。姉と言ってたから弟か?それとも姉と慕うほどの弟子とか弟分か?なんにせよマーシーとは対極的な性格の男のようだ。
‥‥‥ふむ。
「しかし、我からしたらお主の方が怪しいのう。さてはお主が泥棒なのではないか?」
「えぇ!?ちがい、違いますよ!」
「そんなに取り乱すとは‥‥‥ますます怪しい」
「えええええええ!!」
男は演技というには感情のこもった悲鳴をあげて後ずさった。いちいち反応が大きい。これは面白い。
「シオン!サエラ!取りおさえるのだ!」
「わかった」
「泥棒ですか!悪いことする人は許しませんよ!」
「違いますって!ボクはその、ボクはぁああ!」
「バカめが!三人に勝てると思うてか!」
「‥‥‥何やってんのよアンタたち」
我らが茶番にも似たセリフで男を取り囲んでいると、騒ぎすぎたのかマーシーが起き上がっていた。
ひどく冷静なツッコミは我ら全員の耳に入り、振り返ると上半身を起き上がらせたまま頭痛を抑えるように額に手を当てている。たぶん気絶したせいではなく、我らのせいだな。
「おぉ、マーシーよ。起きたか。ほれ、泥棒だぞ」
「違うわよ。それ、わたしの愚弟」
「愚弟!?」
あ、やっぱりそうなんだ。しかしひどい言い草であるな。からかいすぎたからか、少し男に同情した我は思いついた最高に面白いギャグを口にして場を和ませようとした。
「さっきまでお主の方がグテェ~っとしておったがな!なんちゃって。がはは」
「「「‥‥‥」」」
「わはは」
やっべ、この空気。
「まぁ、弟さんとは思ってましたけど」
「そうだね」
シオンとサエラが納得するようにうんうんと頷き合っていると、マーシーの弟は信じられない者でも見るように目を見開いて口を半開きした。いやすまんな。マジで。
「ほら、自己紹介」
「えっと、ボクは弟のグロンです」
男の名はグロンというらしい。名前の割にひ弱そうなやつである。しかし名乗られたのなら、我らもしっかり挨拶しなければならな。
ゴッホン。
「我はドラゴンのウーロである」
「シオンです!」
「サエラ」
「三人合わせて」
「わたしたちはマーシーさんに魔鉱石を納品する依頼を受けてる冒険者なんです。だからこれからよろしくですグロンさん」
「よろしく」
「魔鉱石の‥‥‥?は、はいよろしく」
あるぇ?
椅子を横に並べ、ベットのようにおいてからマーシーを寝かせた。天に祈らせるように両手を組ませると、もはや葬式以外の何物でもない。棺桶さえあれば完璧である。
「失神するくらいビックリするのは予想外」
「あの程度で気絶するとは思わなんだ」
サエラの言葉に同意しながら我もウンウンと唸る。しかし、魔道具の職人ならこれくらいの量で驚くものだろうか?
過去に一度、ドワーフの鍛冶場を見たことがあるが、その時は山のように鉄のインゴットが積まれていたものだ。
‥‥‥いや、そもそも魔道具は大量生産するものでもないし、入荷する魔鉱石の量は少ないのが普通なのか。
それとも最初、手のひらくらいとか言ってたから、ブリッツ商会のせいで入手できる魔鉱石が少ないからか。
どちらにせよ、マーシーにとって我らが持ち込んだ魔鉱石の量は規格外な量であったらしい。
「どうしましょう?」
「起きるのを待つ他あるまい」
シオンの問いかけに我はそう返すしかない。魔鉱石を買い取ってもらわなければ、我らの収入が大幅に減ってしまう。目が覚めるのを待つしかない。
「メアリーさんはいない?」
「いないっぽいですねー」
住み込みをしてると言うメアリーもいないのだから、マジで待つしかない。そう思っていた時だった。突然動くことのなかった店の扉が開き、背の低い人物が入ってきたのだ。
その男は猫背で顔を床に向け、見るからにどんよりとした空気を発していた。メガネをかけていて脇にはパンパンに中身が詰まったバックを抱えている。
そしてなにより特徴的だったのが、額から伸びる角だ。こやつ、鬼人族か。
「はぁ、今日もダメだったなぁ‥‥‥って、うわぁああああ!?」
我がなんとなく目の前まで近寄ると、まるで化け物にでもあったかのような断末魔をあげ、荷物をばら撒きながら尻を床につけてしまった。
我、そんなに怖いか?ちょっと自信なくしてきたんじゃけど。
「だ、だだだだだ誰ですか!?あ、もしかしてお客さん!?すすすいませんいらっしゃいませ!?」
テンパりすぎだろ。男はスッと立ち上がり、ぺこりとお辞儀をした。我は腕を組んでため息を漏らす。
「我らは客ではないぞ」
「え!?じゃ、じゃぁ一体、ま、まさか!ブリッツ商会の!?ぼ、ボクたち何もしてません本当です!」
「ブリッツ商会の者でもないのぅ」
「えええ!?じゃあ一体?あ、ああぁ姉さん!?なんで姉さんが寝てっ‥‥‥」
男は気絶してるマーシーを見ると途端に顔を青く染めた。
「もももしかして、泥棒!?あわわわ!な、何が目的なんだ!?姉さんに何をしたんだ!」
忙しないやつじゃなぁ。
「落ち着けい。そもそも泥棒ならこんな風にマーシーを看病したりせんし、魔道具とか盗んでとっとと出て行くわい」
「‥‥・それもそうですね」
言い聞かせるつもりで優しくそう諭すと、男は落ち着きを取り戻すように座り込んだ床から尻を離し、立ち上がった。
おそらくマーシーの家族だろう。姉と言ってたから弟か?それとも姉と慕うほどの弟子とか弟分か?なんにせよマーシーとは対極的な性格の男のようだ。
‥‥‥ふむ。
「しかし、我からしたらお主の方が怪しいのう。さてはお主が泥棒なのではないか?」
「えぇ!?ちがい、違いますよ!」
「そんなに取り乱すとは‥‥‥ますます怪しい」
「えええええええ!!」
男は演技というには感情のこもった悲鳴をあげて後ずさった。いちいち反応が大きい。これは面白い。
「シオン!サエラ!取りおさえるのだ!」
「わかった」
「泥棒ですか!悪いことする人は許しませんよ!」
「違いますって!ボクはその、ボクはぁああ!」
「バカめが!三人に勝てると思うてか!」
「‥‥‥何やってんのよアンタたち」
我らが茶番にも似たセリフで男を取り囲んでいると、騒ぎすぎたのかマーシーが起き上がっていた。
ひどく冷静なツッコミは我ら全員の耳に入り、振り返ると上半身を起き上がらせたまま頭痛を抑えるように額に手を当てている。たぶん気絶したせいではなく、我らのせいだな。
「おぉ、マーシーよ。起きたか。ほれ、泥棒だぞ」
「違うわよ。それ、わたしの愚弟」
「愚弟!?」
あ、やっぱりそうなんだ。しかしひどい言い草であるな。からかいすぎたからか、少し男に同情した我は思いついた最高に面白いギャグを口にして場を和ませようとした。
「さっきまでお主の方がグテェ~っとしておったがな!なんちゃって。がはは」
「「「‥‥‥」」」
「わはは」
やっべ、この空気。
「まぁ、弟さんとは思ってましたけど」
「そうだね」
シオンとサエラが納得するようにうんうんと頷き合っていると、マーシーの弟は信じられない者でも見るように目を見開いて口を半開きした。いやすまんな。マジで。
「ほら、自己紹介」
「えっと、ボクは弟のグロンです」
男の名はグロンというらしい。名前の割にひ弱そうなやつである。しかし名乗られたのなら、我らもしっかり挨拶しなければならな。
ゴッホン。
「我はドラゴンのウーロである」
「シオンです!」
「サエラ」
「三人合わせて」
「わたしたちはマーシーさんに魔鉱石を納品する依頼を受けてる冒険者なんです。だからこれからよろしくですグロンさん」
「よろしく」
「魔鉱石の‥‥‥?は、はいよろしく」
あるぇ?
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