上 下
82 / 176
第2章〜不死編〜

第80話「グロン」

しおりを挟む
「完全に埋葬する寸前であるな」

 椅子を横に並べ、ベットのようにおいてからマーシーを寝かせた。天に祈らせるように両手を組ませると、もはや葬式以外の何物でもない。棺桶さえあれば完璧である。

「失神するくらいビックリするのは予想外」

「あの程度で気絶するとは思わなんだ」

 サエラの言葉に同意しながら我もウンウンと唸る。しかし、魔道具の職人ならこれくらいの量で驚くものだろうか?
 過去に一度、ドワーフの鍛冶場を見たことがあるが、その時は山のように鉄のインゴットが積まれていたものだ。
 ‥‥‥いや、そもそも魔道具は大量生産するものでもないし、入荷する魔鉱石の量は少ないのが普通なのか。
 それとも最初、手のひらくらいとか言ってたから、ブリッツ商会のせいで入手できる魔鉱石が少ないからか。

 どちらにせよ、マーシーにとって我らが持ち込んだ魔鉱石の量は規格外な量であったらしい。

「どうしましょう?」

「起きるのを待つ他あるまい」

 シオンの問いかけに我はそう返すしかない。魔鉱石を買い取ってもらわなければ、我らの収入が大幅に減ってしまう。目が覚めるのを待つしかない。

「メアリーさんはいない?」

「いないっぽいですねー」

 住み込みをしてると言うメアリーもいないのだから、マジで待つしかない。そう思っていた時だった。突然動くことのなかった店の扉が開き、背の低い人物が入ってきたのだ。

 その男は猫背で顔を床に向け、見るからにどんよりとした空気を発していた。メガネをかけていて脇にはパンパンに中身が詰まったバックを抱えている。
 そしてなにより特徴的だったのが、額から伸びる角だ。こやつ、鬼人族か。

「はぁ、今日もダメだったなぁ‥‥‥って、うわぁああああ!?」

 我がなんとなく目の前まで近寄ると、まるで化け物にでもあったかのような断末魔をあげ、荷物をばら撒きながら尻を床につけてしまった。
 我、そんなに怖いか?ちょっと自信なくしてきたんじゃけど。

「だ、だだだだだ誰ですか!?あ、もしかしてお客さん!?すすすいませんいらっしゃいませ!?」

 テンパりすぎだろ。男はスッと立ち上がり、ぺこりとお辞儀をした。我は腕を組んでため息を漏らす。

「我らは客ではないぞ」

「え!?じゃ、じゃぁ一体、ま、まさか!ブリッツ商会の!?ぼ、ボクたち何もしてません本当です!」

「ブリッツ商会の者でもないのぅ」

「えええ!?じゃあ一体?あ、ああぁ姉さん!?なんで姉さんが寝てっ‥‥‥」

 男は気絶してるマーシーを見ると途端に顔を青く染めた。

「もももしかして、泥棒!?あわわわ!な、何が目的なんだ!?姉さんに何をしたんだ!」

 せわしないやつじゃなぁ。

「落ち着けい。そもそも泥棒ならこんな風にマーシーを看病したりせんし、魔道具とか盗んでとっとと出て行くわい」

「‥‥・それもそうですね」

 言い聞かせるつもりで優しくそう諭すと、男は落ち着きを取り戻すように座り込んだ床から尻を離し、立ち上がった。
 おそらくマーシーの家族だろう。姉と言ってたから弟か?それとも姉と慕うほどの弟子とか弟分か?なんにせよマーシーとは対極的な性格の男のようだ。
 ‥‥‥ふむ。

「しかし、我からしたらお主の方が怪しいのう。さてはお主が泥棒なのではないか?」

「えぇ!?ちがい、違いますよ!」

「そんなに取り乱すとは‥‥‥ますます怪しい」

「えええええええ!!」

 男は演技というには感情のこもった悲鳴をあげて後ずさった。いちいち反応が大きい。これは面白い。

「シオン!サエラ!取りおさえるのだ!」

「わかった」

「泥棒ですか!悪いことする人は許しませんよ!」

「違いますって!ボクはその、ボクはぁああ!」

「バカめが!三人に勝てると思うてか!」

「‥‥‥何やってんのよアンタたち」

 我らが茶番にも似たセリフで男を取り囲んでいると、騒ぎすぎたのかマーシーが起き上がっていた。
 ひどく冷静なツッコミは我ら全員の耳に入り、振り返ると上半身を起き上がらせたまま頭痛を抑えるように額に手を当てている。たぶん気絶したせいではなく、我らのせいだな。

「おぉ、マーシーよ。起きたか。ほれ、泥棒だぞ」

「違うわよ。それ、わたしの愚弟」

「愚弟!?」

 あ、やっぱりそうなんだ。しかしひどい言い草であるな。からかいすぎたからか、少し男に同情した我は思いついた最高に面白いギャグを口にして場を和ませようとした。

「さっきまでお主の方がグテェ・・・~っとしておったがな!なんちゃって。がはは」

「「「‥‥‥」」」

「わはは」

 やっべ、この空気。

「まぁ、弟さんとは思ってましたけど」

「そうだね」

 シオンとサエラが納得するようにうんうんと頷き合っていると、マーシーの弟は信じられない者でも見るように目を見開いて口を半開きした。いやすまんな。マジで。

「ほら、自己紹介」

「えっと、ボクは弟のグロンです」

 男の名はグロンというらしい。名前の割にひ弱そうなやつである。しかし名乗られたのなら、我らもしっかり挨拶しなければならな。
 ゴッホン。

「我はドラゴンのウーロである」

「シオンです!」

「サエラ」

「三人合わせて」

「わたしたちはマーシーさんに魔鉱石を納品する依頼を受けてる冒険者なんです。だからこれからよろしくですグロンさん」

「よろしく」

「魔鉱石の‥‥‥?は、はいよろしく」

 あるぇ?



しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...