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第2章〜不死編〜

第65話「狂犬と狂竜」

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 「謝って済むと思ってんのかぁ?あぁ?」

「えと、すいません」

「そっちがぶつかって来たくせに」

「ああ!?」

「ちょ、サエラっ」

 怒鳴り声と謝罪の言葉は、シオンたちの方から聞こえてきた。会話からして、穏やかな雰囲気ではないというのは明らかである。
 一触即発という感じがすごく伝わってくる。もう、我がいない数分で一体何が起きたというのか。

「めんどくさそうなこと起きてんな」

「ガルムちゃん」

「わーってる。行くぞウーロ」

「うむ」

 ガルムとゴードンも共に向かうと、そこにはガラの悪そうな戦士風の男に、謝るシオンと噛み付くサエラがいた。
 男は乱暴で暴力的な口調でシオンに文句を言っており、それに対してシオンはペコペコと謝ってる感じだ。
 その間にサエラが入り、男の言葉一言一句に反論してるせいで場はさらにカオスになってる状態である。

 んもー、我がいないとすぐこれなんだから。なになになんなの!

 我はさっぱりこうなった原因がわからない。だって見てないし。
 でもシオンとサエラが自分から進んで問題を引き起こしたとは考えにくい。と、なると巻き込まれたか喧嘩をふっかけられたかと思うのだが‥‥‥。
 助けに行きたいのは山々である。けど状況がわからない以上、我が仲介に入ってもさらに現場を混乱させるだけな気がする。

 するとガルムも同じことを考えてたのか、シオンたちと一緒にいたはずのメアリーを取っ捕まえ、事情聴取を始めた。
 ガルムは彼女の襟首を掴み、親猫に運ばれる子猫のようにぷらーんとメアリーを垂らす。

「おい、なんだあれ。どうしてああなった?」

 メアリーはぐるぐると目を泳がせながらも、しっかりガルムの質問に答えた。

「え、えぇと、あの男がシオンの前に出てきて」

 ふむふむ。

「シオンは避けようとして、でも男はまたシオンの前に移動して」

 なるほど、お互いに道を譲り会おうした結果、ぶつかって喧嘩になってしまったという感じだろうか?

「もう一度シオンが避けても男がまた前に出て、それを10回くらいしてぶつかってしまった」

 なにその面白い光景。

「それで、あの、シオンに弾かれて、男が吹っ飛んで転んで、ああなったんだ」

 シオン、ゴリラ並みのパワーがあるものな。
 しかしこれでわかった。あの男はようするに‥‥‥。

「「「当たり屋」である」ね」

 ガルムとゴードン、そして我が同時に口を揃えて言うと、メアリーはコクコクと顔を上下に振った。
 たぶん田舎者だと思われてターゲットにされたのだろう。あんなに周りをキョロキョロ見ていてはな。カモと思われても仕方ない。

 男としては肩をぶつけるくらいの気持ちだったろうが、シオンはかなりの怪力だ。ぶつかった瞬間岩にでも当たったみたいになって跳ね返されたのかもしれない。
 それで怒ってるのか。八つ当たりにもほどがある。奴の怒声はまだ聞こえてくる。

「悪いと思ってるなら、それなりの謝罪の仕方ってもんがあるだろうが!」

「えぇ、どうすれば?」

 つーか、あの野郎。シオンの胸見てないか?おい見てるだろ。何を要求するつもりだ?あの類人猿ぶっ殺してやる。

「しゃーねぇな、いくぞウーロ」

「承知した」

 我はガルムの肩に装飾品のように張り付く。ガルムはずんずんと男の背後まで忍び寄り、ポンポンと肩を叩いた。

「おい、その辺にしとけよ」

「あ?誰だて、め‥‥‥」

 怒鳴り声をあげながら男が振り返り睨みつけてくるが、ガルムの姿を目視した瞬間、言葉に詰まるように声が小さくなって固まった。
 ガルムはあいかわらずのニヤニヤとした悪人じみた笑みを浮かべていて一歩男に近寄った。

「ガロット、俺のこともう忘れたかよ。リメット離れてまだ1週間くらいだぜ?」

「が、ガルムさん。なんでここに‥‥‥」

「今帰って来たんだよ」

 何故だか知らんが、男はガルムに対し異様に怯えていた。
 シオンとサエラはいきなりしおらしくなった男を見て困惑している。実際、我も反応に困った。このガロットという男はガルムと面識があったのか。
 知り合いだからこそ、ガルムは強気なのかもしれん。

「お前はここで何やってんだ?ここで冒険者するなら、街を荒らすなってオレ言ったよな?」

 ガルムは自分より10センチは大きいであろう男を見上げつつ、挑発的に目を細める。
 もしや男の弱みでも握っているのか?

「いや、俺は別に荒らしてるつもりは‥‥‥」

「自分からぶつかっておいて何言ってんだ?周りの連中から聞きゃわかんだよ」

 ガルムには逆らえない何かがあるらしい。男は恨めしそうに周りを睨むと、おずおずとガルムに向かって頭を下げた。

「‥‥‥すいやせん、まさかガルムさんの連れとは」

「ガルムの連れでは無かったらして良いことなのか?」

 我が言うと初めて男の目に我が映ったのか、さらなる戸惑いを与えた。肩に乗った爬虫類がいきなり人語を話したらびっくりするのも無理はない。
 ガルムはより大きくなった男の隙を見つけると、さらに詰め寄って顔を近づけた。

「今すぐその腐った根性叩き直してやろうか?」

「すんませんって、勘弁してくださいよガルムさんっ!」

「おいコラァ!我の仲間にあんなヤラシイ目を向けといて許されると思ってんのかワレェ!」

「そうなんか?おらぁ、ぶちのめすぞ!」

「ぶっ殺すぞ!」

「ぶっ転がすぞ!」

「有り金出すである!」

「土下座しろコラァ!」

「「おらぁ!」」

「どっちがチンピラかわからないわね‥‥‥」

 おらおらと喚きながら男を囲む我らを見て、ゴードンがあきれた感情をありありと含んだ言葉を吐いたが、責め立てることに夢中になっていた我らの耳には入ってこなかった。

 最終的に男に殺意すら向けていたサエラに「その辺に」と言われるまで我らは続けたのであった。



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