51 / 176
第1章〜ウロボロス復活〜
第50話「合流」
しおりを挟む
カスミは我の叫びを聞くと、一瞬だけ硬直した。笑みが浮かぶ。悲しみと、期待と、諦めと、疑問と、いろんな感情が渦巻いた曖昧な笑み。
「どうして?なんで?あたし、ウロボロスにひどいことしたよ?なんで、そんなこと言ってくれるの?」
「‥‥‥同情、かの」
『正直同情してるところはあります』と、シオンの言葉が頭をよぎる。多分、あの時我に手を伸ばしてくれたシオンと同じ気持ちをしてるんだと思う。
カスミは同情と聞くと、無垢な幼子のように首を傾げた。
「同情?」
「うむ。我はお主を見て、可哀想だと思った」
「そんな、ことで」
「我もわかるのだ。大きな力を持っていて、だけどうまくいかなくて、心の底から頼れる相手もいない。自分がこの世界でひとりぼっちで、どうしたらいいかわからなくて、助けてとも言えず」
「‥‥‥」
「いつしか都合のいいようにしか周りを見なくなった。自分は竜王だから、勇者を待ち受けるのは当然だと。我が勇者と戦うことが当たり前なのだと、そして負けて、美化される英雄譚の登場人物になる。それが正しいのだと」
言ってまうが、我の竜王のテンションはノリだ。この喋り方も、竜王らしく威厳のあった感じを出したかっただけで、それが定着したのだ。
最初は特徴も何もない話し方だったし、性格も温和な方だったと思う。次第に人間たちの勝手な竜王像に流されて、こうなった。
きっと我は変わることはなかった。シオンとサエラに出会わなければ、一生‥‥‥。
「カスミ、お主はもう一人の我だ。助けてもらえなかった時の我の姿だ。だから、お主を助けたい」
きっとカスミには今まで手を差し伸べてくれる人がいなかったのだ。常識がまるで違う世界にたった一人でいて、何が正しいか、間違っているのか、わからないまま成長してしまったのだろう。
「頼む。我の手を握ってくれ。お主を助けたい。支えてやる」
カスミの肩から手を離し、眼下の前に握手をするように伸ばす。カスミはしばらくそれをぼーっと眺めていると、口元を食いしばるように歪め、両目から大粒の涙をたくさんこぼした。
「助けて、ウロボロス。助けて‥‥‥不安なの。こわいよ。寂しいよ」
我の手をカスミはギュッと両手で包む。長い前髪は乱雑に払われ、あらわになった両目は涙をせき止めるように細くしている。
嗚咽を漏らしながら、流す涙は熱を帯びて暖かかった。我は空いた方の手でカスミの頭を撫で、抱き込むように引き寄せた。
「よしよし、かわいそうに。もう大丈夫だ。元の世界に帰れるかはわからんが、少なくとも我が手助けしてやる。もう一人ではないぞ」
「ぅ、あぅ、あぁ、あぁぁ」
我らの周りを覆っていた魔力の膜が消え失せる。カスミから完全に戦意が無くなり、重力魔法も解除されたということだ。やれやれ一時はどうなることかと。
だが良かった。この子を傷つけずに済んで。未だに泣くのをやめないこの子の頭を撫でてそう思う。きっと上手くいく。我がそうだった。
本当に信頼できる人と出会えば、その者の世界はガラリと変わるのだ。我がそうホッと息を吐くと、我はあることに気が付いた。
まてよ?重力が解除されたのなら、先まで浮いていた石や木はどうなるのだ?
ふと、見上げると大量の物体が今まさに落ちてきてるところだった。
「ぬおおおおおおおおお!?潰れる!カスミ、なんとか‥‥‥ひっ!!」
圧縮されたとは言え、元々が巨大だ。我らの頭上に落ちればその質量はいかんなく威力を発揮することだろう。
どうか当たらないでくれと祈りつつ、カスミを庇うために抱き寄せた。もっとも、我の大きさでは帽子程度の範囲しか守ってやれんが。
と、その時、ボールを投げたような、風を切る音が我の耳に入り込んだ。
「へ?」
見てみれば我らを押しつぶさんと落ちてくる石や木が、黒い糸のようなものに引かれて、別の場所に転がっていた。そして黒い糸は水が布に染み込むように地面に広がると、そのまま影となって消えた。
そう、影になったのだ。光が当たり、それを遮った結果できる暗い部分。物理的に物体を引っ張った糸がその影となったのだ。
一体どうなっておる?我は訳のわからん光景を目の当たりにし、間抜けそうにポカンと大口を開けて見ていた。
「ウーロ!大丈夫っ!?」
「さ、サエラ!?」
ガサガサと茂みや木々の間から、サエラが走って来たのだ。一体どうしてここが?
というかなぜか彼女は奴隷のような麻で作った服を着ているのだ?裸足だし、埃で顔も汚れてる。よく見ると足首や手首が締められたような痣ができてるし、草で切ったのか切り傷もある。
さっきまでとは全く違う姿をしてるサエラを見て、我の頭の中から不可思議な動きをしていた木や石が吹っ飛んだ。
「よかった。本当に」
「いやいや良くないだろ!どうしたのだその格好!?」
慌ててサエラに詰め寄り問いただすが、彼女は我を見るなり安堵した表情を見せ、力強く抱きしめてきた。グリグリと頭を擦り、心臓の鼓動が落ち着いていくのが聞こえる。
走ってたのだろう。村からここまで。だからかすごくサエラの体温は熱い。
全く状況がわからない。なぜこんなことに。サエラはどうしたというのだ?
「‥‥‥」
カスミはそんなサエラと我を見ると、居づらそうに視線を逸らした。
サエラは我が襲われていたことなど知らないだろう。だからかカスミを見て小さく笑みをこぼし、緩んだ顔で言葉を繋いだ。
「カスミも、無事でよかった」
「‥‥‥っ!!」
サエラの言葉にカスミが目を見開くと、両手を握りしめて顔をうつむかせた。
「ごめんなさい」
「?」
突然謝られたサエラはわけがわからないといった様子で小首を傾げた。まぁ、そうだろうな。
「どうして?なんで?あたし、ウロボロスにひどいことしたよ?なんで、そんなこと言ってくれるの?」
「‥‥‥同情、かの」
『正直同情してるところはあります』と、シオンの言葉が頭をよぎる。多分、あの時我に手を伸ばしてくれたシオンと同じ気持ちをしてるんだと思う。
カスミは同情と聞くと、無垢な幼子のように首を傾げた。
「同情?」
「うむ。我はお主を見て、可哀想だと思った」
「そんな、ことで」
「我もわかるのだ。大きな力を持っていて、だけどうまくいかなくて、心の底から頼れる相手もいない。自分がこの世界でひとりぼっちで、どうしたらいいかわからなくて、助けてとも言えず」
「‥‥‥」
「いつしか都合のいいようにしか周りを見なくなった。自分は竜王だから、勇者を待ち受けるのは当然だと。我が勇者と戦うことが当たり前なのだと、そして負けて、美化される英雄譚の登場人物になる。それが正しいのだと」
言ってまうが、我の竜王のテンションはノリだ。この喋り方も、竜王らしく威厳のあった感じを出したかっただけで、それが定着したのだ。
最初は特徴も何もない話し方だったし、性格も温和な方だったと思う。次第に人間たちの勝手な竜王像に流されて、こうなった。
きっと我は変わることはなかった。シオンとサエラに出会わなければ、一生‥‥‥。
「カスミ、お主はもう一人の我だ。助けてもらえなかった時の我の姿だ。だから、お主を助けたい」
きっとカスミには今まで手を差し伸べてくれる人がいなかったのだ。常識がまるで違う世界にたった一人でいて、何が正しいか、間違っているのか、わからないまま成長してしまったのだろう。
「頼む。我の手を握ってくれ。お主を助けたい。支えてやる」
カスミの肩から手を離し、眼下の前に握手をするように伸ばす。カスミはしばらくそれをぼーっと眺めていると、口元を食いしばるように歪め、両目から大粒の涙をたくさんこぼした。
「助けて、ウロボロス。助けて‥‥‥不安なの。こわいよ。寂しいよ」
我の手をカスミはギュッと両手で包む。長い前髪は乱雑に払われ、あらわになった両目は涙をせき止めるように細くしている。
嗚咽を漏らしながら、流す涙は熱を帯びて暖かかった。我は空いた方の手でカスミの頭を撫で、抱き込むように引き寄せた。
「よしよし、かわいそうに。もう大丈夫だ。元の世界に帰れるかはわからんが、少なくとも我が手助けしてやる。もう一人ではないぞ」
「ぅ、あぅ、あぁ、あぁぁ」
我らの周りを覆っていた魔力の膜が消え失せる。カスミから完全に戦意が無くなり、重力魔法も解除されたということだ。やれやれ一時はどうなることかと。
だが良かった。この子を傷つけずに済んで。未だに泣くのをやめないこの子の頭を撫でてそう思う。きっと上手くいく。我がそうだった。
本当に信頼できる人と出会えば、その者の世界はガラリと変わるのだ。我がそうホッと息を吐くと、我はあることに気が付いた。
まてよ?重力が解除されたのなら、先まで浮いていた石や木はどうなるのだ?
ふと、見上げると大量の物体が今まさに落ちてきてるところだった。
「ぬおおおおおおおおお!?潰れる!カスミ、なんとか‥‥‥ひっ!!」
圧縮されたとは言え、元々が巨大だ。我らの頭上に落ちればその質量はいかんなく威力を発揮することだろう。
どうか当たらないでくれと祈りつつ、カスミを庇うために抱き寄せた。もっとも、我の大きさでは帽子程度の範囲しか守ってやれんが。
と、その時、ボールを投げたような、風を切る音が我の耳に入り込んだ。
「へ?」
見てみれば我らを押しつぶさんと落ちてくる石や木が、黒い糸のようなものに引かれて、別の場所に転がっていた。そして黒い糸は水が布に染み込むように地面に広がると、そのまま影となって消えた。
そう、影になったのだ。光が当たり、それを遮った結果できる暗い部分。物理的に物体を引っ張った糸がその影となったのだ。
一体どうなっておる?我は訳のわからん光景を目の当たりにし、間抜けそうにポカンと大口を開けて見ていた。
「ウーロ!大丈夫っ!?」
「さ、サエラ!?」
ガサガサと茂みや木々の間から、サエラが走って来たのだ。一体どうしてここが?
というかなぜか彼女は奴隷のような麻で作った服を着ているのだ?裸足だし、埃で顔も汚れてる。よく見ると足首や手首が締められたような痣ができてるし、草で切ったのか切り傷もある。
さっきまでとは全く違う姿をしてるサエラを見て、我の頭の中から不可思議な動きをしていた木や石が吹っ飛んだ。
「よかった。本当に」
「いやいや良くないだろ!どうしたのだその格好!?」
慌ててサエラに詰め寄り問いただすが、彼女は我を見るなり安堵した表情を見せ、力強く抱きしめてきた。グリグリと頭を擦り、心臓の鼓動が落ち着いていくのが聞こえる。
走ってたのだろう。村からここまで。だからかすごくサエラの体温は熱い。
全く状況がわからない。なぜこんなことに。サエラはどうしたというのだ?
「‥‥‥」
カスミはそんなサエラと我を見ると、居づらそうに視線を逸らした。
サエラは我が襲われていたことなど知らないだろう。だからかカスミを見て小さく笑みをこぼし、緩んだ顔で言葉を繋いだ。
「カスミも、無事でよかった」
「‥‥‥っ!!」
サエラの言葉にカスミが目を見開くと、両手を握りしめて顔をうつむかせた。
「ごめんなさい」
「?」
突然謝られたサエラはわけがわからないといった様子で小首を傾げた。まぁ、そうだろうな。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる