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第1章〜ウロボロス復活〜

第36話「カスミ」

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「ふんふんふーん」

 鼻歌を奏でながら、上機嫌に我は外を出歩いていた。
 草木を揺らす、弱くふわっとした風。ほのかに暖かい恵みの太陽の光。温められた地面。

 うーん、なんと散歩をするのにより良い環境が揃ったことか。我は締まりのない顔を天に向け、日光から目を守るためにギュッとまぶたを閉ざした。

 「うん、良い天気だ」

 誰もいないが、そう呟かざるおえなかった。
 実は突然、我に外出許可が下りたので今日は1人で気ままに散歩しているのである。
 しかし、まさかグロータルが我を自由にさせるよう提案してくるとは思わなかった。むしろサエラとシオンが反対していたくらいだ。

「ウーロをいつまでも家の中に居させるわけにはいかんだろう。外に出るときはサエラかシオンと常に一緒にいる時だけというのも窮屈だろうしな」

 とのこと。2人の側は確かに心落ち着くが、外で思いっきり出歩ける気持ちの良さとはまた別問題である。

 軽い運動は家の中ではできぬし、たぶん体の成長の妨げになる。つまり体に悪いから、村の範囲内なら放し飼いにしても良いんじゃないかというのがグロータルの出した提案なのだ。

 そう言われるとシオンたちも言い返せないのか、渋々と頷いていた。
 たしかに家に引きこもるのは良くないしな。つーわけで、早速村を散策中なのだ。
 今通ってるのは村と外への境界線付近。
 村人の姿が全く見えん。特に来る理由もない過疎スポットなので、人の目を気にせず散歩することができるのだ。

「やはり散歩は良いものだなぁ‥‥‥ん?」

 人がいないはずだったのだが、我の目線の先にはどう見ても人らしき姿が目に写っていた。
 しかし村人ではなさそうだ。だってシオンが毛皮を積んでたバック並みにでかいカバンを背負っていているからだ。
 謎の人物は石の上に腰掛けていて、そのままジッとして動かない。一体何者なのか、何をしてるのか、気になった我は接触してみることにした。

「こんにちわである!」

「?」

 我が話しかけると、その者は座ったまま顔だけこちらに向けてきた。
 艶のある黒髪で、ボブカットと言うのだろうか?シンプルな髪型をした女子である。が、前髪が鼻にかかるくらい長くて目が隠れてる。ホントに見えてるのかの?
 だが顔立ちはとても良く整ってる。地味系な美少女といえば良いのかの。そんな感じである。

 彼女はなぜか泣きそうな顔をしていたが、我の姿を見て頭に疑問符を浮かべた。
 そして挨拶したのが我だと認識するとニコッと柔らかな微笑みを見せる。

「こんにちは、トカゲさん」

 あ、やっぱトカゲなのね。別に良いけど、もう。

「どうしたのだ?そんなところに座って」

「足が痛いの」

 そう言って彼女はズボンの足首辺りをめくり、赤く腫れた足を見せてきた。
 なるほど、痛みに耐えかねて座って休憩していたのだな。

「転んだのか?」

「挫いちゃって。すこししたら治ると思うし、ここで休んでるんだ」

  えへへと笑いながら言う。ドジな自分を卑下してるのか自虐してるのか。
 ふむ、確か足を怪我したら治りが良くなる草が近場にあったはずだ。我が罠に引っかかり、足を怪我した時にサエラが教えてくれたのだ。

「ちょっと待っててくれ」

「?」

 すかさず我はちょっとした茂みの中に入り、目的の薬草を探す。
 いや、探す必要もないくらいすぐに見つかった。やはりこの薬草はベヒモスウォール周辺には大量に群生しているようだな。
 我は人の手のひらサイズの薬草を2、3枚頂戴ちょうだいし、ダッシュの四足歩行で少女の元へと戻る。

「これを傷の患部に付けるといい。5分ほどで痛みは和らぐはずだ」

 葉をくしゃくしゃに丸めてからまた広げると、シワだらけになってそこらかしこから汁が滲み出てくる。それを足に付け、包帯を巻けば終わりだ。
 あくまで応急処置なので鎮痛の役割しか果たさんがな。

「どうかの?」

「ちょっと染みるー」

「そこは我慢してほしいのぅ」

 消毒液だって染みるだろうに。しかし数分ほど経つと痛みも消えたのか、目元に涙が浮かんでいた少女の顔に驚きが浮かんだ。

「わぁ!すごいすごーい!ほんとに治ってる」

「治ったわけではなく、痛みを抑えてるだけだ。あとでちゃんと薬を塗るのだぞ」

「うん!ありがとうトカゲさん!」

 少女が花が咲いたような笑顔を浮かべた。それを見て我も嬉しくて微笑む。悪化する前に処置ができてよかった。
 やはり女子は泣き顔より笑顔の方が見ていて気持ちが良い。

「さて、お主は旅人か?目的地があるなら少しだけ荷物を運ぶのを手伝おうか?」

「えっと、レッテルって村に行きたいの」

 ほぉ、それはなんという偶然。

「ならその道をまっすぐ行けば。たどり着くぞ!我が案内してやろう」

「ほんとう?親切なトカゲさんだね」

 ありがとう。とお礼を言いながら少女は我の頭を撫でた。ふふふ、良いぞ良いぞ。もっと我を撫でるのだ。
 さて、痛みが再び襲ってこないうちに我らは村の中心へと進まなければ。
 少しだけ我が荷物を持ってやり、2人並んで村に向かう。なかなか量が多いので、怪我をしてる状態で歩くのは辛かろう。

「そういえば、お主は名をなんというのだ?」

「あたし?えっとね、カスミっていうんだ」

 雑談交じりに名を聞くと、聞いたこともない名前を耳にした。
 初めて聞く名前だな。なんというか東部あたりに似合いそうな名前である。
 我が小首を傾げると、カスミは困ったように笑った。

「えへへ、やっぱり変だよね。この名前」

「いや、変ではないぞ。響きは良いし、綺麗な名前だと思う。耳慣れぬのですこし珍しいなとは思ったが」

 そう言うとカスミはピクッと動きを止め、嬉しそうに微笑んだ。

「うれしいなぁ、ありがと。ところでトカゲさんはなんて言うの?」

「我?我はウーロだ。飼い主がウロボロスから名前を取ってつけたのだよ」

「ふぅん、そうなんだぁ。いい名前だね」

「‥‥‥そうかの」

 正直我は微妙なのだが。それでもカスミは優しく微笑み、続けて口を開いた。


「ほんとうに、いい名前だね」



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