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第1章〜ウロボロス復活〜
第8話「あれで我、殺されたんじゃ‥‥‥」
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「にゃぁぁぁぁぁあ!?」
「そこ、宙づりのトラップだよ」
「ほごおおおおおおお!!」
「そこ岩の圧殺トラップ」
「だぁああああああっ!!」
「くくり罠には気をつけて」
「ぬおおおおおおおおおおおおおお!!」
「そこまた落とし穴」
「なんなのだこの罠の量はぁぁぁぁぁぁあああ!!」
ブチギレ我は獲物に声が聞こえようと構うことなく、天に向かって怒鳴り声を上げた。
意味がわからん!なぜ森の中にこんなに罠がたくさんあるのだ!戦場かここは!ゲリラ戦でもあるまいし!
しかも全部我が引っかかってるし!
「罠の数が多いと、それだけかかる可能性も上がる」
「かかって無いではないか!一頭も!」
「なかなか賢いシカなのかも」
えっ、我ってシカ以下?
「罠で捕るのは諦めて、仕留めよう。いくよウーロ」
「うそ、我、マジかよ」
「もう少しできると思った?」
「うん」
もうちょっと頑張れると思ってた。だって我竜王とか呼ばれてたし‥‥‥ね?
落ち込む我をずるずると引きずり、サエラはシカの後を追った。よく罠の周囲を見てみると、近くの木にナイフなどの刃物で掘られた印がある。
あれで罠の有無を確認できるらしい。ぬぅ、見逃していた。
ただシカはあの目印で罠を把握したわけではなさそうだ。たぶんそこそこ生きていて、罠を避けるという考えが染みついているのだろう。
「サエラ、このシカは手強いぞ」
「そうだね」
棒読みで返されると我泣きそうになる。
「こっち」
サエラは我と同じように鼻を鳴らし、糸口を掴むように匂いを嗅ぎとる。
もしかしたら、サエラには獣に匹敵する感覚神経の特殊技能があるのかもしれん。それらは重要な個人情報なので、おいそれと聞けないのだが。
最終的にサエラは我を肩に乗せ、我も罠にはまるのは嫌なので大人しく担がれた。
サエラは森の中を蛇行しながら進み、岩を登ったり木の隙間を通ったりと進みにくい道を歩いていく。
獣道や歩きやすい場所には、罠があるからだ。あえて険しい道を歩いている。
我はまんまと思惑に引っかかったわけだ。ぐぬぬ。
「いた」
蚊の羽音のようなか細い声で言いながら、サエラは草むらにしゃがんで隠れた。
目線の先には一頭のオスシカが草を食んでいる。大きなシカで、立派だ。長生きしているのだろう。
「見てウーロ。体に傷がある」
サエラが指をさすと、確かにシカの体には切り傷や穴のような痕がある。治癒しているが、過去に怪我を負ったのは間違いない。
「本当だ。何かに襲われたのか?」
「あの切り傷は洞窟虎の。小さい丸の傷は矢で射られた痕」
「ボロボロではないか」
一体どれほどの死闘を繰り広げてきたのか。いや、逃走か。数多くの傷は、それだけの窮地をくぐり抜けた証なのだろう。
「しぶといからね。獣は」
賞賛するように、サエラの言葉は少し感情が乗っていた。
人間は死を美化するが、獣はそんなことしないからな。生き残るために足掻くのだ。
我は死に慣れすぎたから、サエラの言葉には共感できる。
「って、サエラ。それはなんだ?」
いつのまにかサエラは懐から長い棒を取り出すと、それを口につけて先端をシカへと向けた。
そして一瞬頰を膨らませ、溜め込んだ空気を棒の中に押し込んだ。どうやら棒の中は芯を抜いた鉛筆のように空洞があるようで、その中に息が充満した。
空気の圧は棒の先端についていた小さな針を押し出し、その針は矢にも迫る速さでシカの首に刺さった。
首に痛みを感じたらしいシカは、小さく悲鳴をあげるとドタバタと大急ぎで走り出した。
「いくよ、ウーロ!」
「えぇ、今、何をしたのだ?」
「麻酔」
サエラはそれだけ小さく答えると、我を担いでシカを追った。
揺れは少なく、動きはしなやかだ。
猫のようだと我は感じた。地を走るというよりは蹴るように進み、時には近くの木を蹴って加速。倒れた木や岩などの障害物を難なく超えていく。それは前方を走るシカも同じ。
空気が頰を擦れていかない。川が流れるようというより、まるで血管を通る血液のような滑らかな動きだ。
サエラにとって、森の中は自身の体内みたいなものなのかもしれない。どこでどう動くか、全てがわかっているように見える。
というか言わせてくれ。人がシカの速度と同等はどういうことだ。
我のそんな疑問など知る由もなく、サエラはシカを追い続けた。しかし数分後、シカに動きの鈍りが浮き出て、突如として転んでしまった。
ただ転んだのではない。なんだか支えをなくした人形がゴロンと倒れように転んだのだ。
先ほどまで活発とも言えたシカが、ピクリとも動かず倒れ込んだことに我は驚愕によって固まっていた。
サエラは慣れた様子でシカに近づき、完全に静止してるのを確認すると満足そうに頷いた。
「‥‥‥なんじゃ、こりゃ」
「エルフ秘伝の麻酔。一度受けると数分後に金縛りになって気絶する」
「きょ、強力そうだな」
震えながら我が言うと、サエラは腰についたポーチから油紙を取り出し、その中身を我に見せてきた。
黄色い木の実だ。酸っぱい香りがする。
「モンレって名前の果実。食べられるけどベロが壊れるから、何倍も薄めて調味料とかに使うの」
「む?それがどうしたのだ?」
「これの原液と薬品を混ぜたのが、麻酔」
なんでエルフそんなもん食い物にしてるの?
「一応お酒にすると甘くて美味しい‥‥‥らしい。飲めないからわからないけど」
「‥‥‥」
そういえば、一番最初に死んだ時。たしか我の縄張りで集落を作ったレッテルの初代村人たちが、貢物で酒を出してきたな。
そのあと呑んですぐ眠くなったが‥‥‥あれ、まさか。
嫌な想像が頭によぎったので忘れることにする。酒でドラゴン退治とか定番すぎて恥ずかしい。
「で、そのシカはどうするのだ?トドメを刺すのか?」
我の質問にサエラは首を横に振る。
「んーん。川まで運んで、首を切って血抜きする」
「‥‥‥先に殺さないのか?」
「心臓が動いてるうちに出した方がいいから」
‥‥‥人間って、怖い。
ちなみにサエラのやり方で捌かれたシカはたいそう美味であった。あ?夕飯までの過程?うーむ。なにぶん大量の血がシカから出て、我ショックで気絶したからわからんな。
「そこ、宙づりのトラップだよ」
「ほごおおおおおおお!!」
「そこ岩の圧殺トラップ」
「だぁああああああっ!!」
「くくり罠には気をつけて」
「ぬおおおおおおおおおおおおおお!!」
「そこまた落とし穴」
「なんなのだこの罠の量はぁぁぁぁぁぁあああ!!」
ブチギレ我は獲物に声が聞こえようと構うことなく、天に向かって怒鳴り声を上げた。
意味がわからん!なぜ森の中にこんなに罠がたくさんあるのだ!戦場かここは!ゲリラ戦でもあるまいし!
しかも全部我が引っかかってるし!
「罠の数が多いと、それだけかかる可能性も上がる」
「かかって無いではないか!一頭も!」
「なかなか賢いシカなのかも」
えっ、我ってシカ以下?
「罠で捕るのは諦めて、仕留めよう。いくよウーロ」
「うそ、我、マジかよ」
「もう少しできると思った?」
「うん」
もうちょっと頑張れると思ってた。だって我竜王とか呼ばれてたし‥‥‥ね?
落ち込む我をずるずると引きずり、サエラはシカの後を追った。よく罠の周囲を見てみると、近くの木にナイフなどの刃物で掘られた印がある。
あれで罠の有無を確認できるらしい。ぬぅ、見逃していた。
ただシカはあの目印で罠を把握したわけではなさそうだ。たぶんそこそこ生きていて、罠を避けるという考えが染みついているのだろう。
「サエラ、このシカは手強いぞ」
「そうだね」
棒読みで返されると我泣きそうになる。
「こっち」
サエラは我と同じように鼻を鳴らし、糸口を掴むように匂いを嗅ぎとる。
もしかしたら、サエラには獣に匹敵する感覚神経の特殊技能があるのかもしれん。それらは重要な個人情報なので、おいそれと聞けないのだが。
最終的にサエラは我を肩に乗せ、我も罠にはまるのは嫌なので大人しく担がれた。
サエラは森の中を蛇行しながら進み、岩を登ったり木の隙間を通ったりと進みにくい道を歩いていく。
獣道や歩きやすい場所には、罠があるからだ。あえて険しい道を歩いている。
我はまんまと思惑に引っかかったわけだ。ぐぬぬ。
「いた」
蚊の羽音のようなか細い声で言いながら、サエラは草むらにしゃがんで隠れた。
目線の先には一頭のオスシカが草を食んでいる。大きなシカで、立派だ。長生きしているのだろう。
「見てウーロ。体に傷がある」
サエラが指をさすと、確かにシカの体には切り傷や穴のような痕がある。治癒しているが、過去に怪我を負ったのは間違いない。
「本当だ。何かに襲われたのか?」
「あの切り傷は洞窟虎の。小さい丸の傷は矢で射られた痕」
「ボロボロではないか」
一体どれほどの死闘を繰り広げてきたのか。いや、逃走か。数多くの傷は、それだけの窮地をくぐり抜けた証なのだろう。
「しぶといからね。獣は」
賞賛するように、サエラの言葉は少し感情が乗っていた。
人間は死を美化するが、獣はそんなことしないからな。生き残るために足掻くのだ。
我は死に慣れすぎたから、サエラの言葉には共感できる。
「って、サエラ。それはなんだ?」
いつのまにかサエラは懐から長い棒を取り出すと、それを口につけて先端をシカへと向けた。
そして一瞬頰を膨らませ、溜め込んだ空気を棒の中に押し込んだ。どうやら棒の中は芯を抜いた鉛筆のように空洞があるようで、その中に息が充満した。
空気の圧は棒の先端についていた小さな針を押し出し、その針は矢にも迫る速さでシカの首に刺さった。
首に痛みを感じたらしいシカは、小さく悲鳴をあげるとドタバタと大急ぎで走り出した。
「いくよ、ウーロ!」
「えぇ、今、何をしたのだ?」
「麻酔」
サエラはそれだけ小さく答えると、我を担いでシカを追った。
揺れは少なく、動きはしなやかだ。
猫のようだと我は感じた。地を走るというよりは蹴るように進み、時には近くの木を蹴って加速。倒れた木や岩などの障害物を難なく超えていく。それは前方を走るシカも同じ。
空気が頰を擦れていかない。川が流れるようというより、まるで血管を通る血液のような滑らかな動きだ。
サエラにとって、森の中は自身の体内みたいなものなのかもしれない。どこでどう動くか、全てがわかっているように見える。
というか言わせてくれ。人がシカの速度と同等はどういうことだ。
我のそんな疑問など知る由もなく、サエラはシカを追い続けた。しかし数分後、シカに動きの鈍りが浮き出て、突如として転んでしまった。
ただ転んだのではない。なんだか支えをなくした人形がゴロンと倒れように転んだのだ。
先ほどまで活発とも言えたシカが、ピクリとも動かず倒れ込んだことに我は驚愕によって固まっていた。
サエラは慣れた様子でシカに近づき、完全に静止してるのを確認すると満足そうに頷いた。
「‥‥‥なんじゃ、こりゃ」
「エルフ秘伝の麻酔。一度受けると数分後に金縛りになって気絶する」
「きょ、強力そうだな」
震えながら我が言うと、サエラは腰についたポーチから油紙を取り出し、その中身を我に見せてきた。
黄色い木の実だ。酸っぱい香りがする。
「モンレって名前の果実。食べられるけどベロが壊れるから、何倍も薄めて調味料とかに使うの」
「む?それがどうしたのだ?」
「これの原液と薬品を混ぜたのが、麻酔」
なんでエルフそんなもん食い物にしてるの?
「一応お酒にすると甘くて美味しい‥‥‥らしい。飲めないからわからないけど」
「‥‥‥」
そういえば、一番最初に死んだ時。たしか我の縄張りで集落を作ったレッテルの初代村人たちが、貢物で酒を出してきたな。
そのあと呑んですぐ眠くなったが‥‥‥あれ、まさか。
嫌な想像が頭によぎったので忘れることにする。酒でドラゴン退治とか定番すぎて恥ずかしい。
「で、そのシカはどうするのだ?トドメを刺すのか?」
我の質問にサエラは首を横に振る。
「んーん。川まで運んで、首を切って血抜きする」
「‥‥‥先に殺さないのか?」
「心臓が動いてるうちに出した方がいいから」
‥‥‥人間って、怖い。
ちなみにサエラのやり方で捌かれたシカはたいそう美味であった。あ?夕飯までの過程?うーむ。なにぶん大量の血がシカから出て、我ショックで気絶したからわからんな。
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