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第1章〜ウロボロス復活〜

第3話「野生のドラゴンがあらわれた!」

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「結局こうなるんだなぁ」

 ボソリとサエラが呟くが、小さな声は木々の隙間から通る冷たい空気によって霧散する。
 昼を少し過ぎた程度の森の中は薄暗いが明るく、冷たい。春になれば森の中はすぐにでも果実や木の実で彩り、山菜で足の踏み場を埋め尽くすだろう。

「なにかいいましたー?」

「何も」

 背後から子犬のように追従してくるシオンに、サエラは軽く溜息を吐いた。
 結局、ドラゴンの真相を確かめるために登山することになってしまった。なにがそんなに好奇心を掻き立てるのだろうと、サエラは姉の頭の中が理解できない。
 理解できないが、本当に無視すると1人では山に向かおうとするので最終的に自分が折れるしかないのだ。
 冷たい空気を嫌がって、外套の襟を口元まで持ち上げる。

「‥‥‥ドラゴンなんていたら、私たち食べられちゃうけど、いいの?」

 いないだろうが、サエラは振り返ってシオンに問いかけた。シオンはキョトンとした疑問顔をしたが、すぐにも小首を傾げた。

「どうせいないですよ?」

 そんなことをほざいた。本当に理解できない。

「じゃー、なんで行くの」

「そこはほら、ロマンですから!探検することそのものが大切なんです!」

「‥‥‥」

 シオンは非現実的な現象を好むが、それは事実でも嘘でもどちらでも良いのだ。
 こんなことがあるかもしれない。あそこには怪物が潜んでるかもしれない。"かもしれない"が、彼女の好奇心を刺激するのである。

 なら行かなくていいじゃんと、姉の性格に共感できないサエラはそう思うのだが。

「姉さん《竜探知》があるんじゃなかったっけ?」

「どーせでっかいトカゲですよー!ささ、行きましょう!」

(絶対いるとかいう話は一体‥‥‥)

 自分を連れ出すために吐いた適当なデマカセであったのかと、サエラは今更ながら気付いた。
 そんなこんなで2人は森の中を進む。目指すは頂上、竜王ウロボロスが眠るとされる洞窟である。

「ベヒモスウォールには古代からドラゴンが住み着いたという伝説があります。これだけ広大な土地なのに生物が少ないのは、ここがドラゴンの縄張りだからと言われてます」

 草木を分け、鬱蒼とした林の中を超えると見える景色は一面の岩肌。ゴツゴツと突起のように岩が飛び出しているだけで、生物の気配は感じられない。

「そのドラゴンは竜王と呼ばれ、死んでも100年後に復活するという不死の竜でした。けれど700年前、突如として復活しなくなったんです。‥‥‥わたしの言いたいことわかりましたか?」

「竜王が蘇ったー。とか?」

「そうですよ!ビックなニュースです!」

 シオンが登れない岩をサエラが先に登り、上から引き上げる。寒がりだが運動神経は良い方のサエラと、活発的なシオンの2人は小さな頃からこの足場の悪い山で暮らしてきたので、人より大きい程度の岩など障害にもならない。

 2人は着々と竜王が住むと言われる洞窟へ距離を縮めていった。

「はぁ、仮に蘇ったとして、なんでこのタイミングなの?」

「さぁ?寝ぼけたんじゃないんですか」

 姉さんにとってウロボロスは冬眠した亀みたいな印象なのかなと、サエラは馬鹿でかい亀の姿を思い浮かべた。
 伝説通りならどうにもしっくりこない。

「仮にいたとして、単純にこの山にしかいない爬虫類のモンスターってだけで、狩り尽くしちゃっただけじゃない?」

「なんでそんな夢のない話するんですかぁ~!」

 ぽかぽかと力のない拳でサエラの背中を叩く。サエラはめんどくさそうにため息を吐くと、振り向きシオンの両頰を両手で抑えた。
 変な声がシオンから漏れる。

「ほぇ?」

「ついたよ」

「ほんほへふか!」

 サエラに挟まれたまま、シオンは飛び上がる勢いで駆け足で進んだ。
 先には10メートルはあろう巨大な洞窟が、大きな口を開けていた。中は薄暗いが光を放つヒカリゴケが生えているためか、多少は見える。
 それでも真っ黒である。

「おぉ!おおお!ついに到着しましたね!」

「村から10分くらいだけど」

 近所であった。

「さぁ行きますよ!サエラ!お宝があるかもです!」

「ドラゴンは?」

 本当にただ探検したいだけなのかと、本気で疑い始めながらもサエラは背負った弓と腰に差した小太刀をいつでも取れるように調整した。

(ドラゴンじゃなくても、何か出るかもだし)

 用心するに越したことはない。
 別に姉の話を信じるわけではないが、ここはただの村だ。外には凶暴な獣やモンスターが我が物顔で生息しているのだ。最低限の自衛をできるようにしとくのが、サエラの心構えであった。

「サエラー!行きますよー!」

「うん」

 無警戒で進んでいく姉に再びため息を漏らし、2人は洞窟の中へ入っていった。




 目的のものは案外早く見つかった。

「何、これ」

「‥‥‥さぁ、トカゲですかね?」

 洞窟の中央には、ピクピクと痙攣しながら倒れた青紫色の鱗を持つ爬虫類が倒れていたのだ。

「し、じぬぅぅぅぅ‥‥‥」

 そんなセリフを垂れ流しながら。
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