BLINDFOLD

雲乃みい

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第五夜 性少年の嫉妬

第5話

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「明日は学校まで送って行くよ」
「……いいの?」
 帰ってきてヤって、それから風呂入ってのんびりして、そんでいまはベッドの上。
 明日はお互い仕事と学校だから早めに寝ることにした。
 と言っても、実はついさっき二回戦したばっかりだけど。
 心地いい気だるさにぼうっとしながら優斗さんと向かい合って横になってる。
「もちろん」
 小さく笑って頷く優斗さんもちょっと眠たそうだ。
「……もうすぐGWだね」
 いつもたいてい俺が先に寝てしまうから今日は優斗さんが寝るところ見てみてーな、なんて。
 目を何度もしばたたかせて眠気を追い払いながら話しかける。
「……ん、そうだね。よかったの、旅行とか」
「いいよ。春休みも行ったし、たまには優斗さんものんびりしたほうがいいよ」
 仕事めちゃくちゃ忙しそうだし、休みの日も家で仕事してたりするし。
 一日中ごろごろしまくるのもいいと思う、って笑ったら優斗さんは優しく目を細めて俺を抱き寄せた。
 俺と同じシャンプーのにおいがする。
 優斗さんの借りてるから当たり前なんだけどさ。
「……一日中ベッドの中?」
 眠気が増してるっぽい声が笑いを含んで言ってくる。
「俺はそれでもいいよ。あ、でも、それだと逆に疲れるかなー」
 いやまぁ立て続けにシなきゃいいだけの話なんだけどさ。
 それに別にヤりつづけるとかいってるわけでもねーだろうし。
 DVDたくさん借りてきて見るってのもいーかなぁ。
 さすがにGW中、ずーっと泊りこむっていうのはできねーだろうし。
 俺はいいんだけど、優斗さんがダメっていいそうだよなぁ。
「……ゆーとさん」
「……ん…?」
 優斗さんはもう半分寝かけてるみたいだった。
「GWさ、泊り来ていーよね」
「……うん」
 ものすっげぇ眠そうだったから話しかけるのやめて少しだけ顔上げた。
 すぐ間近にある優斗さんの顔。
 もうまぶたは閉じていて、たぶんもうちょいしたら完璧寝てる。
 寝るのは俺が先だけど、起きるのは優斗さんが先だから、なかなか寝顔とか見るチャンスがない。
 部屋の中は暗いからはっきりと見えてるわけじゃねーけど、やっぱかっこいいよなーって、別に惚れてるからとかじゃなく思う。
 こうしてるとたまに不思議だなーって思う。
 まさか男と付き合うとか思ったことなかったし。
 でもだからこそ、一緒にいれることがすげぇことなんだよなーとか思ったりする。
 一年前とか知り合いでもなかったし。
 ――……って、あ、名前は知ってたか。
 去年の春のことを少し思い出した。
「……ゆーとさん」
 小さく呼びかけてみる。でももう反応はなくて、穏やかな寝息が聞こえてきた。
 去年の今頃、優斗さんは海外赴任してて。
 そして桜が咲く前は日本にいて。
 ――優斗さんには別に好きな子がいた。
「……」
 まぁ全部、昔のことだけど。
 くだんねー思考を頭から追い払って、俺も目を閉じた。




 次の日は優斗さんが約束通り学校に送ってくれて、朝からテンション上がった。
 上がった――から、なんとなく屋上に行く。
 せっかく優斗さんに送ってもらったのに授業サボるなんて最悪だなと思う。
 罪悪感がわくけど、なんとなく屋上の気分だった。
 基本的に屋上は立ち入り禁止だけど、まーいろいろとツテがあって鍵もってたりする。
 いい天気で結構暖かくてカバン枕代わりにして寝ころんだ。
 日差しがすげぇ眩しくて目を開けてられないから目閉じて。
 あー…早く優斗さんに会いたいなー。
 とか、どんだけだよな自分に苦笑。
 でもまじで一緒に暮らせたらなーていうのはよく思ってた。
 俺が高校生じゃなかったらよかったのに。
 ぼーっと日向ぼっこしながら考えてると、だんだんどうでもよくなってくる。
 つーか、眠くなってくる。
 欠伸一つして目の上に腕置いて、寝る体制。
 何分か前にチャイムが鳴ってのはたぶん予鈴。
 いまいけば遅刻は義理セーフかもしれねーけど……眠い。
 優斗さん、不良な俺でごめん、なんて心の中で謝りながら意識を飛ばしかけた。
 ――のに。
 不意にガチャンと大きな音を立ててドアが開いた。
「……」
 俺はそのまま寝たふりしたまま無視する。
 だけど足音が近づいてきて、そんで……。
「……ってぇ!!!」
 額を思いっきり叩かれた。
「なにすんだよ!!」
 ジンジンする額を摩りながら身体を起こすと、予想通り和が眉間にしわ寄せて俺を見下ろしていた。
「もうちょいで寝るところだったんだぞ!」
「寝るところ、じゃねーだろ。朝っぱらからサボるな」
「いーじゃん、たまには」
「優斗さんに送ってもらってサボるとかねーだろうが」
 明らかに怒ってる和に俺はため息を吐き出す。
「見てたんだ」
「ちょうど登校中、優斗さんの車が横切ったからな」
「ふーん」
 和は一応俺の親友だし、たまに二人で遊んでいるときに優斗さんが迎えに来てくれたりしたことがあって車に乗ったことがあった。
「平日に泊りかよ」
「……ゆーとさんが誘ってくれたんだよ。んな、俺だって平日泊りにいくほど馬鹿じゃねーよ」
「どっちにしろ、お前あんまり迷惑かけんなよ」
「……和、いつから俺のお袋になったんだ?」
 うるさくてわざとでかいため息ついて身体を横に向ける。
 あーやっぱコンクリは身体に痛い。
「お前、まだ好きなの」
 せっかく眠れそうだったのに和のせいで眠気なんて吹き飛んでいった。
 あー、むかつく。
 悪態つきながら、どうでもよく訊いた。
 途端に無言になる和。
 俺と優斗さんが付き合いだしてからしょっちゅう『迷惑かけるな』だの『ちゃんとしろ』だの和は言ってくるようになった。
 なんだそりゃって感じ。
 意味わかんねー。
 ケンカばっかして不良くんと思われていた和がいまでは毎日朝からちゃんと学校来るし、サボりもしないし。
 あげくは俺に説教。
 そりゃあ、もう何の効果かはわかってる。
 優斗さんと付き合う俺になんでいちいち説教してくんのかなんてわかりきっててウザイ。
「次の恋ってやつ探せば」
 我ながらひどいっつーかキツイこと言ってるなぁと思うけど、それくらいいーだろ。
 和の視線を背中に感じながら半分目閉じる。
「――別に、俺はいまのままでいいし。あいつが幸せならいい」
 それ、答えになってねー気がするけど。
 健気すぎだろ、和くん。
「……みんなに見守られて幸せだね」
 振られてもう一年以上たつっていうのにいまだに和はアノ子が好き。
 俺も好きだった。
 優斗さんも好きだった。
 可愛い――優斗さんの姪ちゃん。
 優斗さんとよく似た笑顔をする彼女を思い出してぼそっと呟いたら少し空気が動いた。
「……捺。お前、もしかして」
「和」
 せっかく日向ぼっこで暖かいのに、ひどく冷えた声が腹の底から出てきた。
「二時間目からは授業でるから、先戻ってて」
 取りなおすようにいつもどおりの声に戻してみる。
 さっきまでとはまた違う和の視線が、やっぱウザイ。
「……わかった」
 だけどやっぱ俺の親友だからか和はそれだけ言って屋上を出ていった。
 扉が閉まる音が響いてため息。
 せっかくのイイ気分が結局あっというまにダウン。
 つーか……んなことでダウンする気持ちなんて太陽に焼かれて死ンじまえばいいのに。
 そんで結局――二時間目が始まるまで睡魔は戻ってきてくれなくてぼーっとして終わった。



―――――
―――
――

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