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雲乃みい

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第三夜 性少年の受難

38.え、ちょっと待って!?

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  ぱくりと咥えられた俺の人差し指。

それが智紀さんの咥内で舐め上げられる。

 ざらっと舌が這う感触に背筋が震えた。
「……っ」
 ――夢だ。
 って思ってた、生々しい感触が蘇ってきてリンクする。
 吸い上げて、音を立ててしゃぶられて。
「こうやって」
 咥えたまま、ちょっと舌っ足らずに智紀さんが喋る。
 そしてまたぺろりと舐められて、指なのに違うところを咥えてる映像が目の前をちらついて。
 ――勝手に身体が反応する。
「舐めてあげてたら捺が俺の中に吐き出して」
 指先を軽く甘噛みして、舌を見せながらくすぐって。
「久しぶりだったからたくさん出てた」
 智紀さんの唾液で濡れた指が指でなぞられる。
 指一本なのに、まるで性感体になってしまったみたいに、指先から痺れが走ってる。
「それを飲みこんで、またしゃぶって綺麗にしてあげた」
 楽しそうに智紀さんは目を細めて俺の首に手をあてて、唇が触れる寸前まで顔を寄せる。
「――ほんとーに覚えてない? 俺、言ったんだけどなぁ」
 や……ばい。
 頭ん中で危険信号がめっちゃくちゃでかく鳴ってる。
 ガンガン、ガンガン、ヤバイってサイレン。
 俺のか智紀さんのかわからない吐息が混じる。
「ちゃんとカラダで、覚えておくようにって」
 ――じゃ、手っ取り早く思い出すようにキスしようか――って、囁く声がして。
 気づいた時には口が塞がれて、舌が咥内に差し込まれてた。
「……っん」
 熱い舌が歯列をなぞって、舌に絡みついてくる。
 智紀さんの身体を押して離れようとしたけど、がっちり腰と後頭部を押さえられて身動きが取れない。
 それに――もうなんなんだよってくらいにキスがうまくて、キスに応えそうになっちまう。
 身動きとれないでいる俺の舌がさっきまで弄られてた指みたいに吸われて、舐め上げられる。
 硬くした舌先が俺の舌を刺激するように、ピストンするように咥内で動く。
「……とも……っ」
 キスの合間に名前を呼ぼうとするけど、すぐにまたキスが始まるからどうしようもなくて。
 久しぶりのキスはあっという間に思考を溶かしてく。
 いや、久しぶりじゃない。
 身体が覚えてる。
 いまされてるのと同じように、舌が俺の咥内を犯して、俺もそれに応えてたのを――なんとなく、覚えてる。
 指を咥えられただけで反応してた身体が、俺の息子がどんどん硬く張りつめてしまってた。
 どうしようって焦りながら、走り抜ける快感に身体中が疼いて堪らなくなる。
「……ンンっ」
 ぺろりと唇が舐められて長いキスは終わった。
 だけどまだキスできそうなほどに顔は近くにある。
 たぶん俺はすっげぇ真っ赤な顔になってるはず。
 顔も熱いし、頭ん中も沸騰してるくらいに熱くぼやけてる。
「思い出した?」
 荒く息を吐く俺と、ちょっと熱っぽいけどまだ全然余裕そうな智紀さん。
 俺はなんて返事すればいいのかわからなくて視線を逸らそうとした。
 そしたらクスッと智紀さんが笑ってまた口を塞がれる。
 そして――俺の硬くなってしまってる息子がデニム越しに触れられて、なぞられて。
 たったそれだけなのに電流みたいに駆け抜ける刺激に俺は我に返って、身をよじった。
 少し智紀さんも気が緩んでたのか俺は智紀さんの拘束から逃れて――ていうか、智紀さんの膝の上から床に滑り落ちた。
「ぎゃ!……ってぇ」
 すっげぇダッサイ声上げて打った腰をさする。
「大丈夫、捺?」
 デスクチェアに座ったまま、笑顔のままの智紀さんが首を傾げて俺を見下ろした。
 座り込んだまま手をついたまま数歩後退る。
「だ、だ、だ、だいじょうぶ」
 情けないくらいに声が裏返ってる。
「あの、俺っ」
 めちゃくちゃに身体は疼きまくってて、心拍数はすっげえ跳ねあがってる。
 だけど――ここにいたら、このままだとマジでやばい。
 って、俺の中のなにかが訴えてて、俺は慌てて立ち上がった。
「お、俺、ちょっと、あの」
 なんて言えばいいのかわかんないまま、しどろもどろになりながら後ろ向きに歩く。
 ほんとにどんだけダセぇんだろって感じだ。
 壁際に辿りついて、そこから今度は横歩きにドアのほうに向かって――って、情けなさすぎる。
「あの、俺、帰……」
「捺。どうするの、それ?」
 ドアの近くまでたどり着いた俺に、智紀さんが指さししてくる。
「……それ……?」
 それってなんだろ、って困惑する俺に向けられるのは楽しそうで、そしてからかうような眼差し。
「股間そんなに膨らませて、一人で帰れる?」
「……ッ」
 一気に顔が熱く赤くなるのを感じた。
 恥ずかしすぎて思わずその場に座り込む。
 椅子の軋む音がして近づいてくる足音に、心臓の音が激しさを増す。
「なーつ」
 俯いた俺の視界に智紀さんの足元が映った。
 でも顔を上げることができない。
「そんなに逃げることないのに。キス、気持ちよくなかった?」
 そして俺のすぐそばに片膝ついて智紀さんの手が伸びてくる。
 両脇の下に手が差し込まれて、持ち上げられるようにして立ちあがらせられた。
「俺はすっごく気持ちよかったんだけどなぁ」
 甘すぎる声が囁くように言って、壁を背にした俺は智紀さんの両手に挟まれて包囲されてしまった。
「捺も感じてたんじゃないの?」
「……っ……で、でも、俺……男だしっ」
 いまなんでこんなことになってんのかわかんねぇ。
 だいたい昨日の夜だって、なんで、なんで――。
「あれ? 俺言ったよね、バイだって」
「――」
 思わず顔を上げた。
 その瞬間また口が塞がれて舌が割り込んでくる。
 両手は空いたままだったからすぐに智紀さんの肩を押すと、あっさりキスは終わった。
「キス、きらい?」
「……そ、そういんじゃない」
「ならもっとシたいんだけどな」
 視線を合わせることができないでいる俺の顔を覗き込んで見つめてくる目が艶っぽ過ぎて息を飲む。
「だめ?」
 智紀さんの指が俺の唇に触れてきた。
「……だめ……っていうか……んっ」
 喋るために開いた口に親指が滑り込んでくる。
「なんで、だめ?」
 訊いてくるくせに指は俺の舌を弄ぶように触れてくる。
 喋れないでいるとようやく指を抜いてくれた。
「なーつ? なんで、だめ?」
「……それ、は。あの俺……は智紀さんのこと……兄貴みたいな友達みたいに思って……」
「俺としてはいろいろとモーションかけてたつもりなんだけどなぁ」
「……え」
「まぁ捺は俺のことは対象外だったんだろうけどね。優斗さんだけで頭いっぱいみたいだったし」
「……」
「でも、いまは俺とキスして感じてるんだからいいんじゃない?」
 当たり前のように俺の唾液で濡れた指を舐めとり、そして今度は俺の腰に手を回してくる。
 ほんの少し力が込められて俺と智紀さんの距離が近づく。
「……それは。……俺は、でも、あの」
 身体は正直に感じてしまってる。
 それは認める。
 けど、けど――……。
「ああ、優斗さんのことか。捺は優斗さんのことが"好き"かもしれないんだったっけ」
 視線を伏せると俺の顔の横にあった智紀さんの手が顎にかかって、上向きにさせる。
 無理やり顔を合わせる形になるけど、視線を返すことはできなくてきょろきょろさまよわせた。
「だけど、昨日言ってたよね、捺」
 ……酒のせいでほとんど覚えてない。
 俺、なに言ったんだよー!?
「"好き"かもしれない、けど――男同士のセックスが初めてだったから……気持ちよくて勘違いしているだけかもしれない、って」
 智紀さんの言葉に、俺は言葉を失った。
 なにも、言えなかった。
 それはそのまま事実だったから。
 優斗さんと会うたびに、セックスするたびに、溺れていって。
 それが"好き"になっていってた気もするし、ただ気持ちよさにハマりまくってるだけの気もして。
 なんかモヤモヤしてたまらなかったときに――あの痴漢にあったんだ。
「ただ気持ちよさに溺れてるっていうだけなら、俺とシてみればわかる」
「……それは」
 だって、もしヤって、やっぱ違うって思ったら……。
 やっぱり優斗さんが――……。
「それに、優斗さんも同じかもしれないしね」
 俺の思考を遮るように続けられた言葉に、意味がわからずつい視線を合わせてしまってた。
 智紀さんはいつもと同じ穏やかで、でも熱を帯びた目で俺を見つめてる。
「……同じって?」
「優斗さんはノーマルなんだろ?」
「へ? ……たぶん」
「だから、捺と同じように男同士のセックスが意外に気持ちよくてハマってるだけかもしれない。案外初心者ってハマるんだよね、後の味を覚えると」
 挿れるほうも挿れられるほうも、って智紀さんは目を細めた。
「だから、優斗さんはセックスにハマってるだけで、捺のことはなんとも思ってないかもしれない」
 ゆっくりとした智紀さんの声が落ちてくる。
「それにまだ優斗さんはまだ実優ちゃんのことが好きかもしれない」
 淡々と続く言葉は重く俺の中に沈んでいく。
「アナルセックスにハマってはいるけど、本当は女の子の方がいいかもしれない」
「……」
「だって優斗さんと捺はただセックスしているだけ、だろ?」
「……」
 なんにも――言うことができない。
 その通りだから。
「ごめんね、虐めるようなこと言って。でもね」
 顎を掴んでた智紀さんの手が離れていって俺は顔を伏せた。
 胸の中が淀んだようにモヤモヤしてる。
「俺は男女関係ないし、優斗さんはどうか知らないけど、俺は――」
 耳にかかる吐息。
「捺がいい」
 囁かれて、俺は戸惑って視線を上げて、目が合う。
 欲に濡れた目が俺をつらぬいて――そしてまた唇を塞がれた。
 今度のキスはさっきまでのが遊びだと思えるくらいに激しくて、熱くて、俺の中のなにかが崩れるように溶け出すのを感じた。


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