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雲乃みい

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第三夜 性少年の受難

31.ひ・み・つ

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 さきいかを何件かコンビニまわって数種類買って、おつまみなんかを買って、初めて智紀さんちに行った。
 やっぱりいいオトコって生理整頓できるのかなぁって部屋に入って思った。 
 モデルルームなんじゃないのってくらいに綺麗なインテリア。
 黒のレザーソファに座って思わずきょろきょろしてしまった。
「最初はなんにする? ビール?」
 寝室から智紀さんがルームウェアに着替えてきた。
 いつものスーツと私服とも違うリラックスした雰囲気。
 初めて智紀さんのマンションに来て少しあった緊張も智紀さんが傍に来ただけであっという間に落ち着く。
「うん、ビール!」
 とりあえずビールって、冷蔵庫から数本持ってきてローテーブルを囲うようにして座った。
 おつまみもテーブルに広げる。
 缶ビールのプルタブを引いて、乾杯した。
「お仕事お疲れ様デス」
「ありがと」
 遅くまで仕事だった智紀さんに軽く頭を下げてから、ビールをぐびぐび一気に半分くらい飲んだ。
「うまい!」
 とりあえず一息ついてでっかいため息つきながら言うと智紀さんに吹き出された。
「捺くん、オヤジ臭いよ」
 クスクス笑われて、ちょっと不貞腐れてみる。
「まだ17だし。智紀さんよりもすっげー若いもん」
「あー、それ言う? ちょっと傷ついたかも」
 俺が意地悪く言ってみたら、今度は智紀さんがわざとらしくショックを受けたような顔をして――。
「うそ! すっげぇ、若いよ。智紀さんは!」
「いいよ慰めてくれなくても」
「ほんとだってー!」
「ほんとかなぁ?」
 くだんない掛け合いするのがめちゃくちゃ楽しい。
 笑いながら言いあって、どんどん缶ビール空けて、どんどん酒飲んでいった。
 智紀さんちは結構いろんな酒が揃ってて、従兄のマサ兄のバーでたまに作ってた簡単なカクテルとかを披露したりして、あっという間に時間は過ぎてく。
 どれだけ酒飲んだかよくわからないけど、だんだんふわふわしてきて気持ちよくなってくる。
 智紀さんと喋るのが楽しいから酔いもイイ感じにまわってて、笑いが止まらなかった。
「さきいか、はずれー!」
「あれー? おかしいなぁ」
「罰ゲーム!」
「……あんまり変なのはパス」
「えー?」
 利きさきいかであっさり間違った智紀さんに罰ゲームなにがいいかなぁってワクワクしながら考える。
 でもふわふわ、ふわふわした頭ん中じゃいまいち考えがまとまらなかった。
「なにがいいーかなぁ」
「悩み事相談とかしてあげようか?」
「悩み事ー?」
 そんなの罰ゲームにならないよーって、俺は笑って。
 智紀さんも笑ってたけど、
「なにかあった? 捺くん」
 って、目は妙に優しく俺を見つめてて。
「なにか……?」
「急に酒飲みたいって言いだしたから、なにかあったのかなってね。嫌なこととか――……」
 ないない、って手を振ってたんだけど、続いた言葉に――俺は笑ったまま固まった。
「恋愛関係とか?」
 それまで全然考えてなかったのに優斗さんの顔が思い浮かんで……、酔いが少し飛んだ気がした。
「……な、ないない!」
 振り切るように首を振って、固まってた顔の筋肉を動かす。
「い、いま付き合ってる子もいないし、全然女っ気ないんだよ、俺!」
 笑い飛ばして飲みかけの水割りをごくごく飲んだ。
 喉が熱くなって、同じように顔も熱くなってる。
 できれば酒がまわってるせいだって思いたいけど、どうだろう。
 あー、ありえねー!
 ――が、好きなんて――……。
「へぇ、全然気になる人とかいないの?」
「……うん」
「その間が気になるなぁ」
 ふふっと智紀さんが俺の顔を覗き込んでくるから、慌てて俯いてしまった。
 ……ていうか、んな態度とったら逆に怪しいよな。
 そう気づいたけど、顔を上げるのも気まずくって俯いたままグラスを弄る。
 カランとぶつかり合う氷を見ていたら、頭にあったかい感触。
 そっと髪をもてあそぶようにしながら智紀さんの手が俺の頭を撫でてた。
 くすぐったいような心地いいような。
 酔いも回ってるから、なんか頭ん中がふわんとする。
「全部言ってみたら?」
 まだ俺の髪は智紀さんに触れられたまま。
 優しく促されて、首を小さく横に振った。
「別に……本当になにもないし」
「そう? 今日電話もらったとき、様子がちょっと違うなぁって思ったんだけど」
「……別に」
 別に別に、って呟くけど、本当はちょっとだけぐらついてた。
 親友の和にも打ち明けられなかったこと。
 最初は松原のことで、いまは優斗さんで。
 優斗さんとヤるたびにモヤモヤして――本当は誰かに話しを聞いてほしかった。
 でも、だからって……智紀さんに……。
「じゃあ、罰ゲームってことで、俺の秘密を教えてあげる」
「……秘密?」
 手が離れて行って、代わりに落ちた智紀さんの声にふと顔を上げた。
 智紀さんは目を細めて、人差し指を口元に当てる。
「そ、俺のヒ・ミ・ツ。知りたい?」
 たぶん、一杯酒飲んだし、智紀さんも酔ってるはず。
 だから、きっとそのせいでいつもよりその目は潤んでて、なんかやたら艶っぽく見えて――……ドキッとした。
「俺のことなんか知りたくない?」
「そんなことない、けど……」
 秘密ってなんだろう? 
 俺なんかに言っていいようなことなのかな。
「でも……いいの?」
 心配に思ったことをそのまま訊き返したら、
「罰ゲームだ思えば別に。それに、わかる人にはわかることだしね」
って首を傾ける。
 ……わかる人にはって、なんだろう。
 そんなことを思いながら、まだちょっと戸惑いながら、智紀さんの秘密がなんなのか訊いてみた。
 智紀さんは「内緒だよ」って言って顔を近づけてくる。
 そして内緒話だからって俺の耳元に唇を寄せた。
 俺たちだけしかいないんだから、声を潜める必要もないんだろうけど。
 でもそんな秘密を分け合うような行為に、またちょっとドキドキして。
 そしてちょっと熱っぽい吐息が耳に吹きかかって――ちょっとゾクッとして。
 智紀さんの声が耳元で響いた。
「俺ね――バイなんだ」
「……」
 酒のせいで思考力が落ちてる俺は、その言葉の意味を理解するのにかなり時間がかかった。
 ゆっくり離れていく智紀さんが俺の顔を覗き込む。
「……ばい……?」
「バイセクシャルね」
「バイセク……」
 その言葉を何度か頭ん中でリピートして、するっと俺の手からグラスが落ちかけ、それを智紀さんが俺の手ごと掴んで止めた。
 でもそんなことよりも、そんなことより……っ。
「――あ、あのそれって」
「ま、言い方変えれば両刀とか? ようするに俺、男女関係なくイケるんだ」
 智紀さんはにっこりと爽やかに言い放った。


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