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62話 知らない顔

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 私は頭の中で、伝令兵の言葉を必死に整理した。

 ネクロマンサーに近ければ近いほどアンデッドが強い。ということは単純な話、ネクロマンサーが移動すれば、アンデッドの戦闘レベルも変動する。

――伝令兵は、こちらの方がアンデッドの数が多いと言っていたわ。
 では、もしもネクロマンサーが誰にもバレずにこちらに移動していたら……?

 この予想が当たれば、とんでも無いことになってしまう。そのため、私はヒールを終え、説明のために急いで軍司令官の元へと駆け始めた。

 すると、軍司令官に辿り着くまでの間に、何体ものアンデッドが襲ってきた。気のせいでなければ、先ほどよりも動きが俊敏になり、力が強くなっているように感じる。

 嫌な予感がどんどん高まってくる。そして、サンダーボルトを食らわせながら軍司令官の元に行き、おもむろに説明を始めた。

「軍司令官!」
「……っウィルキンス君! どうした!?」
「ネクロマンサーがこちらに向かっている可能性があります。先ほどより、アンデッドが強くなっていると感じませんか!?」
「――っ! まさかっ……。ネクロマンサーは塔付近の強いアンデッドに対抗できる騎士が少ないここを狙っているのか!?」
「このままじゃ、全滅してしまいます! 陣形や配置を変えないと!」

 そう叫ぶと、軍司令官があたりに聞こえるように声を発した。

「この声が聞こえる魔導士に命じる。今すぐ緑の光を空に打ち放て!」

――これが緊急時の合図ね。

 私も魔導士。そのため、この場に留まる第8騎士団と共に緑の光を空に打ち放った。
 すると直ぐに、塔に近い地点から、オレンジの光が打ち上がったのが見えた。どうやら、あちらにこちらの状況が伝わったみたいだ。

 そのことをきちんと把握し、私は改めてアンデッドに向き直り、本格的に戦い始めた。

 まずは、襲ってくるアンデッドにとにかく雷を落としまくった。だけど、アンデッドは心臓を貫かないと死ぬことは無い。いや、死なないと言うよりも、完全に動きを停止しないと言った方が正しいだろう。

 そんな事情もあり、雷を落としてアンデッドが倒れた瞬間を狙い、近くにいる騎士にアンデッドの心臓を貫いてもらっていた。

 しかしその後、神聖力を混ぜた雷を落とした場合、倒れてから起き上がらないアンデッドがいることを発見した。
 そのため、攻撃全てに神聖力を混ぜるようにしたところ、再び起き上がってくるアンデッドを減らすことが出来ていた。

 だが他の騎士と戦っているアンデッドは、倒れたとしても心臓に致命傷を与えていない場合、確実にすぐ起き上がってくる。そのうえ、ある問題が私たちに差し迫っていた。

――さっきまでより確実にアンデッドの強さが増しているわ。
 広範囲魔法を使えたらいいけれど、他の騎士も巻き込んでしまうから使えない……。
 ああ、何てもどかしいの!?

 そう思いながら周りの騎士を見ると、敵が強くなったことに加え疲労も相まり、苦しそうな顔をする騎士が増えていた。このままでは、体力の消耗で全滅しかねない。

 そのことに懸念を抱き、私は戦いながら仲間の騎士たちにヒールをかけようと考え、戦場を駆け回り始めた。

 ◇◇◇

 時間が経つごとに、本格的に誰の目から見ても段違いの強さのアンデッドになり始めた。
 それに、心臓を貫ききれなかったアンデッドが倒れてから復活するまでの速さも、戦闘開始時点の倍以上短くなっている。

――9割くらいの人にはヒールがかけられたと思うけれど、まだ全員にはかけきってないはず……。
 塔組が早く戻ってきてくれたら!
 他にヒールをかけていない人はっ……。

 そんなことを必死に考えながら、戦いと治療を同時に進めていると、ふとある1人の人物が目に入った。そして、ある違和感を抱いた。

 その人物が、アンデッドをどんどん倒しているからじゃない。疲れている様子を見せていないからでもない。その人物が一切どこにも怪我を負っていないからでもない。

――あの人……誰なの?

 私は騎士で治癒士として働き始めてから、団員の顔と名前はすべて覚えた。最近騎士団に所属することになった人物も、きちんと覚えているつもりだ。だからこそ、知らない人がいるなんて状況は有り得なかった。


 そしてそのことに気付いた瞬間、とんでも無く悪い予感がした。

――仮に私が知らない死んだ団員がいたとして、その団員を操って自分のところに連れて来たんだとしたら。
 それで、ネクロマンサーがその団員の服に着替えて、この場に紛れているんだとしたら……。
 そして今、目の前にいるこの彼が、そのネクロマンサーだとしたらっ……。

 そう考える間も襲ってくるアンデッドを倒しながら、私は周りにいる騎士たちに目を向けた。周りがこの状況を把握しているかを確かめたかったからだ。

 しかし、皆がアンデッドを倒すことに必死になっている。そのため、その見知らぬ顔の人物に気付いている団員は、誰一人としていないことが分かった。

 そのことが分かり、私は再び騎士団服を着た見知らぬ顔の人物を見た。するとその瞬間、ネクロマンサーと疑わしきその男と、ばっちり目が合ってしまった。

 心臓がドクンと震えた。
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