62 / 77
62話 知らない顔
しおりを挟む
私は頭の中で、伝令兵の言葉を必死に整理した。
ネクロマンサーに近ければ近いほどアンデッドが強い。ということは単純な話、ネクロマンサーが移動すれば、アンデッドの戦闘レベルも変動する。
――伝令兵は、こちらの方がアンデッドの数が多いと言っていたわ。
では、もしもネクロマンサーが誰にもバレずにこちらに移動していたら……?
この予想が当たれば、とんでも無いことになってしまう。そのため、私はヒールを終え、説明のために急いで軍司令官の元へと駆け始めた。
すると、軍司令官に辿り着くまでの間に、何体ものアンデッドが襲ってきた。気のせいでなければ、先ほどよりも動きが俊敏になり、力が強くなっているように感じる。
嫌な予感がどんどん高まってくる。そして、サンダーボルトを食らわせながら軍司令官の元に行き、おもむろに説明を始めた。
「軍司令官!」
「……っウィルキンス君! どうした!?」
「ネクロマンサーがこちらに向かっている可能性があります。先ほどより、アンデッドが強くなっていると感じませんか!?」
「――っ! まさかっ……。ネクロマンサーは塔付近の強いアンデッドに対抗できる騎士が少ないここを狙っているのか!?」
「このままじゃ、全滅してしまいます! 陣形や配置を変えないと!」
そう叫ぶと、軍司令官があたりに聞こえるように声を発した。
「この声が聞こえる魔導士に命じる。今すぐ緑の光を空に打ち放て!」
――これが緊急時の合図ね。
私も魔導士。そのため、この場に留まる第8騎士団と共に緑の光を空に打ち放った。
すると直ぐに、塔に近い地点から、オレンジの光が打ち上がったのが見えた。どうやら、あちらにこちらの状況が伝わったみたいだ。
そのことをきちんと把握し、私は改めてアンデッドに向き直り、本格的に戦い始めた。
まずは、襲ってくるアンデッドにとにかく雷を落としまくった。だけど、アンデッドは心臓を貫かないと死ぬことは無い。いや、死なないと言うよりも、完全に動きを停止しないと言った方が正しいだろう。
そんな事情もあり、雷を落としてアンデッドが倒れた瞬間を狙い、近くにいる騎士にアンデッドの心臓を貫いてもらっていた。
しかしその後、神聖力を混ぜた雷を落とした場合、倒れてから起き上がらないアンデッドがいることを発見した。
そのため、攻撃全てに神聖力を混ぜるようにしたところ、再び起き上がってくるアンデッドを減らすことが出来ていた。
だが他の騎士と戦っているアンデッドは、倒れたとしても心臓に致命傷を与えていない場合、確実にすぐ起き上がってくる。そのうえ、ある問題が私たちに差し迫っていた。
――さっきまでより確実にアンデッドの強さが増しているわ。
広範囲魔法を使えたらいいけれど、他の騎士も巻き込んでしまうから使えない……。
ああ、何てもどかしいの!?
そう思いながら周りの騎士を見ると、敵が強くなったことに加え疲労も相まり、苦しそうな顔をする騎士が増えていた。このままでは、体力の消耗で全滅しかねない。
そのことに懸念を抱き、私は戦いながら仲間の騎士たちにヒールをかけようと考え、戦場を駆け回り始めた。
◇◇◇
時間が経つごとに、本格的に誰の目から見ても段違いの強さのアンデッドになり始めた。
それに、心臓を貫ききれなかったアンデッドが倒れてから復活するまでの速さも、戦闘開始時点の倍以上短くなっている。
――9割くらいの人にはヒールがかけられたと思うけれど、まだ全員にはかけきってないはず……。
塔組が早く戻ってきてくれたら!
他にヒールをかけていない人はっ……。
そんなことを必死に考えながら、戦いと治療を同時に進めていると、ふとある1人の人物が目に入った。そして、ある違和感を抱いた。
その人物が、アンデッドをどんどん倒しているからじゃない。疲れている様子を見せていないからでもない。その人物が一切どこにも怪我を負っていないからでもない。
――あの人……誰なの?
私は騎士で治癒士として働き始めてから、団員の顔と名前はすべて覚えた。最近騎士団に所属することになった人物も、きちんと覚えているつもりだ。だからこそ、知らない人がいるなんて状況は有り得なかった。
そしてそのことに気付いた瞬間、とんでも無く悪い予感がした。
――仮に私が知らない死んだ団員がいたとして、その団員を操って自分のところに連れて来たんだとしたら。
それで、ネクロマンサーがその団員の服に着替えて、この場に紛れているんだとしたら……。
そして今、目の前にいるこの彼が、そのネクロマンサーだとしたらっ……。
そう考える間も襲ってくるアンデッドを倒しながら、私は周りにいる騎士たちに目を向けた。周りがこの状況を把握しているかを確かめたかったからだ。
しかし、皆がアンデッドを倒すことに必死になっている。そのため、その見知らぬ顔の人物に気付いている団員は、誰一人としていないことが分かった。
そのことが分かり、私は再び騎士団服を着た見知らぬ顔の人物を見た。するとその瞬間、ネクロマンサーと疑わしきその男と、ばっちり目が合ってしまった。
心臓がドクンと震えた。
ネクロマンサーに近ければ近いほどアンデッドが強い。ということは単純な話、ネクロマンサーが移動すれば、アンデッドの戦闘レベルも変動する。
――伝令兵は、こちらの方がアンデッドの数が多いと言っていたわ。
では、もしもネクロマンサーが誰にもバレずにこちらに移動していたら……?
この予想が当たれば、とんでも無いことになってしまう。そのため、私はヒールを終え、説明のために急いで軍司令官の元へと駆け始めた。
すると、軍司令官に辿り着くまでの間に、何体ものアンデッドが襲ってきた。気のせいでなければ、先ほどよりも動きが俊敏になり、力が強くなっているように感じる。
嫌な予感がどんどん高まってくる。そして、サンダーボルトを食らわせながら軍司令官の元に行き、おもむろに説明を始めた。
「軍司令官!」
「……っウィルキンス君! どうした!?」
「ネクロマンサーがこちらに向かっている可能性があります。先ほどより、アンデッドが強くなっていると感じませんか!?」
「――っ! まさかっ……。ネクロマンサーは塔付近の強いアンデッドに対抗できる騎士が少ないここを狙っているのか!?」
「このままじゃ、全滅してしまいます! 陣形や配置を変えないと!」
そう叫ぶと、軍司令官があたりに聞こえるように声を発した。
「この声が聞こえる魔導士に命じる。今すぐ緑の光を空に打ち放て!」
――これが緊急時の合図ね。
私も魔導士。そのため、この場に留まる第8騎士団と共に緑の光を空に打ち放った。
すると直ぐに、塔に近い地点から、オレンジの光が打ち上がったのが見えた。どうやら、あちらにこちらの状況が伝わったみたいだ。
そのことをきちんと把握し、私は改めてアンデッドに向き直り、本格的に戦い始めた。
まずは、襲ってくるアンデッドにとにかく雷を落としまくった。だけど、アンデッドは心臓を貫かないと死ぬことは無い。いや、死なないと言うよりも、完全に動きを停止しないと言った方が正しいだろう。
そんな事情もあり、雷を落としてアンデッドが倒れた瞬間を狙い、近くにいる騎士にアンデッドの心臓を貫いてもらっていた。
しかしその後、神聖力を混ぜた雷を落とした場合、倒れてから起き上がらないアンデッドがいることを発見した。
そのため、攻撃全てに神聖力を混ぜるようにしたところ、再び起き上がってくるアンデッドを減らすことが出来ていた。
だが他の騎士と戦っているアンデッドは、倒れたとしても心臓に致命傷を与えていない場合、確実にすぐ起き上がってくる。そのうえ、ある問題が私たちに差し迫っていた。
――さっきまでより確実にアンデッドの強さが増しているわ。
広範囲魔法を使えたらいいけれど、他の騎士も巻き込んでしまうから使えない……。
ああ、何てもどかしいの!?
そう思いながら周りの騎士を見ると、敵が強くなったことに加え疲労も相まり、苦しそうな顔をする騎士が増えていた。このままでは、体力の消耗で全滅しかねない。
そのことに懸念を抱き、私は戦いながら仲間の騎士たちにヒールをかけようと考え、戦場を駆け回り始めた。
◇◇◇
時間が経つごとに、本格的に誰の目から見ても段違いの強さのアンデッドになり始めた。
それに、心臓を貫ききれなかったアンデッドが倒れてから復活するまでの速さも、戦闘開始時点の倍以上短くなっている。
――9割くらいの人にはヒールがかけられたと思うけれど、まだ全員にはかけきってないはず……。
塔組が早く戻ってきてくれたら!
他にヒールをかけていない人はっ……。
そんなことを必死に考えながら、戦いと治療を同時に進めていると、ふとある1人の人物が目に入った。そして、ある違和感を抱いた。
その人物が、アンデッドをどんどん倒しているからじゃない。疲れている様子を見せていないからでもない。その人物が一切どこにも怪我を負っていないからでもない。
――あの人……誰なの?
私は騎士で治癒士として働き始めてから、団員の顔と名前はすべて覚えた。最近騎士団に所属することになった人物も、きちんと覚えているつもりだ。だからこそ、知らない人がいるなんて状況は有り得なかった。
そしてそのことに気付いた瞬間、とんでも無く悪い予感がした。
――仮に私が知らない死んだ団員がいたとして、その団員を操って自分のところに連れて来たんだとしたら。
それで、ネクロマンサーがその団員の服に着替えて、この場に紛れているんだとしたら……。
そして今、目の前にいるこの彼が、そのネクロマンサーだとしたらっ……。
そう考える間も襲ってくるアンデッドを倒しながら、私は周りにいる騎士たちに目を向けた。周りがこの状況を把握しているかを確かめたかったからだ。
しかし、皆がアンデッドを倒すことに必死になっている。そのため、その見知らぬ顔の人物に気付いている団員は、誰一人としていないことが分かった。
そのことが分かり、私は再び騎士団服を着た見知らぬ顔の人物を見た。するとその瞬間、ネクロマンサーと疑わしきその男と、ばっちり目が合ってしまった。
心臓がドクンと震えた。
47
お気に入りに追加
1,165
あなたにおすすめの小説
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。
そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。
そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。
「エレノア殿、迎えに来ました」
「はあ?」
それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。
果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?!
これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
モブですら無いと落胆したら悪役令嬢だった~前世コミュ障引きこもりだった私は今世は素敵な恋がしたい~
古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
恋愛
前世コミュ障で話し下手な私はゲームの世界に転生できた。しかし、ヒロインにしてほしいと神様に祈ったのに、なんとモブにすらなれなかった。こうなったら仕方がない。せめてゲームの世界が見れるように一生懸命勉強して私は最難関の王立学園に入学した。ヒロインの聖女と王太子、多くのイケメンが出てくるけれど、所詮モブにもなれない私はお呼びではない。コミュ障は相変わらずだし、でも、折角神様がくれたチャンスだ。今世は絶対に恋に生きるのだ。でも色々やろうとするんだけれど、全てから回り、全然うまくいかない。挙句の果てに私が悪役令嬢だと判ってしまった。
でも、聖女は虐めていないわよ。えええ?、反逆者に私の命が狙われるている?ちょっと、それは断罪されてた後じゃないの? そこに剣構えた人が待ち構えているんだけど・・・・まだ死にたくないわよ・・・・。
果たして主人公は生き残れるのか? 恋はかなえられるのか?
ハッピーエンド目指して頑張ります。
小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。
悪役令嬢? いえ私は、騎士になります。
桜咲 京華
恋愛
剣道の全国大会優勝者だった私の転生先は悪役令嬢クロウツィア。
生前に持っていた剣ダコも筋肉も無くなってしまったけど、もう一度強さを取り戻したい。子供の頃夢に見たようなヒーローになりたい。さっそく騎士団に乗り込んでやる!
婚約者であるウィンスター王子のことも私が守ってあげる。だから婚約破棄しても仲良くしてね。
脳筋系女子の騎士物語。
小説家になろうでも同時連載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる