探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

文字の大きさ
上 下
98 / 138
第3章 Iランク冒険者

3-10 Iランク上層探索⑥

しおりを挟む
 "何か"を突き破る感覚。

 それをきっかけに戻ってくる五感。

 広がる景色は、青空、広大な草原、所々が隆起して盛り上がった場所。

 そして何より、上層とは比べ物にならない、芳醇で満ち溢れた魔力の世界だった。

 近づく地面のほんの少し手前で、物理法則を無視して減速する。

 青白い転移陣の上に着地の瞬間、フッと空中で止まり、物理法則に則って着地した。

「……うぉおおお!! 何これ!? 凄え! 凄え!! 超凄え!!」

「アハハハ!! 面白かった!!」

「リオってばはしゃぎ過ぎ~。でも、シルル姉、凄かったね~!」

「確かに凄かったけど、突然浮いて、飛んだと思ったら、落ちるから僕は怖かったにゃ。あ~びっくりしたにゃ……」

「にゃははは!!」

 人生初の転移経験にそれぞれが、笑い、感動、恐怖、驚愕した。

 転移時の感覚は、まるで初めて遊園地の絶叫系アトラクションに乗った時の感覚に似ていた。

 具体的には、ジェットコースターの様な加速力で上昇し、フリーフォールの様な落下だった。

「って言うか、ラート君やナートは大丈夫なの? 中層って芳醇って言うか、満ち溢れているって言うか……兎に角、空気中の魔力が濃いんだけど……体調とかは問題無い?

 俺はなんか知らんけど、体調が良いって言うか、身体が軽くなった気さえするんだけど、みんなはどう?」

「僕は問題無いにゃ」

「にゃははは! オイラも問題ないにゃ! と言うか、むしろ気持ちがスッキリして、気持ち良いにゃ!」

「アタイは特に感じないけど……おかしいのかな?」

「シルル姉も? アタイも特に変わった感じは無いかな~?」

「そうか……種族によって感じ方が違うのかな?」

「そんなんじゃ無いの~。って言うか、リオの言った芳醇って言う魔力の表現て、どう言う事なの~面白過ぎでしょ」

「いや~何と言うか……俺も良く分かんないけど、理性よりも本能でパッと頭に思い付いたのが、芳醇って表現だったんだよ……疲れてんのかな?

 まあ、それより、一度戻って、乱戦の後片付けとかやっちゃって帰ろっか」

「そうにゃ、時間も良い感じだし、門が閉められる前に早く戻ろうにゃ!」

 再度、起こる幻想的な光景と浮遊感の後に"何か"を突き破る感覚の後、俺達は上層の乱戦場所に戻っていった。

「あぁ~それにしても俺達、かなりの数を殺ったね。状態が良くて、売れそうな死体あるかな?」

「う~ん、でも、かなりグチャグチャだよ~。もう、魔石だけ取って死体は、放置で良いんじゃ無い~? 自然に還ったり、共食いしたりするでしょ~」

「そうだなー。あっ! そういえば犬っぽい魔物とトルト魔物って畑を持っていたじゃん! 

 リオ、アンタのお婆ちゃんって薬師よね? 何か売れそうな素材とか分かんない?」

「そう言えば、犬っぽい魔物は、ポーションの材料になる『癒し草』を育ていたよ! 

 迷宮産の癒し草は、普通の物と比べて繁殖力が低く、効果が高いから高値で売れるはずだよ! 

 でも、トルト魔物の方は、近くで見ないと判断できないかな?」

「それじゃ、魔石回収を行なって魔物の畑に行くにゃ!」

「どの道、時間もないしそれが良いにゃ」

 俺達は手分けして魔石を回収した。魔物は5~60体くらいだと思っていたが、実際の死体は46体と少なかった。恐らくは、トルト魔物の自爆で吹き飛んだ奴等が含まれていたのだろう。

 その内、状態が良く無事に売れそうな魔石は、30個とさらに少なかった。そして、回収を終えた俺達は、橙色の犬っぽい魔物の畑へと移動した。

「魔石、結構残っていてよかった~。あ、でも、やっぱり迷宮専用の大きな鞄は必要だね~。

 今日は、普段の鞄でもなんとかなったけど、お金を稼ぐってなると大きい物は必須だね~」

「それじゃ、リオ、癒し草を採取しちまおうか」

「シルルちゃん、ちょっと待って!」

 畑に生えた癒し草を不用心に、引っこ抜こうとしているシルルが居た。俺は、そんなシルルを見て薬草採取のルールが分かっていないと判断し、行動に待ったをかける。

「あん? どうしたんだ? リオ」

「癒し草って言うか、薬師が使う野草全般に言える事なんだけど、採取には薬師ギルドで定めた規則があるんだ。

 これを守らずに採取すると、売る時に薬草の価値を下げられたり、罰金が発生したりするんだ。

 最悪の場合、希少性の高い物だと罰則もあるから、薬草採取には注意が必要なんだ」

「へぇーそんな事があるんだ。"知らなかった"わ」

「そこなんだよ。みんな、覚えておいて欲しいのは、"知らなかった"では、済まされない場合が多いんだ。

 成人前の子供や高齢過ぎる老人の場合だと、本人やその家族に厳重注意や警告で済む事が多いんだ。

 でも、大人やギルドに正式登録している俺達は、問答無用で罰せられるよ。もしも、間違ってやってしまった場合は、バレる前に処分した方が良いよ。

 その状態で売ったら、直ぐに足が付くからオススメはしないよ」

「お、おう……危なかったー。リオ、教えてくれてありがとうね」

 戸惑い、冷や汗をタラリとかくシルルは、汗を拭い笑う。

「流石、現役薬師の孫だね~! 頼りになる~」

「……うにゃ……リオ君、ごめん。やらかしたにゃ……」

 仲間達が感心している中、1人ションボリしているラートの手を見ると、根っこから引き抜いた癒し草が有った。どうやら、俺の説明前に既に抜いてしまったらしい。

「ラート君、そんなに気に病む事はないよ。さっきの例えはあくまでも、希少性の高い場合の話だからね。

 それに、迷宮内と迷宮外では、採取や売却時に発生する罰金や罰則は緩いから、大丈夫だよ。

 また、癒し草は、外と内の両方で割と自生しているから、元から罰則はとても軽いよ。迷宮産の癒し草は、罰則なんて無いし、精々売却時に価値が下がるだけだしね」

「はぁ……ラート、何やってるにゃ……」

「だから、ごめんって言っているにゃ」

 額に手を当てて下を見るナートに、ラートは困った表情で謝った。

「そんじゃ、リオ、アタイ等に正しい採取方法を実演を兼ねて、教えてくんない?」

「勿論だよ! 先ずは、野草全般だけど、調薬の際に根っこを使う機会はほとんどないんだ。

 だから、採取した後にもう一度、自生出来る様に地面に根っこを残して採取するんだ」

「地面に残すって事は、この葉柄? 茎? を切る感じ?」

 癒し草は、地面から直接、葉っぱが生えている様な見た目をしている。その為に、茎と葉柄の区別が付かないシルルは、困惑の表情を浮かべる。

「そう言う事。薬草全般は、葉柄と茎の区別がし難い見た目けど、採取時に共通して切る部分を知っていれば、簡単に見分けが付くんだ。

 みんな、地面と葉っぱの間に、ボコっと丸みを帯びて、膨らんでいる箇所が見える?」

「これにゃ、合っているかにゃ?」

「合っているよ、ラート君。これは、魔瘤(まりゅう)と呼ばれていて、薬草が成長する過程で出来る瘤(こぶ)なんだ。

 魔瘤には、薬草の成長に必要な栄養や魔力が十分に蓄えられているんだ。薬草の採取する目安は、この魔瘤がある事が採取時期なんだ。

 逆にこれが無い薬草は、まだまだ、成長過程の薬草だから基本的に採取を推奨していないんだ」

「って言う事は、もうこの薬草は採取して良いんだね~」

 メルルは、十分に大きく膨らんだ魔瘤がある癒し草を指差す。

「うん、その認識で良いよ。それで、採取時の注意なんだけど、魔瘤部分はとても繊細なんだ。

 だから、乱暴に引っこ抜いたり、千切ったりして少しでも痛むと、その薬草は2度と生えず、枯れる原因になるから、しっかり刃物で切るようにしてね。

 薬学上、魔瘤の上を葉柄、下を茎として扱っていて、切る場所は葉柄の少し上を刃物で切るんだよ。

 お金に余裕があれば、俺みたいに採取用の鋏を持参して、綺麗に切ってあげると再び生えやすいんだ」

「リオ、後で、その鋏を貸して欲しいにゃ。それと、その鋏ってどこで買えるかにゃ?」

 俺が使っている採取専用の鋏をナートは、物珍しそうな目で見る。

「アリア婆ちゃんは、薬師ギルドで売っているって言っていたよ。俺は、薬学を習う際に婆ちゃんから貰ったんだ。

 別に採取用の鋏は、この鋏しか使っちゃダメって規則は無いよ。だから、ミンク婆ちゃんの鍛冶屋で、お弟子さん達が作っている市販品を貰ってこようか?」

「つまり、鋏は、切れ味が良くて薬草を痛め無いように切る事ができれば、何でも良いわけね。今度、アタイが道具の修繕に行くついでに買うわ」

「うん、そうしてくれると、お弟子さん達のやる気や懐事情にも繋がるから、買ってくれると嬉しいな」

 ジレンやユリス、アミラの他に増えた祖母の弟子達を思い出して笑う。

 祖母曰く、俺が預けられた時期は、偶々弟子が独り立ちした後で少なかったそうだ。割と大きな店を4人でフル稼働とか無理があると思っていたが、そういう事情があった。

「リオ~癒し草を採取したけど、この後の処理は~?」

「そうだね……乾いた厚手の布で、採取した薬草を包んであげると良いね。採取後に良く問題が、他の荷物と一緒に入れたり、折れたりして、薬草が傷んだりする事なんだ。

 水が含んだ湿った布とかでも良いけど、あまりお勧めしないな。傷みが早まるから、出来るだけ乾いた厚手の布を推奨しているよ。

 まあ、最も、癒し草は状態が普通くらいでも、傷むまでに5~7日は持つと言われている。迷宮産なら、もう少し長い10日程度って言われているから、早々に傷む事もないよ。

 今日は、俺が厚手の布を持っているから、俺が責任を持って預かるよ」

「それじゃ、リオ、よろしくね~」

「それじゃ、次はトルト魔物の所に行くにゃ!」

 全員から癒し草を預かり、しっかりタオルで包み込んだ。そして、犬っぽい魔物の畑からトルト魔物の畑へ移動した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ドグラマ3

小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。 異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。 *前作ドグラマ2の続編です。 毎日更新を目指しています。 ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

ブルー・クレセンツ・ノート

キクイチ
ファンタジー
創世記楽園創造系ダーク(?)ファンタジー。 生命は創世記から抜け出せず、暫定状態にある不安定な世界を生き続けている。 理不尽な世界に翻弄され続ける彼らは、何を想い、悩み、どんな選択をしてゆくのか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...