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ケンカ
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しおりを挟む「……何だ?」
アランはもうアランでは無くなっていた。
「ぐぅをおおーーー!」
獣のようなアランの咆哮が響く。理性を保てていないのは明白だった。
獣は獲物を探すように辺りをキョロキョロと見渡していた。ヴァンは様子を見るために足下にある小石を鉄棒で叩き、アランに飛ばした。小石はアランの額に当たり流血させた。そこで獣と化したアランはようやく敵を認識する。
アランは、にぃっと口角を上げると一瞬でヴァンに接近した。ヴァンはとっさに鉄棒を突きつけたが、それはアランに触れる直前に砂のような元の砂鉄に戻されてしまった。ヴァンはアランの頭突きを胴にくらう直前に、腕を差し込み防御を行なった。波動で覆っていたが、それでも腕の骨は折れ、ヴァンは吹っ飛ばされた。
「くぅっ」
痛みに耐えるのは今度はヴァンの方であった。ヴァンは何とか立ち上がったが、アランの姿を見失っていた。視界が揺れる。アランの掌底がヴァンの側頭部を張り倒す。
ヴァンは脳震盪を起こしていた。めまい、頭痛、吐き気が襲った。それでも何とか立ち上がるが視界はぼやけ、足下はおぼつかなかった。
アランの攻撃は雑なものであったが、圧倒的な速度と威力の前にヴァンはなす術がなかった。最初のうちは何とか防御ができていたが次第に反応すらできなくなっていた。
打ち倒される度にヴァンは歯を食いしばり立ち上がったいたが、どうやら限界が来たようだった。地に伏せたままのヴァンにアランがゆっくりと近づく。二人の距離が三メートル程になった時、変化はまた現れた。アランが突如膝を落とし苦しみだしたのだ。変容していた肉体が元に戻っていく。脂汗を浮かべた顔には理性の色が見てとれた。アランは荒れた呼吸をゆっくりと整えると立ち上がった。超人的な力を駆使した反動か動きが緩慢であった。
「ヴァン、立てよ。まだやれるだろ?」
「……無理だよ」
「頑張れよ。決着をつけようぜ?」
アランが待っている。ヴァンは残された力を振り絞り立ち上がった。魔力も体力もとうに尽きていたが、それはアランも同様であった。
「……行くよ、アラン」
「おう、来い」
最後はシンプルに拳での決着になった。アランの拳がヴァンの顎を捉える。同時にヴァンの拳もまたアランの顎を捉えていた。
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*2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!
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