鬼とドラゴン

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後悔

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 目を覚ましたヴァンはベッドから出ることなく、昨日の事を思い返していた。ハナはどのような気持ちで、どのような言葉をアランに伝えたのだろうか。アランが羨ましかった。ハナがアランにだけ向ける表情や気持ちを一度でいいから、勘違いでも、いっときの気の迷いでもいいから自分に向けて欲しかった。アランはハナの気持ちをどう受け止めただろうか。いつかはこういう事になるだろうとわかってはいたが、それはまだ先の事だと思っていた。

 ヴァンは、はだけていた掛け布団を掴み頭までかぶった。寝具の中で丸くなりきつく目をつむった。祖父と朝の組手をする気も学校へ行く気にもなれなかった。


 どれほど時間がたったか、一度だけ部屋のドアをノックされたがヴァンは返事をしなかった。祖父の気配が遠ざかるのがドア越しに伝わる。

 結局ヴァンは学校へは行かなかった。昼前に自室から出ると祖父の姿はなかった。軽く食事をとってからヴァンは森へと向かった。自室にこもっていると気が滅入りそうだし、ハナとアランのいる学校へは今は行きたくないので、グルナイユのご主人を探そうと思ったのだ。森へと入るのも三回目ともなれば、柵を越えても緊張しなくなっていた。装備も軽装で、さほど大きくないザックとヒップバック、そしてサバイバルナイフを腰に装着していただけだった。警戒心もそこそこに森の中をかなりの速度で進んでいった。一度ロアー兄弟の小屋に寄った。休憩のためではなく、父親の写真を見たかったのである。

 小屋を出ると森の奥へと進んでいった。ろくに位置確認もしなかった。自暴自棄になっていたのかもしれない。気づくと藪の中へと踏み込んでいた。木の根が足にいちいち引っかかり、後にも先にも進みにくい。胸の高さまである枝葉もヴァンを動きづらくさせていた。

 ヴァンは次第にイライラしてきた。腰のナイフを鞘から抜き出し無造作振るうと枝葉は簡単に落ちた。ナイフを怒りのままに振り回し必要以上の枝葉を落としながらもヴァンは何とか藪から抜け出した。息が荒くなり、抑えようのない感情が心の中に渦巻いていた。

「クソっ!」

 叫びとともに握りしめていたナイフを狙いもつけずに投げつけた。投擲用でないナイフは不規則な回転をしながら飛んでいき、十五メートル程の所で樹木に弾かれて落下した。

 怒りとナイフを放出したヴァンは次第に情けない気分になっていた。肩を落としてうつむく。しばらくその姿勢で気持ちが落ち着くのを待った。

「あー……情けない」

 ため息をついた後、なんとなしに空を見上げると、どこまでも深い蒼が広がっていた。吸い込まれそうな程澄んでいて、実際ヴァンの心のモヤモヤした気持ちも少し溶けていったようだった。
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