鬼とドラゴン

DD

文字の大きさ
上 下
17 / 51
森へ

4

しおりを挟む
 一行はもう一度隊形を組み直し前進を再開させた。森を進むと木々のサイズがだんだんと大きくなっていくのにハナが気づいた。

「立派な木が多いね」

「この辺は伐採されることが少ないんじゃね? さすがの森林組合も魔獣が出る森に簡単には手が出せないだろうよ」

「そっかぁ」


「みんな、そろそろ着くよ」

 先頭を進むヴァンが前方に開豁地カイカツチを認めて後方に伝える。ほとなくして開豁地との境目に達した一行は立ち止まり、横に並んだ。そこから、とりあえずの目的地である小屋が見えた。小川が流れていて、その脇に立つ一本の大木。その枝を利用して、樹上に小屋は作られていた。

「へぇ、ツリーハウスか」

「そゆこと。秘密基地みたいで、男としてはロマンをい感じちゃうよね?」

「だな。親父達もなかなかやるな」

 男のロマンはわからないが、サクラは父親を少し見直した。母の尻に敷かれているだけの男ではないらしい。



「結構しっかり作られてんだな」

 アランが樹上の小屋にかけられた梯子にぐっぐっと体重をかけながら言う。

「うん。だけど所々傷んでいるから手入れしてやらないとね。とりあえず中に入ろう。ゆっくりするのはそれからだ」

「了解。隊長」

 アランは梯子に登り樹上に作られた足場に立った。そして見下ろす。


「ハナ、来いよ」

「うん。良い? ヴァン?」

「もちろん。気をつけて上がって」

 ハナが慎重に登っていく。上がりきる直前、バランスを崩し落下しそうになる。瞬間アランがハナの腕を掴み引き寄せた。

「大丈夫か?」

「……うん。ありがとう」

 落ちそうになったショックとアランに引き寄せられた驚きで、ハナの胸の鼓動は高鳴っていた。高潮しているであろう顔を見られたくなかったので、ハナは俯いた。その顔はアランからは見えなかっただろうが、下方からは良く見えた。ハナは確かに嬉しそうな、幸せそうな表情をしていた。ヴァンはもし自分が同じようにハナを助けたとして、あんな表情をしてくれるかと思うと胸がチクリと痛んだ。

「ヴァン」

 サクラが袖を掴む。

「ん?」

「私達も上がろう?」

 サクラの声は優しくて、ヴァンの心を落ち着かせた。

「うん」


 
 二人がけのソファが一つと、簡易ベッドが二つ、引き出し付きのデスクが一つ、部屋の中央には囲炉裏が作ってあり、火をおこせられるようになっていた。携帯式の野外コンロも持ってきていたが、せっかくなので囲炉裏を使うことにした。サクラが火をおこす役をかってでてくれたので、ヴァンとアランは部屋を物色することにした。ハナは手持ちぶさたになったのでサクラを手伝うことにした。

 サクラとハナは火種になる松ぼっくりを三つ程置き、その上に小枝を並べた。薪は良く乾燥された物が部屋の隅に積まれてあった。サクラは火をつけるためにマッチを取り出そうとしたが、ふと考えてやめた。その代わりに人差し指を火種に近づけて、指先に直径五センチ程の淡く光る円を出現させた。良く見ると円の中には図形や文字が浮かんでいた。魔法陣といわれるものだ。人間種族は魔法陣を生成することにより魔法を生み出すことができた。魔法陣に描かれる図形や文字で魔法の効果は決定する。今サクラが出現させている魔法陣は火系または炎系といわれる火を扱う陣である。

「へぇ、サクラちゃんは陣魔法を使えるのね?」

「ええ。鬼の魔法は使えないから、私は人間よりみたい」

 サクラは出力を弱めにして指先から、正確にいうと魔法陣の中央から火を発生させた。火はユラユラと揺れるような物ではなく、バーナーのように一点に集中していた。そのような炎形状になるようにサクラは陣を組んでいた。すぐに火種に火がつき小枝に広がっていった。

「上手ね。繊細だわ」

「ありがとう。でも兄さんはもっと上手よ」

「ホントに? すごいなぁ」

 ハナの目が輝くのを見てサクラはしまったと思った。兄を持ち上げてどうするのだ。ヴァンはハナさんが好きなのだから、ヴァンを褒めなくては。

「でもヴァンも凄いんだよ」

「へぇ、ヴァンも陣魔法が使えるの?」

「あ、いや……、陣魔法は使えないけど、その……凄いの……」

「ふふ、サクラちゃんはヴァンが好きなのね」

(ああっ、違うのに。いや、違わないけど違うのに……)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...