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森へ
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一行はもう一度隊形を組み直し前進を再開させた。森を進むと木々のサイズがだんだんと大きくなっていくのにハナが気づいた。
「立派な木が多いね」
「この辺は伐採されることが少ないんじゃね? さすがの森林組合も魔獣が出る森に簡単には手が出せないだろうよ」
「そっかぁ」
「みんな、そろそろ着くよ」
先頭を進むヴァンが前方に開豁地を認めて後方に伝える。ほとなくして開豁地との境目に達した一行は立ち止まり、横に並んだ。そこから、とりあえずの目的地である小屋が見えた。小川が流れていて、その脇に立つ一本の大木。その枝を利用して、樹上に小屋は作られていた。
「へぇ、ツリーハウスか」
「そゆこと。秘密基地みたいで、男としてはロマンをい感じちゃうよね?」
「だな。親父達もなかなかやるな」
男のロマンはわからないが、サクラは父親を少し見直した。母の尻に敷かれているだけの男ではないらしい。
「結構しっかり作られてんだな」
アランが樹上の小屋にかけられた梯子にぐっぐっと体重をかけながら言う。
「うん。だけど所々傷んでいるから手入れしてやらないとね。とりあえず中に入ろう。ゆっくりするのはそれからだ」
「了解。隊長」
アランは梯子に登り樹上に作られた足場に立った。そして見下ろす。
「ハナ、来いよ」
「うん。良い? ヴァン?」
「もちろん。気をつけて上がって」
ハナが慎重に登っていく。上がりきる直前、バランスを崩し落下しそうになる。瞬間アランがハナの腕を掴み引き寄せた。
「大丈夫か?」
「……うん。ありがとう」
落ちそうになったショックとアランに引き寄せられた驚きで、ハナの胸の鼓動は高鳴っていた。高潮しているであろう顔を見られたくなかったので、ハナは俯いた。その顔はアランからは見えなかっただろうが、下方からは良く見えた。ハナは確かに嬉しそうな、幸せそうな表情をしていた。ヴァンはもし自分が同じようにハナを助けたとして、あんな表情をしてくれるかと思うと胸がチクリと痛んだ。
「ヴァン」
サクラが袖を掴む。
「ん?」
「私達も上がろう?」
サクラの声は優しくて、ヴァンの心を落ち着かせた。
「うん」
二人がけのソファが一つと、簡易ベッドが二つ、引き出し付きのデスクが一つ、部屋の中央には囲炉裏が作ってあり、火をおこせられるようになっていた。携帯式の野外コンロも持ってきていたが、せっかくなので囲炉裏を使うことにした。サクラが火をおこす役をかってでてくれたので、ヴァンとアランは部屋を物色することにした。ハナは手持ちぶさたになったのでサクラを手伝うことにした。
サクラとハナは火種になる松ぼっくりを三つ程置き、その上に小枝を並べた。薪は良く乾燥された物が部屋の隅に積まれてあった。サクラは火をつけるためにマッチを取り出そうとしたが、ふと考えてやめた。その代わりに人差し指を火種に近づけて、指先に直径五センチ程の淡く光る円を出現させた。良く見ると円の中には図形や文字が浮かんでいた。魔法陣といわれるものだ。人間種族は魔法陣を生成することにより魔法を生み出すことができた。魔法陣に描かれる図形や文字で魔法の効果は決定する。今サクラが出現させている魔法陣は火系または炎系といわれる火を扱う陣である。
「へぇ、サクラちゃんは陣魔法を使えるのね?」
「ええ。鬼の魔法は使えないから、私は人間よりみたい」
サクラは出力を弱めにして指先から、正確にいうと魔法陣の中央から火を発生させた。火はユラユラと揺れるような物ではなく、バーナーのように一点に集中していた。そのような炎形状になるようにサクラは陣を組んでいた。すぐに火種に火がつき小枝に広がっていった。
「上手ね。繊細だわ」
「ありがとう。でも兄さんはもっと上手よ」
「ホントに? すごいなぁ」
ハナの目が輝くのを見てサクラはしまったと思った。兄を持ち上げてどうするのだ。ヴァンはハナさんが好きなのだから、ヴァンを褒めなくては。
「でもヴァンも凄いんだよ」
「へぇ、ヴァンも陣魔法が使えるの?」
「あ、いや……、陣魔法は使えないけど、その……凄いの……」
「ふふ、サクラちゃんはヴァンが好きなのね」
(ああっ、違うのに。いや、違わないけど違うのに……)
「立派な木が多いね」
「この辺は伐採されることが少ないんじゃね? さすがの森林組合も魔獣が出る森に簡単には手が出せないだろうよ」
「そっかぁ」
「みんな、そろそろ着くよ」
先頭を進むヴァンが前方に開豁地を認めて後方に伝える。ほとなくして開豁地との境目に達した一行は立ち止まり、横に並んだ。そこから、とりあえずの目的地である小屋が見えた。小川が流れていて、その脇に立つ一本の大木。その枝を利用して、樹上に小屋は作られていた。
「へぇ、ツリーハウスか」
「そゆこと。秘密基地みたいで、男としてはロマンをい感じちゃうよね?」
「だな。親父達もなかなかやるな」
男のロマンはわからないが、サクラは父親を少し見直した。母の尻に敷かれているだけの男ではないらしい。
「結構しっかり作られてんだな」
アランが樹上の小屋にかけられた梯子にぐっぐっと体重をかけながら言う。
「うん。だけど所々傷んでいるから手入れしてやらないとね。とりあえず中に入ろう。ゆっくりするのはそれからだ」
「了解。隊長」
アランは梯子に登り樹上に作られた足場に立った。そして見下ろす。
「ハナ、来いよ」
「うん。良い? ヴァン?」
「もちろん。気をつけて上がって」
ハナが慎重に登っていく。上がりきる直前、バランスを崩し落下しそうになる。瞬間アランがハナの腕を掴み引き寄せた。
「大丈夫か?」
「……うん。ありがとう」
落ちそうになったショックとアランに引き寄せられた驚きで、ハナの胸の鼓動は高鳴っていた。高潮しているであろう顔を見られたくなかったので、ハナは俯いた。その顔はアランからは見えなかっただろうが、下方からは良く見えた。ハナは確かに嬉しそうな、幸せそうな表情をしていた。ヴァンはもし自分が同じようにハナを助けたとして、あんな表情をしてくれるかと思うと胸がチクリと痛んだ。
「ヴァン」
サクラが袖を掴む。
「ん?」
「私達も上がろう?」
サクラの声は優しくて、ヴァンの心を落ち着かせた。
「うん」
二人がけのソファが一つと、簡易ベッドが二つ、引き出し付きのデスクが一つ、部屋の中央には囲炉裏が作ってあり、火をおこせられるようになっていた。携帯式の野外コンロも持ってきていたが、せっかくなので囲炉裏を使うことにした。サクラが火をおこす役をかってでてくれたので、ヴァンとアランは部屋を物色することにした。ハナは手持ちぶさたになったのでサクラを手伝うことにした。
サクラとハナは火種になる松ぼっくりを三つ程置き、その上に小枝を並べた。薪は良く乾燥された物が部屋の隅に積まれてあった。サクラは火をつけるためにマッチを取り出そうとしたが、ふと考えてやめた。その代わりに人差し指を火種に近づけて、指先に直径五センチ程の淡く光る円を出現させた。良く見ると円の中には図形や文字が浮かんでいた。魔法陣といわれるものだ。人間種族は魔法陣を生成することにより魔法を生み出すことができた。魔法陣に描かれる図形や文字で魔法の効果は決定する。今サクラが出現させている魔法陣は火系または炎系といわれる火を扱う陣である。
「へぇ、サクラちゃんは陣魔法を使えるのね?」
「ええ。鬼の魔法は使えないから、私は人間よりみたい」
サクラは出力を弱めにして指先から、正確にいうと魔法陣の中央から火を発生させた。火はユラユラと揺れるような物ではなく、バーナーのように一点に集中していた。そのような炎形状になるようにサクラは陣を組んでいた。すぐに火種に火がつき小枝に広がっていった。
「上手ね。繊細だわ」
「ありがとう。でも兄さんはもっと上手よ」
「ホントに? すごいなぁ」
ハナの目が輝くのを見てサクラはしまったと思った。兄を持ち上げてどうするのだ。ヴァンはハナさんが好きなのだから、ヴァンを褒めなくては。
「でもヴァンも凄いんだよ」
「へぇ、ヴァンも陣魔法が使えるの?」
「あ、いや……、陣魔法は使えないけど、その……凄いの……」
「ふふ、サクラちゃんはヴァンが好きなのね」
(ああっ、違うのに。いや、違わないけど違うのに……)
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