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第40話 鬼ヶ岳登山、「最強コラボ、富士山✖西湖」編

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 隼人の、出発進行~! の掛け声と共に、鬼ヶ岳を目指して登山口を出発した山楽部御一行。先ずは、湖畔周辺に有る民家の中の舗装道路を歩いて行く。そして10分ほど歩いて民家を抜けて行くと、未舗装の林道となり静かな山林の中を歩いて行く御一行達。

「隊長! 民家の中を抜けたら、物静かな林道を歩く様に成りましたね。この先の堰堤広場に僕達は向かっているんですね。その堰堤と言う構造物は水を堰き止めているからには、沢山の水が貯水されているんですか?」

 御一行達は、先ずは東入川堰堤広場を目指して歩いているのだが、その堰堤と言う構造物が山林の中で、どんな役割を果たしているのか気に成った隼人が先生に質問を投げ掛ける。

「おお~星野は、山の中に造られている゛堰堤︎︎ ︎︎ ︎︎゛がどんな役割を果たしているのか気に成ったんだね。堰堤は山の中に来ないと見られないものだからね、気に留めた君は大したものだよ。あと10分も歩けば堰堤広場に到着するから、着いたらすぐに堰堤を見ながら説明をして上げるよ」

 問い掛けて来た隼人に対して、先生は堰堤が見える場所に行って説明をすると答えるのだった。そして、10分ほど歩いて行くと前方に開けた広場が見えて来て、その広場には高さ8mほどのコンクリートの構造物が有ったのだ。

「これが堰堤と言う構造物なんですね。なかなかに大きくて、一見するとダムの様にも見えますよ。堰堤の中央部分からは水が滝の様にして流れ落ちていますね。」

「さあ、堰堤広場に着いたよ。この場所には東入川が流れているが、見たくれはコンクリートで築かれたダムの様な感じ何だか、実際のところは水が貯水されている訳では無いんだ。ここから登山道が始まっていて上に行くと堰堤の上部が見れるから、先ずは登山道を登って行こうじゃないか!」

 その全貌を見るには、登山道を登り上部から見る事だと告げた先生は、メンバー達を連れて堰堤の麓から始まる登山道を登って行き、堰堤上部を見下ろす場所へと辿り着く。

「さあ見てごらん、ここから堰堤の上部を見渡す事が出来るよ。見ての通り、上部は平坦に成っていて水の流れは有るものの、ダムの様に水が貯められている訳では無いんだよ。
 ダムと堰堤の違いはと言うと、水を貯めておくのがダム、上部が平坦に成っていて土砂や水が堆積されているのが堰堤と言う事なんだよ」

「隊長! 堰堤の上部に来てみて分かりましたが、この構造物は明らかに流れて来る土砂や水を堆積させる目的で作られていますね。だけど、何で土砂や水を堆積させる為に作ったんでしょうか? 何か理由が有ると思うのですが」

 堰堤の上部に来てみて分かった事。それは、ダムの様に水を貯水する目的で作られているのでは無いと言う事だった。その大きな違いに首を捻りながら、考え込む隼人。一緒に見て居た女子達も、何故なの? と言う表情を見せて考え込んでしまう。

「そうね隼人の言う通り、土砂や水を堆積させる為に作られたのが何故なのか疑問に思うわ。ダムは水を貯水して、その水を飲料水や農業用水、発電する為にも使われたりするから用途がハッキリしていると思うのだけど」

「ダムの様に用途がハッキリとしていると建設した意味が分かるのだけど、堰堤の様に、ただ土砂や水を貯めておくのは用途が分からないわ。何故、山の中に造る必要性が有ったのかしら?」

「ん~と、堰堤の役割って何なのか、どうゆう用途が有るのか皆目見当が付きませんの。隊長! 堰堤の役割と用途を、わたくし達に教えてくれませんか?」

「何だか、社会科見学のノリに成って来たね。これも山の中に来たからこそ見て体験出来た事だからね。良い機会たがら君達に分かる様に説明して上げよう」

「そうですね、社会科見学の様に成って来ましたね。勉強の為にも、堰堤の説明を宜しくお願いします!」

 目の当たりした堰堤の全貌を見て土砂や水を堆積させている建造物だと言う事が分かり、メンバー達から堰堤の役割と用途を教えて欲しいと進言された先生は、こくりと頷くと話し出した。

「それでは、説明しましょう。堰堤と言う建造物は一見、ダムの様にも見えるが、ダムとは違い水を貯水する目的では造られていません。ですので、堰堤は飲み水を供給するとか、発電用水に使うとかの用途には使っていません。
 では、何の為に造られているのか? それは、上流から流れてくる土砂や水を堰き止めて堆積させる為に造られた建造物なのです」

「そうか~堰堤は山の上流から流れて来る土砂や水を堰き止める為に造られてるのか。でも、何でわざわざ川の途中で堰堤を造ったのでしょうか? この様な障害物が無い方がスムーズに水が流れて良いと思うのですが」

「今、星野が言った通り、川に障害物が無い方が良いと思ってしまうのが普通だろう。だが、あえて川の途中に障害物を造るのは意味が有るんだよ」

「あえて川の途中に障害物を造る意味とはどのような事だろう。……そうすると土砂や水の流れを、あえて遅くする為に造ったと言う事なのかな」

「その通り! そのあえて遅くさせる為に造ったと言う事だよ。川は雨が大量に降ると如何なるかな? はい! 杉咲さん答えてみてください」

 突然、問い掛けられた華菜は、ハッとして驚いた表情を見せながら暫くの間、考え込む。そして、答えが分かった様で口を開いた。

「う~んと、沢山の雨が降ると川は増水します。だから、水源の源と成る山中でも当然の事ながら水が増えます。そうすると、水の勢いで山の土砂も削られて流れて来ます」

「そう、正解です! 大量の雨が山中に降ると、水と一緒に大量の土砂が一気に下流へと押し流されます。その大きな土砂の流れの事を゛土石流゛と言います。堰堤は、その土石流を堰き止めて土砂災害を防ぐ役割を持っているんだよ」

「そう言う事なんですか。堰堤は大雨の時に発生する土石流を途中で止めて、災害を未然に防ぐ役割を担っていると言う事なんだ。そうすると先ほど通って来た民家は、この堰堤によって土砂災害から守られているんですね」

 華菜は、堰堤が下流の民家を土砂災害から守る為に造られた事を知り、感心した表情を見せていた。

「堰堤は、山中に入ると川沿いや谷に成った所に見られる事が多い。土砂災害から下流の民家を守る役割が有る事を知れた事は、登山に来たからこそだな。登山に来て社会勉強が出来たと言う事だよ」

「僕達は、登山に来て社会科見学が出来たって言う事ですね。今日は思いもよらず、災害から身を守っていてくれる建造物を知れて良かったですよ。皆さん、今日の登山で今まで知り得なかった事が分かり、物知りに成れましたね~」

「そうね、私達は登山に来て社会科見学も出来るなんて、思いもよらなかったわよ。下流の民家の人達を守る為に、この様な大きな構造物が有るのを知れた事で、自分の知識が豊富に成って良かったわ!」

「こんな山奥に人命を守る為の建造物が有ったなんて、今まで知らなかったわ。登山に来たからこそ知り得た事実だと言う事ですね。今日は社会勉強も兼ねた登山が出来て、わたくしも良かったですの」

 隼人と友香里、穂乃花も、堰堤と言う構造物が土砂災害を防いで人名を守っている事を知り、今まで知らなかった知識を得られた事で社会勉強に成ったのを嬉しく思って居たのだった。

 ※実際に、下流に有る根場地区は昭和41年に台風の大雨により土石流が発生し、多くの家屋が押し流されてしまい多数の死傷者を出した災害が有りました。その後、  この土石流災害を繰り返すまいと建設されたのが東入川の堰堤なのです。

「何だか、社会勉強を兼ねた登山に成ったね。まあ、これも登山に来たからこそだと言う事だね。では、勉強の時間を終わりにして、次なる経由地の雪頭ヶ岳に移動するとしようか。これから先の登山道は急斜面が続く上にロープが掛けられた岩場の箇所も有る。
 各自が足元に十分注意を払いながら怪我の無い様に登山道を登って行ってください。それでは皆さん、出発しましょう!」

〚はい! 次なる経由地の雪頭ヶ岳に向けて出発します~!!〛




 登山途中に有った‪゙堰堤‪゙と言う構造物の勉強を終えて次の経由地、雪頭ヶ岳に向けて、掛け声を上げて歩き始めた山楽部御一行。ここから雪頭ヶ岳までは、急斜面や岩場が有って難度の高い登山道を登るとあって緊張した面持ちで歩いて行く。

〔と、ここで山楽部御一行が目指す山、鬼ヶ岳の説明を致しましょう。鬼ヶ岳は山梨県富士河口湖町に属する標高1738mの山です。富士五胡の西湖北側の御坂山地の山で、山頂からは360°の大展望が開けます。
 北には甲府盆地を間に挟み八ヶ岳や奥秩父の山々、西には南アルプス山脈、南には西湖を眼下に挟み雄大な富士山、東には河口湖や山中湖の展望を望む事が出来ます。鬼ヶ岳とすぐ南側に有る雪頭ヶ岳の尖った山頂部が、東西方向から見ると2本の角の様に見える事から鬼ヶ岳の名前が付いたと言われています。
 また鬼ヶ岳山頂には、鬼の角の様な1本岩が付き立っており、その特徴的な山頂からも、この鬼ヶ岳の名前が付いたのではと思われる〕

 登山道を歩き始めるや否や、急坂の樹林帯をひたすら登って行く御一行達。この一帯はブナの原生林が生い茂り日が遮られる為、登山道は昼間でも薄暗く成ってしまうほどである。その薄暗い原生林の中の急な登りは精神的にも疲れが増して来る為、登山者の疲労度は高く成って来る。
 その襲い掛かる疲れと戦いながらも必死に急坂の登山道を、ゆっくりとした足取りでコツコツと登って行く御一行達。そして樹林帯の登山道を登り始めて40分の時間が経った頃、先頭を行く山岸先生が足を止めてメンバー達の方に振り向いた。

「皆んな聞いてくれ! 登山口を出発してから1時間弱が経った。この辺で1度、休憩を取るとしよう。皆んな、歩みを止めてザックを降ろして休んでくれたまえ」

 先生から休憩を取る事が告げられて、フウ~っと息を付きながらザックを降ろして休憩に入るメンバー達。ここまで登って来た急坂の登山道の洗礼を受けて、中々に疲れ切った表情を見せて居たのだった。

「フウ~初っ端から急な登山道で、ここまで登って来るのに汗だくに成ってしまいましたよ。登り始めの1時間位は、未だ身体のウオーミングアップ時間だから、この急登は肌身に染みる辛さでしたね。早速、水分補給をしっかりと取らなきゃな」

 隼人は、出だしからの急坂登山道の洗礼を受けた為、汗だくに成って疲労困憊の様で、すかさずマイドリンクを取り出してゴクゴクと飲んで行く。

「おいおい星野よ! 余り多く飲んでしまうと、かえって身体がだらけてしまうから、ほどほどに飲む様にな。飲む量は少なめにして動ける様な身体作りを、今後はして行こうじゃないか。まあ、例えて言うなら省エネで登れる身体を作ると言う事だよ」

「えっ、省エネで登れる身体作りをして行くと言うんですか。そうすると、少ない水分補給の量で登れ! と言う事に成りますよね。でも、汗をかいた分の水分補給をしなければいけないと思うのですが」

「確かに汗をかいた分の水分補給は大事だ。だが汗を沢山かくと、休憩をした時に水分を多く取り、その後は汗が引いて身体が急激に冷やされてしまうんだ。そうすると、せっかく歩く事で温まった身体の動きが元に戻ってしまうんだよ」

「はい、隊長の言っている事はよく分かりました。汗をかき過ぎると水分補給の量も多く成り、後で汗が引いた時は身体も固く成るから、疲れも出てしまうんですね。でも山を登っていると、身体に負荷が掛かるから汗をかいてしまうのは仕方が無いと思います。だけど、汗のかく量を少なくして登れた方が良いのですね」

「そう、汗をかく量を少なくして登れる身体作りをして行くんだよ。水分は多く取れば摂れば摂るほど、運動した後には多く出て来てしまうんだよ。だから、休憩の時に飲む水の量を少なくするんだよ。
 具体的に言うと1回の休憩で飲む水分量は、ペットボトルの量で言うなら四分の一の150ml位が良いだろう。私はその様な少ない水分量でいつも登っているんだよ」

 先生は自分のペットボトルを手に取り飲み終えると、飲んだ水分の量を皆んなに見せて説明をするのだった。そのあまりにも少ない水分補給量に驚くメンバー達。

「隊長は、そんなに少ない量の水分しか摂っていなかったんですね。あたしなんて、1回の休憩で半分以上は飲んでしまっているわよ」

「私も、1回の休憩で半分位は飲んでしまっているわ。そんな少ない水分補給で山登りが出来る隊長って、超人じゃないのかしら」

「隊長が、そんな少ない水分量で山を登れているなんて驚きの一言ですの。一体、如何やったら、少ない水分量で登れる様になるのか教えてほしいですわ」

「ほら! 女子達も驚いて居ますよ。少ない水分量で登る秘訣を是非とも教えてください、隊長!」

 女子達も、先生の少ない水分補給量に唖然とした表情を見せる。その省エネで登れる極意を教えて欲しいと懇願された先生は、得意げな顔を見せながら口を開く。

「そんなに私の極意を教えて欲しいのかい? 良いだろう、他ならぬ可愛いい君達の為に教えて上げよう。それはね簡単な事なんだよ。ただ単に、休憩の時に水分補給の量を少なくして登る事をして行けば良い。
 それを繰り返して行けば必然と少ない水分量で登れる様に成り、汗の出る量も少なく成るんだ。それによって、省エネで登れる身体作りが出来上がると言う訳だ。それにより一つ利点が得られる。少ない水分量で登れば山に持参して行く水の量も減ると言う事に成り、荷物も軽く済む。
 山には水道が有る訳では無いからね。水は小屋や川が有る場所の限られた所でしか補給出来ないから、山では貴重な物なんだ。だから水を大事にすると言う観点からも、省エネで登れる様な身体作りが必要に成ると言う事なんだよ」

「そう言う事ですか、ただ単に水分量の補給を最小限に済ませて登って行くうちに、強靭な肉体が出来上がって行くんですね。それに、山では貴重な水を大事に出来て、おまけに荷物の軽減にも繋がるなんて、一石二鳥と言う事なんですね!」

「隊長の言う事が本当なら、これは少ない水分量を取る事をして行き、強靭な山登りの身体を作り上げて行った方が良いと言う事ね。あたしは、次の休憩から実践して行く様にするわ!」

「華菜ったら、凄い変わり身の早さだわね。でも、それによって登山を行って行く上で良い事が自分に返って来るんだもの、これは実践して行った方が良いわよ。うん、私も次の休憩からは少ない水分量を摂って行く様にするわね」

「隊長は今まで少ない水分量で登って来たお陰で、その強靭な山の身体が形成されたのですね。わたくしも見習って行く様にしますの。未だこの休憩では、水分補給をして無かったですから早速、今から実践して行く様にしますわ」

 先生から省エネで山を登る身体作りの秘訣と、その利点を聞いたメンバー達は、一様に関心した表情を見せる。そして、この山登りの休憩から直ぐに取り入れて行く事を決心するのだった。

「よしよし、山を登る為の強靭な身体作りの秘訣が君達に伝わった様だね。早速、実践して行こうと言う心がけが素晴らしいぞ。……あっ! 話が長く成って、もう10分も経ってしまっているよ。各自、行動食と水分補給を速やかに完了してくれたまえ」

 水分補給の事の話で盛り上がり何時の間にか時間が経ってしまい、慌てて行動食と水分補給を済ませた御一行達は、速やかにザックを装着して身支度を終えたのだった。

「皆んな、ザックの装着は完了したな。では、登山を再開しましょう。ここから雪頭ヶ岳までは、あと40分ほど登れば到着する。ここから先も樹林帯の急登が続くから気合を入れて登って行って欲しいです。それでは皆さん、出発しましょう!」

〚はい! 雪頭ヶ岳を目指して出発します~〛




 身の有る、省エネで登れる身体作りの話を終えて、休憩を終わりにして歩み出した山楽部御一行。次なる中継地の雪頭ヶ岳まで続く樹林帯の、剥き出しに成っている木の根っこに気を付けながら一歩一歩慎重に登って行く。
 引き続きブナの原生林が続き薄暗いながらも、時折差す日光の木漏れ日を感じながら山頂を目指して行く御一行達。

「隊長! 今、登っている登山道に有る樹木は、何と言う名前なんですか? 開いた葉が鮮やかな緑色をしていて、まさに森林浴って言う感じが体感出来ますね!」

 新緑が鮮やかな木々から自然のパワーを貰って感銘を受けた華菜は、この樹木の名前が気に成った様で先生に問い掛けて来た。

「そうか、森林浴を体感出来ている様だな。今、通っている原生林はブナの木なんだよ。ブナの木は雄大で美しい姿から[森の女王]と呼ばれているんだ。夏には広葉樹の葉が鮮やかな緑色に染まり、その森林浴を楽しむ為に山にハイキングに訪れる人も多いんだよ」

「そうなんですか、ブナの木は[森の女王」と呼ばれているんですね。これだけ緑鮮やかな葉を沢山持って美しい樹姿をしているから、森の女王と呼ばれるのも頷けますよね」

「そう、森の女王と呼ばれるだけあって美しい樹姿をしているよね。その美しく優雅な姿に人は癒しを受けながら登山を楽しむ事が出来るんだよ。それにブナの木は水を好み、降った雨をしっかりと身に受け止めて水を貯えるんだ。洪水や土砂災害から人々を守ってくれる[緑のダム]の役割も果たしているんだよ」

「へえ~ブナの木は、洪水や土砂災害から人々を守ってくれるんだ。本当に皆んなの守り神のとして森に君臨しているんだ。まさに゙女王様゙と言う名前に相応しい活躍をしてくれてるのね。……でも、森の女王と呼ばれているのに、樹木の名前が゙ブナ゙と言う何とも地味な名前が付いているのかしら。もっと、可愛らしい派手な名前にすれば良いと思うのに」

 華菜から、森の女王と呼ばれるのに名前が地味な゙ブナ゙と言う名前に疑問を投げかける。その問い掛けを聞いた先生は突然、歩くのを止めて足を止めた。

「諸君! 突然だが、ここで足を止めて上の方に目をやり、ブナの木を見てくれたまえ!」

 急に立ち止まった先生は、上を向いてブナの木を見る様に! と告げる。突然の指示に困惑しながら、言わる通りブナの木に目を向けるメンバー達。

「今から、杉咲から問い掛けが有った‪゛ブナ゛と言う名前の由来を皆んなに教えて上げよう。今から暫くの間、上を向きブナの木を静観しながら、耳を済ませて欲しい。時折、風が吹いた時に、ブナの木を駆け抜けて行く音を聞き取って貰いたいんだ」

 先生から指示が有った通り上を向きブナの木を見つめながら、静かに耳を済ませて行く。すると、その静観して居るメンバー達を目がける様にして、上空から風が吹いて来た。

⦅ヒューヒュー! ヒュヒュー! ヒューヒュヒュヒュヒュー!!⦆
 上空から吹いて来た風は、ブナの林を揺らす様にして吹き抜けて行く。すると風が通り抜けて行く時に音が鳴り出した。

⦅ブ~ウ、ブ~ウ! ブウ~ン、ブウ~ン!! ブーン、ブーン、ブーーン!!!⦆
 風に揺らされたブナの木から、ブーン、ブーンと特徴ある音色が聞こえて来たのである。

「ほら皆んな、ブナの木を風が通り抜けて行く時に、特徴ある音色が聞こえて来るのが分かるだろう!」

 先生から指摘を受けたメンバー達は、更に耳を済ませて聞き入って行く。すると、どうゆう音を奏でているのか、いち早く分かった穂乃花が口を開いた。

「わたくし、風が吹き抜けて行った時の奏でている音が分かりましたわ。ブーン、ブーンと言う様に聞こえました。皆さんも、その様に聞こえませんでしたか?」

「うん、私も風が吹き抜けて行った時に、ブナの木から音がするのが分かったわ。確かにブーンと言う様な音が聞こえたわね」

「僕も、ヒューヒューと音を出していた風が、ブナの木を通り過ぎる時に音色を変えてブーンと言う音に変化したのが分かりましたよ!」

「そうね、確かにブナの木を風が通り過ぎて行く時には、ブーンと言う音に変わって聞こえたわよ。……もしかして、このブーンと聞こえた事に名前の由来が隠されているのかしら。如何なんですか? その辺の所を教えてください、隊長!」

 どうやらメンバー達は、風がブナの木を吹き抜けて行く時に奏でていた音を、ハッキリと確認が出来た様だ。その音は「ブーン」と言う様に聞こえた様である。

「皆んな、どうやら奏でていた音を聞き取れた様だね。そう、ブナの木は、風が通り抜ける時にブーンと言う音を発するんだよ。その事から[ブーンと鳴る木]とも言われているんだ。その[ブーンと鳴る木]から[ブナの木]と言う名前が付けられたと言われているんだよ」

「そうなんですか! 風が吹き抜ける時にブーンと鳴る事から、ブナの木と名付けられたんですね。あたしは、そんなふうな名前の由来が有ったなんて驚きましたよ」

「耳を澄まして聞いて居ると、確かにブーンと言う様に聞こえますよね。木々が奏でていた音が、そのまま木の名前に取り入れらるなんて面白いですね」

「ブーンと鳴る木! を縮めた感じにして[ブナの木]と名付けられたと言う事だったんですね。付けられた名前には、やはり意味が有るんですね」

「わたくし、最初に木々から聞こえて来た時は、何か虫が飛んでいるのかな? と思っていました。
 だけど耳を済ませて聴いて居たら、ブーンと言う音は木々から発せられてるのが分かりましたの。まさか、この木々が奏でる音から木の名前が付けられてる何て、思いもよらなかったですわ」

 名前には必ず付けられた意味が有ると言う事を知り、メンバー達は感心した表情を見せながら、ブナの木をジッと眺めているのだった。

 ※ブナの木に風が通り抜ける時に、「ブ~ン」と言う音を発するのです。その事から「ブーンと鳴る木」から「ブナの木」と言い方を変えて名前が付いたのだそうです。    

「木々の間を風が通り抜けると、音が変化してブーンと言う音色に変わるんだな。その音色から、ブナの木の名前が付けられたとは、名前には意味が有ると言う事だよ。……あっ、そうそう! もう一つの、名前の由来と成った説が有るんだよ。この説の話も君達に教えて上げようかな!」

「えっ? もう一つ、名前の由来の説が有るんですか。[ブーンと鳴る木]以外の説が有るなんて興味深いですね。隊長! 是非とも、そのもう一つの説を僕達に教えてください」

 先生から、名前の由来にはもう一つ説が有る事を聞かされたメンバー達は、興味津々な表情を見せるのだった。

「君達は、興味津々の様だね。良いだろう、もう一つの説を教えて上げようではなか。ブナの木はね、その優雅な見た呉とは違って[役に立たない木]とも言われているんだよ。何故、役に立たない木なのか? その理由を言うとね、ブナの木は保水力が有る為に幹に水分を多く含んでいる。
 その為、柔らかくて腐りやすい材質を持っているので建築材として使うには利用には適して無いんだよ。材としては利用するのが難しい事から、役に立たないと言う意味で[ぶんなげる木]とも言われ、その[ぶんなげる木]から[ブナの木]と名付けられた、不名誉な言われも有るんだよ」

「うえ~そんな様な、ぶん投げる木と言う言われ方もしてるんですね。本当に不名誉な言われ方で、僕は何だかブナの木が可哀そうな感じがしますよ」

「役に立たない木と言われてしまうなんて、見た感じの美しい樹姿からは想像も出来ないですの。女王様の様な優雅な感じの木なのに……」

「森の女王と呼ばれているブナの木が、その反面では材としては適していない木と言われているのが、以外の一言に尽きるわね」

「洪水や土砂災害から人々を守ってくれて、緑のダムと言われているブナの木が、役に立たない木と言う意味で[ぶんなげる木]なんて言い方をされるなんて。だから、こんなに地味な名前が付けられていたんですね」

 先生から聞かされた、もう一つの言われに驚くメンバー達。無理も無い゛森の女王゙と言われている木なのに、材としては利用価値が無いから、役に立たない木、ぶんなげる木、とも言われてしまっているのである。
 人間が勝手にそう名付けてしまっているのだから、隼人の言う様にブナの木が可哀そうな気に成ってしまうのも頷ける。

「材としては使えない木だからと言って、人間がそう名付けてしまっているのだから、確かにブナの木が可哀そうに成ってしまうね。皆んなの、ブナの木に対して同情する気持ちも分かる気がするよ。
 まあ、そう言う事でブナの木の名前の由来には2つの説が有ると言う事だ。思いがけづ、ブナの木の事で足を止めて話し込んでしまったな。これはこれで、ブナの木に付いて勉強に成って良かったのではないかな」

「そですね、ここでブナの木について勉強が出来て物知りに成れて良かったと思いますよ。これも、登山に来たからこそ分かった事実ですね」

「ブナの木の勉強が出来たのは、隊長が樹木について物知りだったお陰ですね。先生は、色んな事を知っていて凄いと思うわ。また、山に関する事で知っている事が有れば教えてくださいね!」

 隼人と友香里から、ブナの木について勉強が出来た事の感謝の言葉が伝えられる。その言葉を聞いて居た華菜と穂乃花も、コクリと頷きながら先生に感謝の意を見せるのだった。

「そうかそうか、物知りに成れて良かったかね。私はね山に関する事は、いろいろと勉強する様にしているんだよ。好きこそ物の上手なれ! とも言うだろう。今後の登山においても、知っている知識や経験を君達に教えたり伝授したりして行くから、楽しみにしていてくれたまえ。
 それでは、ここでの時間が長く成ってしまったから、そろそろ先を急ぐとしようじゃないか!」

「はい、そうしましょう。皆さん、出発しますよ!」
〚了解です! 次の目的地に向けて出発します~!!〛
 



 掛け声と共に再度、歩き始めた山楽部御一行。思いもよらぬブナの原生林での勉強会で暫くの時間、立ち止まっていたが、身のある話しを聞けてメンバー達は物知りに成り良かったのではなかろうか。次なる経由地の雪頭ヶ岳までは、あと20分ほどである。
 勉強会に費した時間の遅れを回復するべく、急な登山道を足元に気をつけながら、軽快な足取りで登って行く御一行達。そして歩んで行く事15分が経過した頃、ブナの原生林の区間を抜けた様で、前方に太陽の日差しが燦々と降り注いで来て、辺り一面が開けた草原に成って来た。

「よーし、原生林を突破して草原の登山道に出たな。ここまで来れば、雪頭ヶ岳は目と鼻の先だ。あと5分もすれば到着するから、皆んな頑張ってくれたまえ!」 

〚もう少しで到着ですね。頑張ります! 〛

 山岸先生から雪頭ヶ岳まで、あと5分との知らせを聞いたメンバー達は前をしっかりと見据えて登山道を登って行く。そして、御一行が進む行く手の視界が一気に開けて、あの日本一の山、富士山がドーンと目の前に現れたのだった。

「よーし! 富士山が見えて来たぞ。この開けた展望抜群の草原が雪頭ヶ岳なんだ。どうよ、ここの展望の良さは! まさに富士山を見据える絶好の展望台だろう~」

 先頭を行く先生は陸上選手がゴールを果たすかの如く、両手を広げながら雪頭ヶ岳へ到着する。続いてメンバー達も同じく、満面の笑みを見せながら両手を広げて到着を果たすのだった。

「はあ~到着しましたね。それにしても何て、どでかく富士山が見えるんでしょう!  こんなに真近で見られる富士山は迫力満点ですね!!」

「よーし、到着したわ! ちょっと、何なのこの展望の良さは。西湖を挟んで後ろに控えている富士山の姿が絵に描いた様な美しさじゃないの~」

「凄ーい、凄すぎる展望の良さだわ。まさに富士山を眺める為に作られた様な、富士見展望台って感じの場所じゃないかしら!」

「ふう~中々に険しい登山道でしたけど、この場所へ来たら疲れが吹き飛びましたの。富士山だけじゃなくて、富士山を取り囲む山々や富士五湖が手に取る様に見えますわ」

 雪頭ヶ岳についた途端に、目の前に開けた富士山、取り囲む外輪山の山々、富士五湖に目を奪われ、その大展望に唸り声を上げるメンバー達。この場所から眺める景色は暫くの間、ポカ~ンと口を開けながら見とれてしまうのだ。まさに゙開いた口が塞がらない゙状態に陥ってしまうのである。

「どうだい、この場所から眺める富士山は! 見とれ過ぎてしまって、開いた口が塞がらないだろう。それに眼下に有る西湖が、日に照らされて煌めいているだろう。この水面の美しさも特筆に値するんじゃないかな」

 暫くの間、大展望を眺めながら立ち尽くして居たメンバー達。だが、先生の興奮しながら語って居る姿に刺激されて、ようやく我に返り話し出した。

「はあ~わたくし、この富士山を中心とした優雅な景色に、心を奪われてしまい時が経つのを忘れてしまいそうでしたわ。本当に素晴らしい景色で、何だか涙が出て来ましたの」

「私も同じく、感動し過ぎて目に涙が浮かんできたわ。こんな素敵な景色を見せられたら、五感を刺激されてしまって放心状態に成ってしまうわね」

「富士山の展望の良さも去ることながら、眼下に見えている西湖の展望も良いわね。日の光に照らされて水面がキラキラしていて眩しい位の輝きを放っていて、凄く綺麗だわ」

「華菜の言う通り、西湖の燦々と輝いている水面が綺麗で宝石の様ですね。西湖が背後にある富士山を引き立てている役割をしている様な感じがしますよ!」

「ここから見る景色は見る者の心を奪ってしまうよな。君達の言う通り、西湖が富士山の引き立て役に成っている感じがするね。私は何回かこの場所に来ているが、ここからの富士山と、その周りを取り巻く外輪山の山々、富士五湖の雄大な景色に見とれてしまうんだよ。
 それでは、ここからの展望を満喫したところで、記念撮影をしようじゃないか。今は私達だけしか居ないから、私が三脚を使って撮る様にしよう。皆んな、この辺りの平坦な場所で並んでくれたまえ」

 雪頭ヶ岳からの展望を満喫して、満足気な表情を浮かべているメンバー達。その皆んなの勇姿をカメラに収めるべく辺りを見回した先生は、最適な撮影場所を見つけると三脚を取り出しセッティングして行く。

「よーし! カメラのセッティングが完了したぞ。皆んな、ベストポジションで良い位置に立っているね。では、セルフタイマーをセットするよ!」

 皆んながベストポジションに立っているのを確認した先生は、セルフタイマーをセットすると足早に掛けて行き、メンバー達の後ろ側に立ってニッコリと微笑んだ。

⦅カッシャ!!⦆
 撮影場所に到着した先生の微笑みと共にシャッターが切られて、撮影が完了した様だ。

「如何やら、撮影が完了した様だな。皆んなで撮られた写真を確認するとしよう!」
 撮影された写真を確認するべく、一同はカメラの所へと集まって見入って行く。

「おお~私の引きつった微笑みが何とも言えないが、西湖と富士山をバックに皆んな素晴らしい笑顔で撮れているではないか!」

「うわ~背後に有る西湖と富士山のコラボレーションが最高だわね。そんな素敵な背景と一緒に撮影出来て本当に感激だわ~」

「こんなに素敵なコラボレーションの場所で写真を撮れるなんて、登山に来たからこそですね。僕達の写っている表情を見れば、この場所からの展望が威かに凄いかが分かりますよ」

「本当に、息を呑む絶景って言葉がピッタリの場所ね。こんなに、富士山のすそ野までハッキリと見える山頂は、なかなか無いんじゃないかしら」

「わたくし、こんなに素晴らしい富士山の絶景と写真に納まる事が出来て感無量だわ。山の上の標高の高い所から見る富士山は格別な美しさが有りますわね」

 撮影された写真には、西湖と富士山との見事なコラボレーションの景観をバックに、笑顔で写っている一同の姿が有ったのだ。その素晴らしい山頂写真に、満面の笑みを浮かべて喜ぶ、山楽部御一行達。

「何だか、ここの雪頭ヶ岳の展望だけで、お腹いっぱいに成る位の満足感が有りますね。この場所で山頂昼食を取りたい位ですよ」

「そうね、この展望を見ながら昼食パーティーをしても良いんじゃないかしら。と言う事で、ここで昼食を取ったらどうですか、隊長! 勿論、この先の鬼ヶ岳で、ここよりも凄い展望が待ち受けているなら、話しは別ですけど」

 素晴らしい展望の場所での記念撮影だけでは勿体ないと感じたからか、隼人と友香里から、この場所で山頂昼食を取ったらどうかと声が上がる。その進言を聞いた先生の返事はいかに!




「ハッハハハ! そうか、この雪頭ヶ岳で昼食を取りたいと言うのかね。まあ、この展望なら気持ちは分かるがね。その進言に応えて上げたいところだが予定通り、この直ぐ上に有る鬼ヶ岳まで行って山頂昼食にしようではないか!」

「あらあら、隼人と友香里の進言は見事に却下されたわね。そうすると、この先の鬼ヶ岳では、もっと凄い展望が待ち受けていると言う事なのかしら? 何だか楽しみに成って来たわ」

「ここの展望が、こんなに素晴らしいのに、すかさず進言を退けて鬼ヶ岳に行こうと言うなんて、どれだけの展望が待っているのかしら。わたくしもワクワクして来て、この先に早く行ってみたくなりましたの。早速、移動をする様にしましょう、隊長!」

 先生は隼人と友香里の進言を即座に却下する。どうやら、この先に有る鬼ヶ岳には更なる展望が控えている様なのである。その先生の様子と言動を見て聞いていたメンバー達は期待に胸を膨らますのだった。

「そうかそうか、君達もこの先の鬼ヶ岳には、どの様な展望が待ち受けているか気に成って来た様だね。まあ、百聞は一見に如かずと言うからな。とにかく、ここを出発して鬼ヶ岳を目指すとしよう」

「そうしましょう、隊長! とにかく鬼ヶ岳に行って、この目で確かめたいわ」
「うん、友香里の言う通り、その場に行って自分達の目で展望を眺めましょう。では皆さん、隊長に付いて出発しましょう!」

「よし! 皆んな俄然、張り切って来た様だな。ここから先も険しい登りが控えているが、そこを乗り越えて鬼ヶ岳に到達しようではないか。それでは、私に付いて来なさい!」

 先生の出発の合図が掛り、鬼ヶ岳を目指して歩き出した御一行達。ここから20分ほどで鬼ヶ岳に到着するのだが、その道中は何やら険しい道のりが控えているよう様である。すると、歩き始めて直ぐに登山道の案内看板が見えて来た。その前を通り過ぎようとした時、最後尾を歩いて居た隼人が足を止めた。

「皆さん、ちょっと止まってください。この案内看板に何とも言えない表現が記載」されてますよ」

 案内看板に書かれている紋々の表現が気に成った隼人から声が掛かり、歩き始めた早々に歩みを止めて案内看板に見入って行く御一行達。

「゙雪頭ヶ岳山頂、展望最高、お花畑。草花は手に取らないで、カメラで撮ってね!゙と書いてありますよ。これが山頂看板の役割も果たしているのでしょうか。゙展望最高゙て言う自画自賛の紋々が書かれているなんて珍しいんじゃないですか」

「本当ね、確かに展望最高の場所ではあるけど、堂々と書くなんて自身満々って感じよね。こんな自信ありげな文句は他の山頂には、なかなか無いんじゃないかしら~」

「それに゙草花は手に取らないで、カメラで撮ってね!゙と言う言葉が登山者に語り掛ける様な感じで凄くインパクトがあるわ!」

「ここに育っているお花を無闇に持ち去らない様に、登山者達に警鐘を鳴らす意味で書かれていますね。そうよね、この山頂にあるお花は凄く綺麗ですもの。自然に自生しているお花は貴重だから大事にしなければですね」

 メンバー達は、この看板の紋々がこの山頂の雄大さを自画自賛している事を認識し、貴重な草花を大事にする様にと登山者に問い掛けている事を悟るのだった。

「星野は、この登山者に問い掛ける様なホッコリとした案内看板に、よく気が付いたね。こんな風な感じで書かれている案内看板は、そうそう無いからな。まあ、この展望を満喫すると同時に、自然を大事にする様にと言う事を伝えたいのだろう。
 思いがけない所で足を止めてしまったが、この様に小さな案内看板にも登山者に語り掛ける言葉が書かれている場合が有るから、今後も気に掛けながら登山を行って行くと良いだろう。では、先を急ぐとしようか。目指す鬼ヶ岳は真近に迫っているから頑張る様にな!」

〚はい、鬼ヶ岳目指して頑張って登ります!〛

 案内看板に書かれている紋々の観賞に慕った御一行達は、再び歩みを始めて登山道を登って行く。登り始めて直ぐに岩場の急な登りの箇所が現われて、そこにはロープが張り巡らされていた。
 そのロープの岩場が現われたにも関わらづ、一人として驚きの声を上げる者は居ない。動じる事無く御一行達はロープ掴み、足を岩場の窪みに付きながら黙々と登って行く。どうやらメンバー達には、今までに登って来た山での経験が功を奏した様で、ロープを張り巡らした急な岩場の登りでもコンスタントに登って行けるスキルが身に付いた様である。
 そんな逞しく成長して来たメンバー達を引き連れた先生は、誇らしげな表情を見せながら岩場を登る。そして、短時間に一気に岩場を登り終えた山楽部御一行は、平坦な場所に着くと顔を見合わせてホッと一息入れるのだった。

「よーし! 一気にこの岩場を登り終えたな。皆んな泣き言も言わず、コンスタントに登れていて素晴らしかったよ。今までの登山の経験が実を結び、スキルアップがはかれたと言う事だな。この調子で、この先に控えている山頂直下の難所も動じる事無く突破して行ってくれたまえ!」

「隊長! お褒めの言葉を有難うございます。僕達は、このロープの張り巡らされた岩場でも落ち着いて難なく突破出来ました。今までの経験が功を奏したと言う事ですね」

「この岩場でも、動じる事無く黙々と登れた事は素晴らしいわ。私達は、確実にスキルアップして来ていると思うわ。でも隊長、この先には難所が未だ控えているんですね。一体、どんな難所が有ると言うのかしら。今からドキドキだわね」

「友香里の言う通り、隊長の意味深な言葉が引っ掛かってしまうわね。気に成ってしまうけど今の、あたし達ならどんな難所も切り抜けられると思うわ」

「今の成長した、わたくし達ならどんな難所も突破出来ると思いますわ。皆さん、気を引き締めてその難所に立ち向かいましょう!」

「皆んな、頼もしく成ったな。私も君達の成長した姿が見る事が出来て嬉しいよ。では、その意気込みのまま山頂直下の難所に向かうとしよう」

 岩場の難所を乗り切ったメンバー達の姿と言動をを見守って居た先生は、心底嬉しく思っていたのであった。そして、その昂るメンバー達の意気込みを受け取った先生は、難所を目指して先陣を切って歩み始める。
 この後も岩場の続いて行く登山道を登って行く御一行達。そして、5分ほど進んだ時であろうか突然、穂乃花が前を指さしながら声を上げた!

「皆さん、前の方に岩場の崖斜面を見てください。何やら、凄い事に成っていますわよ!」
 穂乃花にしては珍しく、前方の岩場を指さしながら血気盛んな声が上がる。その穂乃花の指さす岩場に目を向ける隼人と友香里、華菜。

〚うえ~! 何なの、この岩場の崖斜面の光景は!!〛

 目の前に現れた崖斜面を見た瞬間、その光景を見た3人からも驚きの声が上がった。一体、メンバー達は何を目の当たりにしたのか。その驚きの表情から察すると、今までの登山道には無かった物を目の当たりにしたからだと推測されるのである。
 その登山道に立ちはだかった物とは何なのか? それは次回のお話で解明されますので、暫しお待ちくださいませ~!!
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