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六部 最終決戦編
神竜の神殿2
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雪が降る森の中、石造りの神殿を見ているのは、雪と同じように真っ白な髪をした柏羅。
金色の瞳は、神殿を見ているようで見ていない。ぼんやりと、なにかを考えているようだ。
「どうしたの?」
「あっ…」
突然、身体へかけられた厚手の上着。振り返れば、優しい笑みを浮かべる陽霜の姿が。
「風邪を引くよ。それとも、始祖竜に寒さは関係ないのかな」
「……はい。これぐらいなら問題ありません。ベル・ロードの気温より低いと、さすがに寒さを感じますが」
今のこの世界には、そんな地はないですからと笑う。
(寂しそうな笑顔……)
出会ったのは他のメンバーに比べれば遅い。だから、柊稀と知り合った頃の姿は知らない。
知らなくても、彼女の変化はわかっているつもりだ。
始祖竜としての自分を取り戻せば、当然ながら変化はやってくる。見た目だけではなく中身にも。
性格や考え方などが変わることはないだろうが、それに伴う悩みも生まれる。
彼女はなにかを悩んでいる。始祖竜である自分にであろう。
わかったところで、彼には悩んでいることしかわからない。してあげられることがあるとしたら、これだけだろう。
「言ってごらん。始祖竜だから、弱音を吐いちゃダメなんてことはないんだよ。そうだろ」
「陽霜お兄ちゃん……」
隣へ立つと、陽霜は柏羅を見た。始祖竜ではなく、一人の女性として。
肩書きとして始祖竜という名はついてくるかもしれないが、彼女自身を見失ってはいけない。今まで見てきたすべては、柏羅という一人の女性であって始祖竜ではないと、陽霜は思っていた。
それがわかったからだろう。柏羅は目頭が熱くなるのを感じていた。嬉しかったのだ。
どこかで誰もが始祖竜として見てくる。仕方ないことなのかもしれないと思ったし、彼らは十分に普通の少女として扱ってくれていた。
それでも、自分の価値は始祖竜であることだけなのかと思う気持ちは止められない。
だからこそ彼女は自分を妹として見てくれる柊稀に、特別懐いていたのだ。秋星に懐いていた理由も似たようなもの。
「役に立ちたいと思って、役に立てると思って……でも、役に立てない……始祖竜の力ならって……」
ずっと思っていた。始祖竜の強い力が戻れば、自分を一人の妹として護ってくれた柊稀の役に立てる。
けれどそうではなかった。始祖竜の強い力だからこそ役立たない。使うことができないのだとわかってしまったのだ。
もしも使えば、仲間すら巻き込むほどの力。それこそが始祖竜の力だった。槍だけでは、自分の細腕では限界があり、結局は役立てない。
「十分、役に立っていたはずだよ。いるだけでね」
場を癒すような存在。それだけで十分だと言う。
「役立つか、そうでないかは、力がすべてではないんだよ」
戦闘が続く日々だっただけに、彼女の存在は十分過ぎるほど助かっている。
役立つということは、戦いができるかできないかではない。強い力があるかで決まるわけでもなければ、知識があるかないかなんて問題はないのだ。
癒す存在も必要なのだと言われれば、はにかんだように笑う。
「私、皆さんを癒せているんですか?」
「不思議とね、癒されるみたいだよ。それで十分じゃないかな」
「はい」
自分がと言わない辺りが、彼らしいなと柏羅は思えた。役に立てていたと知れただけでも、柏羅にとっては嬉しいことだ。
仲間のために役立つ。それに力は関係ないのだと言われれば、気持ちは軽くなる。だからこその決意だ。
「……すべてが終わったら、始祖竜の力を捨てようと思います」
「捨てる?」
思わぬ告白に、陽霜は驚いた。力を捨てるなどということ、できるものなのか。
己の力を捨てるなど、今まで考えたこともなかっただけに想像がつかない。
それに、と陽霜は思う。そのようなことをして、柏羅自身に影響はないのだろうか。バランスが崩れてしまうのでは、と心配になる。
「ずっと、皆さんといたいから……そのために始祖竜であることを捨てます」
始祖竜とは、現在の竜とは寿命が違う。理由は膨大な力のせいだと、すべてを取り戻したときに気付いてしまったのだ。
これを捨ててしまえば、少しは長く生きるかもしれないが、仲間達と同じぐらいの寿命となる。
「それに、始祖竜なんていてはいけないんです」
利用されてしまう可能性もあるのだと、今回のことで学んだ。
「自分で決めたことなら、いいんじゃないかな」
彼女が始祖竜としての力を捨てることが、どれほどの意味を持つのか、理解できるのは同じ始祖竜だけ。わかるのは、それなりの覚悟があってのことだということ。
そこまでするほど彼女が仲間と、自分達といたいと願うなら、応援してあげたいと思えた。なにがしてあげられるかはわからないが。
「困ったら、いつでもおいで。歓迎するから」
基本的には他人を受け入れない陽霜は、彼女ならいいかと思った辺りで、他の仲間達同様に癒されていたのかもしれないと思う。
「はい! ありがとうございます!」
正直なところ、ここまで付き添う必要などはなかったのだ。自分達は天竜王という立場にあるのだから、あとは黒燿に任せるだけでいい。
自分達はあくまでも、光の神具を取り戻すことだけに手を貸せばいい存在だった。
(いい出会い……だったのかな。僕達にとっても)
仲間とはいいものだと思う。必要ないと思っていたが、得て良さがわかるのだと思い知らされた。どこかで自分が変わっていくような感覚に、悪くないと思うから困るのだ。
「明日、すべてが終わる。長い一日になるだろうし、ゆっくり休んだ方がいい」
「はい、そうします」
スッキリした表情を浮かべる柏羅に、陽霜も笑みを浮かべて応える。
明日、すべてが終わるのだ。長い、長い一日と共に――――。
.
金色の瞳は、神殿を見ているようで見ていない。ぼんやりと、なにかを考えているようだ。
「どうしたの?」
「あっ…」
突然、身体へかけられた厚手の上着。振り返れば、優しい笑みを浮かべる陽霜の姿が。
「風邪を引くよ。それとも、始祖竜に寒さは関係ないのかな」
「……はい。これぐらいなら問題ありません。ベル・ロードの気温より低いと、さすがに寒さを感じますが」
今のこの世界には、そんな地はないですからと笑う。
(寂しそうな笑顔……)
出会ったのは他のメンバーに比べれば遅い。だから、柊稀と知り合った頃の姿は知らない。
知らなくても、彼女の変化はわかっているつもりだ。
始祖竜としての自分を取り戻せば、当然ながら変化はやってくる。見た目だけではなく中身にも。
性格や考え方などが変わることはないだろうが、それに伴う悩みも生まれる。
彼女はなにかを悩んでいる。始祖竜である自分にであろう。
わかったところで、彼には悩んでいることしかわからない。してあげられることがあるとしたら、これだけだろう。
「言ってごらん。始祖竜だから、弱音を吐いちゃダメなんてことはないんだよ。そうだろ」
「陽霜お兄ちゃん……」
隣へ立つと、陽霜は柏羅を見た。始祖竜ではなく、一人の女性として。
肩書きとして始祖竜という名はついてくるかもしれないが、彼女自身を見失ってはいけない。今まで見てきたすべては、柏羅という一人の女性であって始祖竜ではないと、陽霜は思っていた。
それがわかったからだろう。柏羅は目頭が熱くなるのを感じていた。嬉しかったのだ。
どこかで誰もが始祖竜として見てくる。仕方ないことなのかもしれないと思ったし、彼らは十分に普通の少女として扱ってくれていた。
それでも、自分の価値は始祖竜であることだけなのかと思う気持ちは止められない。
だからこそ彼女は自分を妹として見てくれる柊稀に、特別懐いていたのだ。秋星に懐いていた理由も似たようなもの。
「役に立ちたいと思って、役に立てると思って……でも、役に立てない……始祖竜の力ならって……」
ずっと思っていた。始祖竜の強い力が戻れば、自分を一人の妹として護ってくれた柊稀の役に立てる。
けれどそうではなかった。始祖竜の強い力だからこそ役立たない。使うことができないのだとわかってしまったのだ。
もしも使えば、仲間すら巻き込むほどの力。それこそが始祖竜の力だった。槍だけでは、自分の細腕では限界があり、結局は役立てない。
「十分、役に立っていたはずだよ。いるだけでね」
場を癒すような存在。それだけで十分だと言う。
「役立つか、そうでないかは、力がすべてではないんだよ」
戦闘が続く日々だっただけに、彼女の存在は十分過ぎるほど助かっている。
役立つということは、戦いができるかできないかではない。強い力があるかで決まるわけでもなければ、知識があるかないかなんて問題はないのだ。
癒す存在も必要なのだと言われれば、はにかんだように笑う。
「私、皆さんを癒せているんですか?」
「不思議とね、癒されるみたいだよ。それで十分じゃないかな」
「はい」
自分がと言わない辺りが、彼らしいなと柏羅は思えた。役に立てていたと知れただけでも、柏羅にとっては嬉しいことだ。
仲間のために役立つ。それに力は関係ないのだと言われれば、気持ちは軽くなる。だからこその決意だ。
「……すべてが終わったら、始祖竜の力を捨てようと思います」
「捨てる?」
思わぬ告白に、陽霜は驚いた。力を捨てるなどということ、できるものなのか。
己の力を捨てるなど、今まで考えたこともなかっただけに想像がつかない。
それに、と陽霜は思う。そのようなことをして、柏羅自身に影響はないのだろうか。バランスが崩れてしまうのでは、と心配になる。
「ずっと、皆さんといたいから……そのために始祖竜であることを捨てます」
始祖竜とは、現在の竜とは寿命が違う。理由は膨大な力のせいだと、すべてを取り戻したときに気付いてしまったのだ。
これを捨ててしまえば、少しは長く生きるかもしれないが、仲間達と同じぐらいの寿命となる。
「それに、始祖竜なんていてはいけないんです」
利用されてしまう可能性もあるのだと、今回のことで学んだ。
「自分で決めたことなら、いいんじゃないかな」
彼女が始祖竜としての力を捨てることが、どれほどの意味を持つのか、理解できるのは同じ始祖竜だけ。わかるのは、それなりの覚悟があってのことだということ。
そこまでするほど彼女が仲間と、自分達といたいと願うなら、応援してあげたいと思えた。なにがしてあげられるかはわからないが。
「困ったら、いつでもおいで。歓迎するから」
基本的には他人を受け入れない陽霜は、彼女ならいいかと思った辺りで、他の仲間達同様に癒されていたのかもしれないと思う。
「はい! ありがとうございます!」
正直なところ、ここまで付き添う必要などはなかったのだ。自分達は天竜王という立場にあるのだから、あとは黒燿に任せるだけでいい。
自分達はあくまでも、光の神具を取り戻すことだけに手を貸せばいい存在だった。
(いい出会い……だったのかな。僕達にとっても)
仲間とはいいものだと思う。必要ないと思っていたが、得て良さがわかるのだと思い知らされた。どこかで自分が変わっていくような感覚に、悪くないと思うから困るのだ。
「明日、すべてが終わる。長い一日になるだろうし、ゆっくり休んだ方がいい」
「はい、そうします」
スッキリした表情を浮かべる柏羅に、陽霜も笑みを浮かべて応える。
明日、すべてが終わるのだ。長い、長い一日と共に――――。
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