始まりの竜

朱璃 翼

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三部 神具編

風が吹くとき2

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 一人で行くと言った蒼翔は、虚空、黒耀、柏羅と共に風の塔へ。

 水の神具の際に邪教集団がいた為、援護のために虚空が、柏羅のサポートをする為に黒耀がついてきたのだ。

 風の神具は弓。魔法専門同様、前線で戦える末端が派遣されているかもしれない。

 さすがに邪教集団から派遣されていれば、蒼翔一人では対応しきれないだろう。

「塔の内部は、雪精の塔と同じ作りなんだな」

 魔法槍士でも風の塔内部へ入ったことはない。入ってみれば、螺旋階段が続くだけの塔。

 部屋はなく、おそらく儀式の間と同じような空間が最上階にあるだろうと、見てわかる造り。

「きっと、創歴には珍しくない造りなんだよ。天使族の塔もこんなんだったよ」

「なるほど」

 現在も残る創歴の塔は、わずかしかない。跡地はいくつか存在したが、実物は残っていないからだ。

 そのため、黒耀は気にしたことがなかった。

 ひたすら階段を上れば、最上階も同じ造りとなっている。そこへ、やはりと言うべきか邪教集団の黒いローブを着た者がいた。

「周りは引き受ける。蒼翔は彼女を頼む」

 黒いローブの後ろ。神具を持つ女性が無機質に見ている。

 風の神具使い手、蒼翔にとっては先祖に当たる女性。世界初となる学校を作り、創立者の一人として肖像画を見たことがあった。

 優しく微笑む絵は、目の前にいる人物と同じ顔だが、同じではない。

「うん。僕に任せて」

 伴侶と共に、安らかに眠っていたはずの先祖。伴侶と共に、このような形で呼び覚まされた先祖。

(邪教集団……許さない!)

 感情に呼応するよう、風が巻き上がる。

 昔から蒼翔を知る虚空ですら、見たことがないほど真剣な表情。彼女の矢は、迷うことなく神具使い手へと飛んでいった。

 普段は学校の教師として過ごす女性。街の管理者としても有能だが、誰も知らない顔が存在した。

 弓の名手が多くいる天使族。新年祭として弓技大会が行われ、彼女は大会常連者だった。

(僕は、あなたが神具を扱うと知って、同じになりたかった。いつか、あなたが扱った神具を扱いたいと。こんな形になるとは思わなかった)

 誰にも言わず、隠れて弓を特訓したのだ。風の神具が弓だとわかっていたから。

 神具から放たれる矢。避けて矢を放つ。何度も繰り返し、頬や腕にかすり傷を増やす。

 弓自体の性能が違う。やはり神具はすごいと蒼翔は思う。矢の威力が違いすぎる。直撃すれば腕一本は、簡単に吹き飛ばしてしまいそうだ。

(でも、威力があれば勝てるわけじゃない)

 勝機は必ずやって来ると信じていた。自分はただ、それを待てばいい。逃すことなく、彼女の動きを見て。

 周りをすべて仲間が押さえてくれているため、蒼翔は目の前だけに集中することができた。

(来た!)

 一瞬の隙。待っていた瞬間は、死体が障害物になり作られた。

 風が渦となり矢に集まる。蒼翔の渾身の一撃が胸を貫いた。

「見事な一撃だったな」

「虚空も、見事な戦いだったよ。僕が褒めてあげるのは、珍しいんだからね」

 笑いかける姿はいつもの姿。けれど、彼は知った。自分が知らない姿があるのだと。

「さぁて、あとは神具本体だね。いってくるよー!」

 笑顔で近寄る蒼翔。付き合いはそれなりに長いが、今日ほど心惹かれたことはなかった。

「惚れたか?」

「ぶっ、なにを言うんだ」

「惚れる? なんですか?」

 慌てたように黒耀へ言えば、足元では不思議そうに見上げる少女。

「柏羅! なんでもない。忘れるんだ!」

「顔が赤いぞ」

「赤いですね」

 からかうな、と虚空は視線を逸らしたが、その顔は真っ赤に染まっていた。





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