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三部 神具編
雪精の塔2
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数日を三人で過ごした。無駄に過ごしたわけではなく、昼は蒼翔から勉学を学び、夜は黒耀と手合わせ。
柊稀は一秒たりとも、時間を無駄にしないように動いた。
「なんか、飛狛さんに似てるなぁ」
――わかりますか? 魔法槍士を見続けてきましたが、実は幻惑使いは飛狛殿が初なのです。主殿も幻惑使いなので、少し戦い方が似ていますね――
黒欧の話を聞き、だからかと納得。槍の使い方が同じなわけではないが、なぜか感覚が同じ気がした。
使う力が同じだからと言われれば、妙に納得できたのだ。
――柊稀殿、少し強くなられましたね――
「強くならなきゃ。僕、あの人と戦うんだろ」
――はい――
焦っても強くなれない。わかっているが、気持ちは急かす。早く強くならなければと。
そんなときは、冷静になれと言われたことを思いだす。過去の経験を思いだす。
「まだ時間はある。大丈夫だ」
――はい。少しずつ頑張りましょう――
無力で嘆くのはもうやめた。柊稀は一歩ずつ、前へと進み始めたのだ。踏みとどまることはしない。大切な者を取り戻すまでは。
ぼんやりと空を眺めていれば、誰かが呼ぶ声が聞こえる。
――おっと、帰ってきたようですね――
「お兄ちゃーん!」
「柏羅!」
馬獣から降り走ってくる少女に、柊稀も駆け寄った。
「ただいま!」
飛びつく身体を受け止めれば、柏羅の満面の笑みが見える。
「もぅ、やっぱり柊稀なのね」
少し拗ねたような表情は一瞬だけ。すぐに微笑み、氷穂はやってきた。
「どうやら、そのようだな。私達は、彼には勝てないらしい」
実の兄妹に見える微笑ましい風景に、虚空と琅悸は笑う。自分達には見せない表情だとわかるだけに、氷穂が拗ねたくなるのもわかる。
「そ、そうかなぁ」
初めて会ったのが自分だからじゃないのか。柊稀は特別な意味はないと思っていた。
「とりあえず、報告しましょう。次の行き先も決めないと」
神具の場所はわかっているが、時間を無駄にする移動はできない。効率のいいやり方をするために、どこから行くのかは大切だ。
そのため、氷穂達は休むことより話し合いを求めた。
当たり前のように柊稀の隣へ座る柏羅。そんな光景を暖かく見守りながら、話し合いは始まった。
「まずは、創歴にいた生物の話だよね。大体は魔法槍士殿が教えてくれたから、必要なことだけでいいかな」
創歴にいた生物。今現在いる竜族、鳥獣族、獣族が誕生する前。個体を表す種族名はなく、古代種と統一されていた。
なかでも、特徴があるものには呼び名がついている。精霊喰らいのようにだ。
「精霊もたぶん古代種の扱いじゃない?」
「ん? んー、まぁ、そうなんのかなぁ」
全員の視線を浴び、ユフィは気まずそうに視線を逸らす。
「あー! わかった! 言うから! 精霊は古代種だよ。妖精もな」
ついでに、と彼はぼやいた。妖精が精霊になるという話は迷信で、そんなことはないというものだった。精霊に似ていることから、妖精と呼び名がついただけだと。
(まぁ、その迷信を笑い話のように使ったりはしたけど)
自分が昔、妖精だったのだと嘘をついて回っていたことは、さすがに秘密だなと思う。
それ以上は喋らないとユフィは背中を向ける。変わり者の精霊でも、さすがに話せないことがあるらしい。
問いかけても、必要最低限しか話したがらなかった。
現在もいて精霊と同じく古代種だと言われているのが、聖なる一族。天使族なのだと蒼翔が言う。
「だからほら、種の形態が違うじゃん。魔法の考え方も精霊よりだし」
形態が違うと言われても、古代種に詳しくない一同にはよくはわからなかった。一体、どこがどう違うのか。
「古代種は、この形態じゃないの。獣は獣の姿ってことね。僕達は、竜本来の姿を失ったんじゃない。はじめからないのさ」
想像を絶する言葉に、その場は静まり返る。
「王の末裔ってさ、古代種である始祖竜の力を持つから普通じゃないんじゃない?」
「なるほど…」
王の末裔は、竜本来の姿を持つとも言われている。始祖竜の力を持つからと言われれば、納得もできたのか黒耀だけが頷く。
難しく考えても、なにかが変わるわけではない。これはこれで気にする必要はないと、蒼翔は話を打ち切った。理解できないからといって、困る問題でもないのだ。
精霊や妖精、天使、精霊喰らい。古代種に呼び名がついているのはこれだけだ。
そのため古代種としか言えないが、邪教集団が古代種の集まりである可能性は高い。
「技術が違う。いくらなんでも、死者の骨を使って生前と同じ力。それも全盛期で造るなんて、僕達じゃできないよ。僕達ができるのは、魔道生物を造るぐらいさ」
それだって簡単にはできない。それこそ、召喚魔法を作り上げた白秋ほどの魔力を必要とするのだと、蒼翔は言う。
「まっ、僕は魔法専門外だから、やり方があるのかもしれないけどさ」
そこは、気になるなら専門家に聞いてくれと軽く言った。
「いや、いくら専門家でも無理だろ。どれだけの魔力を使うかわからない。造れたとして、本人と同じ力を持たせることなんてできるわけがない」
ある程度の知識を持つ魔法槍士が、きっぱりと否定する。専門家には劣るが、彼は一通りの知識を持つ。
ならば間違いはないのだろう。
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柊稀は一秒たりとも、時間を無駄にしないように動いた。
「なんか、飛狛さんに似てるなぁ」
――わかりますか? 魔法槍士を見続けてきましたが、実は幻惑使いは飛狛殿が初なのです。主殿も幻惑使いなので、少し戦い方が似ていますね――
黒欧の話を聞き、だからかと納得。槍の使い方が同じなわけではないが、なぜか感覚が同じ気がした。
使う力が同じだからと言われれば、妙に納得できたのだ。
――柊稀殿、少し強くなられましたね――
「強くならなきゃ。僕、あの人と戦うんだろ」
――はい――
焦っても強くなれない。わかっているが、気持ちは急かす。早く強くならなければと。
そんなときは、冷静になれと言われたことを思いだす。過去の経験を思いだす。
「まだ時間はある。大丈夫だ」
――はい。少しずつ頑張りましょう――
無力で嘆くのはもうやめた。柊稀は一歩ずつ、前へと進み始めたのだ。踏みとどまることはしない。大切な者を取り戻すまでは。
ぼんやりと空を眺めていれば、誰かが呼ぶ声が聞こえる。
――おっと、帰ってきたようですね――
「お兄ちゃーん!」
「柏羅!」
馬獣から降り走ってくる少女に、柊稀も駆け寄った。
「ただいま!」
飛びつく身体を受け止めれば、柏羅の満面の笑みが見える。
「もぅ、やっぱり柊稀なのね」
少し拗ねたような表情は一瞬だけ。すぐに微笑み、氷穂はやってきた。
「どうやら、そのようだな。私達は、彼には勝てないらしい」
実の兄妹に見える微笑ましい風景に、虚空と琅悸は笑う。自分達には見せない表情だとわかるだけに、氷穂が拗ねたくなるのもわかる。
「そ、そうかなぁ」
初めて会ったのが自分だからじゃないのか。柊稀は特別な意味はないと思っていた。
「とりあえず、報告しましょう。次の行き先も決めないと」
神具の場所はわかっているが、時間を無駄にする移動はできない。効率のいいやり方をするために、どこから行くのかは大切だ。
そのため、氷穂達は休むことより話し合いを求めた。
当たり前のように柊稀の隣へ座る柏羅。そんな光景を暖かく見守りながら、話し合いは始まった。
「まずは、創歴にいた生物の話だよね。大体は魔法槍士殿が教えてくれたから、必要なことだけでいいかな」
創歴にいた生物。今現在いる竜族、鳥獣族、獣族が誕生する前。個体を表す種族名はなく、古代種と統一されていた。
なかでも、特徴があるものには呼び名がついている。精霊喰らいのようにだ。
「精霊もたぶん古代種の扱いじゃない?」
「ん? んー、まぁ、そうなんのかなぁ」
全員の視線を浴び、ユフィは気まずそうに視線を逸らす。
「あー! わかった! 言うから! 精霊は古代種だよ。妖精もな」
ついでに、と彼はぼやいた。妖精が精霊になるという話は迷信で、そんなことはないというものだった。精霊に似ていることから、妖精と呼び名がついただけだと。
(まぁ、その迷信を笑い話のように使ったりはしたけど)
自分が昔、妖精だったのだと嘘をついて回っていたことは、さすがに秘密だなと思う。
それ以上は喋らないとユフィは背中を向ける。変わり者の精霊でも、さすがに話せないことがあるらしい。
問いかけても、必要最低限しか話したがらなかった。
現在もいて精霊と同じく古代種だと言われているのが、聖なる一族。天使族なのだと蒼翔が言う。
「だからほら、種の形態が違うじゃん。魔法の考え方も精霊よりだし」
形態が違うと言われても、古代種に詳しくない一同にはよくはわからなかった。一体、どこがどう違うのか。
「古代種は、この形態じゃないの。獣は獣の姿ってことね。僕達は、竜本来の姿を失ったんじゃない。はじめからないのさ」
想像を絶する言葉に、その場は静まり返る。
「王の末裔ってさ、古代種である始祖竜の力を持つから普通じゃないんじゃない?」
「なるほど…」
王の末裔は、竜本来の姿を持つとも言われている。始祖竜の力を持つからと言われれば、納得もできたのか黒耀だけが頷く。
難しく考えても、なにかが変わるわけではない。これはこれで気にする必要はないと、蒼翔は話を打ち切った。理解できないからといって、困る問題でもないのだ。
精霊や妖精、天使、精霊喰らい。古代種に呼び名がついているのはこれだけだ。
そのため古代種としか言えないが、邪教集団が古代種の集まりである可能性は高い。
「技術が違う。いくらなんでも、死者の骨を使って生前と同じ力。それも全盛期で造るなんて、僕達じゃできないよ。僕達ができるのは、魔道生物を造るぐらいさ」
それだって簡単にはできない。それこそ、召喚魔法を作り上げた白秋ほどの魔力を必要とするのだと、蒼翔は言う。
「まっ、僕は魔法専門外だから、やり方があるのかもしれないけどさ」
そこは、気になるなら専門家に聞いてくれと軽く言った。
「いや、いくら専門家でも無理だろ。どれだけの魔力を使うかわからない。造れたとして、本人と同じ力を持たせることなんてできるわけがない」
ある程度の知識を持つ魔法槍士が、きっぱりと否定する。専門家には劣るが、彼は一通りの知識を持つ。
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