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三部 神具編
仲間達との再会
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それほど進んでいる感覚はない。けれど、周りの景色は次から次へと変化していく。気がつけばあっという間に雪景色。
魔法槍士に仕える魔道生物は、その気になれば一日で世界中を駆け巡る。聞いただけでは信じられなかったが、体験すれば話は違う。
感じたこともない速さで走っているのに、体感している速さは馬と変わらない。
「不思議だな…」
――結界を張っているんですよ。さすがに生身では耐えられないです――
ぼそりと呟かれた言葉に、黒欧は何事もないように答える。
「だよね」
実際には、身体にかかる衝撃は大きいはずだ。それぐらいは柊稀にもわかる。これだけの速さで走っていれば、まず座ってなどいられないし、身体が千切れてしまう。
――森が見えたら、あっという間ですよ――
「今もあっという間だよ」
反論すれば黒欧は笑った。ならば一瞬ですね、と言い直す。
「そ、そうだね」
森に入り一瞬で到着した村に、苦笑いを浮かべる。感覚的には、森に入ってから一歩だった。
黒欧から降りると、馬から人の姿へと変わる。もうしばらく、このままついていくことにしたらしい。
黒耀が乗っていた魔道生物の方は、これ以上は関わらないというように姿を消した。
「こっちだ」
村の雰囲気は故郷を思いださせる。まさか遠く離れた場所で、同じような雰囲気をした村にくるなど、思ってもいなかった。
現実は村を発ってから、そう長く離れていたわけではない。けれど、過去での経験がある分、もう何年も旅をしている気持ちだった。
「お母さん、元気かな?」
「元気だよ。母さんは」
柏羅も同じ気持ちなのだと知り、少し気持ちが軽くなる。
「お姉ちゃんと、早く帰ろうね!」
「そうだね」
(朱華、今はどこにいるんだろ)
邪教集団を追っていれば、また会えるはず。始祖竜である柏羅を狙っているのだから、今はそれを信じるしかない。
(次に会ったときは、絶対に連れ戻す)
そのために、柊稀はただ突き進む。大切な者を取り戻すために。そのための一歩を踏み出すのだ。
案内された家。それは少し大きめの家で、特別なのはすぐにわかった。長の家なのかもしれない。
「皆さんお待ちですよ」
招き入れてくれた青年は、黒耀を見るなりみな揃っていると告げた。どうやら自分が訪ねるまでは動くな、と最初に指示を入れてあったらしい。
そこは抜かりないのが魔法槍士だ。事情がすべてわかるまで、勝手に動かないよう指示を出したのだろう。
「長、黒耀が来ました」
「よく来た。待っていたぞ」
魔竜族の長と会うとは聞かされていたが、目の前にして見れば少し驚く。魔竜族の長と言えば、ベル・ロードを統治するものだ。
天竜王とも変わらない存在である。普通の生活をしていれば、まず会うことはない存在だ。
だが、気後れはしない。過去で魔法槍士や補佐官、天竜王と交流をした経験が、彼を大きく変えたのだ。
「いい目をするようになったな。それだけの経験をしてきたのか」
「琅悸!」
「お久しぶりです、と言った方がいいですかね」
「氷穂さんも……」
別れた当時、会って間もなかった。付き合いは短く、なにも知らないに等しい関係だが、自分にとっては仲間。
懐かしい。心の底から沸き上がってきた感情。
帰ってきたのだ。ようやく在るべき時代に帰ってきたのだと実感する。
「再会を懐かしみたいが、先に話をしよう。先日の地震以降、気になることがある」
地震と言われ、柊稀は神具の話だと黒耀を見る。彼自身も、現在なにが起きているのか気になっていたのだ。
見ていただけに、普通ではないことだけわかっている。
「邪教集団の実態はまだわかっていない。だが、神竜をあちらに押さえられたとみていい。そして、神具を奪われた。あれが奪われたことで、末裔は力を失なってしまう」
「それでか……」
あれ以来、力を失ったと琅悸が言う。彼は地竜王の末裔、それも直系なのだが、今は末裔としての力を感じられなくなっていた。
それがずっと気になっていたのだ。どうすれば失われてしまうのか。
接触もしていないのに、力を奪う方法があるなど考えもしなかったのだ。いや、奪えるものだとすら思っていなかった。
「神具は神竜が与えたと言うが、違うのかもしれない。いや、正確には与えた者と作った者が違うと言うべきか」
詳しいことは、まず黒欧から聞こう。視線で促せば、魔法槍士に仕える者は頷く。
――私が話すことは、柊稀殿が過去へ行ったことで、過去の者達が推測したことです――
前置きをすると、彼は話し出した。
柊稀と柏羅が過去へ行ったことにより、未来がどうなるかを知ってしまった過去の者達。
詳しく知らない彼らは、やはり邪教集団の正体までは想像がつかないと告げていた。
――けれど、ひとつだけ可能性を上げてくれました――
創歴には別の文明があったと言われている。年数を数えられているのは、竜族が誕生してからのこと。
つまり、創歴は数えられている年数以前が存在するのだ。
「その頃にしかいなかった種族が、いたかもしれない。そういうことか」
難しい表情を浮かべる琅悸。もしそうなら、相手の詮索はしても意味がないことになる。
「その可能性はありえるかもしれない。魔竜族の神殿には、謎の生き物と戦う絵が残されていた」
ベル・ロードには独自の文化があったとされていた。何人もの研究者がいるが、未だ解明はされていない。
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魔法槍士に仕える魔道生物は、その気になれば一日で世界中を駆け巡る。聞いただけでは信じられなかったが、体験すれば話は違う。
感じたこともない速さで走っているのに、体感している速さは馬と変わらない。
「不思議だな…」
――結界を張っているんですよ。さすがに生身では耐えられないです――
ぼそりと呟かれた言葉に、黒欧は何事もないように答える。
「だよね」
実際には、身体にかかる衝撃は大きいはずだ。それぐらいは柊稀にもわかる。これだけの速さで走っていれば、まず座ってなどいられないし、身体が千切れてしまう。
――森が見えたら、あっという間ですよ――
「今もあっという間だよ」
反論すれば黒欧は笑った。ならば一瞬ですね、と言い直す。
「そ、そうだね」
森に入り一瞬で到着した村に、苦笑いを浮かべる。感覚的には、森に入ってから一歩だった。
黒欧から降りると、馬から人の姿へと変わる。もうしばらく、このままついていくことにしたらしい。
黒耀が乗っていた魔道生物の方は、これ以上は関わらないというように姿を消した。
「こっちだ」
村の雰囲気は故郷を思いださせる。まさか遠く離れた場所で、同じような雰囲気をした村にくるなど、思ってもいなかった。
現実は村を発ってから、そう長く離れていたわけではない。けれど、過去での経験がある分、もう何年も旅をしている気持ちだった。
「お母さん、元気かな?」
「元気だよ。母さんは」
柏羅も同じ気持ちなのだと知り、少し気持ちが軽くなる。
「お姉ちゃんと、早く帰ろうね!」
「そうだね」
(朱華、今はどこにいるんだろ)
邪教集団を追っていれば、また会えるはず。始祖竜である柏羅を狙っているのだから、今はそれを信じるしかない。
(次に会ったときは、絶対に連れ戻す)
そのために、柊稀はただ突き進む。大切な者を取り戻すために。そのための一歩を踏み出すのだ。
案内された家。それは少し大きめの家で、特別なのはすぐにわかった。長の家なのかもしれない。
「皆さんお待ちですよ」
招き入れてくれた青年は、黒耀を見るなりみな揃っていると告げた。どうやら自分が訪ねるまでは動くな、と最初に指示を入れてあったらしい。
そこは抜かりないのが魔法槍士だ。事情がすべてわかるまで、勝手に動かないよう指示を出したのだろう。
「長、黒耀が来ました」
「よく来た。待っていたぞ」
魔竜族の長と会うとは聞かされていたが、目の前にして見れば少し驚く。魔竜族の長と言えば、ベル・ロードを統治するものだ。
天竜王とも変わらない存在である。普通の生活をしていれば、まず会うことはない存在だ。
だが、気後れはしない。過去で魔法槍士や補佐官、天竜王と交流をした経験が、彼を大きく変えたのだ。
「いい目をするようになったな。それだけの経験をしてきたのか」
「琅悸!」
「お久しぶりです、と言った方がいいですかね」
「氷穂さんも……」
別れた当時、会って間もなかった。付き合いは短く、なにも知らないに等しい関係だが、自分にとっては仲間。
懐かしい。心の底から沸き上がってきた感情。
帰ってきたのだ。ようやく在るべき時代に帰ってきたのだと実感する。
「再会を懐かしみたいが、先に話をしよう。先日の地震以降、気になることがある」
地震と言われ、柊稀は神具の話だと黒耀を見る。彼自身も、現在なにが起きているのか気になっていたのだ。
見ていただけに、普通ではないことだけわかっている。
「邪教集団の実態はまだわかっていない。だが、神竜をあちらに押さえられたとみていい。そして、神具を奪われた。あれが奪われたことで、末裔は力を失なってしまう」
「それでか……」
あれ以来、力を失ったと琅悸が言う。彼は地竜王の末裔、それも直系なのだが、今は末裔としての力を感じられなくなっていた。
それがずっと気になっていたのだ。どうすれば失われてしまうのか。
接触もしていないのに、力を奪う方法があるなど考えもしなかったのだ。いや、奪えるものだとすら思っていなかった。
「神具は神竜が与えたと言うが、違うのかもしれない。いや、正確には与えた者と作った者が違うと言うべきか」
詳しいことは、まず黒欧から聞こう。視線で促せば、魔法槍士に仕える者は頷く。
――私が話すことは、柊稀殿が過去へ行ったことで、過去の者達が推測したことです――
前置きをすると、彼は話し出した。
柊稀と柏羅が過去へ行ったことにより、未来がどうなるかを知ってしまった過去の者達。
詳しく知らない彼らは、やはり邪教集団の正体までは想像がつかないと告げていた。
――けれど、ひとつだけ可能性を上げてくれました――
創歴には別の文明があったと言われている。年数を数えられているのは、竜族が誕生してからのこと。
つまり、創歴は数えられている年数以前が存在するのだ。
「その頃にしかいなかった種族が、いたかもしれない。そういうことか」
難しい表情を浮かべる琅悸。もしそうなら、相手の詮索はしても意味がないことになる。
「その可能性はありえるかもしれない。魔竜族の神殿には、謎の生き物と戦う絵が残されていた」
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