始まりの竜

朱璃 翼

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二部 過去編

遡る過去3

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「容赦なくやりましたね」

 切り傷の手当てをしながら夜秋は苦笑いを浮かべる。まさかここまでやるとは思わなかったのだ。

 ただ、それについてきた彼にも少なからず驚いている。

 それだけ強くなりたいのだろう。気持ちだけは夜秋にも伝わってきた。強くなれるかに関しては、別問題であるが。

「わりぃ。ついついな。悪ガキを相手してるのと同じようにしちまった」

 笑う秋星は、無傷で疲れてもいない。あと何時間でも稽古できるほど、余裕があるようだ。

「悪ガキって……」

「息子が二人いるんだよ。やんちゃでなぁ」

「誰かに似たのでしょう」

 しれっと言う夜秋に秋星が睨む。誰のことだ、と言いたそうに。

 そんな二人を見ながら、この二人はどんな関係なのだろうかと思わずにはいられない。

「兄弟、ですよね?」

 瓜二つなのを見ればそこはわかる。これで兄弟ではないと言われた方がびっくりだ。

「双子です」

「嫌なことにな」

 にこやかに笑うのが兄で、無愛想に言うのが弟。なんとなくだが柊稀にはわかった。秋星はなにか苦労していることがあるのだということが。

 仲のいい二人は見ていて羨ましいと思う。柊稀は一人っ子だったから。

「食べられないものあるか?」

「いえ、ないです」

「そりゃ助かる。夜秋はうるせぇからな。飯の支度してくる」

「あ、うん」

 普通に見送り、ハッと我に変える。飯の支度と彼は言った。

「秋星さんが作るの?」

「驚くことですか? 僕も飛狛もできますよ」

 驚くことである。なぜなら、柊稀は料理ができないからだ。

 しかも魔法槍士までもが料理をするという。こんなに驚くことはないだろう。

「うちも飛狛のとこも、母親が得意でしたからね。自然と手伝ううちに覚えましたよ」

 聞いていれば、手伝ってもできない自分がなんだか情けなくなる。

(きっと、手伝うのレベルが違うんだ)

 きっとそうだと柊稀は思うことにした。彼の手伝うは、主に運ぶことであったから。言えば、それは手伝うとは言わない、と言われていたかもしれない。

 時間があるから、話せることなら話してくれると夜秋は言った。どこまで話していいのか、どこまで聞いていいのか互いに悩むところではあったが。

「僕は無知だから、色々知らなくて。なにを聞いたらいいのか……」

 知識はほしい。けれど、なにを聞いたらいいかもわからない。

 素直に言えば、目の前の青年は少しばかり考え込む。

「まぁ、なにが必要かですよね。今のあなたにとって」

「今の僕に、必要なもの」

 始祖竜や邪教集団。今は彼らについての情報がほしい。けれど、この時代にはいない存在。

「飛狛と話してからがよさそうですね」

「そう、ですね」

 魔法槍士が来るまで詳細は聞かないと二人は言った。詳細を知れば、必要なことを話してくれるかもしれない。

 待つしかないのだと、柊稀はため息をつく。ここに来た理由も、帰る方法も、すべては魔法槍士が来てから。

 落ち込んだように見える柊稀に、夜秋はひとつ話をしようと思った。

「その剣、家にあったんですか?」

「はい。代々継がれているそうです」

 そっと触れる剣。どれぐらい前からあるのかわからないが、家に伝わる宝剣だと言われていた。

「火炎剣……あなたは持ち主に似ていますね。最初の持ち主は、あなたみたいな感じですよ」

 弱くはない。彼には眠れる才能がある。秋星の稽古を見ていた夜秋は、そう思っていた。

 それはなんとなくだが、剣の最初の持ち主を感じさせる。あの人もそうだったなと。

 夜秋にとっては聞いた話でしかないが、両親から聞いたのだから間違いはない。

 特に、父親は気にかけていた。なぜなのかまでは知らないが、懐かしい昔の記憶だ。

「僕みたいな感じ?」

「弱かったらしいです。父さんから聞いた話ですが」

 その一言で、彼らの父親の知り合いが最初の持ち主だと察した。同郷だと言っていたから、知っているのだと。

「世の中、最初から強い人もいます。ですが、努力をして強くなった人が、天才に勝てないわけじゃないんですよ。また、天才と言われる人がまったく努力してないとも言えません。見せないだけということもありますからね。その剣の持ち主は、努力して強くなった人で、天才と呼ばれる人とも対等にやってみせましたよ」

 その言葉は、柊稀にとって力を与えるものとなった。努力をすれば強くなれると、希望が持てたのだ。

「飛狛みてぇに、強いのに自信がなくて負け続けるっていうのもあったなぁ」

「ありましたね。待ちますか?」

 もちろん、飛狛を待って食事にするかという意味。待たないとあっさり答えたのは秋星で、さっさと食事の準備をする。

「いいんですか?」

「いいんです」

「待ってたらきりがねぇしな」

 アバウトな時間しかわからない。夜のいつ来るかまで、二人は知らないのだ。

 どうせ仕事に区切りがつくまで来ることはないだろう。なんて軽い気持ちでいるほど。

「下手したら、寄り道してますよ」

「はぁ? 一人だけいちゃこらとか許さねぇぞ」

 そう言った瞬間、妙な間が起きる。夜秋の視線は、少し哀れみすらあったかもしれない。





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