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6部 星の女神編
光との対話3
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情報はすべて渡すと言われれば、グレンだけでいいとイリティスは言う。
「私は外へ行かないわ。グレンを信じているし、情報はいらない。持ってしまえば、考えてしまうだろうし」
余計な考えをしたくはない。自分が考えることは、この世界を守ること。それだけだと言った。
「お前らしいな」
今も昔も変わらない。イリティスは夫の帰る場所を守り続けることを優先する。それ以外は仲間と夫に任せるのだ。
『ほんと、母さんぽいね』
いつまでも考えが変わらない。だからこそ、シオン・アルヴァースは動き回れるのだ。
「レイン、スレイ……力添え感謝するわ。あとはグレンと二人で話してちょうだい」
にっこりと笑えば、イリティスは自室へ戻っていく。残されたグレンは笑いながら見送っていた。
さっぱりとしている。だからこそ、友人にはいい妻なのだと、グレンは思っていた。考えすぎてしまうところがあるからこそ、バッサリと切り捨ててくれる存在が必要だ。
本当にいい妻を得たものだ、と思えば切り替える。
「それで、今度は俺と話そうというわけか」
話を終えたグレンが、そのまま向かったのはシュレの元。
「お前も、わかってて起きていたのだろ」
「寝てたとして、お前なら叩き起こすだろ」
だから起きていただけだと言われれば、確かにそうしただろうとグレンは納得する。
シュレなら、容赦なく叩き起こす。そうしていいと思っているのだ。
「選択を間違えたかもしれないな」
察したシュレがため息をつけば、笑いながら目の前に酒を差し出すグレン。飲みながら話そうということなのだろう。
「これを飲む間だけだからな」
その間だけなら付き合うが、それ以降は寝るということだ。なにせ、明日以降も彼に付き合わされるのだから。
(まさか、外の世界まで俺を連れまわすとは思わなかった)
彼に近づいたのは自分だが、距離を縮めた結果がこれだ。想像以上に大きな問題へ、足を突っ込んでしまった。
悩ましいところだな、と思うと酒を手にする。さっさと終わらせようと。
話の内容は、外へ行ってからのことだ。想定内といえば、想定内のことなのだが、少しばかり気になることもある。
「奥方はどうするんだ?」
彼が妻を連れていくかどうかだ。
どうやら、少しばかり特殊な戦力になるようだということはわかっていたが、さすがに外へ連れて行くのはどうかと思っていた。
「置いていく。外でも使える保証がない」
想定外だ、とシュレは驚く。彼なら、どんなところへでも連れて行くと思っていた。自分が守れば問題ないと。
「アクアを連れて行くと、シャル・フィアラントもついてきてしまう。あいつは、頭が固いところがあるからな」
護衛対象として、アクアの傍を離れることはしないだろう。
特に、彼女の傍に恋人がいるとなれば尚更だ。彼を留まらせるという意味でも、妻を連れていけないというのがグレンの考え。
「そういうことか。確かに、あの男まで外へ行くと戦力が問題になるのか」
バルスデにいる二人が全面的に力を貸してくれるが、任せきりにするわけにはいかない。
なるべくなら、こちらだけで対処したいというのも、グレンの考えだ。
戦力を外へ傾けることはできないのだ。一番に優先するのは、この世界なのだから。
「外に関しては、俺達ではなくクオン達が主導だと思ってるしな」
おまけだと言えば、シュレは呆れたように見ている。バルスデ王国の関係者が、英雄王をおまけに思うわけがない。
少しばかり哀れに思えた。かなり気を遣うだろう騎士達に。
(まぁ、それも時間の問題か)
自分から壁を壊すと知っているだけに、それほど困ることでもないと思い直す。
「気になってることがあるんだが」
そのようなことより、ずっと気になっていたことがあると言う。彼がなにか気付き、黙っていることがあるとわかっていたのだ。
「さすがだな。それも、そうだな……話しておくか」
「……たまには、黙るって選択肢はないのか」
聞いておいてなんだが、と前置きするシュレは、そんなにすべてを話していいのかと本気で思っていた。
「隠す必要がないと思ってる。どうせ、バレる日がくる内容だ」
「そういうことにしておくさ」
言っていることは間違っていない。けれど、すべてが真実でもないと思っていた。
深いところまで知ってしまったような、浅いところまでしか知らないような。
グレンと話していると、なんともいえない不思議な感覚に陥るのだ。どんなことでも話してくれるが、本当にすべてを話しているのか。
(どこまで信じればいいのか、わからなくなるんだよな)
そういったことを計算しているような人物ではない。彼は国を治めていたこともあり、一筋縄ではいかないというのが最近の気持ちだ。
近い存在になればなるほどに、彼のことがわからなくなっていく。
「……確証があるのか?」
「こればかりは、今のところ勘としか言えないな」
ハッキリと言い切れるのだが、確証があるかと問われれば、それを形で示すことはできない。グレンだからこそわかったこと、なのだから。
「まぁ、外でしばらく一緒だ。のんびりと見させてもらうか」
飲み終わったと、空になった酒瓶を見せるシュレ。これでお開きだと笑いながら言えば、立ち上がった。
「新しい魔弓は、問題ないのか」
「俺に抜かりはない」
聞くだけ愚問だと笑ったシュレに、グレンは笑いながら見送る。さすがだと思いながら。
・
「私は外へ行かないわ。グレンを信じているし、情報はいらない。持ってしまえば、考えてしまうだろうし」
余計な考えをしたくはない。自分が考えることは、この世界を守ること。それだけだと言った。
「お前らしいな」
今も昔も変わらない。イリティスは夫の帰る場所を守り続けることを優先する。それ以外は仲間と夫に任せるのだ。
『ほんと、母さんぽいね』
いつまでも考えが変わらない。だからこそ、シオン・アルヴァースは動き回れるのだ。
「レイン、スレイ……力添え感謝するわ。あとはグレンと二人で話してちょうだい」
にっこりと笑えば、イリティスは自室へ戻っていく。残されたグレンは笑いながら見送っていた。
さっぱりとしている。だからこそ、友人にはいい妻なのだと、グレンは思っていた。考えすぎてしまうところがあるからこそ、バッサリと切り捨ててくれる存在が必要だ。
本当にいい妻を得たものだ、と思えば切り替える。
「それで、今度は俺と話そうというわけか」
話を終えたグレンが、そのまま向かったのはシュレの元。
「お前も、わかってて起きていたのだろ」
「寝てたとして、お前なら叩き起こすだろ」
だから起きていただけだと言われれば、確かにそうしただろうとグレンは納得する。
シュレなら、容赦なく叩き起こす。そうしていいと思っているのだ。
「選択を間違えたかもしれないな」
察したシュレがため息をつけば、笑いながら目の前に酒を差し出すグレン。飲みながら話そうということなのだろう。
「これを飲む間だけだからな」
その間だけなら付き合うが、それ以降は寝るということだ。なにせ、明日以降も彼に付き合わされるのだから。
(まさか、外の世界まで俺を連れまわすとは思わなかった)
彼に近づいたのは自分だが、距離を縮めた結果がこれだ。想像以上に大きな問題へ、足を突っ込んでしまった。
悩ましいところだな、と思うと酒を手にする。さっさと終わらせようと。
話の内容は、外へ行ってからのことだ。想定内といえば、想定内のことなのだが、少しばかり気になることもある。
「奥方はどうするんだ?」
彼が妻を連れていくかどうかだ。
どうやら、少しばかり特殊な戦力になるようだということはわかっていたが、さすがに外へ連れて行くのはどうかと思っていた。
「置いていく。外でも使える保証がない」
想定外だ、とシュレは驚く。彼なら、どんなところへでも連れて行くと思っていた。自分が守れば問題ないと。
「アクアを連れて行くと、シャル・フィアラントもついてきてしまう。あいつは、頭が固いところがあるからな」
護衛対象として、アクアの傍を離れることはしないだろう。
特に、彼女の傍に恋人がいるとなれば尚更だ。彼を留まらせるという意味でも、妻を連れていけないというのがグレンの考え。
「そういうことか。確かに、あの男まで外へ行くと戦力が問題になるのか」
バルスデにいる二人が全面的に力を貸してくれるが、任せきりにするわけにはいかない。
なるべくなら、こちらだけで対処したいというのも、グレンの考えだ。
戦力を外へ傾けることはできないのだ。一番に優先するのは、この世界なのだから。
「外に関しては、俺達ではなくクオン達が主導だと思ってるしな」
おまけだと言えば、シュレは呆れたように見ている。バルスデ王国の関係者が、英雄王をおまけに思うわけがない。
少しばかり哀れに思えた。かなり気を遣うだろう騎士達に。
(まぁ、それも時間の問題か)
自分から壁を壊すと知っているだけに、それほど困ることでもないと思い直す。
「気になってることがあるんだが」
そのようなことより、ずっと気になっていたことがあると言う。彼がなにか気付き、黙っていることがあるとわかっていたのだ。
「さすがだな。それも、そうだな……話しておくか」
「……たまには、黙るって選択肢はないのか」
聞いておいてなんだが、と前置きするシュレは、そんなにすべてを話していいのかと本気で思っていた。
「隠す必要がないと思ってる。どうせ、バレる日がくる内容だ」
「そういうことにしておくさ」
言っていることは間違っていない。けれど、すべてが真実でもないと思っていた。
深いところまで知ってしまったような、浅いところまでしか知らないような。
グレンと話していると、なんともいえない不思議な感覚に陥るのだ。どんなことでも話してくれるが、本当にすべてを話しているのか。
(どこまで信じればいいのか、わからなくなるんだよな)
そういったことを計算しているような人物ではない。彼は国を治めていたこともあり、一筋縄ではいかないというのが最近の気持ちだ。
近い存在になればなるほどに、彼のことがわからなくなっていく。
「……確証があるのか?」
「こればかりは、今のところ勘としか言えないな」
ハッキリと言い切れるのだが、確証があるかと問われれば、それを形で示すことはできない。グレンだからこそわかったこと、なのだから。
「まぁ、外でしばらく一緒だ。のんびりと見させてもらうか」
飲み終わったと、空になった酒瓶を見せるシュレ。これでお開きだと笑いながら言えば、立ち上がった。
「新しい魔弓は、問題ないのか」
「俺に抜かりはない」
聞くだけ愚問だと笑ったシュレに、グレンは笑いながら見送る。さすがだと思いながら。
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