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6部 星の女神編

大地の守護者2

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「お初にお目にかかる。ティアラーナの守護者、エリアス・ティアーズだ」

 まだ幼い少年といった彼は、白銀の髪を短く切りそろえ、深い森のような瞳をしていた。

 クオンと同じで同じではない、けれど森を表す瞳にリーナは好感を持つ。

「どうやら、こいつをこっちにやったのはシオンのようだな。切り札とするためというよりは、これで助けを求めたというところだと思うが」

「申し訳ありません。何分、誕生したばかりで」

 別の世界へ来て力が失われてしまったと言われれば、こればかりは誰も推測することはできないとグレンも言う。

 シオンも考えてはいなかったかもしれない。自分は普通に行き来できていたから、別の世界へ行くことで力が失われてしまうなど思いもしないだろう。

「そうね。思っていたとしても、ここまで完全に動けなくなるとは考えていなかったかも」

 力が多少失われても、動けなくなるほどとは思っていなかった可能性が高い。想定外なことが起きてしまったのだ。

 そうなってくると、助けを待つ期間も長くなるということで、あちらは大丈夫なのかという気持ちが強くなる。

 外に関しては彼から聞くのがいい。エリアスへ視線を向ければ、理解した少年が頷く。

「俺が守護する世界は、ティアラーナという名がつけられている。ティアラーナは大地の女神と海の女神が創った世界だ」

 当然ながら、守護者も二人いると言う。大地の女神が創った守護者がエリアスであり、海の守護者はティアラーナに残っている状態。

 両方空けるわけにはいかないと、力の強い方をこちらへ飛ばしたのだ。

「けど、俺でも飛ばされてきた衝撃で力を失った。なんとか存在を維持したという状態で、こちらの精霊に助けられなかったら危なかったかもしれない」

 感謝していると言えば、精霊達が風で応える。意味はわからないが、気にしなくていいということだとエリアスは解釈した。

「力の回復にだいぶ時間を要してしまった」

 だけど、こんなに早く戻るとも思っていなかったのだ。もっとかかると思っていた。

 ここは自分の世界ではないことから、勝手が違う。魔力などの性質も違うのだ。

「早まった原因は、おそらくそれだ」

 フィーリオナが持つ包みを指差せば、全員の視線が向けられた。

 大地の女神ファラーレが、ヴェストリア・バルスデ・フォーランへ授けた聖剣。その力が解き放たれたことが大きいだろう、とエリアスは考えている。

「クロエが無理矢理使ったやつな……とんでもねぇことしやがって」

「まさかクロエがあんなことするなんてね」

 驚きだよとリーナが言えば、珍しくもクロエは視線を逸らす。

 自分があと一歩で死んでいたという自覚はあった。当時は考えていなかったが、それすら珍しいということも自覚している。

(まさか、我を忘れるなど……)

 本当にどうかしていたと、ため息をつく。思い返したくもない出来事だ。

「まぁ、そんなときもあるだろ。まだ若いんだからな。シオンなんて、今でも感情的になるぞ」

 あれと比べるのは違うかもしれないが、と笑いながらグレンが言う。生きている年数が違うのだから、比べる相手としては、違うと思っているのだ。

「あれと比べるのは違うけれど、若いというところは同意よね。若さ故の出来事と思っていたらいいのよ」

「……はい」

 なにを気にしているのか察したのか、イリティスが笑みを浮かべながら言えば、クロエはそれでも恥ずかしいと視線を逸らしたまま答える。

 意外な一面を見たと思っていたのは、セルティとイクティスの二人だ。彼にこのような一面があるとは思っていなかった。

「お前でも、そんな一面があるんだな」

「意外だね」

 二人がそんな風に言えば、クロエの鋭い視線が向けられる。

「クロエ、よく睨めるな……」

 さすがにこの二人を睨むことはできないと、クオンが引きつった表情を浮かべた。

「容赦する必要はない二人だからな」

 バッサリと切り捨てた姿に、笑うのはセルティだ。面白いと思っているのは明らかである。

「誰か話を戻せ……」

 そこに、冷ややかな声が混ざった。シュレが本題から反れていると見渡していたのだ。

『グレン、お前は本当にいい仲間を作ったな。この状況を気にしないとは』

「シュレはフィフィリス・ペドランと繋がりがあるからな。この程度じゃ動じないだろ。動じるなら初めからわかってて突っ込んできたりはしない」

 笑いながら言われた言葉に、関係者がそれぞれ異なる反応を見せる。ここでその名を聞くとは、誰も思っていなかったのだ。

 聞いてもいいのか悩むのは、フィフィリスを師匠に持つリーナ。

「一度、確認しておきたいと思っていたしな。どうなってるのか教えてくれるか、セルティ」

 彼女のことに関してはお前だろ、と言われればセルティは頷く。

「フィフィリス・ペドランは、ご存じの通りルフ・ペドランの家系に当たるハーフエルフだ。月神リオン・アルヴァースの仲間だったから、クオンは記憶を持つからなんとなくわかるだろ」

 視線を向けられたクオンは、繋がりの意味としては理解できると頷いた。もちろん、すべてがわかるわけではない。

 ないのだが、セルティを含めた繋がりという意味では理解できる。

「連絡を取っているのは、基本的に俺とシャル・フィアラントだけだ。本来の俺が裏に徹しているの同様に、ペドランの名を継ぐ者は裏から出ることがない」

 理由はわかっていないが、今まで裏から表に出てきたことはないとセルティは言う。バルスデのどこかにいる、仲間という認識でしかないのだと。

「だから、リーナを弟子に取ったと聞いたときには驚いたが」

 普段なら絶対にありえない行動だと言われれば、そうなのかとリーナも驚く。

「一時期、英雄王に会ってみたいという理由で、傭兵組合に所属していたのだが」

 もしかして、というようにシュレへ視線が向けられる。

「当時、新入りだった俺と組んでいたのがフィフィリスだった」

「フィフィリスが喋ったわけではないが、一緒にいたことで俺が英雄王だとバレたわけだな。すごい観察力だろ」

 楽しそうに言われれば、それはすごいと素直に認めるセルティ。目の前にいる英雄王は、簡単にバレるようなことはしないと確信しているのだ。

 バレても困ることではないが、なるべく隠しているだろう。だからこそ、危険なところには一切近寄らない。

「欲しくなるな……」

「傭兵で生計は立てられるので、騎士になるつもりはない」

 思わず呟いていたセルティに、シュレがまたもや切り捨てる。

 騎士になるつもりはないが、彼女は必ず手に入れると内心思いながら。

「この件にも、フィフィリスは関わってくる。強いからな。戦力としては最適だ」

「強いね。セルティの師匠だからね」

 ニコニコと笑いながら言うイクティスに、数秒の沈黙と驚きの声が響き渡った。





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