上 下
267 / 276
6部 星の女神編

顔合わせ

しおりを挟む
 太陽の間、そこは華美な装飾など一切なく、広い部屋の中にはテーブルとイスのみ。

 もっと豪華な部屋だと思っていただけに、これにはクオンも拍子抜けしたような表情を浮かべている。本当にここは女神の城だったのか、とすら思っていたほどだ。

「驚いたかしら」

 クスリと笑うイリティスに、クオンは素直に頷いた。驚いたことは事実だから。

「元々、なにか置いてあったわけでもないし、華美な物を求めるようなのがいないしね。気付いたらこうなってたのよ」

 家具に関心などない。住めればなんでもいいと思っていたのだ。それがシオンとグレンだったことから、太陽の間と呼ばれるこちら側には、豪華な家具など置いていない。

「なるほど……」

 それなら納得だと呟くクオン。

「女神様って、質素が好きだったのか?」

「どうなのかしら。そういう時代だった可能性もあるし」

「あぁ……そうか」

 それもそうだな、と呟く。時代が今と違うのだから、女神であっても豪華な家具など、持ってはいなかったのかもしれない。

 考えもしなかったと、クオンは考えることをやめた。

 室内をよく見てみれば、窓辺にハーフエルフとセイレーンがいる。英雄王とその妻だ。

 太陽神の住まいとしている部分へ入ってから、ずっと聞こえていた音色。気になってはいたが、英雄王の妻だったのかと思う。

(寝てる……が、起きてるのか)

 目を閉じているグレンに、寝ているが神経は外へ向けられている状態だとクオンは気付く。おそらく、今現在も会話は聞いている。

 不死となっている現在だからできることだ。今の自分にも、同じことができるのだろうかと、思わずそんなことを考えてしまう。

「ごめんねー。グレン君、だいぶ寝てなかったから、少し休ませてあげてね。話は聞いてると思うから」

 えへへと笑う英雄王の妻は、どう見ても少女に見える。違うとわかっていても、無邪気に笑う彼女は少女だ。

「子供に見えるでしょ。私も思うのよね」

 クオンの内心を察したイリティスが言えば、どういう意味だと膨れるから、あれを大人の女性とは見えないな、とさらに思ってしまった。

 どうすれば、彼女のようになるのかと。

(考えるだけ無駄か)

 どうせ考えても答えはない。なにせ、仲間がわかっていないのだから。

「とりあえず、座ってちょうだい。自己紹介から必要でしょうしね」

 イリティスが促すままにクオンが座れば、三人もそれぞれ席に着く。

 長話をするためか、テーブルの上にはいくらかの食べ物と飲み物が用意されている。そこに、自分が買ってきた果物を置くクオンに、妙な雰囲気が流れたのは一瞬。

 誰もが突っ込まないことに決めたのも、早かった。

『俺の食い物もちゃんとあるのか! さすがだな!』

 チョコが用意されているのを見て、ヴェガは上機嫌でテーブルに乗る。

「そろそろ欲しいのではないかと思ってね」

 クオンについていたことで、数日はチョコを食べていない。聖獣は食べなくても困らないのだが、好物を食べないと機嫌が悪くなる。

 それをよく知っているイリティスは、この場に必要と用意していたのだ。

『さすがイリティスだぜ。俺のご主人様は、その辺り気が利かねぇ』

 困ったもんだぜ、と言いながらチョコを食べ始めたから、リーナが吹き出しそうになる。クオンの表情は引きつっているが、視線を逸らすクロエも笑いを堪えているようだ。

「いい性格だな」

『褒めても分けてやらねぇぞ』

 フィーリオナにヴェガが答えれば、褒めてねぇよと呟くクオン。集まりの場でなければ、怒鳴っていただろう。

 いい関係だ、とイリティスも笑えば、なにかに気付いたようで後ろを見る。

 グレンが起きていたのだ。気配を絶って入ってきた客に気付いて。

「趣味が悪いな。気配を絶ってくるなんて」

「気付いたではないですか」

 にこやかに笑うイクティスと、どことなく疲れた表情を浮かべるセルティ。振り回されているのかもと思えば、大変だなと笑う。

「やれやれ。クレドはとんでもないのを残したものだな」

 おとなしく寝かせてもらえないとぼやけば、話に参加するのか席に着く。起きたからには参加しようということなのだろう。

「起きたなら、任せるわよ」

 こういったのは自分の役割ではない。グレンの方が慣れているだろ、という意味だ。

「仕方ないな。クレドがいれば、なんでも仕切ってくれたんだが」

 このメンバーではやるしかないか、と笑う。

 グレン自身も、仕切るというのは好きではない。可能なら誰かに丸投げしたいところなのだが、さすがにこの状態では丸投げするわけにもいかないのだ。

 アクアが寄り添うようにやってくれば、グレンの表情は引き締まった。

「名乗りから始めるとしようか。知っている者もいるとは思うが、必要だろ」

 確認するようにグレンが視線を向ければ、クオンは頷く。彼にとっては、知らない者ばかりだ。この先、関わっていくことになるのだから、情報は欲しい。

「俺はグレン。グレン・フォーランだ。バルスデの名は、退位と同時に捨てている。英雄王と呼ばれるのは好きじゃないから、呼ぶなよ」

 バルスデの関係者である以上、自分を英雄王と呼ぶことを見越しての言葉だった。

「知っての通り、太陽神と月神の聖剣を所持している。現在は太陽神の眷属という扱いで不死となった状態だ」

 一番気になるところは、不死となっている部分だろう。わかっているからこそ、彼は先に情報として流した。

「そして、俺が連れてきたのが傭兵組合の者達だ」

 自分が連れてきた仲間として視線を向ければ、クオンも自然とそちらを見る。

「傭兵組合、副組合長のエシェル・フラムーン、シュレ・エーレルカとアイカ・カスティーリ。シュレはシリン・アルヴァースが使っていた聖弓を継いでいる。今現在の、俺の片腕だ」

 ハッキリと言われた言葉に、誰よりも驚いたのはシュレ自身だ。まさか、このような場で自分を片腕と言うとは思わなかった。

(まったく……とんでもない期待だな)

 だが、悪くないと思う。この期待に、応えたいと。

 クオンの方も、今の紹介だけでシュレをどれほど頼りにしているのか知る。つまり、彼側の人材としては一番だと言うことだ。

「次はあたしかな? あたしはアクア・フォーラン。イリティスちゃんの眷属で、星視とこれぐらいしか力はないかなぁ」

 奏でられる竪琴。音色に合わせて動く物を見て、リーナが驚く。彼女は音色で魔力を使っているからだ。

「女神の能力だと思われる言霊も使えるが、これも魔力が尽きたら使えない。援護メインだと覚えてもらえればいい」

 補足するようにグレンが言えば、四人ともがありがたいじゃないかと視線を向ける。

 なにせ、四人ともが援護ではない。辛うじてリーナが援護もできるのだが、基本は接近戦タイプだ。

「言いたいことはわかる」

 苦笑いを浮かべながらグレンが言えば、アクアだけがわかっていない様子で首を傾げた。

「で、あたしと一緒にいるのが天空騎士団の副団長ソニア・フォーランと魔騎士団シャル・フィアラント。シャルがイェルクの聖槍を引き継いだよ」

 紹介された二人を見て、あのハーフエルフかとクオンが観察する。

 彼は間違いなく強い。そう思うと同時に、フィアラントの名に首を傾げた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

錬金術師カレンはもう妥協しません

山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」 前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。 病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。 自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。 それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。 依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。 王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。 前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。 ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。 仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。 錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。 ※小説家になろうにも投稿中。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

前世は最悪だったのに神の世界に行ったら神々全員&転生先の家族から溺愛されて幸せ!?しかも最強➕契約した者、創られた者は過保護すぎ!他者も!?

a.m.
ファンタジー
主人公柳沢 尊(やなぎさわ たける)は最悪な人生だった・・耐えられず心が壊れ自殺してしまう。 気が付くと神の世界にいた。 そして目の前には、多数の神々いて「柳沢尊よ、幸せに出来なくてすまなかった転生の前に前の人生で壊れてしまった心を一緒に治そう」 そうして神々たちとの生活が始まるのだった... もちろん転生もします 神の逆鱗は、尊を傷つけること。 神「我々の子、愛し子を傷つける者は何であろうと容赦しない!」 神々&転生先の家族から溺愛! 成長速度は遅いです。 じっくり成長させようと思います。 一年一年丁寧に書いていきます。 二年後等とはしません。 今のところ。 前世で味わえなかった幸せを! 家族との思い出を大切に。 現在転生後···· 0歳  1章物語の要点······神々との出会い  1章②物語の要点······家族&神々の愛情 現在1章③物語の要点······? 想像力が9/25日から爆発しまして増えたための変えました。 学校編&冒険編はもう少し進んでから ―――編、―――編―――編まだまだ色んなのを書く予定―――は秘密    処女作なのでお手柔らかにお願いします。文章を書くのが下手なので誤字脱字や比例していたらコメントに書いていただけたらすぐに直しますのでお願いします。(背景などの細かいところはまだ全く書けないのですいません。)主人公以外の目線は、お気に入り100になり次第別に書きますのでそちらの方もよろしくお願いします。(詳細は200) 感想お願いいたします。 ❕只今話を繋げ中なためしおりの方は注意❕ 目線、詳細は本編の間に入れました 2020年9月毎日投稿予定(何もなければ)  頑張ります (心の中で読んでくださる皆さんに物語の何か案があれば教えてほしい~~🙏)と思ってしまいました。人物、魔物、物語の流れなど何でも、皆さんの理想に追いつくために! 旧 転生したら最強だったし幸せだった

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

処理中です...