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6部 星の女神編

話し合いの前に

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 目の前に飾られている一枚の絵。あれが太陽神なのか、とリーナは驚く。

「フィオナは見たことあるのよね」

「あぁ、あるな。王位を継ぐとき、必ずここへ来る決まりがあって、そのとき見た」

 初めて見たときは、太陽神と呼ばれているにしては強そうではない、とすら思った。これが本当に神なのかと。

 雰囲気が柔らかいシオン・アルヴァースに、実際とは違うのではないかとすら思ったほど。

『無理もねぇ。あいつ、見た目は強そうじゃないからな』

 自分でも思うとヴェガが言えば、記憶を掘り出してクオンが頷く。そうだと思えたのだ。

「極度のマイペースだもんな」

『そうなんだよな。一日中でも空を眺めてるし、ほんと大丈夫かって言いたくなるような奴だ』

 会ったら驚くぞ、とヴェガは笑いながら言う。イメージが勝手についている状態なら、尚更に驚くだろうと。

 けれど、やるときはやる奴だから安心しろと付け足すことも忘れない。

「それで、ここで待ってればいいわけでもないだろ」

 突然連れてこられたが、意味があるはずだとクオンは相棒を見る。

「ここからは、私がお相手をさせていただきます」

 タイミングよく入ってきた少女に、クオンが誰だと言うように見る。

「お初にお目にかかります。私は精霊の巫女、リーシュ・アルヴァースと申します。普段はリーシュ・シーゼルと名乗らせていただいております」

 名乗る少女に、彼女が精霊の巫女なのかとクオンが驚いた。自分とたいして変わらない年齢の少女が、世界を見守る者としている。

 瞬時に理解したのは、名前だった。自分が名乗るにはまだ迷いがあるアルヴァースという姓は、女神の言葉で世界を見守る者という意味だから。

「グレン殿が休息を取られているので、私が引き受けさせていただきました」

 さすがに少し休む、と言われてしまったことから、リーシュが自主的にやってきた。

 すべてを知るという意味からも、適任だろうと言われれば、ヴェガも納得したように頷く。彼女かイリティスがいいだろうとわかるからだ。

「夜には関係者がすべて集まります。それまでに、クオン殿にはすべてを知っていただく必要があります」

 リオン・アルヴァースが死んだあとのことを知る必要がある。わかっていたことだからこそ、クオンは表情を引き締めて頷く。

 こちらへと言われるままに移動する四人。そこには、別の絵が飾られていた。

「太陽神の息子であるレイン・アルヴァースと、月神の息子であるスレイ・アルヴァースのお二人です」

 誰かと見ているクオンに、リーシュが説明する。

「こちらが聖剣の使い手であったディアンシ・ノヴァ・オーヴァチュアとフェーナ・ノヴァ・オーヴァチュア。聖槍の使い手であったイェルク・ソレニムス。聖弓の使い手であったシリン・アルヴァース」

 これが、と驚くクオンとリーナ。一度見たことがあるフィーリオナは驚くことがなく、クロエもそれほど気にしてはいない。

「もしかして、クロエは知ってた?」

 自分の家に絵が残されていると聞かされたリーナ。もしかしたら、ソレニムス家にもあるのかもしれないと問いかけてみる。

「イェルク・ソレニムスとフェーナ・ノヴァ・オーヴァチュアは知っている。家に絵が残されてるからな」

 この辺りは、オーヴァチュア家と同じだろうとクロエは言う。残されている理由も含めて。

「そうかぁ。私は知らなかったけど、お兄様は知ってたものね」

 家を継ぐか継がないかの違いかと、リーナは不公平だと呟く。

 語られる物語は、彼らのことだとリーシュが伝える。歴史上にも名前が出ているので、当然ながら四人ともが知っていることだと思う、とも言う。

「バルスデ王国の女王であられるなら、すべてを知っているかと思うのですが」

「私は知っている。だが、イクティスが情報操作をしている可能性もあるからな」

 なんとも言えないところだと、苦笑いを浮かべている。

 もしかしたら、自分が知っている内容とは違うかもしれない。事実を知っているかもしれないが、知らないこともあるかもしれない、と思っていた。

「あの方なら、やりそうですね」

 顔を合わせたのは二度だが、リーシュでもありえそうだと苦笑いを浮かべる。

「イクティス様だもんな」

「そうね」

「イクティス様だからな」

 三人も納得したように頷くと、ヴェガが引いていた。一体どんな奴だ、と思ったのだろう。

「会えばわかる。どうせくるんだろ」

「はい。連絡を入れたところ、いらっしゃるということです」

 なら、それを楽しみにするかとヴェガが頷くと、本題に入ろうと切り替える。時間は限られているのだからと。

 リオン・アルヴァースの死後、なにがあったのかという物語は歴史通りで、歴史通りではない。バルスデ王国は真実を伝えている。

「おそらく、事実と違うという部分はこちらでしょう」

 簡潔に話された内容は、歴史として記憶している通りのもの。バルスデ王国で一般的に教えられている内容だ。

「ですが、実際は根本的なところが違っています。女神メルレールは、一人の男性と恋に落ち、双子の男児を産みました」

 まさか、というようにリーナがクオンを見る。それが太陽神と月神なのだとわかったからだ。

「その通りです。太陽神と月神は女神の力を得たのではなく、神の子なのです。ですから、その血を継ぐオーヴァチュア家にも、特殊能力という形で残されているのだと思われます」

 月神の子も当然ながら、女神の血を引く存在なのだ。娘が嫁いだオーヴァチュア家には、女神の血が流れている。

 だから特殊能力があると言われてしまえば、納得したようにリーナは頷く。それならば、この力の意味がわかると。

 星の女神になったことで、力を自在に操れるようになった意味もだ。

 この辺りは、聖獣から聞いた方がいいことだとリーシュが言えば、そうだなとヴェガも言う。

『シオンとリオンには言えなかったんだよ。女神は子供を捨てて男を選んだ。その結果、世界を壊そうとしているから、女神を殺してくれ、なんてな』

 簡潔に言えば、こういうことだとヴェガが言った。四人ともが絶句したままヴェガを見る。

 さすがに、フィーリオナもここまで率直に言うとは思わなかった。知ってはいたが、どこかで違うと思いたかったのもあり、言葉が出なかったのだ。

『リオンの記憶を持つクオンならわかるだろ。シオンは女神を崇拝してた。あいつに、女神を殺せなんて言えるか?』

「無理だな。言ったところで動くわけがねぇ」

 会ったことはないが、記憶で知っている人物通りなら無理だろうと言い切れた。

 むしろ、聖獣達の言葉を信じることはなかっただろう。もしかしたら、自分達の信頼を得てから聖獣は言うつもりだったのかもしれない。

 そうでなければ、女神が改心することを願っていたのかも、と思った。聖獣達も、女神を信じたかったのかもと。

 結果は今の世界だ。女神がいなくなったこの世界が、すべての答え。





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