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6部 星の女神編

精霊の呼び出し3

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 傭兵組合の設立にカロル・シュトラウスが関わっていることは知っているが、今でもシュトラウス家が関わっていることは知らない。

「傭兵としてじゃない。情報屋として裏にいるんだ。協会お抱えでな」

 だから知らなくても当たり前だと言われてしまえば、意図的に裏で活動しているのだと納得する。

「さらに嫌な家だとは思うが」

「否定はしない。俺の前にも現れないからな」

 行動が完全に読まれているのだろうと、グレンも思っていた。毎回問いかけると、シュトラウスの情報屋は留守にしているのだから、絶対に狙っているとすら思っている。

 あの家ならやってみせるだろうと。

「おかしなことはできないってわけか。そんなことする奴……いないわけじゃなかったか」

 傭兵組合の中にいないと言いかけて、いたことを思いだす。同時に、処罰が随分と早かったことも。あれは裏でシュトラウスの名を継ぐ情報屋がいたのだろう。

「お前は、俺に関わった時点で筒抜けだと思った方がいいぞ。フィフィリスとも関わってるしな」

「……そうだな」

 嫌な気分ではあるが、仕方ないと思うことにした。いまさらどうにかできることでもないと。

 とりあえずセルティへ連絡するよう、リーシュへ話してくるとシュレが部屋を出ていく。せっかく余裕を持たせた呼び出しへしたのに、このままでは意味がなくなってしまう。

「……休息を取れそうだな」

 全員目を覚ましたなら、少しばかりの休息を取っても問題がないだろうと、詰めていた息を吐く。

 さすがに疲れている。現状は死ぬことのない身体ではあるが、だからといって疲れないわけではないのだ。

 疲労も空腹も感じる。シオンも同様で、不死であっても生きていると感じる部分がこれなのだが、緊急時には不要だなと思う。

 妻も心配しているだろうし、とシュレから遅れること数分で部屋を出た。

「出てきたわね」

「待ってたのか、イリティス」

「えぇ、ちょっと呼び出しがあってね」

 精霊から、と言われれば、休息は取れなそうだと切り替える。まだ気を緩めるわけにはいかない。

 呼び出してきたのが精霊となれば、なにかあったと思うのが当然のこと。なにもなければ、それにこしたことはない。

(なにもないのが一番だ)

 これ以上は、勘弁してくれと願いながらイリティスへ付き合うことにした。

 アクアには伝えてあると言えば、そのまま精霊達の元へ向かうイリティス。急ぎかと思うが、おそらく明日の話し合いに間に合わせたいのだろう、と思い直す。

『呼び出して申し訳ない』

 向かってみれば、そこはなにかと争ったような跡だけがあった。

 ここも同時に襲われていたのかもしれない。やられた、というのがイリティスの内心だ。精霊達が守るものを狙うことは想定していたが、同時は想定していなかった。

「ごめんなさいね。助けに来られなくて」

 苦労したことは間違いない。メイスを狙われた際も、精霊達は魔物との戦いに苦戦していた。苦労しないわけがないのだ。

『いや、我らも同時は想定していなかった。あり得ることなのに』

 互いに考えていなかったのだから、これはどちらが悪いということではない、と言われれば、そういうことにしておこうとイリティスも納得する。

『それに、月神の覚醒と星の女神が誕生したことは吉兆であった』

 お陰で助かったと精霊は言う。夜を支配する神と女神が現れたことで、変化もあったと。

 強い光が辺りを包むと、小さな生き物が目の前に現れた。見たこともない生き物だが、それがどんな意味を持つかはわかる。

「外から来た、というやつか」

 鋭い視線を投げかけるグレンに、イリティスも少しばかり警戒心が強くなった。

『星の女神が誕生したとき、このような姿に変わった。影響を受けたことは間違いがなく、虹の女神らに預けたいと思う』

 この先も変化していくであろうことから、自分達の手元よりもいいと判断した精霊達。

 太陽神はいないが、月神はいるのだ。安全性も含めて、その方がいいということになった、と説明する。

「俺が預かる。イリティスに渡すのも、なにかあったとき困るからな」

 敵ではないかもしれないが、だからといって安全とも限らないとグレンが言う。なにがあるかわからない存在には変わりない。

『我々もそれがよいと思う。だからこそ、今回連れてきてほしいと望んだ』

「なるほどな」

 精霊からご指名だったのか、とグレンは笑う。これは考えもしない。

 基本的に、精霊とは無関係だと思っていた。自分から関わろうとしたこともなかっただけに、相手も同じだと思っていたのだ。

「とりあえず、こちらは預かるわね。外へ行くことになるだろうし」

 守護者という存在がどのようなものなのか、イリティスにはわからない。この世界にはいないからだ。

 けれど、ある程度の知識を持っているとも思っている。変わり者の魔物であるブライが、守護者から知識を得ていたことから、自然と持っていると考えていた。

『それともうひとつ。星の女神の力だと思うのだが、変わった力が働いている。確認は任せていいだろうか』

 傍らに月神がいる関係で、探ることができないと言う精霊。

 しかし、それがどのような力なのか気になっていた。星の女神とはいえ、害がある力なら考えなくてはいけない、とすら思っているのだ。

「それは、干渉の力ね。女神の血が起こしているようだから、特に言うことはないと思うのだけど」

 ヴェガから聞いた情報の中に、確かそんな内容があったなとイリティスが言う。

『干渉……聞いたことのない能力だ。しかし、女神の血からとなると、我らの知らない力もあるのかもしれない』

「そうね。害はないと思うわ。正確に確認はしてみるけど」

 もしも害があるなら、ヴェガが忠告してくると思っているだけに、問題ないだろうと精霊に伝える。

 精霊達が不安になるのは当然だ。女神メルレールの力しか知らないのだから。

 イリティスもそのような力があるとは思っていなかった。オーヴァチュア家の特殊能力に関しては、シオンが呟いていたことから知っている。

 そのような家系になってしまった。少しばかり気にしていたが、問題ないと言ったのはイリティスだ。精霊の巫女みたいなものだろうと。

 事実、オーヴァチュア家、シリウス家と女神の血に関してだけは精霊が管理していた。

「月神もいるのだし、深く気にしてはいけないわ」

『虹の女神が言うなら、我らは信じよう』

「問題があれば、俺も動く。オーヴァチュア家に関してなら、ほっとくわけにはいかないしな」

 グレンにとっても大切な家だ。ほっとくわけがない。

 なによりも、問題があれば最終的にシオンが動くだろう。わかっているからこそ、今は気にする必要がない。

 むしろ、グレンはいい力だとすら思う。これなら外へ行けるのではないかと。

「俺からも少し頼みがある」

『聞こう。太陽を支える者よ』

 先は決まっていないが、それでも色々な可能性を考えて動くべき。使えるものは、精霊であっても使うつもりで、グレンはそれを提案した。

 それにたいし、精霊が了承すれば二人はセレンへと戻る。仲間達と話すために。





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