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6部 星の女神編

長い夜の終わり

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 銀色の光が立ち上る。強い力を解き放つように銀色に輝く球が浮かび上がれば、誰もがそちらへ意識を向けた。

「おせぇんだよ、リーナ」

「あら、私が必要だなんてだらしないじゃない。クオン」

 クスリと笑うリーナに、舌打ちするクオン。確かに情けない、と思ってしまったのだ。

(そりゃ、頼らずに済むのが一番なんだけどよ。頼らなかったら頼らなかったで……めんどくせぇ女)

 なんでも一人でやれば、今度は無茶してと怒られる。正解がわからないとぼやくクオンに、笑ったのはヴェガだ。

『女など、そんなものだと思っておけ』

「なるほど…」

 一括りにしていいのか悩むところだが、リーナはこうだと諦めるしかない、と思うことにした。正解などないのだ。

 すべてが正解で、すべてが正解ではない。そう思っていたほうが楽かもしれないと。

「仕切り直そうぜ、相棒」

『おうよ』

 背後を気にしなくてもいいなら、自分も最前で戦おうとヴェガは笑う。誰よりも待ち望んでいた、新しい主との戦いだ。

 楽しくなってきた、と不謹慎にも思ってしまう。

「リーザテイン、あとは考えないぜ。全部解き放て!」

 聖剣のすべてを解き放てと言えば、クオンが耐えられる、耐えられないなど考えることもせず、ヴェガは了承した。

 彼はリーナがいればどこまでも強くなる。まるでシオンのようだと思った。

(リオンは、そうじゃなかった。なんだかんだで、あいつはエリルがいれば強くなるタイプじゃなかったしな)

 シオンに依存していたのが大きいのだろう。これ以上は後で考えようと、ヴェガは身体を輝かせる。

 氷の塊と言うのが正しいのではないか。輝く聖獣の姿に、クロエは戦いの主導権をクオンに任せようと引く。

 ここから先、あの魔物と戦う術を持たない自分では役に立てない。足止めではなく、倒す戦いをするからだ。

「聖剣よ…新たな月神のもと生まれ変われ…ファルフィリム!」

 白銀の輝きが聖剣から溢れ、形が曲刀へと変わっていく。

 ズシリとした重みに、使いやすくなったとクオンが笑う。これで全力が出せるはずだと。背中に感じる温もりが、より一層の実力を出させてくれる。

 クオンにとって、リーナがすべてなのだ。本人には言っていないが。

 クオンの隣に立つリーナ。彼が背中を託してくれるという事実が、彼女にとってどれだけの意味を持つことか。

(私は、ずっとここに立ちたかった。クロエがいつもいる、この位置に。今、私は立っている)

 大切なクオンのサポートをするわけでもなく、共に戦う位置に立つことができた。選ばれたからには、期待を裏切る真似だけはできない。

「シャリーラン!」

『任せて! リーナの願いのまま、私は戦うよ!』

 銀色に輝く玉から甲高い鳥の鳴き声が聞こえ、鈴を転がしたような声が響き渡る。美しい銀色の鳥は、ヴェガすら驚くほどの力を秘めていた。

 星の女神が、戦うために力を手にするとこうなるのか、と思ったほどだ。

(リーナ自体、女神の血を引いている。その影響もあるのか)

 リオン・アルヴァースの女神とは違う。女神の血、それもリオン・アルヴァースの血を引く月神と星の女神。

 同じ血を引くということが、いい方向に作用しているのかもしれない。想像以上の効果となって。

「シャリーラン、私達の初陣よ」

『うん!』

 四枚の翼を広げる聖鳥。主が望むままに、その力を攻撃へと特化させていた。

 聖鳥と星の女神は一心同体。主が望むままの存在として生まれたシャリーランは、完全なる攻撃型の聖鳥となっていた。

「どっちが仕留めるか、勝負かしら」

「おもしれぇ」

 クオンも当然ながら、聖鳥の状態はわかっている。面白いと笑えば、そのまま魔物へと斬りかかる。

 今のリーナは守る必要がない。星の女神としての力が、すべて攻撃に使われているのだから。

(そうじゃなきゃな)

 もう一人の自分が連れていた星の女神は、完全に守られる存在だった。同じになったらと、少しばかり不安でもあったのだ。

 聖鳥の力が同じ、という場合もあると。

『ワクワクって感じだな』

「あぁ。あいつと戦うのは楽しいさ」

 この瞬間を待っていたのだ。リーナが自分の力に自信を持ち、隣に立ってくれるこの瞬間を。

 ずっと彼女を待ち望んでいたが、クロエを意識していて立ってくれなかった。クオンが欲しいのは実力ではなく、隣に彼女が立ってくれること。

 たったのそれだけなのだ。ようやく叶った願いに、戦闘中だというのにワクワクしてしまう。気持ちを抑えられなかった。

 二人でなら、どこまでだって強くなれる。どんな魔物とも戦える、という確信があった。互いに視線を絡み合わせ、どちらともなく笑みを浮かべる。

 魔物との戦闘中だというのに、二人はどことなく楽しんでいるようだ。

(クオンはわかるが、リーナもとはな)

 見ていたクロエは、気持ちがわかると思う。クオンが待っていたことは、誰よりも知っていることだ。

 リーナが同じ月光騎士団配属となった際も、副官になれるよう手を貸したのはクロエ。いつかは副官になれただろうが、クオンの副官とは限らない。

 一人の少女を見ながら、一喜一憂するクオンを見守り続けてきた。リーナのこともわかっているつもりだったが、まだまだ知らないことがあるのだと気付く。

「これで、なんとかなるのか?」

 見守ることにしたフィーリオナが問いかけてくれば、おそらくと答えるだけにとどめるクロエ。魔物が増えた場合は、また状況が変わってくる。

 確実に問題ないと答えることは、現状できないのだ。

 わかっているからか、フィーリオナも険しい表情を浮かべたまま警戒していた。

 三匹の魔物、そのうちの一匹はグレンとアクアが相手をしている。残りの二匹はクオンとリーナがそれぞれ相手をしていた。

 少なくとも、現状は一対一で戦えている状態。これが崩れるとしたら、新手の魔物が現れたときだけだ。

 可能性はゼロではない。誰もがわかっているだけに、辺り一帯を緊張した空気が包み込んでいる。限界ぎりぎりのヴェルトですら、眠るわけにはいかないと耐えているほどだ。

 張り詰めた神経に、なにかが触れるような感覚。それはクロエが感じ取った。咄嗟に突き出した槍に、魔物の爪が触れる。

「また、か…」

 突然現れたとヴェルトが悔しげに呟く。どうにかしたいが、身体が動かない。

 自分ではどうすることもできないとわかっている。一撃でも力を使おうものなら、倒す前に倒れてしまう。相手に攻撃が当たったかもわからず、眠りに入るだろうとわかっているのだ。

 当然ながら、クロエも状況はわかっている。自分ではどうにもできないし、ヴェルトは動くことができない。

 どうすることが一番いいのか。目まぐるしく思考が動く中、視界に捉えたものに覚悟を決めた。





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