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6部 星の女神編

リーナと聖鳥2

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 荒い呼吸に、限界が近いとヴェガは相棒を見る。さすがにここまで聖剣を使い続けている、ということに関しては評価したいところだ。

 初めて使うというのに、長時間使えているのだから想定外のこと。

(だが、さすがに限界か……)

 気力で持ち堪えている状態だ。こういったところはリオンと同じだ、と思うヴェガ。いざというときに、なんでも気力でやろうとする奴だったと思い返す。

 ならば持ち堪えるかもしれない。彼女が隣に待つまで。

(それに賭けるしかないか……)

 そんなことを思っていれば、凄まじい力で動く青年に口笛を吹きたくなってしまう。

(さすがだ。あいつが戦力として求めるだけある)

 持ち堪えるために仲間を呼びに行け、と言われたときはなぜかと思っていたが、いざ呼べば理解する。実力的な意味で言えば、クオンよりもクロエの方が上だ。

 誰かに似ていると思う部分もあり、終わってから考えようと振り払う。

「どうにかできているか?」

 確認するように問いかけてきたフィーリオナ。ヴェガには、なんとか、と答えることしかできなかった。

「なら、私も出るか」

 二人の連携を考えれば、と思い引いていたのだが、クオンが限界に近いとわかるだけに黙っていられない。フィーリオナは魔剣を握り締めると、魔物へと攻撃を始めた。

 彼女の参加によって、魔物を抑え込むという意味では成果が出ている。ヴェガも驚いたように見ていたほどだ。

 まさか彼女がここまでやるとは、思ってもみなかったというのが本音。いい仲間を持っている、と思えば、どことなくホッとした。

 これからのことを考えれば、クオンには理解して支えてくれる仲間が必要となる。かつての仲間のような、なにがあっても傍にいてくれる存在が。

「すげぇ、な…」

 こちらもよくもっている、とヴェガは思う。限界を迎えており、戦うというよりは守りに徹している状態だ。気を抜けば眠りについてしまうだろう。

 わかっているからこそ、寸前で踏みとどまっている。気力だけで、星の女神が覚醒することを待っているのだ。戦況が変わるまで、眠るわけにいかないと。

 主であるクオンと戦うべきとわかりつつも、ヴェルトをほっとけないヴェガ。ここを守ることがリーナを守ることだと、自分に言い聞かせながら状況を見守る状態。

 だからこそ思うのだ。早く目覚めろと。この戦況をひっくり返すには、星の女神が必要不可欠なのだから。

 覚醒が近いことはわかっている。だが、それがすぐそこなのか、まだかかるのかまではわからない。

「クオン、あまり無茶はするなよ」

「わかってる」

 魔物を抑えることはできても、クロエは倒すことができないのだ。それができるのは、現状としてクオンしかいない。

 聖剣を扱えるヴェルトは限界が近いことから、これ以上戦うことができないとわかるだけに、クロエは彼に倒れられては困ると思っていた。

 ここへ来るまでの間、聞き出せる情報は聞き出したつもりだ。クオンが動けなくなれば、当然ながら聖獣も動けなくなる。

 あれと戦える力が失われてしまえば、自分達の敗北が決まるも同然だ。

(助けが来られるかわからないしな)

 自分の元へ来たということは、他は期待できないということ。

 それでも、英雄王なら来るかもしれない。希望はそこにしかない、とすらクロエは思っていた。思うが、英雄王がここまで来るには時間を要することもわかっている。

 彼はすでに、別の仲間を助けに動いているのだ。そこからこちらへ来るとなれば、移動の時間がかかる。

 いつ来るかわからない助っ人。いつ覚醒するかわからない星の女神。

 現状としては最悪だと、クロエは舌打ちする。もう少し早くに来られていれば、クオンの消耗を抑えることができたのかもしれないが、もはやどうにもできない。

 今をどうにかするしかないのだ。

「加わるぞ!」

 どうする、と考えるクロエに、フィーリオナが加勢すると斬りかかる。

(陛下は強い。わかっているが……)

 彼女は女王なのだ。あまり表に出したくはない。なにかあれば、それこそ国が傾いてしまうかもしれないのだから。

「クソッ…これだからじゃじゃ馬は」

 小さく呟かれた言葉は、幸いにも誰かに届くことはなかった。

 普段見せる騎士としての表情。己を騎士だからと縛り上げてきたすべてを投げ出すクロエ。言葉は誰にも聞かれなかったが、変化を見ていた者がいた。

 このタイミングで駆け付けたグレンだ。

(……おそらく、見てはいけないものだったんだろうな)

 などと、状況にそぐわぬことを思うと、二匹の魔物を見てから獲物を定める。片方は自分がやろうという判断だ。

 片方の魔物を狙うように斬りかかるグレン。新たに現れた助っ人に、誰だと確認するようクロエが見れば、二人の視線は絡み合う。

 グレンは、あれを引き受けると視線だけで語りかけ、正確に理解したクロエがもう片方だけを見る。これに専念しようと決めたのだ。

 それと同時に、二人はなにかを感じ取っていた。よくはわからない。まるで魂がざわつくような、謎の感覚を。

(今は考えてる場合じゃない)

 どちらも同じことを考えると、同時に斬りかかっていた。

(なんだ? あいつら……)

 あまりにもピッタリな動きに、クオンは思わず動きを止めてしまう。

 同じように、少しばかり驚いているのはヴェガだ。こちらは正確に意味を理解していることからのこと。

(マジかよ……)

 そんなことを思いながらも、どこかで嬉しくも思ってしまう。戦場だということを忘れそうなほど、嬉しかったのだ。

 彼がクオンの傍にいてくれることが。

(大丈夫だ。まだやれる)

 これだけのメンバーで戦うのだから、敗北などあり得ない。ヴェガは確信すれば、星の女神となるリーナを守ることだけを考えることにした。

 グレンが参加すると同時に、戦場とは思えない竪琴の音色が響き渡るようになる。身体を軽くさせる音色は、今までの疲労すら吹き飛ばすものだった。

(誰が……)

 自分でも限界が近かったことを理解していたクオンは、音色によって疲労感が薄れていくことに驚く。

「グレン君! 援護は任せて!」

 声を張り上げる一人のセイレーン。手にした竪琴が音色を奏で、魔力が音色と同時に放たれていく。

「英雄王と奥方だ」

 小声でフィーリオナが言えば、納得したように頷いた。それならほっといても問題はないだろう。勝手にやってくれるだろうし、こちらが合わせる必要もない。

 なによりも、気にする魔物が一匹でいいのは助かるところだ。

(もうすぐだ…)

 彼の直感が、もうすぐ星の女神が目覚めると伝える。リーナさえいれば、すぐにでも攻めに転じることができるとクオンは魔物を見た。

 クロエがいる上に、相手をするのは一匹になったのだ。ここは踏ん張れなかったら笑い者だ、とクオンは笑う。

 さすがに、そんな姿をリーナに見せることなどできない。気合いを入れ直し、クオンは目の前の魔物へと斬りかかった。






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