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6部 星の女神編

魔物との戦い2

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 強力な助っ人が参加すれば、現れた魔物は大方一掃された。血の嵐を巻き起こすグレンに、さすがの二人も唖然と見ていることしかできなかったのだ。

 現状、グレンは聖剣の力を解き放ってはいない。溢れ出す炎と剣だけで戦っているのだが、それでも実力が違いすぎる。

 こればかりは、三千年という長い時を生きている経験の差もあるだけに、さすがとしか言えない。

(昔の方が戦も多かったしな)

 今の方が平和な時代だと、シュレは知っている。魔物という存在に関しても、三千年前から現れただけに今と昔の違いにはならない。

 剣を鞘へ戻すと、シャルは背中に背負っていた聖槍を手にする。

 グレンが血の嵐を巻き起こしている今が、あの球体を狙うチャンスだ。魔物が増えている元を叩けば、これ以上増えることはない。

「ソニア!」

「任せて!」

 アクアがやってきたことが影響したのか、球体から飛ぶ魔物が現れたのだ。

 すぐさま応戦するために飛び上がるソニアを見ながら、あれを早く叩こうと構える。狙うのは魔物が減った瞬間だ。

 球体から魔物が現れ、凄まじい勢いで一掃されていく。次の魔物が現れるまで、数秒だが時間がある。この瞬間を狙って、シャルは一直線に駆け抜けた。

「聖槍よ!」

 余計な力は使いたくない。力を抑えた上で一撃だとシャルが球体に槍を突き刺す。これが一番、無駄のないやり方だと。

 球体の中から光が溢れると、体内から吹き飛ばされたように霧散していく。

 散っていく黒い霧を見たグレンが、すぐさま金色の炎で消し去った。本能的に、このまま散らせてはいけないと感じたのだ。

「ひとまず、魔物の大群はどうにかなったか」

「でも、あれが残ったねぇ」

 グレンの傍へ近寄ると、アクアが残った魔物を見る。見ただけで闇だとわかる魔物を。

「牛頭……だな」

「そうだね。牛だね」

 頭だけ牛だ、と二人がのんびり言えば、空中戦を終わらせたソニアも降り立つ。

 こんなにのんびりしていていいのか、と思っていたが、言葉と態度はまったく違う。張り詰めた空気は、間違いなく魔物を警戒していた。

「あれをさっさと片付けるか。あちらがやばそうだ」

 チラリと向けられた方角は、ヴェルトとトレセスが受け持っているところ。月神がいるはずの場所だ。

「あちらに、魔物の戦力は傾いてるということか」

 月神がいるからこそ、強い魔物はあちらにいるとシャルは思った。

 グレンもこのときは同意見で、まさか星の女神を狙っているなど思いもしていない。覚醒の予兆に関しては星でわかっているのだが、魔物が邪魔するとまでは思っていなかったのだ。

「アクア、どうだ?」

「覚醒までもう少しかかると思う。向こうの闇が二匹になってるし……あれ?」

 星が移動していると、アクアが首を傾げる。トレセスを表す星だとわかれば、確認したい気持ちをなんとか抑えた。今は魔物だと。

「なにか動きがあるのか。どちらにしても、あれを倒して向かった方がいいか」

 少し悩むところだが、まずはこちらを落ち着かせてからだとグレンは魔物を見る。

「それは間違いないですが、ここまで落ち着けばどうにかできる。あちらに行かれた方がいい」

 シャルが真っ直ぐに見れば、いいのかと問いかけるように瞳を細めた。聖槍があれば戦えるが、それでも簡単に倒せるような魔物ではない。

 ここまできたら、倒すまでと思っていた。

「移動にも時間がかかる。俺はソニアがいれば問題はない」

 だから行って構わないと言われれば、グレンは迷わない。すぐさま加勢するために駆け出す。

 シャルの言葉を信じたのだ。



 どこからともなく現れる魔物。街中にも当然ながら現れていたが、数は多くない。隙間をかいくぐって入り込んだ数少ない魔物なのだ。

 これぐらいなら、商人が連れて来た護衛でも問題はない。ほっといてもいいのだが、なるべくなら表に出てきてほしくないというのが、彼らの考えだ。

 だからこそ、グレンは街中で待機していたのだが、代わりに二人の騎士が街を守っている。

「イクティス様、またこちらまで来てしまって」

「大丈夫だよ。頼りになる副官に頼んできたから」

 だから副官から恐れられるのだと、セルティ・シーゼルは内心ため息をつく。よく彼の下にいられるな、と思ったほどだ。

 イクティス・シュトラウスが、実はサボるのが好きと知っている者は少ない。フィーリオナでも知らないことなのだ。

 ルーシュナはセルティが知っていることから、気付いているようだったが、騎士団の内部でも副官ぐらいだろうと思われる。

「まぁ、俺は構いませんが」

「これも運動だ。ねっ、セルティ」

「そうですね」

 向かいからやってくる魔物を見て、間違いないと斬り捨てた。むしろ足りないぐらいだと。

 さすがに、現状としては当事者ではない。精霊の巫女であるリーシュから状況を聞き、勝手に動いている状態だ。

 それに、クオン達が動くのを妨げないためにも、あまり目立った動きをするべきではないと二人は判断していた。それがなければ、今頃は最前線に向かっていただろう。

「おや、英雄王殿がやってくるね」

「……そうですね」

 なにかがあって移動するということだ。あちらは問題がないということなのかと思えば、目の前でグレンとアクアが止まる。

「暇そうだな」

「そうだね。でも目立つことは避けていようかと思っているんだけど」

 なにか御用かな、とイクティスは笑う。もう少し楽しいことなら喜んで、と言うように。

「ヴェルトとトレセスが配置されている方に闇が二匹いる。月神と星の女神候補の二人がいるが、星の女神は覚醒途中だ」

 そちらに助っ人へ行くが、シャルの方もまだ交戦中だと聞けば、そちらは自分達が行こうと二人とも頷く。街中はさほど問題がないから。

「グレン君、トレセスがシュレと合流。シュレの方にいた二人がヴェルトの助っ人に入ってる」

 会話しているタイミングで、アクアは星を視ながら今の状態を報告する。戦力にも変化が起きていると。

 三人共が、瞬時になにが起きているか察した。おそらく、月神の元へ魔物の戦力が集まっているのだ。

「クロエとフィオナがクオンの方へ向かったか。となると、あちらには」

「僕が行こう。傭兵達も気になるしね。シャルはセルティに任せるよ」

 楽しそうな方をくれと言われてしまえば、セルティには否と言えない。

 どちらに行っても、戦力としては問題がないのだから、好きにしていいとすら思っていた。

「どう動こうが任せるさ。いざというとき、イリティスを守ってくれるなら好きにしろ」

 グレンは現状として、他を助けて回ることに専念していたい。誰一人失うわけにはいかないのだ。

 仲間も街の住民も、どちらも守らなくてはいけないと思っていた。月神の状態がわからない以上は、一人でやるしかないとすら思っている。

「わかってるよ。あなたが自由に動けるサポートを、我々はしよう」

 任せてくれとイクティスの視線が言えば、アクアの竪琴が音色を奏でた。魔法による加護を二人へ付けたのだ。

「ありがとうございます」

 柔らかい笑みを浮かべると、イクティスは切り替えて駆け抜けた。

 続くようにセルティも動けば、最後にグレンとアクアがヴェルトの元へと急ぐ。長い夜はまだ明けない。






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