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6部 星の女神編

覚醒始まる2

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 多少の訓練はしたが、それでもこの力を使いこなせているわけではない。どこまでやれるかは、正直なところ賭けでしかないと思っている。

 実戦で積むのがいいだろう、とは思っていたが、瞬発的な戦闘を考えていたので時間稼ぎは想定外。

「なっ…」

 どうやるかと思っていれば、黒い霧が集まってくるのを見て言葉を失う。同格がもう一匹現れると、本能的に察知したのだ。

『こいつら、まさか……星の女神が現れるのを妨害してぇのか!』

「させるか! リーナには塵ほども近づかせねぇ!」

 ヴェガの言葉に、そんなことはさせないとクオンが怒鳴る。

 理由はわからないが、リーナを狙うなら黙ってなどいられない。むしろ、こちらに来ていてよかったかもしれないと思えた。

 この騒動がすべて星の女神に関わるというなら、街中にいたら住民を巻き込んでいただろう。

「おい! わりぃが、俺は時間制限あるからな!」

 事態が読めてきたヴェルトが言えば、わかってるとクオンが頷く。

 彼が聖剣を使うのは想定外だが、聖剣の使える時間はそれぞれで限界があることはわかっている。身体へ負担がかかるものである以上、仕方ないことだ。

 彼が動ける間に、仲間が来てくれることを願うしかない。聖剣の力がなくても、クロエならと思いたかったのだ。

 けれど、夜だからわかってしまったこともある。クロエとフィーリオナは同格の魔物と戦闘中だと。

「お前、仲間は?」

 こちらに来てくれるあてはあるのかと、視線が問いかける。クロエとフィーリオナが動けないとなれば、英雄王と虹の女神の仲間を頼るしかない。

「ダメだ! 精霊に聞いてみたが、どこも戦闘中だ!」

 助っ人という意味で周囲の状況を確認していたヴェルトは、散っている仲間が全員戦闘中だと聞かされていた。

 正直なところ、彼も誰か来てくれたらと思っている。自分が動けなくなるまでに、彼女が動けるようになる保証がない。

 トレセスには荷が重いとも思っていた。魔法が得意でも、どうにかなるものではない。精霊の力でも敵わないのだ。

『グレンはどうしてる!?』

 あいつがいるはずだ、とヴェガが問いかける。どこかの助っ人へ出てしまったのかと言えば、確認中とヴェルトは答えた。

 精霊も把握するのに時間がかかる状態となっていたのだ。

 普通ではない魔物が二匹になれば、さすがに厳しいとヴェガは思う。ヴェルトは長時間使えないと知っているし、クオンはどこまでやれるのか未知だ。

 普通に考えれば、聖剣を使用している現在、身体へ負荷がかかっている。それは月神であっても同じことなのだ。

(むしろ、リオンと違って手にしたばかりの力を使ってる状態だ。いつぶっ倒れたっておかしくねぇ)

 リーナを守るという気持ちがあれば、ある程度は耐えるだろう。それでも、強制的に眠ってしまう可能性はある。何事も絶対ではないのだ。

 クオンが動けなくなれば、当然ながら自分も動けない。

「今から不安そうな顔すんなよ。リーナがいる以上、先にぶっ倒れる真似だけはしねぇから」

 相棒の考えを察して、クオンがニヤリと笑う。

 その自信はどこからくるんだ、と突っ込みたくなった。さすがに、リオンはこのようなことはしなかったと。

(無謀なのか……若さか……)

 どちらだろうかと考え、どちらでもないと思う。

(信じてるのか……)

 自分の限界が来る前に、リーナが助けに入ると信じているのだ。それまで守りに徹すればいいと。

 ならば、自分も信じようと思う。相棒を支える女神のことを。



 目の前に現れた巨大な魔物。凄まじい魔力を有しているとわかるだけに、油断は許されない。

 けれど、突然現れた乱入者がバルスデの関係者とわかれば、なんとかなるだろうとシュレは思う。

(情報とは、知っておいて損がないな)

 若くして騎士団長となったクロエ・ソレニムスと、情報はないが強者であることがわかる、フィオナと名乗ったハーフエルフ。

 さすがに、シュレでもここに女王自らいるとは思っていなかった。

「とんでもない騎士ね。槍一本でここまでやるなんて」

 雷を放ってはいるが、実際には魔法を使っているわけではない。魔槍でもないことから、なにか違う物を使っているのだろう、と推測することだけはできる。

 なにを使っているかはわからないが、十分にすごいと言い切れた。

「ですね。俺の魔弓でも、ここまではやれないです」

 聖弓を常に使っているわけにはいかないと、セレンに来る商人を使って新調した魔弓だったが、普通ではない魔物にはさほどダメージを与えることはできない。

 なにが違うのかと思ったほどだ。

 二人が来てくれなければ、さすがに苦労しただろうと三人はわかっていた。負けるとは思わないし、グレンという助っ人を必要とすることもないとは言える。

 けれど、三人だけでどうにかするとなれば、もっと苦労したことは間違いがない。

 なにせ、シュレの聖弓は何度も使えるものではないのだ。セレンへ来てから特訓していて、手にしたときよりは使うことができる。

 だからといって、目の前の魔物に何発も使うわけにはいかない。まだなにかあるかもしれないのだから。

「で、あたいはそろそろ行っていいのかな」

 確認するようにアイカが見れば、シュレが構わないと頷く。彼女の戦闘能力は、純粋に高いのだ。なにも考えずに突っ込ませるだけなら、彼女ほど適した人材はないとシュレは思っていた。

 このサポートはエシェルが行う。レイピアでは折れてしまう可能性が高いだけに、通常以上の魔物が現れたときは矢面に立たせられない。

 判断力に関しては自覚があるのか、アイカは自らこの立ち位置を希望したのだ。なにも考えずに戦える立ち位置がいいと。

 一昔前はただ前線で暴れるだけだったアイカを思えば、動かしやすくなっただけ成長したとシュレは認める。

 認めるのと彼女が好ましいかは別問題なのだが、普通に付き合うことぐらいなら問題ない関係になった。連携も取りやすくなったと言えるだろう。

「あれ、巻き込まれるなよ。さすがに俺達じゃ保護はできない」

「そうね。少し厳しいわ」

 フィーリオナが使う魔剣は問題ないが、クロエの使う雷は対処に困っていた。

 とにかく巻き込まれないこと。これでしか対処できないのだ。

「わかってる」

 アイカも肌で感じてわかっているだけに、真剣な表情を浮かべて頷く。

「グレンのサポートするよりは、簡単だと思いたいね」

「……そうね。あれより簡単かもしれないわ」

「だな」

 なぜか納得してしまった二人は、そろそろ本格的に動こうと魔物を見る。

「周囲の魔物は私がやるわ」

 示すように動けば、クロエとフィーリオナもチラリと見て察した。

 当然、理由もレイピアを見ればわかる。あの魔物を相手にすると、簡単に折れてしまうかもしれないからだと。







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