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6部 星の女神編

覚醒始まる

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 銀色の光が立ち上るのを見た瞬間、月がより一層輝くのを見てグレンは笑っていた。

「まだ覚醒途中と思っていたが、すでに覚醒済みということか」

「そうみたいだねぇ」

 のんびりと言うアクアは、星を視ながら月神がこの地にいることを知る。想定外なことではあるが、悪いことではない。

「で、どうなってる?」

 これだけ輝いていれば、わかるだろうとグレンが問いかける。

「ヴェルトとトレセスの元に月神がいるかな。一緒にいるのは、星の女神候補だと思うよ。シュレの方にも二人いるみたいだね」

 四人で乗り込んできたと聞けば、グレンは楽しそうに笑った。少数で乗り込んできたのか、と思えば、どことなくらしいとも思う。

 こうでなければ面白くない、とすら思っていたかもしれない。

「グレン君、楽しんでるでしょ」

「あぁ。楽しんでるな」

 とりあえず様子を見ようと言えば、グレンは意識だけを外へ向ける。

 一見のんびりと談笑している二人だが、グレンは常に鋭く周囲を観察していた。アクアの方は、かなりのんびりしているのだが、やるときはやると知っているだけに問題はない。

 魔物の察知をしたのは、今は西のメリシル国にいる予言者セネシオだ。突然の連絡に驚きはしたが、こちらをよく理解しているなとも思えた。

 一方的な連絡なら、精霊を通して辛うじて行える。事が事なだけに、呼びかけるだけで精霊達はイリティスに伝えてくれるのだ。

 大量の遺物がやってくる、ということしかわからないと言われたが、十分すぎる情報である。それだけわかっていれば、対策を取ることは可能だ。

「問題は、各地に散らばったことによる戦力不足だったが、どうにかなりそうだな」

「あとで感謝しないとね」

 中央を自分がいることで、いざとなればどこへも行けるようにしたのだが、それでも限界はある。各々で頑張ってもらうしかないと思っていたグレンとしては、想定外な援軍にありがたいと思っていた。

 少なくともヴェルトとシュレの元へは行かなくていい。

「シュレの元は初めから考えてなかったでしょ」

 気にするのは天空城と炎の塔だけでいいな、と呟いたグレンに対して、アクアが笑いながら言う。絶対に行く気がなかったと思っているのだ。

 当然というような表情を浮かべれば、アクアも笑うだけで済ませてしまう。

「シュレは後方支援しかできないが、エシェルがいるなら問題はない。現役を退けたとはいえ、あれは強いからな」

 多少の鈍りは感じていたが、今回連れ出したことで感覚を取り戻したようだ。今のエシェルなら問題ないと、グレンはそちらに関して気にしていなかった。

「そういった意味では、お前が連れて来たのも不安要素はないな」

「シャルねー」

 合流してすぐ、グレンが一通り手合わせをしていたのだ。彼があそこまでやるとは、正直思っていなかったというのが本音のアクア。

 見ていたソニアも、酷く驚いていた。

 どうやら騎士団の中では、目立たないようにと隠していたようだ。目立たないようにしているのも、おそらくはこういった事態になったとき動けるように、という意味だろう。

「あれだけ聖槍を使えれば、問題はない。ただ、天空騎士はな」

 言いたいことがわかるだけに、苦笑いを浮かべる。地上戦をする魔物が多いだけに、不測の事態が起きることを視野に入れなくてはいけない。

 だから少し心配だと、グレンは思っていたし、アクアでも思っていることだ。

 とりあえず、しばらくは静観していようと言えば、アクアは戦況を知るために星を視ることにした。



 氷の塊と呼ぶべきものが突然現れ、割れた瞬間に小さな獣が姿を現す。

「ヴェガ!」

 ずっと眠っていた聖獣が現れたことに、ヴェルトとトレセスが驚く。

 いつ目を覚ましたのか、と問いかけたかったが、クオンへ寄り添う姿にまさかという考えが脳裏を過る。

『目覚めの運動にはちょうどいいじゃねぇか』

 やる気でギラギラと輝く瞳。これでようやく戦えると思えば、ヴェガはうずうずしていた。

 月神がいないことで誰よりも無力だったことが、ヴェガにとってはなによりも苦しい。戦えないからこそ、大切なものを守ることすらできなかったと。

 だが、これからは戦うことができる。

「思う存分、暴れさせてやるよ。いくぜ、リーザテイン!」

『任せろ!』

 月神の復活を知らせるように、高らかに吠える聖獣。その姿を氷が包み込み、再び現れたときには目を奪われるほどの美しい獣が立っていた。

 戦場だということを忘れるほど、月明かりを浴びた聖獣は美しかったのだ。

「これが…聖獣…」

 その呟きは、誰のものだったのかわからない。リーナだったかもしれないし、ヴェルトだったかもしれない。

 クオンの手がヴェガに触れると、そのままなにかを抜くような動き。光の塊が抜き出されていく光景に、もはや言葉を発する者はいない。

「聖剣よ!」

 次の瞬間、言葉と共に光は散り、一本の輝く剣が現れた。腕輪と同じ輝きだと、リーナが聖剣を見た。

 やはり、あの腕輪はただの腕輪ではないとすら思う。

「チッ、軽いな」

『作り直せよ。それはリオンのだからな』

「あぁ、そうか」

 そうすればいいのか、とあっさり言うクオンは、何事もないように聖剣の形を変えていく。

 さすがにヴェガが驚いたが、すぐさま面白いと笑う。あっさりと力を使うとは、思っていなかったのだ。

「なんか、変なことしたか?」

『いいや、頼もしい相棒だと思っただけだ』

 言うなり、地面を蹴り駆け抜けるヴェガ。そのまま、周囲の魔物へと襲い掛かるのを見て、ハッとしたようにリーナは動こうとして、自分の中でうごめくものを感じる。

 間違いなく、聖鳥が動こうとしているのだ。

 聖獣が動き出したからかもしれないと思えば、クオンの背を見てから意識を内側へと向ける。彼なら問題ないと、信じているからこそできることだ。

 リーナの異変はクオンも感じ取っていた。チラリと視線を向ければ、ハッキリと見える星の力。始まった、と聖剣を握る手に力がこもる。

「そうなれば、倒すよりも魔物がリーナへ行かないことが優先か」

 攻め立てることはできるが、リーナがまったく動けない状態では、色々な可能性を考えておかなくてはいけない。

 なによりも大事なのは、リーナの安全なのだ。前回の戦いを経て、同じことだけはしないと誓った。

『ヴェルト! 手を貸せ!』

 事態を察したヴェガが怒鳴れば、状況が呑み込めていないながらに、彼は頷く。

 目の前にいる魔物が、聖剣でなければいけないのは間違いない。彼一人でも倒せるだろうが、手を貸せと言うなら動くと踏み込む。

「聖剣よ!」

 力を解き放ち斬りかかれば、これでなんとかなるだろうとヴェガが言う。

 意味を知りたいと思った視界の片隅、目を閉じて微動だにしないリーナの姿が見える。小さな光が彼女を包み込む様子と、急に守りへ徹したクオン。

 原因はこれかと思えば、求められているのは時間稼ぎだとわかった。

(仕方ねぇ。やってやるか)

 理解はできないが、なんとなく理解できる。目の前にいるのが月神で、彼女は星の女神。今、このとき目覚めようとしているのだ。







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