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6部 星の女神編

別行動の四人3

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 彼も赤子の頃から見ているだろうし、リーナが同族と考えれば我が子と変わらないかもしれない。

(あっ、だからあんなに優しかったのかな。みんなが言うほど、私達には怖くないんだよね)

 セルティは長く騎士団にいるだけあって、怖い騎士と言われている。

 実際に怒らせると怖い存在なのは間違いないのだが、リーナ自身は怒られたこともない。どちらかというと、いつも温かい眼差しで見守ってくれている存在だ。

「セルティをそんな風に思えるのは、たぶんお前だけだぞ」

 渋い表情を浮かべるフィーリオナに、リーナは首を傾げる。

「いや、シュナにも優しい奴か」

 人を選ぶんだな、とぼやくように言うから、どうやらそうらしい、とリーナも知る。

 騎士としてだと厳しい人なのだと思っていたが、人によって優しさの度合いが違うのかもしれないと。

「まぁ、そんなわけで、なにがあっても強制的なこともないと思っていたから、クオンに引っ付いたのだが」

「それでクロエを振り向かせるのは、難しいと思うんだけどな」

 そんなことで心動くようなタイプではない。わかっているだけに、苦笑いを浮かべる。

 ため息をつくフィーリオナに、もしかしてと思う。彼女が自分達についてきたのは、クロエのこともあるのかもしれないと。

「クロエの気を引くことは手伝えないけど、クロエのことを話すことぐらいならいくらでも聞いてね」

 誰もいないときだけど、と言われれば、どことなく嬉しそうな表情を浮かべるフィーリオナ。思わず、リーナは可愛いと思ってしまったほどだ。

 普段は男顔負けの魔剣士で、凛とした姿しか見せない女王だっただけに、このような一面があるとは思わなかった。

「セルティ様やイクティス様にバレると、家を通して強制になると思ってるの?」

 隠すことではないと思う。理由があるとしたら、フィーリオナの気持ちを知ったことで動いてしまうかもしれない周囲だ。

 セルティとイクティスはある程度の融通が利く。だが、それ以外はわからない。相手がソレニムス家となれば、悪くないと動く可能性は十分にある。

「可能性としてはあると思っている。もちろん、イクティスが簡単に頷くとは思わないが、私が女王ということもあって勝手に動く者もいる」

 即位してから百年も経っているが、それでも女王に対しては舐めている節があった。

 すべてがではないが、厄介な存在であることは間違いないのだ。

「リーナ!」

 唐突に聞こえてきた歌声に、フィーリオナがハッとしたように周囲を見渡す。

 聴いたことがなくてもわかる。この歌声は英雄王の妻だということが。

「歌声から魔力を感じる。これが英雄王の妻?」

「間違いないと思う。まさか、こんなに堂々と歌っているとは思わなかった。夜がくるようになった影響かもしれないな」

 即位前に来たとき、太陽神や虹の女神だけではなく、英雄王やその妻すら見かけなかった。気配すら感じなかったのだ。

 だからこそ、クオンが問題ないと言うのを誰よりも信じられた。

 基本的に外から客が来るときは、街中へは出ないようにしているのだろうと思えたから。

 しかし、今回は積極的に出ているのかもしれない。原因が夜だとすると、さすがに想定外なことだ。クオンもここが常に昼だとは知らなかったのだから、仕方ないことなのだが。

「きれいな歌声。これが西の歌姫だった英雄王の妻……」

 つい聴き入ってしまう歌声に、厄介だなとリーナは呟く。聴いていたくなるが、このままここにいるのは危険ではないのか。

 彼女に見つかるべきではないだろう。

 どうするかと二人で顔を見合わせるが、歌声が思考を妨げる。どうしても歌声に意識が向いてしまうのだ。

「いっそのこと、聴きに行くか? クオンのように堂々としてみるのもひとつの手だな」

「……そうね」

 聴きたいと思う気持ちが止められない。開き直ってしまえばいいか、と二人ともが思ってしまった。

「とはいえ、英雄王の妻だけとは限らない。英雄王がいたら、そっと離れよう」

「はい」

 一緒にいる可能性がある以上は、その場を怪しまれずに去ることも考えておかなければいけない。英雄王などに会ってしまえば、さすがに自分達が商人の護衛や連れではないとバレてしまう。

 どこまで祖国のことを知っているかわからないが、下手すれば女王だということもバレる。

 リーナも家紋が刻まれた物などはすべて置いてきたが、オーヴァチュア家と繋がりが深い英雄王だ。彼女もなにをきっかけにバレるかわからない。

 どちらも気を引き締め、歌声が聴こえる方へと向かった。警戒と同時に、好奇心を胸に秘めながら。

 向かった先は広間になっており、たくさんの住民が集まっている。誰もが歌声を聴きにやって来たのだ。珍しくない光景なのだろう。

 中心には浮かびながら竪琴を奏でる一人の少女。いや、少女に見えるだけのセイレーン。

「あれが英雄王の妻……」

「あぁ、間違いない。以前、天空城に飾られていた絵のままだ」

 まるで少女のように見えるが、三千年は生きている英雄王の妻。こうまでも変わらないものなのか、とフィーリオナは驚く。

「天空城に絵があるの?」

「ある。七英雄から英雄王や仲間、光の英雄までな。あれは、素晴らしいものだった」

 どことなくうっとりしているのを見ると、だから彼女は英雄王が好きなのだろうかと思う。

 女王は英雄王を崇拝していると、騎士団の中でも有名な噂だ。魔剣を扱うのも、すべては英雄王を目指してのことだと。

「フィオナ、あのハーフエルフ、昨日の人じゃない?」

 歌う傍らには一人のセイレーンがいる。ここまでは情報通りだと思っていたリーナは、一人のハーフエルフが近づいてくるのを見て人影に隠れるように立つ。

 クオンが警戒しただけある。こうやって見ていても、正直なところなにも読めないハーフエルフ。

「強いな。あれは、私でも勝てないかもしれない。セルティでもいなければ」

 国の中でも勝てる者があまりいないと言われている女王が言えば、リーナは息を呑む。それほどまでに強い騎士が、西にいるとは思わなかったのだ。

 なにかを話している様子の護衛二人。おそらく報告かなにかで来ていたのだろう。音色は突然止まった。

「私達、本当にバレていないのだろうか」

 三人が話す姿を見ながらフィーリオナが言えば、同意するように頷くリーナ。

「仮にバレていなかったとしても、なにかが入り込んでるぐらいには思われてるかもしれないわね。思ったより出歩いてるみたいだし」

 ここは堂々としている方が、むしろ怪しくないのかもしれない。コソコソしている方が返って目立つかもと思えば、二人は顔を見合わせて頷く。

 互いに同じ気持ちなのを確認したのだ。

「英雄王はいないみたいだし、もう少し様子を見てから合流しよう」

「そうね」

 警戒するべきハーフエルフではあるが、英雄王よりは問題ない。直接確認できるなら、いいチャンスだと思った。






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