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6部 星の女神編

別行動の四人2

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 つまり、商人や護衛の監視を精霊達が行っているのだ。これほど安心なことはない。

 精霊を見ることができる者など、現状としては神しかいないだろう。ただの商人には見ることができず、声を聞くこともできない。

 監視という存在を感じ取られることなく、監視することができる。

「船が沈んだことあるのか?」

「あるよ。父の代に一回。その前にもあったみたいだな」

 とはいっても、それほど頻繁に起きていることではない。密航自体は何度か目撃していると言われれば、だから自分達を見逃してもらえたのかと納得。

 これなら、最初から密航者として動けばよかったか、とすら思う。

「それで、ハーフエルフの方はどのような方なのですか?」

 クロエが問いかければ、火精月かせいづきの終わりに来たらいたのだと言われた。

「ハーフエルフの里で暮らしていたとかだったな。だから、今回手に入った柿を持ってきたのさ。懐かしいと喜んでくれた」

 そんなに前からいたのか、と思うが、クオンは記憶の夢を見た頃と被るだけに、なにかがあって来たのだろうと思うことにする。

「ハーフエルフの里から来たなら、傭兵か」

 里は東にあったな、とクロエが呟く。エルフが暮らす里と、ハーフエルフだけが暮らす里。どちらも東にしかないと言う。

「あぁ、傭兵組合に所属していると言っていたな。そこで英雄王と組んでいたらしくて、昨日は一緒だったよ」

 英雄王が一緒だったという言葉に、二人の雰囲気が一瞬だけ張り詰めた。

 一緒に行動している可能性はあると思っていたが、こうも早く情報が入るとは思わなかったのだ。

「英雄王に会えるのですか? 神の地と聞いて来たのですが」

 これは自分が喋るより、クロエがいいなとクオンは黙ることにする。ボロがでると思ったのだ。

「ハハッ。やっぱな。大体が、ここは神の地と聞いて密航するんだ。英雄王は太陽神のご友人。あの天空城におられるさ。商人がいる期間に出てくるのは、稀だがな」

 自分も会えるとは思わなかった、と商人は言う。奥方の歌声なら聴いたことがあったが、と。

「昨日出て来たなら、もう出てこないか」

 ぼそりと呟くクオンに、どうだろうな、と商人は言った。

「傭兵の彼と仲良しみたいだったし、今回ばかりは出てくるかもしれないな」

「期待されてるのですね」

 また会えることを期待しているのだ。相手は英雄王なのだから、会えるなら会いたいと思うのも不思議ではない。

 どちらにしても、いい情報だと思う。英雄王が出歩く可能性が高い。警戒することができると同時に、行動が読まれている可能性を考えるかと思う。

「ちなみに、どのような方なのでしょうか。実は北の出身でして」

「それは気になるよな。だったら、商人をまとめてるじいさんが今回いるから、行ってみな。十八年近く前に、広場で太陽神と手合わせしていたのを見てたって話だ」

 どうするか、と二人が視線で話し、どちらとなく行こうと結論づける。密航で通せばどうにかなるだろうと。

「じゃあ、マンゴーくれ。あと……」

 長々と話をした分、それなりに買っていかないとな、という言い訳を自分にして、クオンは果物を購入していく。

 その隣で、そんなに買うのかと引きつった笑みを浮かべるクロエは、リーナがいなくてよかったとすら思う。いたら、口論ぐらいにはなっていただろうと思ったのだ。

 合流する前に食べきるのだろうな、と視線を向ければ、当然と言うように笑うから勝手にしろと見る。

「お兄さん、果物が好きなんだな」

「おう。大好きだぜ」

 じゃあな、と去り際に見たのは、片隅に置かれていたリンゴ。誰のために持って来ているのかがわかり、なんともいえない気持ちになる。



 なぜ、彼女は自分との行動を求めてきたのだろうか。歩きながら、フィーリオナは気になっていた。

 クオンとの関係が上手くいき、自分が邪魔をしなくなったからだけではない。なにかを聞きたいのだろうとは思っていた。

「フィオナ、クロエが好きなの?」

「なっ……」

 なにを言うのかとフィーリオナが見れば、リーナがやっぱりと笑う。

「なぜ…」

 自分がクロエを好きだと思ったのか。問いかけるように見れば、リーナは真っ直ぐに前を見る。

「ずっと気になってた。フィオナはクオンの傍にいるけど、クオンのことが本当に好きだと思えなかったから」

 だから気になっていたのだと言われれば、さすがだなと自嘲気味に笑う。本気でなかったことは確かだが、それでリーナに疑われていたとは思っていなかった。

 彼女だけなのか、他にも気付いている者がいるのか。

 その辺りだけは気になるところだ。セルティを誤魔化すことはできていると思っているが、伏兵がいる可能性もあると気付かされてしまった。

 だが、今はそれよりも先に言うことがあるなと切り替える。

「すまなかった。お前達を巻き込んで」

 わざとクオンに付きまとっていたのは事実だが、それによって彼女が不機嫌だったことも当然気付いている。

 わかっていたが、それでも繰り返してきた理由のひとつはセルティへの誤魔化しだ。

「別に…私は…。フィオナがクオン目的じゃないとはわかってたけど、クオンはどうなのかなって思ってただけで」

「ん? なぜだ?」

 どうしてそう思ったのか、とフィーリオナは不思議そうにしている。誰がどう見ても、クオンはリーナ一筋だ。入り込む隙などないほどに。

 近くにいるとわからないのだろうか、と疑問に思う。

「クオンは、フィオナみたいなタイプは嫌いじゃないと思ったから。言い寄るのも、媚びるのも嫌いだけど、フィオナはそういったことしないし」

「なるほど……」

 だから不安だったのかと思うと、不機嫌になることで、クオンがフィーリオナに近づくことを避けていたのかもしれないと思えたのだ。

 ああすれば、クオンはリーナのために近づくことを避けるようにする。

(中々に食えない奴だな)

 意図的だと思えば、凄い奴だと笑った。

 もちろん、家が動いてしまった場合という不安材料もあっただろう。

 可能性はゼロではない。クオンへ気があると見せた辺りで、そのような話が出たのは事実だった。今まで誰にも興味を示さなかったことで、ここぞとばかりに話を進めようとしたのだろう。

「クオンに関しては断言しないが、強制的な部分はあり得なかったぞ。セルティがいるからな」

 幼馴染みのセルティは、クオンとリーナが上手くいくことを願っていた。だからこそ、近づくことを完全に引き留めないが、近づきすぎることは止めていたのだ。

 イクティスはさすがにわからないだけに、セルティがいなかった場合は考えられたかもと思う。

「セルティは、リーナとクオンが上手くいくことを願っていたからな」

「えっ…セルティ様が?」

「あぁ」

 さすがに想定外だとリーナが驚く。自分達に優しくしてくれていたが、それは子供に見えているのだと思っていたのだ。

 彼の年齢からしたら、自分達など大人に混ざる子供だと。

「あいつに関しては、子を見守る心境だったんじゃないか」

「な、なるほど……」

 それなら納得だ、とリーナも苦笑いを浮かべる。







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