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6部 星の女神編

別行動の四人

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 商人がセレンへ入って二日目。賑わう街中を歩きながら、不機嫌なことを隠さないクオン。

「クソッ。なんでこいつなんかと」

 これも何度目かわからない呟きで、隣を歩くクロエはため息をつく。あと何度言うつもりなのかと思いながら。

「お前、リーナと二人で満喫しようとしてたんじゃないだろうな」

「そんなこと考えてねぇよ」

 視線を逸らしながら言うから、説得力がないと思う。嘘をつくときの癖には気付いたようだが、結局のところ変わってはいない。

 変えるつもりがないのか、意識しても変えられないのか。

 そのどちらでもないな、とクロエは思う。どうでもいいのだろうと。

「まぁ、リーナが陛下と仲良くしてくれるならいいだろ。お前の一番の悩みどころだろうし」

「そうなんだけどよ……」

 クオンに友人がいないように、リーナにも友人はいない。以前セルティに言われた言葉からして、フィーリオナも友人という友人はいなかった。

 騎士と女王かもしれないが、それでも友人関係が築けるのは互いにいいとは思う。思うのだが、それとこれは別だ、というのがクオンの気持ちだ。

 自分に付きまとっていた頃は、リーナの機嫌が悪くなることに頭を抱えていたが、まさかリーナからフィーリオナを誘うようになるとは思わない。

 ここ最近、二人の関係が変わってきたのは気付いていた。それでも、こうも変わるとは思わないというもの。

「女同士でなければ話せないことがあるんじゃないか。シルヴィアも、よく母上とわけのわからないこと話してるし」

 家にいれば母親と話せただろうが、ここではフィーリオナしかいないと言われれば、ムスッとしたままクオンが見る。

「女同士でしか話せないことってなんだよ。趣味、鍛錬のあいつにそんなのあるかよ」

(いや、あるだろ)

 思わず突っ込みそうになったが、心の中で思うだけにしておく。面倒だと思えたのだ。

「……鍛錬の話だったりしてな。陛下もほら、男顔負けの実力者だろ」

「なるほど。あり得るな。前に魔剣のこと知りたがってたし…」

(マジか……)

 誤魔化すつもりで言ったのだが、リーナが魔剣に興味があったなど初耳。本気で鍛錬の話でもしているのではないか、と思えてしまう。

 彼女ほどの魔力があれば、魔剣などなくても困らない。なぜ興味があったのかという点は、おそらく戦い方だろうとクロエは想定する。

「女磨きを始めたかと思えば、やはりリーナはリーナだったか」

「別に女らしさなんていらねぇんだよ。あいつに変な男が寄ってきたら困るだろ」

 バカにするようなことを言うが、クオンとしては趣味、鍛錬は悪くないと思っていた。

 自分磨きをするより、強さを求めている方が男は寄り付かないと思っていたからだ。

「それは……妙に納得できる」

 思わず同意してしまってから、重ねている自分に気付いて苦笑い。なにをやっているんだと、思わず自分へ突っ込む。

「ん? そういや、いつだったかフォルスが同じことを言ってたな。鍛錬に勤しむ妹に近寄る酔狂はいない、と」

 酒に酔って言ったことで、あの一回だけだったと思いだす。

「……クロエ、フォルスに俺は酔狂だと思われてるっつうことか」

「……いや、その前にだな」

 突っ込むところはそこではない、とクロエは言う。

「これ、リーナに知られたら雷が落ちるぞ」

 鍛錬好きの妹に惚れた男は酔狂、などと兄が言っていたと知れば、怒り狂いそうだとクロエは思ったのだ。

「……そうだよな。あいつにしては珍しく、リーナが怒りそうなこと言ってるな」

 冷静に考えてみれば、確かにその通りだとクオンは頷く。理解すると、ニヤリと笑うからクロエは嫌な予感がした。

「これってつまり、フォルスの弱みになるよな」

「……そうだな」

 怪しい笑い声を上げたのを見れば、こればかりは仕方ないと思うことにする。普段からクオンへの当たりが強かったのだから、文句は言えないよなと思う。

「あーあ、リーナがいねぇとやる気がでねぇぜ」

 だろうな、とクオンの様子を見ながらため息が漏れる。

 クロエとしてはフィーリオナと組まずに済んだことはありがたいのだが、クオンのやる気が落ちたのは問題だと思う。

 なにかで釣るしかない。そんな風に思っていれば、いい物が目についた。

「クオン、マンゴーが売ってるぞ」

「マンゴーだと!」

 甘党に感謝する日が来ようとは、思いもしなかったとクロエは笑う。

 果物を売っている商人の元へと行けば、これで気分が少しは変わるだろうと一安心。彼のやる気は維持しておきたいのだ。

「クロエ、たくさんあるぞ」

「そうだな。ここまであるのは凄いとは思うが」

 あまりおかしな行動を取れば怪しまれるぞ、と視線だけで問いかける。

「問題ねぇって」

 小さな声で言えば、並んでいる果物へ視線を戻す。どれにしようかな、と思っているようだ。

「お勧めは?」

「そうだなぁ、今回はこいつだな。柿だ」

 見せられたオレンジ色の実を見れば、クオンは甘いのだろうか、などと考える。

(さすがに知らねぇな。どこのものだ)

 一体どこのだろうか、と考えているのがわかったのか、商人が笑いながら切り分けた。

「試しに食ってみな。こいつは、東の大陸にしかねぇんだ。それもハーフエルフが暮らす集落近くにしかな」

 それは知らないはずだと頷けば、迷うことなく受け取る。気になって仕方ないといったところだ。

「お兄さんも食ってみな」

 こういったのが嫌いじゃなければ、と言われれば、クロエも礼を述べて受け取る。断るのも、と思ったのだ。

 食べた感想としては、少し硬いな、というもの。嫌いではないが、好みかと聞かれれば、好みではないと答えるところだ。

「いや、ハーフエルフが滞在していると聞いて、持ってきたんだ。昨日も買っていってくれたよ」

 ハーフエルフが買ったと聞き、クオンとクロエの視線が絡み合う。まさかここに立ち寄っているとは思わなかったのだ。

「どんなハーフエルフなんだ? 俺達、ハーフエルフとは無縁でさ」

「ハハッ。密航だな」

 さすがにハーフエルフを知らないはダメだったか、と苦笑いを浮かべるが、商人からは特に注意される様子もない。珍しくないということだ。

「バレたら怒れっかな?」

 小さな声で問いかければ、いいや、と返ってくる。思わぬ言葉に、なぜかと言いたげに商人を見た。

「ここに入れたらまずい奴らがいたなら、船は沈没してる。無事に俺らがここにいるということは、密航されてても問題ないってことさ。精霊が判断するらしいぞ」

 本当がどうかわからないがな、と笑いながら言われれば、なるほどとクオンは納得する。





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