上 下
238 / 276
6部 星の女神編

セレンの情報2

しおりを挟む
 カロル・シュトラウスとは、三千年前にシュトラウス家当主だったハーフエルフ。貴族制度であった当時、貴族としても、騎士としても頂点に立つ人物だった。

 前当主は子供を授かることができず、ハーフエルフの子供を養子として引き取ったと言われている。さすがになぜだったのか、などは知られていない。

 長きに渡って国へ忠誠を誓っていたが、個人的に英雄王へ忠誠を誓い、同行していったのだ。

「そうだったのか。シュトラウス家は情報が一般的なことしか出ないから、知らなかったぜ」

 お前は、とクオンが視線を向ければ、クロエも同意するように頷く。

「シュトラウス家は、歴代の当主の名は出ているけれど、奥方は知られていない。だから、奥方がエルフの血を引くのかと思っていた。当時なら、養子が有名だったかもしれないがな」

 そのあと、さらに養子として引き取られた人物がいる。すべて彼が情報操作をしていることから、その辺りも操作されている可能性は高い。

 貴族制度から騎士制度に変わったのも大きいだろう。これによって、騎士になれなかった貴族は一般市民まで落ちている。

「なるほど。私は王家としての知識を教わるから、気にしていなかった」

 教育係として入ってくる者は、シュトラウス家が手配しているのだ。これも意味があったのかと思う。

「たまには、外の者と話してみるか。イクティスやセルティと話していると、それが当たり前だと思ってしまう。だが、あの二人だからな」

 自分にも嘘を言っている可能性があるな、と苦笑いを浮かべるフィーリオナ。

「でしょうね。ほんと、昔から知っているけど嫌な二人だ」

「……」

「……」

 クロエの言葉に、クオンとリーナは本音が駄々洩れだぞと言いたげに視線を向ける。

 どうにも、国から離れているからか素が出るようになってきた。本音を誤魔化すことなく投げつけてくるから、さすの二人もいいのかと思う。

 一緒に女王が同行しているということを忘れていないか、少しばかり心配になってくるというもの。

「クロエ……素が出てきてないか?」

「それは失礼しました」

 絶対に思っていない。クオンとリーナが同時に思うと、話を戻そうとクロエを見る。このままだと、彼はなにを言いだすかわからないと思ったのだ。

 どれだけ気さくに話せたとしても、女王に失礼なことをするわけにはいかない。

(あいつが一番わかってるはずなんだけどな)

 らしくないな、とクロエを見ながら思うクオン。

 とりあえず、傭兵組合にいるシュトラウス家だと話を戻す。知っているのかとフィーリオナを見れば、知らないと首を振る。

「さすがに、私は知らない。イクティスなら知っていただろうけどな。やり取りをしているかはわからないが、東にもシュトラウス家の者がいるならば、イクティスが調べているはずだ」

 それもそうだな、とまたもや三人が納得して頷く。イクティスが知らないなど、あり得ないと思えたのだ。
 
 イクティス・シュトラウスとセルティ・シーゼルは、自分達の常識で考えてはいけない。そういった存在なのだ。

「情報操作がされているからこそ、南からセレンへ行けるのも知られていなかったのか。クロエでも調べられないことがあるんだな、と思ってたが」

「シュトラウス家じゃ当然ね」

 あの家を出し抜くのは難しい。長く生きればできるかもしれないが、クロエは人間である以上、イクティスのように長く生きることもできないのだ。

「なにかひとつでも出し抜ければいいだろ」

 出し抜きたいのか、とリーナが呆れる。そことは張り合っても仕方ない、と思っているほどだ。

 商人の情報は期待できないと、クロエは話しだす。リザの家も商人だが、リザ本人は後継ぎではないことから、あまり知らないと言っていたからだ。

「小さい頃から、ここには出入りしていたようだが」

 だからこそ、知っていることもあるし、移住もできたと言える。

「跡目だけに伝えることがある、というわけだな。裏に傭兵組合とシュトラウス家がいるなら、商人もただの商人ではないか、傭兵組合となんらかの契約をしているかだろうが」

 その辺りを聞き出すことは無理かと空を見上げるフィーリオナ。

 気になっていたのだ。セレンに来たのは二度目だが、あのときは一日中青空だった。夜空など見たことはない。

「昼間に見た通り、この地で作られた魔力装置を売って、それで手にしたお金で買う、ということらしいな。三日間だけだが、たまに伸びることもあるらしい」

 伸びるときは、大体が太陽神と英雄王の手合わせが広場で行われるから。

 そのときは夜がくるから、という意味不明な理由だとクロエが言えば、クオンとリーナが同時に首を傾げた。なにを言っているのかというように。

「私が即位前に来たとき、セレンは一日中青空だった。そうか、この星空もクオンの影響か」

 空を見上げたままフィーリオナが言えば、三人も星が輝く空を見た。

 当たり前のように見ていた夜空が見られない地。それが見られるようになった。クオンの影響ということは、この地は神の力に影響されるということだろうか、と思わず考えてしまう。

「月神が戻ってきたことで、この地に夜がくるようになったということだろ。深く気にする必要はないのではないか」

 ひとまず、この件はなにも問題がない。少なくとも自分達はだと。

「この地に暮らす者達は、パニックだろうがな」

 夜がこないことが当たり前であったなら、突然暗くなった空に住民がパニックになったはずだ。

 見回りをしていたのも、もしかしたら住民のためなのかもしれない。

 太陽神と英雄王さえいれば、セレンはどこよりも安全だ。魔物などの脅威に晒されたことはないはずだと言い切れた。そもそも、ここに魔物がいるのかもわからない。

「パニックはどうやって収めたのかな」

「英雄王の妻だろうな。西の歌姫だった方だ」

 その歌声はすべてを癒し、動物を魅了すると言われていた。間違いないだろうとフィーリオナが言う。

 夜が来ない理由は、元からの住民にでも聞かないとわからない。聞いたところで答えてもらえないだろうと思えば、最終的には虹の女神と会うのだから、そのときでいいと後回しにする。

 リザは天空城にいる客を知っていた。月終わりの商人以外は誰も来ない地。見慣れない人がいればすぐにわかることから、まとめ役から情報が流れてくるのだと言う。

「それ、商人の情報は?」

 つまり、自分達が情報外となるのでは、とリーナが不安げに問いかける。

「商人の情報は正確ではないそうだ。特に護衛はな。情報はある程度伝わっているが、伝わっていない者がやってくることは珍しくないということだ」

 それって、とリーナがなんとも言えない表情を浮かべた。密航している者がいるのではないか、という考えが思い浮かんだのだ。

「俺も思った。今のところ、問題は起きていないらしいから、英雄王が対応しているのかもしれないが」

 情報にない人物を見かけることもある。だからこそ、自分達は今救われているのだが、いいことばかりではないということもわかった。

 問題が起きていないから、とリザは気楽にしていたが、裏で対応している者がいるということだ。それは英雄王ではないのか、とクロエも思うところ。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

グラティールの公爵令嬢

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)
ファンタジー
ファンタジーランキング1位を達成しました!女主人公のゲーム異世界転生(主人公は恋愛しません) ゲーム知識でレアアイテムをゲットしてチート無双、ざまぁ要素、島でスローライフなど、やりたい放題の異世界ライフを楽しむ。 苦戦展開ナシ。ほのぼのストーリーでストレスフリー。 錬金術要素アリ。クラフトチートで、ものづくりを楽しみます。 グルメ要素アリ。お酒、魔物肉、サバイバル飯など充実。 上述の通り、主人公は恋愛しません。途中、婚約されるシーンがありますが婚約破棄に持ち込みます。主人公のルチルは生涯にわたって独身を貫くストーリーです。 広大な異世界ワールドを旅する物語です。冒険にも出ますし、海を渡ったりもします。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

ブラフマン~疑似転生~

臂りき
ファンタジー
プロメザラ城下、衛兵団小隊長カイムは圧政により腐敗の兆候を見せる街で秘密裏に悪徳組織の摘発のため日夜奮闘していた。 しかし、城内の内通者によってカイムの暗躍は腐敗の根源たる王子の知るところとなる。 あらぬ罪を着せられ、度重なる拷問を受けた末に瀕死状態のまま荒野に捨てられたカイムはただ骸となり朽ち果てる運命を強いられた。 死を目前にして、カイムに呼びかけたのは意思疎通のできる死肉喰(グールー)と、多層世界の危機に際して現出するという生命体<ネクロシグネチャー>だった。  二人の助力により見事「完全なる『死』」を迎えたカイムは、ネクロシグネチャーの技術によって抽出された、<エーテル体>となり、最適な適合者(ドナー)の用意を約束される。  一方、後にカイムの適合者となる男、厨和希(くりやかずき)は、半年前の「事故」により幼馴染を失った精神的ショックから立ち直れずにいた。  漫然と日々を過ごしていた和希の前に突如<ネクロシグネチャー>だと自称する不審な女が現れる。  彼女は和希に有無を言わせることなく、手に持つ謎の液体を彼に注入し、朦朧とする彼に対し意味深な情報を残して去っていく。  ――幼馴染の死は「事故」ではない。何者かの手により確実に殺害された。 意識を取り戻したカイムは新たな肉体に尋常ならざる違和感を抱きつつ、記憶とは異なる世界に馴染もうと再び奮闘する。 「厨」の身体をカイムと共有しながらも意識の奥底に眠る和希は、かつて各国の猛者と渡り合ってきた一兵士カイムの力を借り、「復讐」の鬼と化すのだった。 ~魔王の近況~ 〈魔海域に位置する絶海の孤島レアマナフ。  幽閉された森の奥深く、朽ち果てた世界樹の残骸を前にして魔王サティスは跪き、神々に祈った。  ——どうかすべての弱き者たちに等しく罰(ちから)をお与えください——〉

僕と精霊

一般人
ファンタジー
 ある戦争から100年、魔法と科学は別々の道を歩みながらも共に発展したこの世界。  ジャン・バーン(15歳)は魔法学校通う普通の高校生。    魔法学校でジャンは様々な人や精霊と巡り会い心を成長させる。  初めて書いた小説なので、誤字や日本語がおかしい文があると思いますので、遠慮なくご指摘ください。 ご質問や感想、ご自由にどうぞ

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!

柚希乃愁
ファンタジー
『Blessing Blossom』という大人向けの恋愛シミュレーションRPGゲームがあった。 いわゆるエロゲ―だ。 その中に登場する公爵家長男レオナルド=クルームハイト。 あるときゲーム内のキャラクターであるはずの彼は、今の自分ではないもう一つの記憶を思い出す。 それはこの世界とは別の世界のもの。 その記憶の中で、彼は今自分がいるのがゲームの世界だということを知る。 しかもレオナルドは、ヒロインのどのルートに進んでも最後は死亡してしまう悪役令息で……。 ゲーム本編開始までにはまだ時間がある。 レオナルドは記憶を頼りに死亡回避のために動き出す。 自分にできることをしよう、と。 そんなレオナルドの行動は少なからず周囲に影響を与えていく。 自身の死亡回避、そして悠々自適なスローライフという目標に向かって順調に進んでいるかに見えたレオナルドだが、ある事件が起きる。 それはゲームにはなかったもので……。 ゲームと今レオナルドが生きている現実で展開が違っているのだ。 この事件をきっかけにレオナルドの考え方は変わっていくこととなる。 果たしてレオナルドは死亡エンドを回避できるのか―――。 *念のためのセルフレイティングです。 10/10 男性向けHOTランキング3位! 10/11 男性向けHOTランキング2位! 10/13 男性向けHOTランキング1位! 皆様お読みくださりありがとうございますm(__)m 11/4 第一章完結 11/7 第二章開始

錬金術師カレンはもう妥協しません

山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」 前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。 病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。 自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。 それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。 依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。 王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。 前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。 ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。 仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。 錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。 ※小説家になろうにも投稿中。

転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~

おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。 婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。 しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。 二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。 彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。 恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。 ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。 それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。

処理中です...