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6部 星の女神編

セレンの情報

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 月明かりが逆光となり、近づいてくる誰かの顔を見ることはできない。けれど間違いなくわかるのは、とてつもなく強い力を持っているということ。

 相手はセレンの住民ではない、ということもわかる。セレンで暮らす住民は、独特な気配を持っているからだ。

 おそらく、セイレーンとエルフの血が混ざりあった結果だろう。

「ハーフエルフだな……立ち振る舞いからして、騎士といったところ」

 見ていたクロエが小さな声で言えば、三人ともが同意だと頷く。他の三人から見ても、目の前にいる人物はハーフエルフだ。

「けど、ハーフエルフにしては力がおかしくない?」

 ジッと見ていたリーナが言えば、もしかしてとフィーリオナが言う。

「光の英雄も聖剣や聖槍といった物を使っていた。それらが残されていて、誰かが継いでいるという可能性も……」

 もしそうなら、これも使えるようになるかもしれない。こっそり持ってきた聖剣に触れながら、フィーリオナは方法を知りたいと思う。

 聖剣が使えるようになれば、自分の立場はもっと安定する。セルティやイクティスに頼らなくてもいいのだ。

 四人ともがそれぞれに見ている先、もう一人現れるのを見て、どうやら見回りをしているようだと知る。

 夜になると、虹の女神と英雄王の仲間が見回りをしているのかもしれない。もしかしたら、二人も出歩いているかもと思えば、早急に離れようと思う。

「一緒にいるのは、セイレーンか」

 クオンが新たに見つけた人物。けれど、三人は見えていないことから、どこだと言うように見る。

「見えねぇのか?」

 ほら、とハーフエルフのさらに後ろを示すが、どんなに集中しても見ることができない。まだ遠くにいるのかもしれないが、見えることに驚く。

「夜目が利くのではないか? クオンは月神だ。夜は月神の時間だろ」

 見ることを断念したフィーリオナが言えば、なるほどと納得する。それならば、自分達が見えないのは仕方ないことだ。

「じゃあ、あのハーフエルフも顔まで見えるの?」

「あぁ、バッチリ見えるぜ。なんだ? イケメンかどうか知りたいとかか」

 ジロリと見れば、なぜそうなるのだとリーナが呆れたように見返す。そんなことはどうでもいいと。

 違うならいいと、クオンは二人組へ視線を戻す。

「セイレーンがいるとなると、英雄王の妻が連れているのではないか? 西へ現れるというし、護衛として連れているのではと思うが」

 それは十分にあり得るとクロエが言えば、クオンもそうかもな、と呟く。セイレーンなど、西以外ではほとんどいない。

 西を出ることは稀なだけに、一番の可能性は誰かの護衛をしているということだ。

 太陽神の仲間で護衛を必要とするのは、英雄王の妻ぐらいだろう。虹の女神も、名の通り女神の力を持つのだから、と考えた辺りでクオンは張り詰めていたものを緩める。

「いなくなったか。次の見回りが来るかもしれねぇし、さっさと離れるぞ」

「そうだね」

 住居内から離れたとしても、ある程度は警戒しておくべきだろうが、ここにいるよりは気を抜けると思えば離れたいのは全員同じ。

 休息は必要だ。ずっと張り詰めたままでいることなど、さすがに騎士であってもできないのだ。いざというときに緩むかもしれない。

 そんな真似をするバカは、さすがにいなかった。

 整備された住居から離れると、四人ともがどうするかと顔を見合わせる。

 とりあえず、クロエが聞き出してきた情報からだと視線を向ければ、そうだなと頷く。多少は聞いていたが、結局三人で談笑して終わってしまった。

「このセレンは、七英雄の戦いで裂けた。その後、光の英雄が戻した、というのが俺達の認識だろ」

 七英雄が魔王と戦い、中央の大陸が裂けてしまったというのは、学校へ通っていれば誰もが知っている。その後、光の英雄達が世界を開いたと言われ、中央の大陸が戻ったのはその証。

 神々の地で、入ることはできないと言われている。実際は、船を出すことができないのが正解だ。

「だから発展途上になっているわけだが、南のある場所からだと船が出せるらしい。太陽神の加護で船が守られるらしいな」

 お前にもできるんじゃないか、と視線が問いかければ、肩をすくめてみせるクオン。さすがにそこまではわからない。

 太陽神に聞けばわかるのかもしれないが、今のところ必要とは思っていなかった。他の誰かが簡単に入ってくるのも困るからと。

 なぜ南からなのか。南しかできないのかに関しては太陽神にでも聞かなければわからないが、開かれた場所を利用して商人のみを入れているとのことだった。

「商人は、正確には東の傭兵組合管理となっているようだ。ただ、気になるのは傭兵組合に関わる誰か、とのことだ」

 傭兵を護衛としてつけているが、傭兵達は傭兵組合に頼まれてではないという。個人的に関係者から頼まれてやっていると、そんなことまで話していた。

「よく知ってるな」

「商人の娘だそうだ。だからこそ、ここへ移住できたのだろうが」

 そう簡単に移住を許すような場所でもないと思うだけに、元々ここに出入りしていたからこそ許されたと言うべきだろう。

 太陽神や虹の女神だけならまだしも、英雄王とその妻がいる。よそ者が移住したいと申し出ても、簡単に受け入れられるようなことではない。

 住民がすべてを知っているとなれば、尚更だろう。街中で普通に話されるかもしれないし、本人達も出歩いているだろうから。

「ふむ……傭兵を動かせる関係者か。シュトラウス家が絡むかもしれないな」

 考え込むように呟くフィーリオナに、三人の視線が向けられる。

「シュトラウス家が、傭兵組合と繋がってるのか?」

 さすがにあり得ないと思いたいクオン。シュトラウス家ほど厄介な存在はないと思っているのだ。

 バルスデ王国の四大騎士族と呼ばれることもあって、クオンはもちろん、クロエとリーナも家同士の付き合いがある。

 イクティスに関しては、三人が赤子の頃から知っているだろうとすら思っていた。

「そうか、あまり北では知られていないな。傭兵組合立ち上げが英雄王というのは知ってるよな」

 もちろんと頷く三人。英雄王は早くに退位し、その後は各地を旅して東で傭兵組合を立ち上げる。その後、突然いなくなったと言われていた。

「英雄王について、カロル・シュトラウスが当時国を出ていてな。東の傭兵組合立ち上げにも関わっている。その後、姿を消した英雄王の代わりに、傭兵組合を今の状態にしたのがその人物だ」

 名は知っているだろ、と言われれば、三人はまた頷く。シュトラウス家を受け継ぎ、存続させたハーフエルフだ。知らないわけがない。





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