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6部 星の女神編

二度目のセレン3

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 とりあえず、時間を潰そうと動き出す四人。夕暮れまで潰した後は、招かれた家へと向かう。

 その辺りもクロエは聞いており、家の前に目印まであったことから迷うことはなかった。

「ようこそ。私はリザ・スターデスです」

「お招きありがとうございます。クロエと申します」

 さすがに姓を名乗るのは危険だ。ソレニムス家とオーヴァチュア家はかなり有名で、シリウス家も北の歴史を知っていればわかる。

 そして、当然ながらフィーリオナの王家は名乗っただけでバレてしまう。

 目の前にいる女性がどれほど知っているかにもよるが、わからないなら知っているを前提に動くべきだろうとの判断。

「今回、初めて商人と来られたのですよね」

「えぇ。驚きましたよ。セレンへ行けるとは思っていなかったので」

 柔らかい笑みを浮かべるクロエを見ながら、外面がいい奴だな、とクオンは思う。あれは社交用だと、彼は誰よりも知っている。

 ソレニムス家の仕事をするときは、あのような感じになると。

 出された料理を食べながら、基本的に会話は任せようと思っているクオン。様子を見ているのはフィーリオナで、普通に会話へ混ざるのがリーナだ。

 リーナはクオンの考えを察しての行動だろう。チラチラと視線を向けては、クオンの様子を伺っている。

(クオンって、クロエに言い寄る女嫌いだからなぁ。大丈夫かな)

 そう、クロエに言い寄る女性、媚びを売るのを酷く嫌う。そういった女性が元々好きではないのだろうと思っていた。

 だからこそ、フィーリオナが付きまとうようになったことが心配だったのだ。彼女は媚びを売るようなタイプではない。

 どちらかというと、性格はサバサバしていると思っていたし、クオンが嫌いなタイプではないだろうとも思っていた。

 家が決めてしまえば従う可能性もあり、リーナが不機嫌であった原因はこれだ。

「セレンについて知りたいということでしたね。外にはあまり知られていないですものね」

「下調べをしてくるべきでした。少し舞い上がっていたようで」

 すらっと言う嘘に、クオンが笑いそうになる。こいつが舞い上がるなどということはない、と。むしろ、そんなことがあったとしても見せないだろう。

 思ってもいないことを平然と言える辺りは、クロエとフォルスは同じだな、と思いつつデザートに手を伸ばすクオン。

「それで満足か?」

「もらえるものはもらう」

 フィーリオナがなにを言いたいのかわかるだけに、クオンがニヤリと笑う。

 甘いのが好きではないフィーリオナだ。食べないかと言われているとわかり、どことなく嬉しそうでもある。

「助かる…」

 そっと渡されたデザートと、さすがに残すわけにはいかないと思っているフィーリオナ。リーナを少し気にしているようだが、本人は気にすることなくデザートを食べている。

「なにも言わなくなったな」

「……えぇ。だってフィオナ、好きな人いるでしょ」

 まだ慣れない話し方で、小さく言われた言葉。驚いたようにリーナを見れば、クオンがどうしたと首を傾げた。

「なんでもない。さっさと食べちゃいなさい」

 長居はしないのだから、と言われれば、不思議そうにしつつもクオンは食べることに専念する。

 よくはわからないが、リーナがフィーリオナと上手くやっていけるならいいか、と思うことにしたのだ。

 三人の様子を確認しながらも、クロエはリザと話す。彼女が自分に関心があるのは間違いないが、困った副官よりマシだと思えた。

 関心があるだけで、それ以上を求めているわけではない。なぜなら、この地から離れる気がないからだ。

 この地で暮らすには、いくらかの決まりがあるという。ひとつは、この地で暮らす独り身は、この地で暮らす者と婚姻すること。

 だから、気になるのは事実だが、それだけだと本人に言われてしまったのだ。

「それで、ここをまとめている者がワルズ、という者なのですね」

 この地の成り立ちを話してくれた女性は、自分も聞きかじっただけだと言う。

 ワルズというまとめ役の老人がおり、彼が基本的な知識を教えてくれたのだと。

(管理されているのか。情報のすべてが)

 完全に管理されている。その人物に会うべきだろうが、さすがに接触は危険だ。すべてを知っていて管理しているとなれば、当然ながら虹の女神や英雄王とも関りがある。

 接触した段階で、向こう側へ商人関係ではない来客がいると知らせがいってしまうだろう。

 彼女が知っていることは、まだわずかだと言われてしまった。

(こうやって話してくれてるということは、外から来た者に話してもいい程度のこと。これ以上は、信頼度によって伝えていくのか)

 よそ者であるということを考えれば、妥当だとも思う。ここに最初からいる住民ではないのだから、簡単にすべて話すことをしないのは当たり前だ。

 住み着くことを許されただけでも、十分にすごいことだとわかる。よそ者を受け入れることは、ほとんどないはずだ。

「これは、商人なら誰もが知っていることですか?」

「そうですよ。私も、元は商人の娘だから知ってること。よそ者に話すのはいけないのだけど、あなた達は悪い人には見えないし」

 ここへ来られたということは、構わないかと思ったのだと言われれば、クロエはフッと笑みを浮かべた。

 多少はここで知ったことも含まれているのだろうが、それをすべて話してしまうとはすごい女性だと思ったのだ。バレればなにがあるかわからないというのに。

 セレンは神が守る地。だからこそ、入れただけで悪い人ではないと思えるのかもしれない。

 実際、クオンが月神である以上は問題のないことは間違いないのだが、絶対ではないと思うだけに忠告だけして家を後にした。

「珍しいな。自分に言い寄ってくる女は好きじゃないだろ」

 情報のためとはいえ、普通に話していたのに驚きだとクオンは言う。

「言い寄ってはきてないからな。ここで暮らすための決まりがあるようだ」

 だから、外から来て素敵と思う人がいてもそれだけらしいと言われれば、なるほどとクオンが呟く。それなら、しつこく言い寄ってくることはない。

 クロエとしても面倒だと思うことはなく、さっぱりとした付き合いができるのだ。

「お前……女できるのか」

「リーナと上手くいったからと、そういったことで先輩面はするな」

 バッサリと切り捨てられれば、チェッと言って雰囲気が鋭くなる。

「ちょっと見つかりたくねぇ気配だ。夜は出てくるのかね」

「かもな。二人とも、気配を消して隠れるぞ」

 後ろを歩いていたリーナとフィーリオナへ呼びかけると、クロエは建物の陰へ身を潜めた。やり過ごすために。







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