上 下
235 / 276
6部 星の女神編

二度目のセレン2

しおりを挟む
 黄色い石は、宝石と言われてもわかるほど透き通っていて、ペンダントに加工されていた。

「なにか強い力に反応していた」

「精霊じゃなくてか? ソレニムス家のそれは、精霊のものだろ」

 確かそう聞いているとフィーリオナが言えば、リーナだけが驚いたように見る。

 クオンには、リオン・アルヴァースの知識があることから想像がついていたのだ。感じ取ったという方が正しいかもしれない。

「精霊契約を交わした初代当主ヴァルス・ソレニムスは、雷の精霊と契約を交わしていた。主亡き後、精霊は去ることなく残ったと言われている。そして、これを残していったそうだ」

 家に伝わっている話は、少なくともこういうことだと言う。

 どこまでが本当か知らないが、と言えば、そうだなとクオンも言った。聞いた話はただの情報だ。真実かどうか確かめる術はない。

「オーヴァチュア家も同じだと思うぞ。だから、これを使えるかどうかが、家を継ぐ上で必須となる。リーナは氷が得意だろ」

 フォルスと得意な属性が逆だったら、どうなっていたかわからないと言われていることに気付き、リーナも納得したように頷く。

 とりあえず、虹の女神と英雄王の仲間だろうと推測すると、あの青年は避けるべきだという意見で一致する。

「精霊契約する連れは想定外だけど、こっちから手を打ってあるから問題ねぇ」

 精霊には、事前に探られたときようの言伝をしていた。すでに探られている可能性もあったので、一番最初に行ったことだ。

「さすがに、そこまでしているとは思わなかったぞ」

「便利な記憶という情報があったんで、精霊で探ってくるかと思って」

 あちらは精霊を最大限に活かしてくると、リオン・アルヴァースのやり方を見て思ったことから、手を打つべきだと動いたのだが、今回は正解だったなと思う。

「ふむ…。落ち着いたら、その記憶の中身を知りたいものだな」

「そりゃ、いいけど……暇なときな」

 リーナとの時間を優先する、という意味だとわかり、フィーリオナは苦笑いを浮かべた。

「で、この手前で野宿……でもいいか?」

 さすがに女王に野宿はいいのか、と思うクオンだったが、構わないと言うから三人ともため息をつく。

 行動を共にするようになり、何度思ったかわからない。この人は本当に女王なのだろうか、と。

 貸し家に関して諦めると、もう少し情報をと思う。

「あの札に意味があるってことよね。赤が貸し家なら、あの青はなにかしら」

「青?」

 言われてフィーリオナが見れば、確かに青の札がかかる家がある。

 よく見てみれば、青だけではない。他にも意味がありそうな札がかかっているのだ。

「聞いてみるか。セレンに来られたことで、浮かれた奴を装えばいいんだろ」

 フッと笑みを浮かべるクロエに、クオンがムスッとした表情で睨む。自分がバカにされている気分になったのだ。

「女にでも声をかければ、一発かもな。お前、顔だけはいいから」

「顔だけか?」

「顔だけだ。中身は悪いだろ」

 さっさと行ってこいと背中を押せば、リーナが苦笑いを浮かべながら見ている。なにをやっているんだ、とすら思っていた。

 この二人に至っては、いつものことだけになにも言えない。

「リーナ、もしかしていつもか?」

 平然としているリーナを見て、フィーリオナはそっと問いかける。

「んー、あの二人はね。クオンといるとクロエも子供になるというか」

 困った二人なのよ、と言われれば、そうなのかとフィーリオナは意外そうに言う。

(私は知らないことだらけか…)

 幼馴染みの三人なのだから、仕方ないのかもしれないと思うことにした。

 すぐに戻ってきたクロエは、手ぶらではなかった。完全にプレゼントだと、見慣れているクオンとリーナは笑うしかない。

 ここでも、彼はモテるらしいと思ったほどだ。

「わかったぞ。赤は貸し家だったが、青は食事処だそうだ。商人達に食事を出しているということだった。ちなみに、今夜は自宅にどうぞ、とまで言われたから受けておいた」

「……ほんと、顔だけはいいな」

 まさか今夜の食事まで確保してくるとは思わなかった。彼が受けたなら、相手も問題がないということだと思う。

 食事処はありがたいが、初日から行くべきではないと思っていたのだ。誰か連れという仲間がいるかもしれない。行けるわけがないと思ってのこと。

「けど、なんで受けたの? クロエの判断なら信用できるけど」

「そうだな。決め手が知りたいところだな」

 リーナが問いかければ、フィーリオナも知りたいと視線を向ける。

「移住者だったからだ。どうやら、南から移住してきたらしい。ついでに、移住も勧められたから断ってきたが」

(完全にクロエ狙いじゃねぇか)

 どう聞いても、惚れられたのではないかと思うが、本人がいいならいいかと思うことにした。

 とりあえず、利用できるものはなんでも利用する。それでいくのだろうと思えば、手元が気になってきた。

「なにもらったんだ」

「月終わりになると、ここで売られる物だとさ。果物みたいだが、俺は見たことが……」

「ま、まさか……マンゴーか! 俺も聞いたことしかねぇ。確か、西のどこかにあると聞いたが」

 言い終わる前に奪い取るクオンに、一瞬にして動きが止まる三人。

 さすが甘党団長と思ったほどだったが、クオンはすでにこれがどこに売っているのか知りたそうだ。

「買いに行きたい、と思ってるでしょ」

「当然だ! マンゴーだぞ!」

 わからないが説得力だけはあった。クオンが言うと、妙に説得力があるのだ。

「クオン、目的を忘れるなよ。程々になら……まぁ、目を瞑っててやるよ。飢えてるんだろうし」

 呆れたようにクロエが言えば、リーナとフィーリオナも同意するように頷く。

 しばらくの間、記憶の件で食事もまともに取っていなかった。当然、甘い物も食べていないわけで、仕方ないという気持ちに、なぜかなってしまったのだ。

 おそらく、クロエもわかっていてもらってきたのだろう。彼がなにかを受け取るときは、大体が自分のためではない。

 女騎士を始めとして、城で働く者からもよくもらっているクロエは、すべて孤児院に使えるかで判断していると知っているのは、リーナぐらいだろう。

 クオンは特に気にしていないだけに、気付いていないと言い切れた。

「たまには、自分のためになる物をもらったら?」

「いらない。本当に欲しいものは、自分で手に入れる」

 あっさりと言われれば、リーナは苦笑いを浮かべる。こういったところは、どことなく兄に似ていると思ったのだ。

「むしろ、フォルスには受け取るなと言った方がいいぞ。あいつは誰にでもいい顔するからな」

「んー…」

 そうかも、と呟くリーナに、フィーリオナが首を傾げる。

「なぁ、フォルスは表裏が激しいのか?」

「激しいかな。家族でしか見られない姿もあるし」

「俺の前では見せるが、目の前で切り替えられると殴りたくなる」

「……」

 どれだけだ、とフィーリオナが思う中、クオンもわかると頷くからため息を漏らす。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】 地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。 同じ状況の少女と共に。 そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!? 怯える少女と睨みつける私。 オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。 だったら『勝手にする』から放っておいて! 同時公開 ☆カクヨム さん ✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉 タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。 そして番外編もはじめました。 相変わらず不定期です。 皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます🙇💕 これからもよろしくお願いします。

家族で冒険者になろう

ゆぃ♫
ファンタジー
ある日何も無い日常から、ファンタジーに少しずつ変わっていくお話 平凡日常系ファンタジーです。 虫の魔物などが出る予定なので苦手な方はタイトルで読み飛ばしてください。 拙い文章ですが読んでいただけると幸いです。月曜日に不定期に配信します。

こじらせ中年の深夜の異世界転生飯テロ探訪記

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
※コミカライズ進行中。 なんか気が付いたら目の前に神様がいた。 異世界に転生させる相手を間違えたらしい。 元の世界に戻れないと謝罪を受けたが、 代わりにどんなものでも手に入るスキルと、 どんな食材かを理解するスキルと、 まだ見ぬレシピを知るスキルの、 3つの力を付与された。 うまい飯さえ食えればそれでいい。 なんか世界の危機らしいが、俺には関係ない。 今日も楽しくぼっち飯。 ──の筈が、飯にありつこうとする奴らが集まってきて、なんだか騒がしい。 やかましい。 食わせてやるから、黙って俺の飯を食え。 貰った体が、どうやら勇者様に与える筈のものだったことが分かってきたが、俺には戦う能力なんてないし、そのつもりもない。 前世同様、野菜を育てて、たまに狩猟をして、釣りを楽しんでのんびり暮らす。 最近は精霊の子株を我が子として、親バカ育児奮闘中。 更新頻度……深夜に突然うまいものが食いたくなったら。

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!

騎士団に入る事になりました

セイラ
恋愛
私の名前はレイラ・エバーガーデン。前世の記憶を持っている。生まれは子爵家で、家庭を支える為に騎士団に入る事に。 小さい頃から、師匠に鍛えられていたレイラ。マイペースで無自覚な性格だが、悪戯を企む時も。 しかし、周りから溺愛される少女の物語。

ゆとりある生活を異世界で

コロ
ファンタジー
とある世界の皇国 公爵家の長男坊は 少しばかりの異能を持っていて、それを不思議に思いながらも健やかに成長していた… それなりに頑張って生きていた俺は48歳 なかなか楽しい人生だと満喫していたら 交通事故でアッサリ逝ってもた…orz そんな俺を何気に興味を持って見ていた神様の一柱が 『楽しませてくれた礼をあげるよ』 とボーナスとして異世界でもう一つの人生を歩ませてくれる事に… それもチートまでくれて♪ ありがたやありがたや チート?強力なのがあります→使うとは言ってない   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 身体の状態(主に目)と相談しながら書くので遅筆になると思います 宜しくお付き合い下さい

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

高木コン
ファンタジー
第一巻が発売されました! レンタル実装されました。 初めて読もうとしてくれている方、読み返そうとしてくれている方、大変お待たせ致しました。 書籍化にあたり、内容に一部齟齬が生じておりますことをご了承ください。 改題で〝で〟が取れたとお知らせしましたが、さらに改題となりました。 〝で〟は抜かれたまま、〝お詫びチートで〟と〝転生幼女は〟が入れ替わっております。 初期:【お詫びチートで転生幼女は異世界でごーいんぐまいうぇい】 ↓ 旧:【お詫びチートで転生幼女は異世界ごーいんぐまいうぇい】 ↓ 最新:【転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい】 読者の皆様、混乱させてしまい大変申し訳ありません。 ✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - - ――神様達の見栄の張り合いに巻き込まれて異世界へ  どっちが仕事出来るとかどうでもいい!  お詫びにいっぱいチートを貰ってオタクの夢溢れる異世界で楽しむことに。  グータラ三十路干物女から幼女へ転生。  だが目覚めた時状況がおかしい!。  神に会ったなんて記憶はないし、場所は……「森!?」  記憶を取り戻しチート使いつつ権力は拒否!(希望)  過保護な周りに見守られ、お世話されたりしてあげたり……  自ら面倒事に突っ込んでいったり、巻き込まれたり、流されたりといろいろやらかしつつも我が道をひた走る!  異世界で好きに生きていいと神様達から言質ももらい、冒険者を楽しみながらごーいんぐまいうぇい! ____________________ 1/6 hotに取り上げて頂きました! ありがとうございます! *お知らせは近況ボードにて。 *第一部完結済み。 異世界あるあるのよく有るチート物です。 携帯で書いていて、作者も携帯でヨコ読みで見ているため、改行など読みやすくするために頻繁に使っています。 逆に読みにくかったらごめんなさい。 ストーリーはゆっくりめです。 温かい目で見守っていただけると嬉しいです。

処理中です...