234 / 276
6部 星の女神編
二度目のセレン
しおりを挟む
賑わう街並みを見ていれば、思わず目的を忘れてしまいそうになるほど、気分が高揚する。
氷の塔を出た四人は、辺り一面なにもないことに驚いた。これはどうなっているのかと、クオンが精霊達に問いただしたところ、セレンのすべてが住居になっているわけではないということ。
これはさすがに聞いておくべきだったと、フィーリオナがため息をつく。イクティスは知っていたはずなのだ。
なにせ、セレンのすべてをクレド・シュトラウスが行っていたのだから。
「いやぁ、さすがにあの空き地を見たときは驚いたな。無事に住民がいてよかったぜ」
ホッとしたと言いながら街中を歩くクオンは、顔を隠すこともなくいる。
ここまで平然としていると、こいつは大物になるとクロエは思えたが、案外気にも留まらないということもわかった。
堂々としているからか、それとも外から商人が流れ込んでいるからか、住民らしき人達はこちらを見ることはない。
「お金はどうしてるんだろね。ここって、お金ないじゃん」
「そうだな。商人の露店見てみるか?」
見に行けばわかるだろ、とあっさり言うクオン。商人からはここの住民に見えるだろうし、住民からは商人の連れに見えるだろ、と言うから三人とも感心する。
ここまで堂々としていれば、怖いものもないと思えてくる。さすがにフィーリオナは辺りを気にしていて、フードで顔を隠しているのも、誰かが覚えているかもしれないと思ってだ。
即位前とはいえ、この地では百年ぐらいは最近と変わらない。一人ぐらいはいるかもしれないと思っていた。
「へ…フィオナ、こっち来てみろよ」
ここでは陛下と呼ばないでくれ、と本人から言われ、フィオナと呼ぶことを求められていたのを思いだし、やりにくいと思うクオン。
それでも、クオンは対応力がある方だった。クロエは完全に無理と、なるべく話さないことで対処しようとしている。
「これは……魔力装置」
小さく呟かれた言葉に、クオンも頷く。北の国でしか作っていないはずの魔力装置。それを売っているのは、この地に暮らす者達だ。
商人相手に売り、そのお金で商人から買う。おそらく、そんなところだろうと四人ともが思った。
つまり、この地には魔力装置の作り方が伝わっているということだ。不思議なことではないだけに、深く考えなくてもいいだろうと思う。
「これはクレド・シュトラウスが行ったこと、かもしれないな。最初から、この地で魔力装置を作るつもりだったのかもしれない」
確か、船が出せないことから、この地を開拓することをやめたと記録されていた。
「では、この地に暮らす住民とは」
「リーナ、もっと砕けた口調でいい」
バレかねないと言われれば、少しばかり困りながら頷く。
クオンは性格もあって、あっさりと受け入れているのだが、家が厳しかったクロエとリーナにとっては抵抗がある。クロエは上手くやれるが、リーナにはできないと言い切れた。
「まぁ、こういったことに関しては、頭が固い二人にはなぁ」
「クオンはいい加減すぎるのよ」
「まったくだ」
「臨機応変と言ってもらいてぇな」
上手いこと言ったものだとフィーリオナが笑えば、再び街並みを歩き出す。とりあえず、一通り見てから滞在先を探さなければいけない。
氷の塔から出入りしていたら目立ってしまうから、宿があるなら、と話し合っていたのだ。無理なら氷の塔へ戻る前提ではあるが。
歩きながら、セレンの記録について話す。こういったことに関しては、フィーリオナが詳しい。
「この地に暮らす住民だったな。開拓に関わっていた者達が、この地に住み着いたという話だ。セイレーンとハーフエルフが関わっていて、見たままだな」
見たままという意味は、三人ともわかった。ハーフエルフなのか、セイレーンなのかわからない住民。それがこの地で暮らす者達だ。
どちらの特徴もあり、完全に混ざっているのだろう。
「なるほどなぁ。ハーフエルフがいたとはいえ、セイレーンとエルフの血だけが残ったのか」
「おろらくな。私もそう思っている」
これはこれで、新しい種となるのではないか。そう思うほど、セレンでは当たり前になっているように見えた。
「魔力装置の露店は二ヶ所。あとは外から来た商人ってことだな。宿は……ないのか」
「貸し家なんだってよ」
露店の一ヶ所を見ながら呟けば、一人の青年が話しかけてくる。どう見てもセレンで暮らす住民ではない青年が。
「誰だ、あんた」
商人でもないと言い切れた。ならば、彼は何者なのだろうか。
明らかに普通ではない青年。一見わからないが、クロエが警戒しているのを背中で感じながら、クオンは何事もないように話す。
「随分、黒いな」
「砂漠で暮らしてたからな。あそこじゃ、みんなこんなだぞ。いや、みんなじゃねぇか」
白いのもいると言えば、砂漠に暮らす民だったかとクオンも頷く。
背後で、外から来た者だとわかったクロエが少し警戒心を解いた。完全ではないのは、おそらく同じものを感じているからだろう。
「クオン…」
「わかってる」
小さく呼びかけてくる声に、彼は関わってはいけない人物だと視線だけで語り掛ける。
どうやら、天空城で暮らす誰かの連れだろう。それだけは間違いなくわかる。砂漠で暮らす、という一言でわかってしまったと言うべきだろう。
「貸し家って、どこで借りられるんだ?」
とはいえ、いい情報だと問いかける。これだけ聞いておこうと思ったのだ。
「赤い札がかかってる家だ。どこの商人についてきたのか知らねぇが、こういったことぐらい聞いとけよ」
「気分が高揚してて、忘れちまったんだよ」
助かったと言えば、クオンはその場を離れた。
その場を離れると、露店を見て回るふりをしながら急いで離れるクオン。
「面白いのがいるんだな。あいつ、精霊契約してた」
「精霊契約って……大丈夫だったの?」
精霊に接してしまえば、自分達のことがバレてしまうのではないか。この地にいる精霊達は、虹の女神を優先しているはずだ。
「契約はしてるみてぇだが、連れてはいなかったぜ。意識して見たが、それらしい光はなかったし」
どこかに置いてきたのかもしれないと言えば、リーナがホッと息をつく。せっかく入り込んだのに、すぐバレてしまっては意味がない。
街並みを見ただけで、まだ情報は欠片も手に入っていないのだから。
「家借りるのか?」
主導権を持つのはクオンだと、フィーリオナが問いかける。決めるのはすべて、彼に任せようということだ。
「いや、借りねぇ」
「そうだな。あの青年は気を付けた方がいい。俺の石もなにかを察知していたし」
まるで宝石のような石を手にしたクロエが言えば、あれが家を継ぐ者が受け継ぐ物かとクオンは見る。
・
氷の塔を出た四人は、辺り一面なにもないことに驚いた。これはどうなっているのかと、クオンが精霊達に問いただしたところ、セレンのすべてが住居になっているわけではないということ。
これはさすがに聞いておくべきだったと、フィーリオナがため息をつく。イクティスは知っていたはずなのだ。
なにせ、セレンのすべてをクレド・シュトラウスが行っていたのだから。
「いやぁ、さすがにあの空き地を見たときは驚いたな。無事に住民がいてよかったぜ」
ホッとしたと言いながら街中を歩くクオンは、顔を隠すこともなくいる。
ここまで平然としていると、こいつは大物になるとクロエは思えたが、案外気にも留まらないということもわかった。
堂々としているからか、それとも外から商人が流れ込んでいるからか、住民らしき人達はこちらを見ることはない。
「お金はどうしてるんだろね。ここって、お金ないじゃん」
「そうだな。商人の露店見てみるか?」
見に行けばわかるだろ、とあっさり言うクオン。商人からはここの住民に見えるだろうし、住民からは商人の連れに見えるだろ、と言うから三人とも感心する。
ここまで堂々としていれば、怖いものもないと思えてくる。さすがにフィーリオナは辺りを気にしていて、フードで顔を隠しているのも、誰かが覚えているかもしれないと思ってだ。
即位前とはいえ、この地では百年ぐらいは最近と変わらない。一人ぐらいはいるかもしれないと思っていた。
「へ…フィオナ、こっち来てみろよ」
ここでは陛下と呼ばないでくれ、と本人から言われ、フィオナと呼ぶことを求められていたのを思いだし、やりにくいと思うクオン。
それでも、クオンは対応力がある方だった。クロエは完全に無理と、なるべく話さないことで対処しようとしている。
「これは……魔力装置」
小さく呟かれた言葉に、クオンも頷く。北の国でしか作っていないはずの魔力装置。それを売っているのは、この地に暮らす者達だ。
商人相手に売り、そのお金で商人から買う。おそらく、そんなところだろうと四人ともが思った。
つまり、この地には魔力装置の作り方が伝わっているということだ。不思議なことではないだけに、深く考えなくてもいいだろうと思う。
「これはクレド・シュトラウスが行ったこと、かもしれないな。最初から、この地で魔力装置を作るつもりだったのかもしれない」
確か、船が出せないことから、この地を開拓することをやめたと記録されていた。
「では、この地に暮らす住民とは」
「リーナ、もっと砕けた口調でいい」
バレかねないと言われれば、少しばかり困りながら頷く。
クオンは性格もあって、あっさりと受け入れているのだが、家が厳しかったクロエとリーナにとっては抵抗がある。クロエは上手くやれるが、リーナにはできないと言い切れた。
「まぁ、こういったことに関しては、頭が固い二人にはなぁ」
「クオンはいい加減すぎるのよ」
「まったくだ」
「臨機応変と言ってもらいてぇな」
上手いこと言ったものだとフィーリオナが笑えば、再び街並みを歩き出す。とりあえず、一通り見てから滞在先を探さなければいけない。
氷の塔から出入りしていたら目立ってしまうから、宿があるなら、と話し合っていたのだ。無理なら氷の塔へ戻る前提ではあるが。
歩きながら、セレンの記録について話す。こういったことに関しては、フィーリオナが詳しい。
「この地に暮らす住民だったな。開拓に関わっていた者達が、この地に住み着いたという話だ。セイレーンとハーフエルフが関わっていて、見たままだな」
見たままという意味は、三人ともわかった。ハーフエルフなのか、セイレーンなのかわからない住民。それがこの地で暮らす者達だ。
どちらの特徴もあり、完全に混ざっているのだろう。
「なるほどなぁ。ハーフエルフがいたとはいえ、セイレーンとエルフの血だけが残ったのか」
「おろらくな。私もそう思っている」
これはこれで、新しい種となるのではないか。そう思うほど、セレンでは当たり前になっているように見えた。
「魔力装置の露店は二ヶ所。あとは外から来た商人ってことだな。宿は……ないのか」
「貸し家なんだってよ」
露店の一ヶ所を見ながら呟けば、一人の青年が話しかけてくる。どう見てもセレンで暮らす住民ではない青年が。
「誰だ、あんた」
商人でもないと言い切れた。ならば、彼は何者なのだろうか。
明らかに普通ではない青年。一見わからないが、クロエが警戒しているのを背中で感じながら、クオンは何事もないように話す。
「随分、黒いな」
「砂漠で暮らしてたからな。あそこじゃ、みんなこんなだぞ。いや、みんなじゃねぇか」
白いのもいると言えば、砂漠に暮らす民だったかとクオンも頷く。
背後で、外から来た者だとわかったクロエが少し警戒心を解いた。完全ではないのは、おそらく同じものを感じているからだろう。
「クオン…」
「わかってる」
小さく呼びかけてくる声に、彼は関わってはいけない人物だと視線だけで語り掛ける。
どうやら、天空城で暮らす誰かの連れだろう。それだけは間違いなくわかる。砂漠で暮らす、という一言でわかってしまったと言うべきだろう。
「貸し家って、どこで借りられるんだ?」
とはいえ、いい情報だと問いかける。これだけ聞いておこうと思ったのだ。
「赤い札がかかってる家だ。どこの商人についてきたのか知らねぇが、こういったことぐらい聞いとけよ」
「気分が高揚してて、忘れちまったんだよ」
助かったと言えば、クオンはその場を離れた。
その場を離れると、露店を見て回るふりをしながら急いで離れるクオン。
「面白いのがいるんだな。あいつ、精霊契約してた」
「精霊契約って……大丈夫だったの?」
精霊に接してしまえば、自分達のことがバレてしまうのではないか。この地にいる精霊達は、虹の女神を優先しているはずだ。
「契約はしてるみてぇだが、連れてはいなかったぜ。意識して見たが、それらしい光はなかったし」
どこかに置いてきたのかもしれないと言えば、リーナがホッと息をつく。せっかく入り込んだのに、すぐバレてしまっては意味がない。
街並みを見ただけで、まだ情報は欠片も手に入っていないのだから。
「家借りるのか?」
主導権を持つのはクオンだと、フィーリオナが問いかける。決めるのはすべて、彼に任せようということだ。
「いや、借りねぇ」
「そうだな。あの青年は気を付けた方がいい。俺の石もなにかを察知していたし」
まるで宝石のような石を手にしたクロエが言えば、あれが家を継ぐ者が受け継ぐ物かとクオンは見る。
・
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ
ひるま(マテチ)
SF
空色の髪をなびかせる玉虫色の騎士。
それは王位継承戦に持ち出されたチェスゲームの中で、駒が取られると同事に現れたモンスターをモチーフとしたロボット兵”盤上戦騎”またの名を”ディザスター”と呼ばれる者。
彼ら盤上戦騎たちはレーダーにもカメラにも映らない、さらに人の記憶からもすぐさま消え去ってしまう、もはや反則レベル。
チェスの駒のマスターを望まれた“鈴木くれは”だったが、彼女は戦わずにただ傍観するのみ。
だけど、兵士の駒"ベルタ”のマスターとなり戦場へと赴いたのは、彼女の想い人であり幼馴染みの高砂・飛遊午。
異世界から来た連中のために戦えないくれは。
一方、戦う飛遊午。
ふたりの、それぞれの想いは交錯するのか・・・。
*この作品は、「小説家になろう」でも同時連載しております。
巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~
明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる