メルレールの英雄-クオン編-前編

朱璃 翼

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6部 星の女神編

二度目のセレン

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 賑わう街並みを見ていれば、思わず目的を忘れてしまいそうになるほど、気分が高揚する。

 氷の塔を出た四人は、辺り一面なにもないことに驚いた。これはどうなっているのかと、クオンが精霊達に問いただしたところ、セレンのすべてが住居になっているわけではないということ。

 これはさすがに聞いておくべきだったと、フィーリオナがため息をつく。イクティスは知っていたはずなのだ。

 なにせ、セレンのすべてをクレド・シュトラウスが行っていたのだから。

「いやぁ、さすがにあの空き地を見たときは驚いたな。無事に住民がいてよかったぜ」

 ホッとしたと言いながら街中を歩くクオンは、顔を隠すこともなくいる。

 ここまで平然としていると、こいつは大物になるとクロエは思えたが、案外気にも留まらないということもわかった。

 堂々としているからか、それとも外から商人が流れ込んでいるからか、住民らしき人達はこちらを見ることはない。

「お金はどうしてるんだろね。ここって、お金ないじゃん」

「そうだな。商人の露店見てみるか?」

 見に行けばわかるだろ、とあっさり言うクオン。商人からはここの住民に見えるだろうし、住民からは商人の連れに見えるだろ、と言うから三人とも感心する。

 ここまで堂々としていれば、怖いものもないと思えてくる。さすがにフィーリオナは辺りを気にしていて、フードで顔を隠しているのも、誰かが覚えているかもしれないと思ってだ。

 即位前とはいえ、この地では百年ぐらいは最近と変わらない。一人ぐらいはいるかもしれないと思っていた。

「へ…フィオナ、こっち来てみろよ」

 ここでは陛下と呼ばないでくれ、と本人から言われ、フィオナと呼ぶことを求められていたのを思いだし、やりにくいと思うクオン。

 それでも、クオンは対応力がある方だった。クロエは完全に無理と、なるべく話さないことで対処しようとしている。

「これは……魔力装置」

 小さく呟かれた言葉に、クオンも頷く。北の国でしか作っていないはずの魔力装置。それを売っているのは、この地に暮らす者達だ。

 商人相手に売り、そのお金で商人から買う。おそらく、そんなところだろうと四人ともが思った。

 つまり、この地には魔力装置の作り方が伝わっているということだ。不思議なことではないだけに、深く考えなくてもいいだろうと思う。

「これはクレド・シュトラウスが行ったこと、かもしれないな。最初から、この地で魔力装置を作るつもりだったのかもしれない」

 確か、船が出せないことから、この地を開拓することをやめたと記録されていた。

「では、この地に暮らす住民とは」

「リーナ、もっと砕けた口調でいい」

 バレかねないと言われれば、少しばかり困りながら頷く。

 クオンは性格もあって、あっさりと受け入れているのだが、家が厳しかったクロエとリーナにとっては抵抗がある。クロエは上手くやれるが、リーナにはできないと言い切れた。

「まぁ、こういったことに関しては、頭が固い二人にはなぁ」

「クオンはいい加減すぎるのよ」

「まったくだ」

「臨機応変と言ってもらいてぇな」

 上手いこと言ったものだとフィーリオナが笑えば、再び街並みを歩き出す。とりあえず、一通り見てから滞在先を探さなければいけない。

 氷の塔から出入りしていたら目立ってしまうから、宿があるなら、と話し合っていたのだ。無理なら氷の塔へ戻る前提ではあるが。

 歩きながら、セレンの記録について話す。こういったことに関しては、フィーリオナが詳しい。

「この地に暮らす住民だったな。開拓に関わっていた者達が、この地に住み着いたという話だ。セイレーンとハーフエルフが関わっていて、見たままだな」

 見たままという意味は、三人ともわかった。ハーフエルフなのか、セイレーンなのかわからない住民。それがこの地で暮らす者達だ。

 どちらの特徴もあり、完全に混ざっているのだろう。

「なるほどなぁ。ハーフエルフがいたとはいえ、セイレーンとエルフの血だけが残ったのか」

「おろらくな。私もそう思っている」

 これはこれで、新しい種となるのではないか。そう思うほど、セレンでは当たり前になっているように見えた。

「魔力装置の露店は二ヶ所。あとは外から来た商人ってことだな。宿は……ないのか」

「貸し家なんだってよ」

 露店の一ヶ所を見ながら呟けば、一人の青年が話しかけてくる。どう見てもセレンで暮らす住民ではない青年が。

「誰だ、あんた」

 商人でもないと言い切れた。ならば、彼は何者なのだろうか。

 明らかに普通ではない青年。一見わからないが、クロエが警戒しているのを背中で感じながら、クオンは何事もないように話す。

「随分、黒いな」

「砂漠で暮らしてたからな。あそこじゃ、みんなこんなだぞ。いや、みんなじゃねぇか」

 白いのもいると言えば、砂漠に暮らす民だったかとクオンも頷く。

 背後で、外から来た者だとわかったクロエが少し警戒心を解いた。完全ではないのは、おそらく同じものを感じているからだろう。

「クオン…」

「わかってる」

 小さく呼びかけてくる声に、彼は関わってはいけない人物だと視線だけで語り掛ける。

 どうやら、天空城で暮らす誰かの連れだろう。それだけは間違いなくわかる。砂漠で暮らす、という一言でわかってしまったと言うべきだろう。

「貸し家って、どこで借りられるんだ?」

 とはいえ、いい情報だと問いかける。これだけ聞いておこうと思ったのだ。

「赤い札がかかってる家だ。どこの商人についてきたのか知らねぇが、こういったことぐらい聞いとけよ」

「気分が高揚してて、忘れちまったんだよ」

 助かったと言えば、クオンはその場を離れた。

 その場を離れると、露店を見て回るふりをしながら急いで離れるクオン。

「面白いのがいるんだな。あいつ、精霊契約してた」

「精霊契約って……大丈夫だったの?」

 精霊に接してしまえば、自分達のことがバレてしまうのではないか。この地にいる精霊達は、虹の女神を優先しているはずだ。

「契約はしてるみてぇだが、連れてはいなかったぜ。意識して見たが、それらしい光はなかったし」

 どこかに置いてきたのかもしれないと言えば、リーナがホッと息をつく。せっかく入り込んだのに、すぐバレてしまっては意味がない。

 街並みを見ただけで、まだ情報は欠片も手に入っていないのだから。

「家借りるのか?」

 主導権を持つのはクオンだと、フィーリオナが問いかける。決めるのはすべて、彼に任せようということだ。

「いや、借りねぇ」

「そうだな。あの青年は気を付けた方がいい。俺の石もなにかを察知していたし」

 まるで宝石のような石を手にしたクロエが言えば、あれが家を継ぐ者が受け継ぐ物かとクオンは見る。






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