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5部 よみがえる月神編

月神セレンへ4

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 ひとつ上へ向かえば、そこは傷だらけの広間。それだけで、なにをしていたのかわかるというもので。

「もしかしなくても、リオン・アルヴァースはここにいた魔物と手合わせしてたわけだな」

 ここまでくれば、呆れてなにも言えないとクロエはため息をつく。

 わかったのは、間違いなく魔物はいないということと、ここにいたという魔物は問題ないということだけだろうか。普通に手合わせをして遊べるぐらいには、意思疎通ができる魔物。

 なんとも不思議な存在だと思う。

「喋れる魔物みたいだぜ。だから、魔物と言うべきなのか悩むだろ。記憶の中では、普通に喋って団欒してたぜ」

 クオンですら、これを魔物と呼んでいいのか困惑している。

 意思疎通できず、ただ襲い掛かってくるのが魔物だと思っていただけに、これは魔物ではないのではないかと思っているのだ。

「それは、魔物なのか?」

 同じように疑問を持ったフィーリオナが言えば、リーナとクロエも確かに、と考える。

 喋る魔物など、魔物と言っていいのかわからない。もはや、別の存在なのではないか。

 考えてもわからないことは、これ以上考えてもどうにもならない。

「どこ行っちまったんだろうな。見た目は魔物だし、どっかで間違えられ……いや、そこそこ強かったか」

 記憶を振り返ってみれば、魔物としてはかなりの強さを持つ。簡単にやられるようなタイプではないだろう。

 セルティみたいな強さがなければ、あの魔物は倒せないだろうと思えば、簡単にはやられないと言い切れた。

「強いのか? それは会ってみたいな」

 強かったと聞いたフィーリオナが、キラキラと輝く瞳で見てくるから、そうですね、という言葉を言うのが精一杯。

(陛下が強い者が好きなのはわかってたが、魔物でもいいのか?)

 相変わらず、よくわからない女王だと思った辺りで、塔から外を見る。

 この先どうするかを考えているのだ。街中を見て回れればいいのだが、簡単にはいかないと思えたから。

「クオン、確かセレンは決まった日に外から食料を入れていたはずだ。つまり、まったく外と接触を取っていないというわけではない」

 そのタイミングなら、外へ出ても問題ないのではないか、とフィーリオナが言った。

「いつかまではわからないが、今でも変わらないはずだ」

 即位する前にセレンへ来たフィーリオナは、食料をどうしているのか気になり、問いかけたことがあったのだ。

 外部との接触は取っていないように見えたが、限られた敷地しかないセレンで食料はどうしているのかと思った。

「住民は多くないから、ある程度は自給自足できるようだが、手に入らないものもあるだろ」

「なるほど……野菜は作れるとして、肉は手に入らないか。調味料なども限られてくるわけだし、なにかと必要な物も出てくる。どこからか仕入れているということか」

 街並みを見渡しながらクロエが言えば、クオンがなにやら考えだす。

 おそらく、そのタイミングで混ざりたいということだろう。日にちがわかれば、なんとかなるかもしれない。

「精霊次第……いや、そういった情報を聞き出せる奴がいるじゃねぇの。リーナ、腕輪に干渉してくれるか?」

「いいけど、聖獣と話すなら私じゃなくても」

 聞く相手が聖獣とわかれば、クオンが聞けばいいのにとリーナが言う。主となるのはクオンなのだから、自分に頼まなくていいのではないか、と思っているのだ。

「あいつが、素直に答えると思うか? あいつだぞ」

「……そ、そうね。よくわからないけど、とても説得力があるわ」

 一度しか話したことがないのだが、なぜかクオンが言うことに納得できてしまう。

 一体、どんな聖獣だ、というクロエからの視線を感じながら、クオンとリーナはなんとも言えない表情を浮かべている。

「クオンと変わらないと思うわよ。素直じゃない、辺りはね」

「うっ…」

 その通りなだけに、この言葉へ言い返すことはできない。思わず詰まると、咳払いをして誤魔化す。

「なるほど。素直ではないなら、クオンが問いかけたところで答えないか。それどころか、喧嘩になりそうだな」

 これぐらいならフィーリオナにも理解できると言われてしまえば、クオンは完全に黙った。

 幼馴染みならわかるが、フィーリオナにまで理解されているとなると、そんなにわかりやすいのかと思わなくない。

「そんなわけで、リーナが聞き出してくれ」

 放り投げるように腕輪を渡せば、わかったとリーナが頷く。

 干渉しようとしてできるのかはわからないが、クオンが急がないと言ってくれたことで気を張ることなく試せる。

「もふっていい?」

「本人がいいならな」

「ふふっ。楽しみ」

 もふれるかもと思えば、やる気は十分。やるぞ、とリーナは腕輪に集中した。







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